23 / 36
怒りの行方は何処へ
しおりを挟む妃殿下の尋問が終わった後、執事見習いのジョージの捕縛に向かう事になったが、俺はローラに会いに行けと、帰らされた。
途中、花屋で最愛の妻に渡したいと言うと店員が見繕ってくれた。
小さいが色んな花が混ぜられた花束はとても綺麗だ。
お礼を言い、ダンゼン伯爵家へ向かった。
屋敷に着き、ローラの部屋へ案内されて中へ入ると、身体を起こしベッドで刺繍するローラがいた。
「ローラ!」
駆け寄り、ローラを抱きしめた。
「ローラ、ローラ、会いたかった…凄く会いたかったのに帰って来れなくてごめん。
寂しい思いをさせてごめん。
辛い時、側にいれなくてごめん。
身体は?痛い所は?ご飯は食べてる?夜は眠れてる?」
「ビー、おかえりなさい。私もとっても会いたかった…。
身体はまだ少し痛いけど、今は大丈夫よ。
ご飯はたくさん食べてるわ。
運動不足で太りそうよ。
夜はビーがいないから寂しくて眠れない…な~んてね。」
「ローラ、俺もローラに会えなくておかしくなりそうだった。
怪我をしたと聞いた時は心臓が止まりそうだった・・・・」
「ねえファビオ、お父様から大体は聞いたけど、何があったのかファビオの口から教えてくれる?」
それから俺は全てをローラに話した。
ローラは最後まで黙って聞いていた。
その後、
「私ね、だいぶ前から何かおかしいと思っていたの…。
でもそれが何なのか、何がおかしいのか分からなくて誰にも言えなかった。
ファビオに会うと、必ず嫌なモノが全身を纏ってた。
私といると消えてしまうけど、その嫌なものが何なのか全く分からなかったの。
城に行くと、その嫌なモノはどんどん増えていって怖かった。
その時にちゃんとファビオに言えば良かった…。
そうしていたらこんな事にはならなかったのかもしれない。
妃殿下は何がしたかったの?
妃殿下はファビオが好きだったの?
王太子殿下が好きだったのではないの?」
「あの人は自分の周りの人間全員に愛されたかったんだそうだ。
本人がそう言っていた。
俺はあの人に会った時から嫌いだったから、好きにならない俺に執着してたんだ。
結婚した事も気に入らなかったんだろう。
だから結婚式の翌日に嫌がらせで自ら毒を飲んで俺を呼び戻して自分の側に侍らせた後、ゆっくり籠絡しようと企んだようだ。
そこまでやったのに堕ちない俺に痺れをきらしてローラの存在のせいだとでも思ったんだろうな、バカだから。
ごめんな、俺が側にいればローラに辛い思いはさせなかったのに…。」
「私ね、今自分の感情がよく分からないの。
だって何が何だか分からない状況で、知らない人に殺されそうになって、足も不自由になって、ビーにも会えなくて・・・。
絶望したし、たくさん泣いたし、たくさん怒ったけど、何に対してなのか、誰に対してなのかが分からない。
今は泣けばいいのか、悲しめばいいのか、怒ればいいのか、分からない。
だって怒鳴り散らしたい人が多過ぎて、怒りを発散する事が出来ないんだもの。
ビーを呼び出した王太子殿下にも腹が立ったし、城に入れてくれない守衛の人にも腹が立ったし、近衛隊の人を見かけて声をかけても無視する人にも腹が立ったし、私やマルコに暴言や暴力をふるった人にも腹が立つし、こんなになるまで何もしなかった国王にも王妃様にも腹が立った。
結婚式に出席してくれた人が一人でも、ビーの事を教えてくれてもいいのに誰もここには来てくれなかった。
何かおかしいと思った人は絶対いたと思うのに、私に教えてくれる人は誰もいなかった。
何百人といる王宮の中に誰も私達に情報をくれる人がいないのって、異常だと思うの。
非常事態だったのだとは思う。
ビーのお仕事の事も理解してる。
でも全員が城から出れなかったわけじゃないのに、どうして私達には何も伝わってこなかったの?
誰かが邪魔をしていたんだろうけど、それを誰も気付かなかった?
誰一人?
妃殿下を捕まえたのなら、私は妃殿下だけに怒りをぶつければいいの?
私を殺そうとした人?
指示を出した人?
止められなかった人?
それとも戻って来なかったビーに?
ううん、私は誰かに怒りたいんじゃないの。
私は全てに怒ってるの。
だって普通の伯爵令嬢ですらおかしいって思ったのよ?
なのに国の頂上にいる人も、それを支えている人も、その違和感に気付かなかったなんてないと思うの。
妃殿下に関わっている人達は一度もおかしいって思わなかったなんて事ないと思うの、そうでしょ、ファビオ。
なのに何もしなかった。
何かは分からなくてもなんとかしないととハンカチを私は配ったわ。
後の人は何をしたの?
何をしてたの?
だから私は誰も許さない。
この足が以前のように歩けるようになった時に、やっと許せると思うの。
そうじゃないと私のこの怒りは治らない。」
「ごめん・・・ごめん、ローラ…」
「多分、私が一番悪いんだと思う。
私が気付いた時にお祖母様に相談すれば良かったんだもの…。
だから全部私が悪いんだと思おうとしたの。
でも、出来なかった…。
だってもう私はビーとダンスも踊れない…。
走る事も、一人で馬車に乗る事も出来ない。
本当は仕方なかったのよねって言ってあげたい。
ファビオは悪くないよって言ってあげたい。
でも今は言えない・・・。
ごめんね、疲れて帰ってきた夫を労ってもやれない妻で…ごめんね。」
「ローラは悪くない・・ローラは何にも悪くない・・もっと怒って良い・・不甲斐なくてごめん・・守ってあげられなくてごめん・・許してもらえなくても良い、でも俺はローラから離れない。寄るなって言っても抱きしめる。
ローラの行きたい所には何処にでも連れて行く。いつでも俺がローラを支える。
だから別れようとか言わないで、なんか言われそうで怖い…。」
「さすがに離婚しようとは言わないけど、罰は与えるよ。」
「罰?」
「そう。放ったらかしにした罰。
妃殿下を放置していた罰。」
「なんでもするよ、罰は何?」
「それはね────」
ローラの俺への罰は、一カ月の同衾禁止だった・・・。
俺にとっては涙が出るほど辛い罰だった。
829
あなたにおすすめの小説
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
【完結】私が貴方の元を去ったわけ
なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」
国の英雄であるレイクス。
彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。
離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。
妻であった彼女が突然去っていった理由を……
レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。
◇◇◇
プロローグ、エピローグを入れて全13話
完結まで執筆済みです。
久しぶりのショートショート。
懺悔をテーマに書いた作品です。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
騎士の妻ではいられない
Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。
全23話。
2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。
イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
私が家出をしたことを知って、旦那様は分かりやすく後悔し始めたようです
睡蓮
恋愛
リヒト侯爵様、婚約者である私がいなくなった後で、どうぞお好きなようになさってください。あなたがどれだけ焦ろうとも、もう私には関係のない話ですので。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる