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両想いになった日
しおりを挟む「いってらっしゃい」
「いってきます、ちゃんと夕飯食べてね、すぐ忘れるから。」
「気をつける。友利が帰ってきても顔出せないかも、その時はごめん。」
「分かったー、じゃあいってきまーす。」
友利と形だけの結婚をして半年。
中学の同級生の友利と再会して一ヶ月後には結婚を決め、両親のいない友利を俺の親に紹介した翌日、婚姻届を役所に出した。
結婚式もしていないし、寝室も別々で、俺は在宅で仕事、友利は叔父さんが経営している喫茶店で働きながら、職探しをしている。
以前は中々の所で働いていたらしいが、辞めてしまったらしい。
理由は聞いてはいない、おそらく男女間の問題っぽいから。
俺と結婚すると決めた時に、結婚目前に浮気されて破談になったから、もう二度と結婚なんかしようとは思わないと言っていた。
会社を辞めた原因はこれだろう。
俺がこんな結婚をしようと思ったのは、高校の卒業式の日から10年付き合っていた彼氏と別れたのがきっかけだ。
俺は小学生の時から好きになるのはいつも男の子だった。
中学になってもそれは変わらず、その時に“あー、俺ってそっち系か”と実感した。
告白なんてする気もなかったし、知られるのも嫌だった。
だから好きにはなるけど、絶対誰にもバレないようにするのに必死だった、特に女子には。
でも一人だけ話した事がある。
所謂“腐女子”だった友利志帆、妻となった同級生にだけ打ち明けた。
卒業するまで二人でコソコソ楽しく同性愛を語り合った。
卒業と同時にそんな友情は終わってしまい、俺は進学校の男子校に進学したので友利とはそれっきりになってしまった。
そこで出会ったのが“荒川慎吾”。
3年間同じクラスで、いつも連んでいた慎吾を好きになったのは2年になってからだ。
俺の両親が2年に進級する間際に離婚した。
離婚が成立するまで母親は父に罵声を浴びせ続けた。
離婚の原因は父の浮気、それも相手は男。付き合いはもう長いんだとか。
それを知った母親は毎日荒れた。
怒鳴り、泣き、暴れた。
俺は耐えられず、母親に言ってしまった。
「ごめん、お母さん、俺も男が好きだ。」
その言葉に怒鳴っていた母は、固まった。
それから母は一言も話さなくなり、淡々と離婚に向けて動き出し、全ての事をきっちり熟し離婚届に名前を書いて、始業式の日に出て行った。俺の顔は見なかった。
登校した俺を見た慎吾は窶れきった俺を心配し、放課後黙って俺の話しを聞いてくれた。
その時俺が好きなのが男だという事もつい話してしまった。
「うーーーん、夫婦の事は夫婦しか分からんけど、同性愛が嫌とかではなく、浮気してた事に怒ってたんじゃねえの。
お前の言葉に傷付いたっていうか、お前が親父の味方に見えたんじゃね?
お前はおかんを傷付けようと思ったんじゃねえんだろ?
お前はおかんが親父に浴びせる言葉に傷付いたから耐えられなくて言った。
おかんは多少ショックだっただろうけど、お前を傷付けたって気付いたから顔見れなかったんじゃねえかなって俺は思う。
気にすんなって言っても気にするだろうけど、おかんも怒鳴ってる自分に疲れてたろうし、出て行ってやっとゆっくり出来んじゃねえの。」
いつもの軽い感じで、意外と重い話しを受け止めてくれた。
そう、俺は母親の親父を怒鳴る内容に傷付いていた。
「男となんて汚い!」
「私に触らないで!」
そんな言葉を毎日聞かされた。
俺も親父と同じだと知ったら母はどうするのだろう…
だからあの時俺は、明確に母親を傷付けようと思って言った。
でも慎吾は俺が傷付いたから言ったといってくれた。
それがその時凄く嬉しくて、有り難くて、泣いた。
そして俺は慎吾を好きになった。
だけどやっぱり告白する気はなかった。
慎吾には付き合ってる彼女もいたし、俺もそれで付き合いがなくなるのは嫌だったから何も変わる事なく3年に進級した。
受験生の俺達はとにかく勉強勉強の毎日だった。慎吾はいつの間にか彼女とは別れていて、毎日俺と勉強してた。
たまに俺をじっと見ている時があり、「なんだよ」と聞くと、「別に、なんでもねえよ」と答える事が何度かあった。
俺はその度にドキドキしていて困ったが、気にしないフリをして誤魔化していた。
卒業式を迎え、俺と慎吾は別々の大学に進学することになった。
同じ東京なので会えない事もないが、今までのようには会えなくなる、だから俺は最後に告白した。
「俺はお前の事がずっと好きだった。3年間ありがとう、元気でな!」
答えを聞くのが怖くて逃げようとした俺の腕を慎吾が掴み、
「おいおい、逃げんな。俺もお前が好きなんだけど、どうすんの?付き合わねえの?」
と宣った。
「は⁉︎なんで⁉︎お前、女の子大好きじゃねえかよ!適当な事言うな!俺の本気の告白バカにすんな!」
やいのやいのやってた俺達に同級生達が集まってきた。
「お、青春か~お前達、とうとう付き合うの?」
と騒ぎ出したので慎吾が、
「そう!今日から蓮は俺の!お前らにはやんねえ!」
と言い放った。
「な、な、何言ってんのお前は!」
動揺する俺を置いて、
「みんなでカラオケだあーーー」とその後ボックスに雪崩れ込み、
「賭けに負けたやつは俺らの分の金出せよーー、俺は絶対今日、蓮は告白すると読んでいたのさ!」と学級委員長をやっていた西山が叫ぶ。
「「待て、賭けってなんだ⁉︎」」
俺と慎吾が問い詰めると、俺達二人を除いたクラス全員が、俺と慎吾がどうなるか賭けをしていたらしい。
何故バレた⁉︎
驚愕していた俺に西山は言った。
「蓮ちゃん・・・何故バレていないと思った?」
「いや、俺、バレないように気をつけてたし…」
「くぅーーーー蓮ちゃん…そんなに耳、赤くしてたらバレるってーー!
慎吾と目が合うと表情はスンとしてるのに、耳は真っ赤になっていたのだよ、本田蓮くん!」
耳⁉︎耳でバレたのか⁉︎
それを見ていた西山、恐るべし。
俺の隣りに座る慎吾は俺の耳をじっと見ていた。
「あ、ホントだ、耳赤くなった!」
そこからは「カンパーイ」と何の乾杯なのか分からん乾杯を何度もし、
「カップルは帰れ!」と叩き出された。
俺は小中学時代、とにかくバレないようにしていたから、このノリについて行けていない。
ふと慎吾を見ると、俺を見つめていた。
「話しあるから、お前んち泊めろ」
と泊めてもらう人間とは思えない態度でそう言った。
家にいる親父に連絡し慎吾が泊まると話すと、
「りょうーかーい!」と返事が来た。
駅前のカラオケボックスから出た俺達はそのまま電車に乗り、俺の家の最寄駅で降り、家に着くまで慎吾は一言も話さなかった。
その代わり俺の手を掴み、離さない。
「お前、怒ってる?なんで?」と何回か聞いたが教えてくれない。
やっと家につき、「ただいま~」「お邪魔しまーす」と二人で玄関に入ると、パタパタと隼ちゃんが走って俺達を出迎えてくれた。
「おかえり。卒業おめでとう、蓮と慎吾。」
隼ちゃんは親父の彼氏だ。
母親が出て行ってから1年後、この家に来た。
その前に親父からは紹介されていた。
通いで来ていたが、家賃が勿体無いと俺が言ったら、ここに住む事を決めてくれた。
隼ちゃんは母に気を遣って頑なにこの家に来るのを拒んでいたそうだ。
まあ母親が出て行った原因でもあるので仕方ないが、俺は気にしていないので優しい隼ちゃんが住んでくれるなら嬉しいなくらいだった。
隼ちゃんは客間で寝ている。
夫婦の部屋には絶対入らない。
「あそこは夫婦の聖域だからね、お掃除は蓮か宗がしてね」と言って近寄らない。
色々思う事があるのだろう。
そんな隼ちゃんにリビングに連れて行かれた俺達。
「卒業おめでとう 蓮 慎吾」
達筆な親父の字で書かれたお祝いの文字は、乾かなかったのか、おどろおどろしく墨が垂れ、ホラー感満載だ。
「ご丁寧にどうも。無事卒業出来ました。」
俺と慎吾は二人にお辞儀した。
テーブルを見ると、滅多に食べられない特上寿司、わんぱく男子には欠かせない唐揚げの山、野菜も食べろと言わんばかりの野菜サラダが並んでいた。
「食べろ食べろ、今日はお祝いだーー」
親父の掛け声で男だけの祝宴が始まった。
慎吾の怒りは治ったのか、ご機嫌で親父や隼ちゃんと話していた。
たまに隼ちゃんとコソコソ何か話していたが、俺には何を話していたのか教えてくれなかった。
親父と隼ちゃんは、
「俺達、飲み直してくるからお前らはごゆっくり~~!」
と言い、出かけて行った。
「蓮、俺は今日、お前を抱くぞ」
二人きりなった途端、慎吾は声高らかに宣言した。
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