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仮面夫婦の始まり
しおりを挟む仮面夫婦としての日常の始まり
結婚式を終え、公爵邸での生活が始まった。リリアナが公爵邸の広大な敷地に足を踏み入れると、壮麗な建物と美しい庭園が目の前に広がった。その豪華さに一瞬圧倒されるも、リリアナは心を落ち着けるよう自分に言い聞かせた。
「リリアナ様、こちらへどうぞ」
案内したのは執事のアルバート。彼は年配の紳士で、穏やかな笑みをたたえているが、その表情からも公爵家の規律の厳しさが伝わってくる。
「ありがとうございます」
リリアナは柔らかく微笑み返しながら、彼の後に続いた。
新しい生活が始まったものの、レオンは必要最低限しか言葉を交わさなかった。リリアナは夫婦としての役割を果たすため、日々の家事や使用人との関係構築に努めた。公爵家の夫人としての役目をきちんと果たそうと心に決めていたが、肝心のレオンとの距離感は変わらないままだった。
屋敷内での孤独
ある日の朝食の席。広々とした食卓の両端に座る二人の間には、まるで見えない壁が存在しているようだった。
リリアナは少しでも会話をしようと話題を振るが、レオンの返答は短く、簡素だった。
「今日のご予定は?」
「特にない」
「そうですか……では、庭の花を見て回ろうかと思っています」
「勝手にすればいい」
リリアナの心に、微かな寂しさが広がった。彼女はため息をこらえながら、そっとナイフとフォークを置いた。
「リリアナ様、お茶の時間にお庭のほうに行かれるご予定で?」
食事を終えた後、執事のアルバートが控えめに声をかけてきた。
「ええ、そうです。庭を見て回りたいと思って……」
「かしこまりました。それでは庭師たちに整備を進めるよう伝えておきます」
アルバートの細やかな気配りに、リリアナは少しだけ心が軽くなった。公爵家にいる間、彼のような存在がせめてもの救いだった。
少しずつ芽生える変化
その日の午後、庭で花を見て回っていたリリアナは、思いがけずレオンと出くわした。彼は庭の端で何かを見つめていたようだが、彼女の気配に気づくとゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「ここで何をしている?」
「庭の花を見ていたのです。とても美しいですね」
リリアナが微笑むと、レオンは一瞬だけ視線をそらした。その様子を見て、彼女は彼が不器用なだけなのかもしれないと思った。
「この庭は、先代の公爵が大切にしていた場所だ」
「そうなのですね。では、あなたにとっても大切な場所ですね?」
リリアナの言葉に、レオンはふと立ち止まり、わずかに表情を緩めた。
「そうかもしれないな」
この短い会話の中で、リリアナは彼の内面に触れたような気がした。
初めての嫉妬
翌日、リリアナが使用人たちと談笑していると、レオンがその場を通りかかった。彼は何気なく視線を向けたが、リリアナが庭師の青年と親しげに話しているのを目にすると、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべた。
「リリアナ、少し話がある」
彼は短くそう言い放つと、彼女を連れて人目のない場所へ向かった。
「何をしていた?」
「え……庭師の方と、庭の手入れについて話をしていただけですけれど……」
「他の男とあまり親しくするな」
その言葉に、リリアナは驚きを隠せなかった。契約結婚でありながら、彼がこのような反応をするとは思いもよらなかったからだ。
「でも、彼らは公爵家の大切な使用人ですし……」
「それでもだ」
レオンの鋭い視線に、リリアナは言葉を失った。彼の態度には理由があるのか、それともただの気まぐれなのか、彼女には判断がつかなかった。
距離が縮まる夜
その夜、リリアナが自室で本を読んでいると、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
扉を開けて入ってきたのはレオンだった。彼が自らリリアナの部屋を訪れるのは初めてのことだった。
「どうかしましたか?」
「……いや。少し話をしようと思って」
レオンは部屋に足を踏み入れ、窓際の椅子に腰を下ろした。リリアナは驚きつつも、静かに彼の話を待った。
「君が公爵家に来てから、屋敷が少し賑やかになった」
「そうでしょうか?」
「悪い意味ではない。……むしろ、悪くない」
彼の言葉に、リリアナは胸が温かくなるのを感じた。
「私も、この屋敷に少しずつ馴染んできた気がします」
その会話が終わった後も、二人はしばらく沈黙の中で共に過ごした。だが、その時間は決して不快なものではなく、むしろ心地よいものだった。
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