サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
113 / 140
第六章.醜い■■の■

1.楽しい旅行​──なんて無かった

しおりを挟む
「お前が殺ったんだろ?!」

「そう言う貴方こそ怪しいじゃない!!」

 そう言って私の目の前で言い争うのは純白のタキシードを着込んだ男性とウェディングドレスに身を包んだ女性……二人はお互いに罵声を浴びせながらお互いを詰る。

「どうして……どうしてなんだ……」

「う"わ"ー"ん"!!」

「これは難事件ですねぇ……腕が鳴りますよぉ!」

「遊びじゃねぇんだぞ?!」

 そしてチラッと横をのぞき見れば頭を抱えて蹲る初老の男性と泣き叫ぶ女の子……さらに反対方向を見れば如何にも小説に出てきてそうな探偵の格好をした妙齢の女性と、その子を怒鳴りつける中年男性が居る。

「「なにがどうなってるの……」」

 奇しくも私とリーゼリットの声が重なった……本当にどうしてこうなったのか、全く分からない……確か私達は仕事のついでに旅行だねってウキウキしながら汽車に乗り込み、そのまま目的地である『ホラド伯爵領』に着いて、ホテルにチェックインしたはず……それなのに​──

「どうして殺人事件が起きてるの……」

「これ、旅行どころか史料を集める暇があるかなぁ……」

 ​──私達の目の前、ホテルのロビーには一人の女性の死体が転がっていた。

▼▼▼▼▼▼▼

「さて、どうしようかしら……」

「他に警察は居ないのかね?」

 ホテルに貸し出された部屋に荷物を置いて降りて来てみればいきなりこれだものね……リーゼリットの言う通り、他の警官も見当たらないし。

「あの、すいません……」

「……はい?」

 おっとと……考え込んでいたらホテルのスタッフに呼び止められてしまったわね、なんの用かしら? ……ちょっと嫌な予感がするけれど、無視をする訳にはいかないわね。

「その白い制服……警察武官の方、ですよね?」

「……そう、よ?」

 あー、うん……こんな期待した目を向けられれば嫌でも察するし、知らない顔は出来ないわね……まぁするつもりも最初から無かったんだけど。
 ……はぁ~、楽しい旅行のはずだったんだけどはぁ……リーゼリットには悪いわね。

「……ごめんね、リーゼリット」

「ハハハ……まぁ仕方ないさ」

 せっかく私の為に旅行を提案してくれたリーゼリットに申し訳なくて謝るけれど、彼女は苦笑するだけで許してくれる。……本当に私には勿体ない親友だわ。
 よし、そんな親友に恥ずかしい姿は見せられないわね! しっかりとしましょう!

「警察武官です! 皆さん動かないで!」

 私の呼び声に反応して一斉にその場に居た人々が振り返る……ただ一人を除いて。

「そこ! そこの探偵かぶれ! 変な動きをするんじゃない!」

「かぶっ……?!」

 怪しい動きで死体の周りをうろちょろする探偵っぽい格好をした少女を咎める……紫色の瞳を見開き、黒髪をわなわなと振るわせながら驚きの表情でこちらに振り返る。……まったく、殺人事件は遊びじゃないのよ?

「今この場はこのアリシア・スカーレット准尉が臨時に指揮を取ります! 皆さん不審な真似はしないで!」

 さて、とりあえず現場の保存と容疑者候補……この場に居る全員を容疑が晴れるまでホテルに留まって貰いつつ、『ホラド伯爵領・警察支局』に連絡を取って新たな人員の配置とこの領地の警察武官に引き継ぎをしなきゃね。

「ちょっとちょっとお姉さん、探偵かぶれってなにさ! 探偵かぶれって!」

「……誰かは知らないけれど、今は子どものお遊びに付き合ってる暇ないのよ」

「んなっ?!」

 見たところ十四歳ぐらいの年頃といったところかしら? この年齢の子は変な遊びに目覚めやすいのはよく理解しているけれど、時と場合を考えて欲しいと思わなくもない。

「はぁ~、言ってくれるねぇ……この私が『名探偵アンジュ・カトリーナ』と知っての事かい?」

「……………………知らないわよ」

「……マジ?」

「……マジよ」

 誰よ『名探偵アンジュ・カトリーナ』って……いや、目の前の少女の事なんでしょうけど……そんなに有名な子なのかと周囲の人を見回す……けど、目を逸らすか肩を竦められる。

「お巡りさんやめとけ、ソイツは近所でも有名な痛いガキだ」

「おぉん? この名探偵に向かって痛いガキとはなだ!」

「事実だろ? いつもいつもこういう大事件から夫婦喧嘩にまで首を突っ込みやがって……」

 ふむ、なるほど……どうやらあまりマトモに取り合わない方が良さそうね? とりあえず余計な事をされて現場を荒らされないように注意だけでもしておくべきかしら?

「私がこの事件の犯人を知ってると言っても?」

「ハァ……ガキの妄想に付き合ってる場合じゃねぇんだよ! 人が殺されてるんだぞ!」

 ……犯人を知っている? 聞き捨てならないわね。嘘かも知れないけれど、この発言を無視するのも角が立つし、事情聴取といきましょうか。

「だいたいなぁ、お前はいつも​──」

「その話、詳しく聞ける?」

「​──ちょっ?! お巡りさん?!」

「お? お巡りのお姉さんは話が分かるみたいだね! さっきはごめんね!」

 周囲の人間が一斉にこちらを心配そうな目で見てくるけれど……そんなに近所では有名な痛い子なのかしら? ……話を聞くのが怖くなってきたわね。

「ふふん! 夫婦喧嘩から殺人事件に至るまで、この名探偵アンジュ・カトリーナ様に掛かればチョロいってもんだよ!」

「そ、そう?」

「ハァ……もう俺は知らねぇからな」

 『警告はしたからな』と言いながらその場を引く中年男性に内心で謝りながら、確か……アンジュだったかしら? その子に向き直る。

「さて、では容疑者・・・アンジュ君の話を聞きましょうか」

「おう! 任せろ! この名探偵アンジュ​──え? 容疑者・・・?」

 この場に居る私とリーゼリット以外はそうでしょうに、何を当たり前な事を……驚きに間抜けな表情を晒す少女に苦笑いしながら、さてどうやって話を聞き出そうかと考える。

「???」

 疑問符を頭の上に浮かべる少女を見ながら思う……楽しい旅行​──無かった。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

処理中です...