サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第五章.美しくありたい

5.妖精の実家

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「「……」」

 あの後不気味な老婆……アグリーに案内されて今俺たちは蔦に覆われた古い屋敷の前に立っている。こんな霧の立ち込める森の奥深くに建っているせいなのか、酷く雰囲気・・・がある。

「さぁ、お入り……」

「「……」」

 そう言ってアグリーが扉を開けて手招きをするが……あまりにも、その……不気味なまでの不気味さのマッチ具合にリーシャと二人、顔を見合わせて二の足を踏んでしまう。

「どうしたんだい? 入らないのかい?」

「あぁ、いや……お邪魔する」

「お邪、魔……しま、す……?」

 アグリーに不思議そうに声を掛けられた事で我に返り、リーシャと二人しておっかなびっくりといった様子で屋敷へと入る。

「ようこそ、『妖精の実家』へ……」

 そうして扉を潜ってすぐに目に入るのは随分と年季の入った、アグリーの言う『妖精の実家』と書かれた看板……おそらく、この孤児院の名称かなにかだろうか? 所々が苔に覆われているのがなんとも物悲しい。

「こっちだよ」

 そう言って薄暗い廊下をアグリーに案内されながら進んでいく……途中に孤児院の子どもが描いただろうか? 微妙に下手な老婆と子ども達が手を繋いでいる絵が飾られており、微笑ましい。

「……」

 リーシャはその絵を無言で食い入るように見詰めている……その表情からは何を考えているのかはまったく想像できないが、誰を・・思い出して・・・・・いるのか・・・・は分かる。……きっと、あの少女の事だろう。

「どうしたんだい? この部屋だよ」

「あ、あぁ……リーシャ行くぞ」

「う、あ……は、い……」

 どうやらこの狭い部屋で話を聞くらしい……心苦しいが、上の空だったリーシャに声を掛けて一緒に部屋へと入り、薦められるままにアグリーの対面の席へと腰をかける。

「それで? セブルスからお使いでも頼まれたかい?」

「……知っていたのか」

「当たり前さね、毎回この時期になると素材をせびってくるからね……それに弟子を取ったとも聞いている」

 なるほど、師匠クソジジイがこの森に住むアグリーに素材を強請るのは周期的なものらしい……弟子になってから七年ほど、彼女の話は聞かなかったがそれなりの頻度だったのだろう。

「なら話が早い、その素材と──」

「──その前にあんた『羊飼い』だね?」

「っ?!」

 さっさと師匠クソジジイのお使いを済ませて、彼女から父親の話を聞き出そうとした矢先に当の本人から言及されるとは……いきなりだったが、これは期待が持てそうだ。

「その話を詳しく聞かせてくれないかッ?!」

「……やけに食い付きが良いねぇ?」

「……行方不明の俺の父親の手掛かりを探している」

「ふーん?」

 彼女からジロジロと値踏みの視線が飛んでくる……クソジジイめ、何が『対価』は俺の父親の情報だ。話を何も通していないじゃないか、あのボケ老人! 俺らがお使いだと分かったのも経験からの推測でしか無かったし、帰ったらアイツ本気で燃やす。

「話してやっても良いが……」

「……」

「こちらのお願いも聞いて貰っても良いかねぇ?」

「……まぁ、そうなるか」

 そうだな、こちらばかりが一方的に素材だけでなく情報までも要求しておいて何も『対価』無しとはいかないだろう……師匠クソジジイから何か口聞きがあるどころか、むしろ何も無かった訳だしな。

「……リーシャ、構わないか?」

「私、は……構いま、せ……んよ……?」

「そうか、ありがとう」

「い、え……」

 俺の個人的な事情に彼女はまったく関係がないというのに何か『対価』を要求することなく、即座に承諾してくれるリーシャに頭が上がらない……やはり彼女は生粋のガナン人ではなく、クォーターであるらしい。

「話はついたかい?」

「あぁ、だがまず頼みの内容とは?」

 まず頼み事の中身を聞かなければどうしようもない。どう考えても我々二人だけで対処できないような事であるならば……残念だが今回は諦めるしかない。

「ふむ……この森には昔から妖精の魔女が居るっていう伝承があってね?」

「妖精の、魔女……?」

 なんだ? 民間の伝承かなにかか? いきなりそんな話をされてもさっぱり分からんが……頼み事に関わってくるのだろうし、最後まで聞こう。

「あぁそうさ、妖精の魔女さ……奴は夜な夜な子ども達を攫ってはその生き血を吸って長生きするのさ」

「……(ゴクリ」

 ふむ、お伽噺の類いか? 東方諸民族に伝わる〝鬼〟のような……だがリーシャを見る限り、彼女は信じてしまっているらしく、俺の袖を掴みながら固唾を呑んで話の続きを聞いている。……この子は本当に大丈夫なのだろうか? たまに本気で心配になる。

「そして遂にはこの孤児院でも子ども達が数人、行方不明になったのさ」

「そん、な……」

「……つまり、その妖精の魔女が犯人だと?」

 まさか本当に子ども達に実害が出ているとは……これはただのお伽噺の類いではないのか? だとしたらなぜ師匠クソジジイは放置している? この大規模な魔力残滓と合わせて理由が分からん。

「さぁてね? 妖精の魔女が本当に居るのかも分からないよ」

「おい……」

「ヒョヒョヒョッ! ……まぁあれさ、要は子ども達が行方不明になる原因を突き止めてくれれば良いさね」

「それならば、まぁ……」

 それならばやってやれない事もないが……この迷い易い森の中でアグリーの案内なしに調査は骨が折れそうだな。もし本当に妖精の魔女がいた場合の対策も考えなければならないし。

「じゃあ頼んだよ」

「あぁ……最後にこれだけは聞かせてくれ」

「? なんだい?」

 そのまま話は終わったとばかりに席を立とうとするアグリーを呼び止め、気になる事柄を知るべく質問をする。……こればかりはどうしても気になる。

「その……俺の父親とどういう関係だったんだ?」

「あぁ、そんな事かい……奴は──」

 そうなのだ、これを聞かない事には落ち着かない。……あの何処に居るのかも釈然としない父親の知り合いなど、今まで会ったことないからな……本当に俺の父親の事を知っているのか、それが気になりながら机に出されたお茶を口に含み──

「──昔の男さね、アンタは昔のアイツに良く似ているよ」

「ブフォッ?!」

「クレ、ル……君大丈、夫……で、すか?」

 ──そのまま中身を吹き出しながら、安易に聞いた事を即座に後悔する。……く、クソ親父め……母やディンゴの母親のみならず、この老婆にまで手を出していたのか?! 守備範囲広すぎだろッ!!

「す、すまんリーシャ……俺にはショックが大きかったようだ」

「ヒョヒョヒョ……情けない男だねぇ? アイツの息子なら──おや?」

 目の前の老婆が自分の父親の昔の女かも知れないという気まずさに目を逸らしつつ、リーシャに礼を言う。……そんな俺の姿を見てアグリーが笑いながら何かを言おうとして、目線をずらす。俺とリーシャも釣られてその視線を追えば……一人の子どもが居た。

「婆ちゃん客か?」

「おやおや、マークかい?」

 白髪白目という珍しい色合いだが、褐色の肌を見るにガナン人だろう。……どうやら、この孤児院の子どもらしい。

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