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第六章.醜い■■の■
1.楽しい旅行──なんて無かった
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「お前が殺ったんだろ?!」
「そう言う貴方こそ怪しいじゃない!!」
そう言って私の目の前で言い争うのは純白のタキシードを着込んだ男性とウェディングドレスに身を包んだ女性……二人はお互いに罵声を浴びせながらお互いを詰る。
「どうして……どうしてなんだ……」
「う"わ"ー"ん"!!」
「これは難事件ですねぇ……腕が鳴りますよぉ!」
「遊びじゃねぇんだぞ?!」
そしてチラッと横をのぞき見れば頭を抱えて蹲る初老の男性と泣き叫ぶ女の子……さらに反対方向を見れば如何にも小説に出てきてそうな探偵の格好をした妙齢の女性と、その子を怒鳴りつける中年男性が居る。
「「なにがどうなってるの……」」
奇しくも私とリーゼリットの声が重なった……本当にどうしてこうなったのか、全く分からない……確か私達は仕事のついでに旅行だねってウキウキしながら汽車に乗り込み、そのまま目的地である『ホラド伯爵領』に着いて、ホテルにチェックインしたはず……それなのに──
「どうして殺人事件が起きてるの……」
「これ、旅行どころか史料を集める暇があるかなぁ……」
──私達の目の前、ホテルのロビーには一人の女性の死体が転がっていた。
▼▼▼▼▼▼▼
「さて、どうしようかしら……」
「他に警察は居ないのかね?」
ホテルに貸し出された部屋に荷物を置いて降りて来てみればいきなりこれだものね……リーゼリットの言う通り、他の警官も見当たらないし。
「あの、すいません……」
「……はい?」
おっとと……考え込んでいたらホテルのスタッフに呼び止められてしまったわね、なんの用かしら? ……ちょっと嫌な予感がするけれど、無視をする訳にはいかないわね。
「その白い制服……警察武官の方、ですよね?」
「……そう、よ?」
あー、うん……こんな期待した目を向けられれば嫌でも察するし、知らない顔は出来ないわね……まぁするつもりも最初から無かったんだけど。
……はぁ~、楽しい旅行のはずだったんだけどはぁ……リーゼリットには悪いわね。
「……ごめんね、リーゼリット」
「ハハハ……まぁ仕方ないさ」
せっかく私の為に旅行を提案してくれたリーゼリットに申し訳なくて謝るけれど、彼女は苦笑するだけで許してくれる。……本当に私には勿体ない親友だわ。
よし、そんな親友に恥ずかしい姿は見せられないわね! しっかりとしましょう!
「警察武官です! 皆さん動かないで!」
私の呼び声に反応して一斉にその場に居た人々が振り返る……ただ一人を除いて。
「そこ! そこの探偵かぶれ! 変な動きをするんじゃない!」
「かぶっ……?!」
怪しい動きで死体の周りをうろちょろする探偵っぽい格好をした少女を咎める……紫色の瞳を見開き、黒髪をわなわなと振るわせながら驚きの表情でこちらに振り返る。……まったく、殺人事件は遊びじゃないのよ?
「今この場はこのアリシア・スカーレット准尉が臨時に指揮を取ります! 皆さん不審な真似はしないで!」
さて、とりあえず現場の保存と容疑者候補……この場に居る全員を容疑が晴れるまでホテルに留まって貰いつつ、『ホラド伯爵領・警察支局』に連絡を取って新たな人員の配置とこの領地の警察武官に引き継ぎをしなきゃね。
「ちょっとちょっとお姉さん、探偵かぶれってなにさ! 探偵かぶれって!」
「……誰かは知らないけれど、今は子どものお遊びに付き合ってる暇ないのよ」
「んなっ?!」
見たところ十四歳ぐらいの年頃といったところかしら? この年齢の子は変な遊びに目覚めやすいのはよく理解しているけれど、時と場合を考えて欲しいと思わなくもない。
「はぁ~、言ってくれるねぇ……この私が『名探偵アンジュ・カトリーナ』と知っての事かい?」
「……………………知らないわよ」
「……マジ?」
「……マジよ」
誰よ『名探偵アンジュ・カトリーナ』って……いや、目の前の少女の事なんでしょうけど……そんなに有名な子なのかと周囲の人を見回す……けど、目を逸らすか肩を竦められる。
「お巡りさんやめとけ、ソイツは近所でも有名な痛いガキだ」
「おぉん? この名探偵に向かって痛いガキとはなだ!」
「事実だろ? いつもいつもこういう大事件から夫婦喧嘩にまで首を突っ込みやがって……」
ふむ、なるほど……どうやらあまりマトモに取り合わない方が良さそうね? とりあえず余計な事をされて現場を荒らされないように注意だけでもしておくべきかしら?
「私がこの事件の犯人を知ってると言っても?」
「ハァ……ガキの妄想に付き合ってる場合じゃねぇんだよ! 人が殺されてるんだぞ!」
……犯人を知っている? 聞き捨てならないわね。嘘かも知れないけれど、この発言を無視するのも角が立つし、事情聴取といきましょうか。
「だいたいなぁ、お前はいつも──」
「その話、詳しく聞ける?」
「──ちょっ?! お巡りさん?!」
「お? お巡りのお姉さんは話が分かるみたいだね! さっきはごめんね!」
周囲の人間が一斉にこちらを心配そうな目で見てくるけれど……そんなに近所では有名な痛い子なのかしら? ……話を聞くのが怖くなってきたわね。
「ふふん! 夫婦喧嘩から殺人事件に至るまで、この名探偵アンジュ・カトリーナ様に掛かればチョロいってもんだよ!」
「そ、そう?」
「ハァ……もう俺は知らねぇからな」
『警告はしたからな』と言いながらその場を引く中年男性に内心で謝りながら、確か……アンジュだったかしら? その子に向き直る。
「さて、では容疑者アンジュ君の話を聞きましょうか」
「おう! 任せろ! この名探偵アンジュ──え? 容疑者?」
この場に居る私とリーゼリット以外はそうでしょうに、何を当たり前な事を……驚きに間抜けな表情を晒す少女に苦笑いしながら、さてどうやって話を聞き出そうかと考える。
「???」
疑問符を頭の上に浮かべる少女を見ながら思う……楽しい旅行──無かった。
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「そう言う貴方こそ怪しいじゃない!!」
そう言って私の目の前で言い争うのは純白のタキシードを着込んだ男性とウェディングドレスに身を包んだ女性……二人はお互いに罵声を浴びせながらお互いを詰る。
「どうして……どうしてなんだ……」
「う"わ"ー"ん"!!」
「これは難事件ですねぇ……腕が鳴りますよぉ!」
「遊びじゃねぇんだぞ?!」
そしてチラッと横をのぞき見れば頭を抱えて蹲る初老の男性と泣き叫ぶ女の子……さらに反対方向を見れば如何にも小説に出てきてそうな探偵の格好をした妙齢の女性と、その子を怒鳴りつける中年男性が居る。
「「なにがどうなってるの……」」
奇しくも私とリーゼリットの声が重なった……本当にどうしてこうなったのか、全く分からない……確か私達は仕事のついでに旅行だねってウキウキしながら汽車に乗り込み、そのまま目的地である『ホラド伯爵領』に着いて、ホテルにチェックインしたはず……それなのに──
「どうして殺人事件が起きてるの……」
「これ、旅行どころか史料を集める暇があるかなぁ……」
──私達の目の前、ホテルのロビーには一人の女性の死体が転がっていた。
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「さて、どうしようかしら……」
「他に警察は居ないのかね?」
ホテルに貸し出された部屋に荷物を置いて降りて来てみればいきなりこれだものね……リーゼリットの言う通り、他の警官も見当たらないし。
「あの、すいません……」
「……はい?」
おっとと……考え込んでいたらホテルのスタッフに呼び止められてしまったわね、なんの用かしら? ……ちょっと嫌な予感がするけれど、無視をする訳にはいかないわね。
「その白い制服……警察武官の方、ですよね?」
「……そう、よ?」
あー、うん……こんな期待した目を向けられれば嫌でも察するし、知らない顔は出来ないわね……まぁするつもりも最初から無かったんだけど。
……はぁ~、楽しい旅行のはずだったんだけどはぁ……リーゼリットには悪いわね。
「……ごめんね、リーゼリット」
「ハハハ……まぁ仕方ないさ」
せっかく私の為に旅行を提案してくれたリーゼリットに申し訳なくて謝るけれど、彼女は苦笑するだけで許してくれる。……本当に私には勿体ない親友だわ。
よし、そんな親友に恥ずかしい姿は見せられないわね! しっかりとしましょう!
「警察武官です! 皆さん動かないで!」
私の呼び声に反応して一斉にその場に居た人々が振り返る……ただ一人を除いて。
「そこ! そこの探偵かぶれ! 変な動きをするんじゃない!」
「かぶっ……?!」
怪しい動きで死体の周りをうろちょろする探偵っぽい格好をした少女を咎める……紫色の瞳を見開き、黒髪をわなわなと振るわせながら驚きの表情でこちらに振り返る。……まったく、殺人事件は遊びじゃないのよ?
「今この場はこのアリシア・スカーレット准尉が臨時に指揮を取ります! 皆さん不審な真似はしないで!」
さて、とりあえず現場の保存と容疑者候補……この場に居る全員を容疑が晴れるまでホテルに留まって貰いつつ、『ホラド伯爵領・警察支局』に連絡を取って新たな人員の配置とこの領地の警察武官に引き継ぎをしなきゃね。
「ちょっとちょっとお姉さん、探偵かぶれってなにさ! 探偵かぶれって!」
「……誰かは知らないけれど、今は子どものお遊びに付き合ってる暇ないのよ」
「んなっ?!」
見たところ十四歳ぐらいの年頃といったところかしら? この年齢の子は変な遊びに目覚めやすいのはよく理解しているけれど、時と場合を考えて欲しいと思わなくもない。
「はぁ~、言ってくれるねぇ……この私が『名探偵アンジュ・カトリーナ』と知っての事かい?」
「……………………知らないわよ」
「……マジ?」
「……マジよ」
誰よ『名探偵アンジュ・カトリーナ』って……いや、目の前の少女の事なんでしょうけど……そんなに有名な子なのかと周囲の人を見回す……けど、目を逸らすか肩を竦められる。
「お巡りさんやめとけ、ソイツは近所でも有名な痛いガキだ」
「おぉん? この名探偵に向かって痛いガキとはなだ!」
「事実だろ? いつもいつもこういう大事件から夫婦喧嘩にまで首を突っ込みやがって……」
ふむ、なるほど……どうやらあまりマトモに取り合わない方が良さそうね? とりあえず余計な事をされて現場を荒らされないように注意だけでもしておくべきかしら?
「私がこの事件の犯人を知ってると言っても?」
「ハァ……ガキの妄想に付き合ってる場合じゃねぇんだよ! 人が殺されてるんだぞ!」
……犯人を知っている? 聞き捨てならないわね。嘘かも知れないけれど、この発言を無視するのも角が立つし、事情聴取といきましょうか。
「だいたいなぁ、お前はいつも──」
「その話、詳しく聞ける?」
「──ちょっ?! お巡りさん?!」
「お? お巡りのお姉さんは話が分かるみたいだね! さっきはごめんね!」
周囲の人間が一斉にこちらを心配そうな目で見てくるけれど……そんなに近所では有名な痛い子なのかしら? ……話を聞くのが怖くなってきたわね。
「ふふん! 夫婦喧嘩から殺人事件に至るまで、この名探偵アンジュ・カトリーナ様に掛かればチョロいってもんだよ!」
「そ、そう?」
「ハァ……もう俺は知らねぇからな」
『警告はしたからな』と言いながらその場を引く中年男性に内心で謝りながら、確か……アンジュだったかしら? その子に向き直る。
「さて、では容疑者アンジュ君の話を聞きましょうか」
「おう! 任せろ! この名探偵アンジュ──え? 容疑者?」
この場に居る私とリーゼリット以外はそうでしょうに、何を当たり前な事を……驚きに間抜けな表情を晒す少女に苦笑いしながら、さてどうやって話を聞き出そうかと考える。
「???」
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