サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第二章.愛おしさに諦めない

11.山間の村その2

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「そろそろ着くぞ」

「……ここが」

 山間の村へと向かう車内でガイウス中尉の言葉に資料から顔を上げれば丁度トンネルを抜けた所だった……資料でこの村の経歴を読む限り相当な量の負の感情が生産され、また色々と欲求不満になりそうな環境と風習を持っていた地域……むしろ今まで魔物が産まれなかったのが不思議なくらいね。

「到着致しました」

「ありがとう存じます」

「帰りも頼む」

 報告と事情説明が終わった後に領主様が手配してくれた車から降りてその運転手のお爺さんに挨拶をするけれど、どうやら帰りも送ってくれるようで待っていてくれるみたい。……まぁ魔法使いと違って、私達は例外を除いて人の範疇の走力しか無いから……正直に言って助かる。

「お? こんな所にまたお客様かい? この前来たばっかだっていうのに……しかも変な仮面付けてら」

 村の入口へ近付くと村人の一人がこちらへと気付いて声を掛けてくる……その話しぶりからして、もう既に魔法使いはこの村に辿り着いた後のようね。

「軍の者だ、村長に取り次ぎ願おう」

「っ?! こ、これは失礼しました!」

 ガイウス中尉が出した手帳と私たちの制服を視認してか強ばった表情で背筋を伸ばし、慣れない敬礼の真似までする彼に『そんなに怯えなくても……』とは思うけれど、なんとなく気持ちはわからないでもない。

「ささっ、こちらでございます」

 恐縮した様子の彼に案内されて村の中を歩きながら周囲を観察する……どこか暗い表情をした村人たちは立て続けにこんな村に客人が来ることがとても珍しいのか、重い身体を引きずるように家から出てくるけれど、軍服を見咎めて途端に顔を青ざめさせ、急いで家に引き篭る。

「……もしかして帝国軍って嫌われているんですか?」

「……いや、別に嫌われている訳ではないが、なんとなく後ろめたい気分になるようだ」

「……そんなものですか」

 あまりにも怯えられる(?)ので堪りかねてガイウス中尉に質問をすると、そんな答えが返ってくる……特に警察武官に顕著で『今の私大丈夫かな?』『何か悪いことしたかな?』と何も問題はないのに不安になる市民は多いみたいで……私には理解できない不思議な心理だわ。

「ここです……村長! 軍人さんが来てるぞ!」

『なんだと?!』

 そんな話をしているうちにも村長の家に着いたようで……男性が扉越しに声を掛けると驚きの声と共に、走る音と物にぶつかる音が外にまで響いてくる……大丈夫かしら?

「こ、このような寂れた村にわざわざようこそ!」

「あぁ、邪魔をする」

「な、なにか事件でもございましたでしょうか?」

 大きな音を立てて開かれた扉からはおそらく村長であろうと思われる初老の男性が飛び出てくる……彼は開口一番に事件を疑うほど、落ち着きがない。

「……魔物と魔法使いを狩るために派遣されてきただけだ」

「へ? もう既に来られてますが……まぁここではなんですから、入られてください」

「お邪魔する」

「失礼するわ」

 そうして入った村長の家は隙間風が酷くて寒い……村で一番偉い人の家でこれなのだから、本当に貧しいみたいね。

「おかけ下さい」

「どうぞ」

 勧められるがままにリビングと思われる部屋で椅子と思われる木箱に座る……その時村長の奥様と見られる女性が薄いお茶を出してくれる。

「早速本題に入るが……既に魔物を討伐するために人が来たと言ったな?」

「は、はい……」

 こちらの質問に対して答えるものの、やはりどこか怯えているようで……いや、これは単にガイウス中尉が怖いだけね、彼は大柄で筋肉質でありながら強面だから仕方ないとは思う。……強面が仮面に隠れてて良かったわね。

「おそらくそいつは魔法使いだ」

「そ、そんなまさか?! では我らは助かる訳ではないと……?」

「それは違う」

 まさか自分たちの窮地を救ってくれるはずの人が魔法使いだとは思わなかったのか、大声を出して驚愕を露わにする村長を落ち着かせて事情を説明する。

「つまりあなたたちが本来魔物を退治すべく派遣されてきた狩人だと?」

「そうなる」

 確かにここの魔物を討伐することもあるかも知れない……と、任務に含まれてはいる。だけど、奈落の底アバドンの魔法使いが本当は討伐に来る予定では無かったというのは違う……言えないけれど。

「魔法使いと思わしき奴はいつ頃ここに来た?」

「確か三日ほど前だったかと……」

「ふむ、それくらいの時間があれば討伐されている、か?」

 確かに産まれたばかりの魔物なら私とガイウス中尉でも倒せる……変な力を持っていなかったり、この山の中で直ぐに見つかればの話ではあるけれど。

「あの、私たちは助かるのでしょうか? 小鬼だけじゃなくて魔物人間まで居ては安心して暮らせません……」

「……大丈夫だ、そのために俺たちが派遣されてきた」

 魔物人間、ね……そのあんまりな言いように思わず眉を顰めてしまう。……ここが田舎だから、特に差別がキツイだけでしょうけど。

「いつ帰ってくるのかわからないので、有効な罠は張れない……なので魔法使いに奇襲を仕掛けるためにも村長にはしばらく気付いていない演技をして貰う」

「し、承知致しました……」

 私たちが『猟犬』で扱う魔力など所詮は真似事、魔法使いの扱う多彩な魔法を使われる前に仕留められる事が一番望ましいから、現実的な策ね。

「隠れられる場所はあるか?」

「そこのカーテンの裏の物置などどうでしょう?」

 そう言って村長が指し示す場所は全身を隠すことは出来るけれど良く音が響き、日光の入り方によっては影が浮き彫りになりそうな所だった。

「……ここが一番マシか」

「すいません……」

「仕方ない……バレたらその時だ、訓練通りにやるぞ」

「はい」

 話し合いはそこで終わり、魔法使いが帰ってくるまで物置部屋にてガイウス中尉と二人で潜伏する……。

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