【完結】氷の王太子に政略結婚で嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結

文字の大きさ
5 / 8

意外な素顔

しおりを挟む
   夜明け前の薄明かりが王宮の回廊を静かに照らす頃、私の心は複雑な感情で満たされていた。これまで、冷徹な王太子としての顔と、夜ごとに現れる独占的な愛情に満ちた姿―その二面性が、あたかも氷と炎が交錯するかのように、私の日々を彩ってきた。しかし、今日の出来事が、私に新たな真実を気付かせることとなる。アレクシスの隠された素顔、それは誰も知らなかった、彼の過去や内面の苦悩、そして孤独が織りなす、意外にも温かく、儚い人間の姿であった。

ある日の昼下がり、宮廷の片隅にある静かな書斎で、私は偶然、普段見ることのなかった一冊の古びた日記を見つけた。装丁はシンプルだが、丁寧に記された文字は、王太子としての威厳とはかけ離れた、一人の青年が綴った素朴な心情を映し出していた。ページをめくるごとに、アレクシスの若かりし日々―王家の厳しい掟と、己の自由への憧れ、そして愛する者に対する無垢な期待が、痛々しくも美しく綴られていた。
その日記の中で、彼は自らの孤独と戦いながらも、ひそかに周囲の温もりを求め、時には涙にくれる自分を隠せなかったという記述があった。冷徹な表情の裏側に、実は深い傷と、誰にも見せることのなかった柔らかな心がある―それが、今の彼の姿へと繋がっているのだと、私は初めて理解した瞬間であった。

アレクシスがまだ若く、王位継承のための厳しい修練の日々を送っていた頃、彼は何度も心を折られるような出来事に直面していた。日記には、幼い頃の孤独や、父親からの厳しい叱責、そして王家の重い伝統に縛られた生活への反発が、隠しきれぬ痛みと共に記されていた。
「我が心は、いつも凍てついた大地のように冷たく、誰も寄り添えぬ孤独に満ちている」と、あの若き日の彼はつぶやいていた。
その言葉は、今の彼が示す冷静な態度や、夜ごとに見せる独占的な情熱の根底に、決して単なる権威や誇りだけではなく、孤独と傷ついた心が潜んでいることを物語っていた。彼は、王家の掟に縛られながらも、自分だけの温かさを求め、誰にも理解されぬ苦悩を抱え続けていたのだ。

夜が更け、部屋に静かな闇が広がると、普段は見せない一面が現れる。ある晩、私たちが共に過ごす中で、アレクシスはふと、自らの過去の話に触れた。
「かつて、俺は……誰にも頼ることなく、孤独の中で己を鍛えてきた。父の厳しい教えと、王家に課せられた責務が、俺を硬く、冷たくしてしまったのかもしれない」
その低く、静かな声には、普段の厳格な態度とは全く異なる、かすかな悲しみと懺悔の色が滲んでいた。私は、彼の言葉の一つ一つに耳を傾け、初めて彼がどれほどの孤独と戦ってきたのか、その苦悩に触れることができた。
「でも、今は……」と彼は一瞬、視線を遠くに向け、そして再び私を見つめた。
「今は、俺の中に、ただひとりの温かい存在がある。それがお前だ。お前だけが、俺の中の冷たさを溶かしてくれる存在なんだ」
その言葉は、ただの独占的な愛情を超え、彼が抱えてきた孤独への抗いと、真実の温もりへの渇望が込められているように感じられた。
その瞬間、私の中で、アレクシスの真の姿―王太子という重い鎖の下で傷つきながらも、ただ一人の存在にすがる優しい人間―が、鮮やかに浮かび上がった。

日記に記された言葉と、彼自身の語る過去の断片が、私に新たな気づきをもたらした。これまで、彼の冷徹な態度や、時に激しく感じられる独占欲は、単なる権力者としての顔だと受け止めていた。しかし、今やそれは、彼自身が過去の傷と向き合い、孤独に耐えながらも、愛という一筋の光を求め続ける、苦悩と希望の表れであると理解できた。
「あなたは、ただ厳しいだけではなく、あんなにも優しい一面を持っていたのね」
私は、ある夜、そっと彼に問いかけた。彼はしばらくの沈黙の後、ゆっくりと微笑みながら、そして僅かに涙ぐむような表情で答えた。
「俺は、これまで誰にも頼れなかった。王家の掟が、俺を孤立させ、心を閉ざさせたんだ。でも……お前と出会って、初めて、誰かと本当に心を通わせることの意味を知った」
その言葉は、冷たく閉ざされた氷の中に、一筋の温かな光が差し込むかのように、私の心に深く染み渡った。彼の意外な素顔―孤独と悲しみ、そしてそれを乗り越えようとする強い意志と柔らかな情熱―は、私たちの関係を新たな次元へと導く重要な鍵となった。

こうした過去の断片や隠された思いを知ることで、私自身の心は、これまで以上に複雑な感情に包まれながらも、確かな共感と愛情で満たされていった。
ある冬の夜、雪がしんしんと降り積もる中で、王宮の一室にて、アレクシスは静かに私の手を握り、優しく告げた。
「お前がいなければ、俺はこの孤独な闇の中で迷い続けるだけだ。お前は、俺にとって唯一の救いだ」
その言葉とともに、彼の瞳からは、過去の傷とそれを超えて今ここにある愛情が、痛々しくも美しく溢れていた。
私は、そっと彼に寄り添いながら、心の中で誓った。これから先、彼がどんなに苦しい過去や孤独と戦わねばならなくとも、共に歩む未来において、互いの心を支え合い、温もりを分かち合っていこうと。
その決意は、私たちの関係に新たな深みと、真実の愛情を刻む大切な一歩となった。

宮廷の日常は、依然として厳しい形式と掟に縛られていた。しかし、私たちの間には、これまで以上に確かな信頼と共感が芽生え、互いの内面にある本当の姿を認め合うことで、以前とは比べものにならないほど深い絆が形成され始めていた。
ある日の昼下がり、王宮の庭園にて、ふたりで散策をする機会が訪れた。風に舞う雪片と、凍える空気の中で、アレクシスは普段の硬い表情とは裏腹に、どこか穏やかな微笑みを見せた。
「今日の君は、まるで小さな花が咲いたようだ」と、彼は柔らかな声で告げた。その一言に、私の心は温かく包まれ、これまで感じたことのない安心感と幸福感が広がった。
その瞬間、私は、彼の本当の姿―厳しい外見の奥に隠された、苦しみと孤独を乗り越えようとする、優しくも力強い魂―を、はっきりと感じ取ることができた。そして、私自身もまた、彼にすがるだけでなく、共に歩むことで、互いの心を癒し、未来への希望を紡いでいこうという決意を新たにした。

夜のひとときに交わされるささやかな会話や、互いの手を取り合う温もりが、これまでの政略結婚の形式を超え、私たち二人だけの本物の愛情へと変わりつつあった。
「俺は、今まで誰にも見せなかった本当の自分を、お前にだけ許すことができる。お前は、俺にとって唯一無二の存在だ」
アレクシスのその言葉は、ただの独占欲や保護欲を超え、深い信頼と互いの心を通わせる決意が込められていると、私は確信した。
そして、私もまた、彼に向けてこう誓った。
「あなたの過去の傷や孤独を、私がすべて包み込みます。どんな困難な未来が待っていようとも、私たちは手を取り合い、共に歩む運命を選び続けましょう」
その言葉は、静かな夜に溶け込み、宮廷の冷たい空気さえも温かな光で満たしていくかのようだった。

こうして、アレクシスの意外な素顔―過去の苦悩、孤独、そしてそれを乗り越えるために抱えた優しさ―は、私たちの間に新たな理解と共感を生み出し、これまでの政略結婚という形式だけでは測り知れなかった真実の愛情へと変貌していった。
冷たく輝く王太子の顔の裏側に、決して消えることのない弱さと、人としての温かさが刻まれていることを、私は心の奥深くに刻んだ。
宮廷の厳しい掟や、形式に縛られた日々の中であっても、二人だけの静かな世界において、これから先も互いの心を解きほぐし、未来への希望を育んでいくことを、私たちは改めて誓い合ったのだった。

――これが、アレクシスという男の隠された素顔であり、私たちがこれまで知らなかった彼のもう一つの顔であった。
その意外な姿は、ただの冷徹な王太子ではなく、孤独と戦いながらも、唯一の温もりにすがり、愛を求め続ける、儚くも美しい人間そのものだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り
恋愛
羊獣人の伯爵令嬢リーゼル18歳には、双子の兄がいた。 二人が成人を迎えた誕生日の翌日、その兄が突如、行方不明に。 リーゼルはやむを得ず兄のふりをして、皇宮の官吏となる。 叙任式をきっかけに、リーゼルは皇帝陛下の目にとまり、彼の侍従となるが。 皇帝ディートリヒは、リーゼルに対する重大な悩みを抱えているようで。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

触れると魔力が暴走する王太子殿下が、なぜか私だけは大丈夫みたいです

ちよこ
恋愛
異性に触れれば、相手の魔力が暴走する。 そんな宿命を背負った王太子シルヴェスターと、 ただひとり、触れても何も起きない天然令嬢リュシア。 誰にも触れられなかった王子の手が、 初めて触れたやさしさに出会ったとき、 ふたりの物語が始まる。 これは、孤独な王子と、おっとり令嬢の、 触れることから始まる恋と癒やしの物語

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました

ラム猫
恋愛
 セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。  ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。 ※全部で四話になります。

恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥

矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。 でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。 周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。 ――あれっ? 私って恋人でいる意味あるかしら…。 *設定はゆるいです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

処理中です...