「戻ってきてもいいぞ?」という傲慢――許せませんわ。

ちゅんりー

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王都の歴史ある大聖堂は、今やかつてないほど「美味しそうな」香りに包まれていた。

ステンドグラスから差し込む光は、バージンロードを黄金色に染めている。
そこに立つ私は、真っ白なレースをふんだんに使ったドレスに身を包んでいた。
……もっとも、裾があまりに重くて、発酵しすぎた巨大なパン生地を背負っている気分だけれど。

「……マーマレード。あまりに美しすぎて、今すぐ一口食べてしまいたい」

隣に立つ新郎、アールグレイ公爵――いいえ、次期国王陛下が、私の耳元でとんでもないことを囁いた。

「閣下、今は神聖な結婚式の最中ですわよ。私を食べるのは、披露宴の特製ケーキまで我慢してくださいな」

「……善処しよう。だが、君の纏っているオレンジの花の香りが、私の理性をじわじわと削っていくんだ」

私たちが小声で痴話喧嘩(?)をしていると、目の前の教皇様が困ったように咳払いをした。

「……えー、では。新郎新官、誓いの言葉を。……汝、アールグレイは、このマーマレードを妻とし、健やかなる時も、病める時も、これを愛し、敬うことを誓いますか?」

「誓おう。彼女が鍋を振るう限り、私はその隣で一生、皿を持って待つことを」

「……え、あ、はい。……では、新婦マーマレード。汝はアールグレイを夫とし、共に歩むことを誓いますか?」

私は、真っ直ぐに教皇様を見つめて、高らかに宣言した。

「誓いますわ! 彼が私のジャムに飽きない限り、そして私のパンに最高の賛辞を送り続ける限り、私は一生、彼の胃袋を支配し続けることを!」

「……なんとも、お二人らしい誓いですな」

教皇様は苦笑しながら、式典のクライマックスを告げた。

「では、誓いの接吻を」

会場が静まりかえる。招待された貴族たち、そして森からやってきた開墾団の男たちが、固唾を飲んで見守る。
しかし、私はドレスの隠しポケットから、一つの小瓶と、焼きたての小さなブリオッシュを取り出した。

「閣下。接吻の前に、まずはこれを」

「……心得ている」

私はジャムをたっぷり塗ったパンを半分に割り、一切れを閣下の口へ、もう一切れを自分の口へと運んだ。

「……んぐっ。……ああ、最高だ。このほろ苦さこそ、私たちが共に歩む人生の味だな」

「ええ。甘いだけではありませんわ。時には酸っぱく、時には苦く。……でも、後味は最高に爽やかに!」

モグモグとパンを頬張りながら微笑む私たちに、会場からは一瞬の沈黙の後、割れんばかりの拍手と爆笑が沸き起こった。

「最高だぜ、お嬢さん! いや、王妃様!」

「世界一美味しい結婚式だーっ!!」

ダージリン様が「今のシーン、絵画にして限定販売しましょう!」と商魂逞しく叫んでいるのが聞こえる。

披露宴では、かつての婚約者であるレモン殿下(現在はレモン農園の管理人として更生中)から、大量のレモンが祝いの品として届いていた。
シュガー様からは……まあ、塩の鉱山からしょっぱい手紙が届いていたけれど、それは私のジャムの隠し味として使わせていただくことにした。

「……マーマレード。ようやく、君を私のものにできた」

ダンスホールへ向かう途中、閣下が私の腰を強く引き寄せた。

「あら、閣下。勘違いしないでくださいな。私があなたのものになったのではなく、あなたが私の『一生の下僕』になったのですわよ?」

「……ふ。それもそうだな。……さあ、私の女王陛下。これからの甘酸っぱい未来に、乾杯といこうか」

「ええ! もちろん、最高のマーマレードティーで!」

私たちは、新しい人生という名の巨大な鍋をかき混ぜるべく、力強く最初の一歩を踏み出した。

悪役令嬢と呼ばれ、泥の中に捨てられたあの日。
でも、その泥こそが、最高のオレンジを育てる肥料になったのだ。

私の物語は、ここで一旦おしまい。
でも、キッチンから漂う幸せの香りは、これからもずっと、この国に響き続けるはず。

「さあ、閣下! 次は三つ子のアク取りが待っていますわよ!」

「……三つ子? まさか、子供の話か?」

「いいえ! 新作の『トリプル・シトラス・ジャム』のことですわ!」

「……やはり、君は君だな。……愛しているよ、マーマレード」

「私もですわ、私の大切なお客様(だんなさま)!」

太陽のようなオレンジ色の光に包まれて、私たちの幸せな日々は、どこまでも続いていくのである。
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