1,352 / 1,470
本編
82話 合戦に向けて その2
しおりを挟む
それから暫くして、タロウが食堂へ下りて来た、おっ来たなと黒板を集めて腰を上げるユーリ、ミナもやっと来たーとハナコを抱いて満面の笑みである、そうしてタロウとソフィアとユーリ、ミナとハナコが転送陣を潜った、その行先は焼け跡の天幕となる、
「おう、おはようさん」
クロノスが一行に気付いて片手を上げ、お疲れ様ですとリンドが一礼する、その側の床にドカッと腰を下ろすゲインも視線だけは一行に向け、イフナースとトーラーも笑顔を向けた、
「あー、ゲインだー」
キャーッと叫んでゲインに駆けだすミナ、いやそっちかよとクロノスが苦笑するもゲインは無表情のままである、そして、
「見てー、ハナコー、ミナのムスメなのー、見てー」
ハナコをこれでもかと持ち上げてゲインの前でピョンピョン跳ねるミナ、やっとゲインの表情が少しだけ柔らかいものになるが、それを判別できたのは古い友人だけであろう、あっそれなりに喜んでいるなと察するソフィアとユーリとタロウ、
「むー、ゲインめー」
しかしミナに判別できる筈も無く、グニューと変な呻き声を上げると、ゲインの腕を強引に引っ張りその手を広げさせた、大人達が何をやっているんだかと見つめていると、その手にハナコを乗せ、自分はわしわしとゲインの身体を上ってその肩にチョコンと座ると、
「ムフフー、ゲインだー、どうしたのー、何してるのー」
とペチペチとゲインの頬を叩く、ムッと睨みつけるゲイン、しかしやはり若干嬉しそうではある、
「あっ、ハナコ、ハナコ寄越してー」
どうやら尻の収まりが悪かったのか跨ぐように体勢を変え腕を伸ばした、ゲインは素直に従っているようで、その手にスッポリと収まり不安そうなハナコをゆっくりと持ち上げる、
「ウフフー、ハナコなのー、かわいいでしょー」
ハナコを抱き寄せズイッとゲインの顔に押し付けるミナ、ハナコは恐る恐るとゲインの頬を舐めたようで、そこでやっと誰もが理解出来る程にゲインが微笑んだ、あら笑った・・・と驚く大人達、イフナースやトーラーもこの男でも笑うのかと唖然としてしまう、
「ウフフー、でねー、かしこいのよー、あのねー、あのねー」
とキャーキャー始めるミナである、大人達はまぁいいかと微笑み、
「ご無沙汰しておりますソフィアさん、ユーリ先生」
トーラーが席を立ってタロウらに近付いた、そしてゆっくりと頭を垂れる、
「あらっ、トーラーさん」
「久しぶりねー、来てたのー」
と今度は中年女性らしい甲高い声が響き渡った、
「ハッ、両殿下の招聘によりまして微力ながら馳せ参じております、愚昧が大変にお世話になっておるようで、言葉だけでは失礼かと思いますが、心から感謝致します」
再び頭を下げるトーラーである、何もそこまでとソフィアとユーリは思うも、まぁ子爵家当主としてはそうなるなと理解するのはリンドであった、トーラーとしてはもうエレインはすっかり商会長として自立しているようであり、王家や高位貴族であるクレオノート伯爵家やコーレイン公爵家とも懇意にしており、また因縁深かった王家とコーレイン公爵家を結びつけるのにも役に立ったらしい、まぁあの演劇の脚本だか台本だかはどうかと思うが、そこまでの事があったとはとトーラーはリンドから経緯を聞いて、エレインを見直してしまったと同時に、そこまでの切っ掛けを与えたのがこのソフィアとユーリの二人であると理解している、無論トーラーがその思いをエレインに伝える事は無かったが、トーラーが二人に対し心から感謝している事に嘘は無かった、
「そんな固くなんないでよー」
「そうそう、なに?エレインさんとは会った?」
「会ってもあれでしょ、また喧嘩したんじゃない?」
「そうよねー、でも、エレインさんは何も言ってなかったと思うけどー」
「あの子も水臭いのよねー、なによ、顔くらい出しなさいよ」
と再びキャーキャーと中年女性風の黄色い声が響き渡り、一体なんだと振り返る者が多数、その天幕は毎朝の会議が開かれる最も大きな天幕であり、ソフィアらと面識のある者だけならいざ知らず、数人の文官や近衛兵達も仕事中となる、
「おい、そこまでだ」
やれやれと腰を上げるクロノス、
「お前も顔が広いなー」
とトーラーに微笑むイフナースである、すると、アーいたーと声には出さずにニンマリと微笑んでしまったソフィアとユーリ、しかしそれに気付くイフナースではない、しかし二人の目の前にいたトーラーはん?と眉を顰めた、トーラーもそれなりに人生経験はある、女生特有の何やら含みのある下心満載の笑みに疑問を抱かぬ程鈍感ではない、しかし、
「・・・あー、でもなー」
「ねー・・・」
ニヤニヤと顔を見合わせるソフィアとユーリ、一体何があったのかとさらに顔を顰めるトーラー、無論であるがその場にいる他の全員が昨日の一件を把握していないようで、つまりはイフナース自身も口外していないのであろう、ソフィアとユーリもエレインから必要以上に騒がないようにとお願いされており、昨晩あの場にいた全員がエレインの為もあるし、なにより王家に関わる事であるからと秘す事にしている、まぁ、それもどこまで守られるかは分かったものでは無いのであるが、しかしよく考えれば最も秘密を守れ無さそうなミシェレは、まだまだ慣れていない環境である為それどころではなく、ニコリーネも王家に関わる事となれば口は固い、となればエルマも同様で、テラとオリビアはエレインの腹心である、徒にエレインの不利益になりかねない事を遊び半分で吹聴する筈も無い、カトカとサビナとゾーイも同様で、そこはもうエレインの許可が無ければ言及する事は無いとハッキリ約束していた、となると一番秘密を漏らす危険性が高いのは何気にソフィアとユーリ、この二人であったりする、
「あっ、ついでだ、ソフィア、お前少し見ておけ」
クロノスがそんな二人にまるで気付かずジロリと睨みつけた、ニヤケタ顔のままなにがー?と返すソフィア、
「お前な・・・なんだその顔は・・・」
ギロリと睨み直すクロノス、あっゴメンとエヘヘと誤魔化すソフィアである、
「まぁいいが、ほれ、いざとなったらお前の出番もあるかもしれん、まぁ、そうなったらそうなったでいよいよマズいがな・・・」
めんどくさそうに天幕の入口に向かうクロノス、タロウもあーそうかもなーとその後を追った、
「えっ、私がー」
ヘラヘラしたまま返すソフィア、
「いざって時にだよ」
軽く微笑み振り返るタロウ、
「そのいざが問題なんでしょが」
ユーリもニヤついた顔のまま返す、
「問題だからこそだよ」
タロウがほれいくぞと二人を睨む、はいはいと続く二人、となれば、
「あっー、どっか行くー、ゲインもー、ミナも行くー」
キャーキャー騒ぎ出すミナ、リンドとトーラー、イフナースがまったくもうと苦笑する、
「はやくー、ゲイン、あっちー」
遠慮なくペチペチとゲインの頬を叩くミナ、見ればハナコはいつのまにやらゲインの首の後ろ、襟の中にチョコンと収まっている、実に見事な塩梅で、ハナコ自身も嬉しそうにヘッヘと舌を出していた、いいのかなと微笑むリンド、しかし流石に危ないと思ったのかゲインはミナを支えながら立ち上がり、空いた手でハナコを摘まむとソッとミナに返したようで、
「ムー・・・ダメー?」
寂しそうにハナコを受け取るミナ、ゲインはジッとミナを見つめる、
「そっかー、ダメかー・・・かわいかったのにー」
ねーとハナコを覗き込み、ハナコはキューとミナを見上げる、
「はらー、ハナコもいい感じだったって言ってるー」
耳元で騒ぐミナを無言で睨み返すゲイン、
「ねー、ほら、ハナコもー、言ってー、いい感じーって」
ズイッとハナコを突き出すミナ、ハナコはペロリとゲインの鼻先を舐め上げた、すっかり慣れてしまったようで、そのままゲインは表情を変える事も無くクロノスらを追うも、そっとその手はミナを支えている、慣れたものだなと微笑むリンド、イフナースとトーラーはいいのかなと顔を見合わせてしまった、なにせ何を考えているかまるで理解できない男なのだ、まずもって二人もその声はおろか表情を変えた所も見ていない、少数民族であるハイランダーの出身とは聞いているが、いくらなんでもハイランダーとはいえここまで寡黙な男は珍しいであろう、それでもクロノスやルーツは頼りにしているし、こういう奴だと笑っており、ユーリやソフィアとも仲が良いらしく、またリンドも当然のように受け入れていた、となればそれに倣うしかないイフナースとトーラーである、そうして一行が天幕を出ると、
「うわっ、さむ・・・」
ソフィアが外套の襟を閉めて背を丸め、
「ウワー、広ーい」
ミナがキャーと叫んだ、
「だろー」
何故かクロノスが得意気である、
「うん、あー、なんかいっぱいあるー」
両足をバタつかせるミナ、ゲインがムッと睨むも気にするミナではない、
「いっぱいあるなー」
タロウも微笑む、どうやらミナは天幕の事を言っているのであろう、見渡す限りの雪原の中、会議用の巨大な天幕を中心にして、各軍団毎に天幕が設置されており、その数を数えるのも難儀する程で、さらには、
「わっ、あれなにー、でっかいー」
キャーと指差すミナ、そこには丸太を組んで作られた櫓が屹立していた、その数五基、四方に一基ずつ、中央に一基である、
「ん?あっ、それはな、夜になったら光るんだ」
ニヤリと微笑むクロノス、
「そなのー?」
キャーと叫ぶミナ、恐らく良くわかっていないであろう、ソフィアもヘーと櫓を見上げ、
「ありゃ・・・なによ、ルーツ様がいるじゃない」
と目を凝らす、
「なんだ、ソフィアにはわかるのか?」
クロノスが不思議そうに振り返る、
「そうよー、あれ、知らなかった?」
ニヤリとクロノスを見上げるソフィア、
「知らんな・・・聞いてないぞ」
「別に言う必要無かったしねー、ほら、そういうのはあれの方が得意だったしねー」
ソフィアはフンと鼻で笑って櫓を見上げる、曇天の中に立つそれは、上部にやや大きめの足場があるらしく、それが二段重ねになっている、その上方にルーツの気配があり、そして、
「ありゃ・・・陛下もいるの?あっ、ロキュス参謀もいるじゃん」
とソフィアは目を細めた、
「ん?まずな、ほれ、偉いさん達はなあそこで見物になる、特等席ってやつだ」
「そだねー」
クロノスも櫓を見上げ、タロウも顔を上げた、ユーリもそうなるんだーと櫓を見つめる、
「でだ、もう、ほれ、敵さんの陣地も見えるからな、お前ら見るだけ見とけ」
雪かきの済んだ道のような広場のような真っ黒い地面をノシノシと歩き始めるクロノス、
「陣地?」
「おう、多分明日から合戦だな・・・いよいよだよ」
誰にもともなく答えるクロノス、
「ありゃま・・・そっかー」
と気の抜けた様子のソフィア、
「そうなんだよなー」
タロウがやれやれとクロノスに続く、やがて天幕の群れを抜けると今度は置き盾の群れが一行を出迎えた、こりゃまたと目を丸くするソフィア、
「あっ、近付くなよ、服を引っ掛けるからな」
タロウが振り返る、
「引っ掛ける?あっ・・・もしかして・・・」
と置き盾から若干距離を取りつつ首を伸ばすソフィア、置き盾とは木製の巨大な防護壁である、荒野はどうしても地面に杭を打つのが難しく、打てたとしても場所が限られてしまっていた、本来であれば杭を打ち強固に固める防御壁も地面にドンと置いたままとなってしまっている、そしてその丸太を組んだだけの重く分厚い壁の表面には薔薇のような棘のある針金が巻かれている、鉄条網もしくは有刺鉄線と呼ばれる代物であった、
「・・・あんた、これ・・・」
ムーとタロウを睨むソフィア、
「うん、実用化してたみたい・・・」
「そっ・・・そりゃそっか・・・」
嫌そうに鉄条網を睨むソフィア、
「まぁねー、便利と言えば便利だし・・・」
ユーリも心底嫌そうである、
「便利なんだよ、実際な」
フンと振り返るクロノス、この鉄条網はタロウが先の大戦時に提案し、大戦中には配備される事も作られる事も無かったのであるが、戦後、クロノスが思い出しタロウに確認しつつ作った代物である、而して実に便利且つ強力な代物で、無論攻撃に使うようなものではなく、こうして防御的にしか使えないのであるが、獣相手にも魔族相手にも野盗相手にも大変に有効である事が実証されている、こんな簡単なものでとクロノスは驚愕し、リンドも認めるところで、当然全軍団に通達しており、各軍団ではその宿営地や宿舎の防備に採用され、王都の城壁にも設置されていた、タロウはその報告を受け、なんとも素早い事だと呆れてしまったものであった、何よりタロウはそう簡単に作れるものではないのかなと思っていたのである、しかしこうして大量に生産され使いこなされていた、なるほどこの王国の工業技術は馬鹿に出来ないなのだなと実感できた最初の事例となる、
「まぁ・・・私は別にいいけどさ・・・」
「だろうな、で、ほれ、あれだ」
クロノスが足を止めて指差す、
「なにあれー」
キャーとミナが叫ぶも、そこはもうはしゃぐ気も無く真面目に対するソフィア、ジッと遠方で蠢く帝国軍を見据え、
「・・・ハー・・・随分とまぁ大勢で・・・こんなくそ寒い所まで、気の毒な事だわ・・・」
大きく溜息を吐き出したのであった。
「おう、おはようさん」
クロノスが一行に気付いて片手を上げ、お疲れ様ですとリンドが一礼する、その側の床にドカッと腰を下ろすゲインも視線だけは一行に向け、イフナースとトーラーも笑顔を向けた、
「あー、ゲインだー」
キャーッと叫んでゲインに駆けだすミナ、いやそっちかよとクロノスが苦笑するもゲインは無表情のままである、そして、
「見てー、ハナコー、ミナのムスメなのー、見てー」
ハナコをこれでもかと持ち上げてゲインの前でピョンピョン跳ねるミナ、やっとゲインの表情が少しだけ柔らかいものになるが、それを判別できたのは古い友人だけであろう、あっそれなりに喜んでいるなと察するソフィアとユーリとタロウ、
「むー、ゲインめー」
しかしミナに判別できる筈も無く、グニューと変な呻き声を上げると、ゲインの腕を強引に引っ張りその手を広げさせた、大人達が何をやっているんだかと見つめていると、その手にハナコを乗せ、自分はわしわしとゲインの身体を上ってその肩にチョコンと座ると、
「ムフフー、ゲインだー、どうしたのー、何してるのー」
とペチペチとゲインの頬を叩く、ムッと睨みつけるゲイン、しかしやはり若干嬉しそうではある、
「あっ、ハナコ、ハナコ寄越してー」
どうやら尻の収まりが悪かったのか跨ぐように体勢を変え腕を伸ばした、ゲインは素直に従っているようで、その手にスッポリと収まり不安そうなハナコをゆっくりと持ち上げる、
「ウフフー、ハナコなのー、かわいいでしょー」
ハナコを抱き寄せズイッとゲインの顔に押し付けるミナ、ハナコは恐る恐るとゲインの頬を舐めたようで、そこでやっと誰もが理解出来る程にゲインが微笑んだ、あら笑った・・・と驚く大人達、イフナースやトーラーもこの男でも笑うのかと唖然としてしまう、
「ウフフー、でねー、かしこいのよー、あのねー、あのねー」
とキャーキャー始めるミナである、大人達はまぁいいかと微笑み、
「ご無沙汰しておりますソフィアさん、ユーリ先生」
トーラーが席を立ってタロウらに近付いた、そしてゆっくりと頭を垂れる、
「あらっ、トーラーさん」
「久しぶりねー、来てたのー」
と今度は中年女性らしい甲高い声が響き渡った、
「ハッ、両殿下の招聘によりまして微力ながら馳せ参じております、愚昧が大変にお世話になっておるようで、言葉だけでは失礼かと思いますが、心から感謝致します」
再び頭を下げるトーラーである、何もそこまでとソフィアとユーリは思うも、まぁ子爵家当主としてはそうなるなと理解するのはリンドであった、トーラーとしてはもうエレインはすっかり商会長として自立しているようであり、王家や高位貴族であるクレオノート伯爵家やコーレイン公爵家とも懇意にしており、また因縁深かった王家とコーレイン公爵家を結びつけるのにも役に立ったらしい、まぁあの演劇の脚本だか台本だかはどうかと思うが、そこまでの事があったとはとトーラーはリンドから経緯を聞いて、エレインを見直してしまったと同時に、そこまでの切っ掛けを与えたのがこのソフィアとユーリの二人であると理解している、無論トーラーがその思いをエレインに伝える事は無かったが、トーラーが二人に対し心から感謝している事に嘘は無かった、
「そんな固くなんないでよー」
「そうそう、なに?エレインさんとは会った?」
「会ってもあれでしょ、また喧嘩したんじゃない?」
「そうよねー、でも、エレインさんは何も言ってなかったと思うけどー」
「あの子も水臭いのよねー、なによ、顔くらい出しなさいよ」
と再びキャーキャーと中年女性風の黄色い声が響き渡り、一体なんだと振り返る者が多数、その天幕は毎朝の会議が開かれる最も大きな天幕であり、ソフィアらと面識のある者だけならいざ知らず、数人の文官や近衛兵達も仕事中となる、
「おい、そこまでだ」
やれやれと腰を上げるクロノス、
「お前も顔が広いなー」
とトーラーに微笑むイフナースである、すると、アーいたーと声には出さずにニンマリと微笑んでしまったソフィアとユーリ、しかしそれに気付くイフナースではない、しかし二人の目の前にいたトーラーはん?と眉を顰めた、トーラーもそれなりに人生経験はある、女生特有の何やら含みのある下心満載の笑みに疑問を抱かぬ程鈍感ではない、しかし、
「・・・あー、でもなー」
「ねー・・・」
ニヤニヤと顔を見合わせるソフィアとユーリ、一体何があったのかとさらに顔を顰めるトーラー、無論であるがその場にいる他の全員が昨日の一件を把握していないようで、つまりはイフナース自身も口外していないのであろう、ソフィアとユーリもエレインから必要以上に騒がないようにとお願いされており、昨晩あの場にいた全員がエレインの為もあるし、なにより王家に関わる事であるからと秘す事にしている、まぁ、それもどこまで守られるかは分かったものでは無いのであるが、しかしよく考えれば最も秘密を守れ無さそうなミシェレは、まだまだ慣れていない環境である為それどころではなく、ニコリーネも王家に関わる事となれば口は固い、となればエルマも同様で、テラとオリビアはエレインの腹心である、徒にエレインの不利益になりかねない事を遊び半分で吹聴する筈も無い、カトカとサビナとゾーイも同様で、そこはもうエレインの許可が無ければ言及する事は無いとハッキリ約束していた、となると一番秘密を漏らす危険性が高いのは何気にソフィアとユーリ、この二人であったりする、
「あっ、ついでだ、ソフィア、お前少し見ておけ」
クロノスがそんな二人にまるで気付かずジロリと睨みつけた、ニヤケタ顔のままなにがー?と返すソフィア、
「お前な・・・なんだその顔は・・・」
ギロリと睨み直すクロノス、あっゴメンとエヘヘと誤魔化すソフィアである、
「まぁいいが、ほれ、いざとなったらお前の出番もあるかもしれん、まぁ、そうなったらそうなったでいよいよマズいがな・・・」
めんどくさそうに天幕の入口に向かうクロノス、タロウもあーそうかもなーとその後を追った、
「えっ、私がー」
ヘラヘラしたまま返すソフィア、
「いざって時にだよ」
軽く微笑み振り返るタロウ、
「そのいざが問題なんでしょが」
ユーリもニヤついた顔のまま返す、
「問題だからこそだよ」
タロウがほれいくぞと二人を睨む、はいはいと続く二人、となれば、
「あっー、どっか行くー、ゲインもー、ミナも行くー」
キャーキャー騒ぎ出すミナ、リンドとトーラー、イフナースがまったくもうと苦笑する、
「はやくー、ゲイン、あっちー」
遠慮なくペチペチとゲインの頬を叩くミナ、見ればハナコはいつのまにやらゲインの首の後ろ、襟の中にチョコンと収まっている、実に見事な塩梅で、ハナコ自身も嬉しそうにヘッヘと舌を出していた、いいのかなと微笑むリンド、しかし流石に危ないと思ったのかゲインはミナを支えながら立ち上がり、空いた手でハナコを摘まむとソッとミナに返したようで、
「ムー・・・ダメー?」
寂しそうにハナコを受け取るミナ、ゲインはジッとミナを見つめる、
「そっかー、ダメかー・・・かわいかったのにー」
ねーとハナコを覗き込み、ハナコはキューとミナを見上げる、
「はらー、ハナコもいい感じだったって言ってるー」
耳元で騒ぐミナを無言で睨み返すゲイン、
「ねー、ほら、ハナコもー、言ってー、いい感じーって」
ズイッとハナコを突き出すミナ、ハナコはペロリとゲインの鼻先を舐め上げた、すっかり慣れてしまったようで、そのままゲインは表情を変える事も無くクロノスらを追うも、そっとその手はミナを支えている、慣れたものだなと微笑むリンド、イフナースとトーラーはいいのかなと顔を見合わせてしまった、なにせ何を考えているかまるで理解できない男なのだ、まずもって二人もその声はおろか表情を変えた所も見ていない、少数民族であるハイランダーの出身とは聞いているが、いくらなんでもハイランダーとはいえここまで寡黙な男は珍しいであろう、それでもクロノスやルーツは頼りにしているし、こういう奴だと笑っており、ユーリやソフィアとも仲が良いらしく、またリンドも当然のように受け入れていた、となればそれに倣うしかないイフナースとトーラーである、そうして一行が天幕を出ると、
「うわっ、さむ・・・」
ソフィアが外套の襟を閉めて背を丸め、
「ウワー、広ーい」
ミナがキャーと叫んだ、
「だろー」
何故かクロノスが得意気である、
「うん、あー、なんかいっぱいあるー」
両足をバタつかせるミナ、ゲインがムッと睨むも気にするミナではない、
「いっぱいあるなー」
タロウも微笑む、どうやらミナは天幕の事を言っているのであろう、見渡す限りの雪原の中、会議用の巨大な天幕を中心にして、各軍団毎に天幕が設置されており、その数を数えるのも難儀する程で、さらには、
「わっ、あれなにー、でっかいー」
キャーと指差すミナ、そこには丸太を組んで作られた櫓が屹立していた、その数五基、四方に一基ずつ、中央に一基である、
「ん?あっ、それはな、夜になったら光るんだ」
ニヤリと微笑むクロノス、
「そなのー?」
キャーと叫ぶミナ、恐らく良くわかっていないであろう、ソフィアもヘーと櫓を見上げ、
「ありゃ・・・なによ、ルーツ様がいるじゃない」
と目を凝らす、
「なんだ、ソフィアにはわかるのか?」
クロノスが不思議そうに振り返る、
「そうよー、あれ、知らなかった?」
ニヤリとクロノスを見上げるソフィア、
「知らんな・・・聞いてないぞ」
「別に言う必要無かったしねー、ほら、そういうのはあれの方が得意だったしねー」
ソフィアはフンと鼻で笑って櫓を見上げる、曇天の中に立つそれは、上部にやや大きめの足場があるらしく、それが二段重ねになっている、その上方にルーツの気配があり、そして、
「ありゃ・・・陛下もいるの?あっ、ロキュス参謀もいるじゃん」
とソフィアは目を細めた、
「ん?まずな、ほれ、偉いさん達はなあそこで見物になる、特等席ってやつだ」
「そだねー」
クロノスも櫓を見上げ、タロウも顔を上げた、ユーリもそうなるんだーと櫓を見つめる、
「でだ、もう、ほれ、敵さんの陣地も見えるからな、お前ら見るだけ見とけ」
雪かきの済んだ道のような広場のような真っ黒い地面をノシノシと歩き始めるクロノス、
「陣地?」
「おう、多分明日から合戦だな・・・いよいよだよ」
誰にもともなく答えるクロノス、
「ありゃま・・・そっかー」
と気の抜けた様子のソフィア、
「そうなんだよなー」
タロウがやれやれとクロノスに続く、やがて天幕の群れを抜けると今度は置き盾の群れが一行を出迎えた、こりゃまたと目を丸くするソフィア、
「あっ、近付くなよ、服を引っ掛けるからな」
タロウが振り返る、
「引っ掛ける?あっ・・・もしかして・・・」
と置き盾から若干距離を取りつつ首を伸ばすソフィア、置き盾とは木製の巨大な防護壁である、荒野はどうしても地面に杭を打つのが難しく、打てたとしても場所が限られてしまっていた、本来であれば杭を打ち強固に固める防御壁も地面にドンと置いたままとなってしまっている、そしてその丸太を組んだだけの重く分厚い壁の表面には薔薇のような棘のある針金が巻かれている、鉄条網もしくは有刺鉄線と呼ばれる代物であった、
「・・・あんた、これ・・・」
ムーとタロウを睨むソフィア、
「うん、実用化してたみたい・・・」
「そっ・・・そりゃそっか・・・」
嫌そうに鉄条網を睨むソフィア、
「まぁねー、便利と言えば便利だし・・・」
ユーリも心底嫌そうである、
「便利なんだよ、実際な」
フンと振り返るクロノス、この鉄条網はタロウが先の大戦時に提案し、大戦中には配備される事も作られる事も無かったのであるが、戦後、クロノスが思い出しタロウに確認しつつ作った代物である、而して実に便利且つ強力な代物で、無論攻撃に使うようなものではなく、こうして防御的にしか使えないのであるが、獣相手にも魔族相手にも野盗相手にも大変に有効である事が実証されている、こんな簡単なものでとクロノスは驚愕し、リンドも認めるところで、当然全軍団に通達しており、各軍団ではその宿営地や宿舎の防備に採用され、王都の城壁にも設置されていた、タロウはその報告を受け、なんとも素早い事だと呆れてしまったものであった、何よりタロウはそう簡単に作れるものではないのかなと思っていたのである、しかしこうして大量に生産され使いこなされていた、なるほどこの王国の工業技術は馬鹿に出来ないなのだなと実感できた最初の事例となる、
「まぁ・・・私は別にいいけどさ・・・」
「だろうな、で、ほれ、あれだ」
クロノスが足を止めて指差す、
「なにあれー」
キャーとミナが叫ぶも、そこはもうはしゃぐ気も無く真面目に対するソフィア、ジッと遠方で蠢く帝国軍を見据え、
「・・・ハー・・・随分とまぁ大勢で・・・こんなくそ寒い所まで、気の毒な事だわ・・・」
大きく溜息を吐き出したのであった。
1
あなたにおすすめの小説
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
「雑草係」と追放された俺、スキル『草むしり』でドラゴンも魔王も引っこ抜く~極めた園芸スキルは、世界樹すら苗木扱いする神の力でした~
eringi
ファンタジー
「たかが雑草を抜くだけのスキルなんて、勇者パーティには不要だ!」
王立アカデミーを首席で卒業したものの、発現したスキルが『草むしり』だった少年・ノエル。
彼は幼馴染の勇者に見下され、パーティから追放されてしまう。
失意のノエルは、人里離れた「魔の森」で静かに暮らすことを決意する。
しかし彼は知らなかった。彼のスキル『草むしり』は、対象を「不要な雑草」と認識すれば、たとえドラゴンであろうと古代兵器であろうと、根こそぎ引っこ抜いて消滅させる即死チートだったのだ。
「あれ? この森の雑草、ずいぶん頑丈だな(ドラゴンを引っこ抜きながら)」
ノエルが庭の手入れをするだけで、Sランク魔物が次々と「除草」され、やがて森は伝説の聖域へと生まれ変わっていく。
その実力に惹かれ、森の精霊(美女)や、亡国の女騎士、魔王の娘までもが彼の「庭」に集まり、いつしかハーレム状態に。
一方、ノエルを追放した勇者たちは、ダンジョンの茨や毒草の処理ができずに進行不能となり、さらにはノエルが密かに「除草」していた強力な魔物たちに囲まれ、絶望の淵に立たされていた。
「ノエル! 戻ってきてくれ!」
「いや、いま家庭菜園が忙しいんで」
これは、ただ庭いじりをしているだけの少年が、無自覚に世界最強に至る物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
子ドラゴンとゆく、異世界スキル獲得記! ~転生幼女、最強スキルでバッドエンドを破壊する~
九條葉月
ファンタジー
第6回HJ小説大賞におきまして、こちらの作品が受賞・書籍化決定しました! ありがとうございます!
七歳の少女リーナは突如として前世の記憶を思い出した。
しかし、戸惑う暇もなく『銀髪が不気味』という理由で別邸に軟禁されてしまう。
食事の量も減らされたリーナは生き延びるために別邸を探索し――地下室で、ドラゴンの卵を発見したのだった。
孵化したドラゴンと共に地下ダンジョンに潜るリーナ。すべては、軟禁下でも生き延びるために……。
これは、前を向き続けた少女が聖女となり、邪竜を倒し、いずれは魔王となって平和に暮らす物語……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる