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本編
82話 合戦に向けて その4
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その頃、ソウザイ店三階、小さな事務室では、
「もう、せめて声をかけて下さい」
テラが扉を開くなり苦言を呈した、エッと振り返るエレイン、暫しテラの顔を見つめ、
「・・・あー・・・そうよねー・・・ごめんなさい・・・」
見事なまでに気の抜けた謝罪を口にした、
「まったく、事情は理解してますけど、だからといって呆けていては駄目ですよ」
プリプリと続けるテラ、そのまま自席に向かい腰を下ろす、テラがガラス鏡店での打合せを終え、さてとソウザイ店に入ったのであるが、心配そうに顔を曇らせた従業員からエレインが来ている事と、碌に話しもしないで階段を上がってしまったと報告され、さらにはニコリーネも事情を知っている為、大丈夫でしょうかとテラに駆け寄る始末であった、テラも驚きそそくさと階段を上がったのであるが、ここは商会長としての顔が大事であろうと開口一番叱ってみたのである、
「そう・・・ね、ごめんなさい・・・」
再び気の抜けた謝罪をするエレインである、まったくとテラは目を細め、まぁ仕方ないかと微笑むと、
「で、どうしたんです?今日はこっちに来る予定では無かったと思いますけど」
ニコリと優しく微笑みエレインに向き直った、そうねーと上の空で答えるエレイン、その事務室は本来倉庫であった部屋で、事務的な作業は基本的にカチャーが常駐する事務所で行う為、業者との打合せ兼テラの事務室として使用している、その為広くなくてもいいとの事で、最も狭いこの部屋が割り当てられていた、ちなみにすぐ隣りの部屋が更衣室となっており、その隣りが倉庫となっていたりする、
「・・・なんか・・・ほら、カチャーさん・・・が悪いわけでは無いんだけど・・・いたたまれなくて・・・」
あらまと目を丸くするテラ、しかしすぐにそれもそうかと微笑み、
「お一人で考えごとをしたいのであれば席を外しますよ」
と優しく問いかける、テラが思うにエレインはまだ悩んでいるのであろう、それも致し方無いと思うし当然だろう、昨晩その事情を聞き、エルマが実に現実的な助言を与えていたと思う、自分は口を開かなかったが、何気に衝撃が大きかった為で、それはオリビアも同様であったと思う、いや、オリビアに関してはその後の入浴や自室に戻ってから話す事も出来たであろうが、オリビアの性格を考えれば、恐らく黙していたと思われる、婚姻そのものへの助言や相談はオリビアでも可能とは思うが、その相手が王族となれば事情は大きく異なるもので、もしかしたらオリビアとしても相談相手が欲しかったのではないであろうか、なにせエレインが王族に嫁ぐとなれば、ほぼ確実に自分もそのままエレインに従って王家のメイドとして雇われることになる、テラが思うにオリビアはその重責を担うに足る資質があると思うが、それはあくまでテラの評価であり、テラ自身王族の生活なぞ知りようもない、となるとオリビアへ助言できるのはティルであろうか、ティルは正真正銘王家に雇われているメイドである、寮では大変に気さくで明るい娘なのであるが、イフナースの屋敷ではやはりメイドらしい立ち居振る舞いで、無駄口を叩く事も無い、そう考えればそうかティルさんがいたなー等と思い出すテラであった、
「そう・・・でも、それは良くないわ・・・ここはテラさんの仕事部屋なんだし・・・」
フーと大きく溜息を衝くエレイン、エレインの今日の予定としては、事務所で事務仕事なり、マフダ達の裁縫仕事の確認なりとソウザイ店に顔を出す事は無いはずであった、しかしどうしても昨日の事が頭から離れない、数字の並んだ黒板を前にしてもまるでその数字が頭に入らず、しかしカチャーの手前しっかりしなければと焦るも、そうなればなったで余計他の事を考えてしまってまるで仕事に集中できず、かといってマフダ達の作業に顔を出してみても、気付けばボーっとしてしまっていた、マフダや奥様方に大丈夫ですかと顔をのぞかれ、あわてて大丈夫と笑ってみるも、皆やはり心配そうである、これは駄目だなと判断し、こうして一人この小さな事務室に逃げ込んだエレインであったりする、
「構いませんよ」
ニコリと微笑むテラである、テラもまた婚姻の折には散々悩んだものであった、昨晩はエルマがその思い出を赤裸々に語り、テラへの配慮も忘れなかったエルマであるが、テラとしても一晩経って落ち着けば少しは助言らしい事もできるからしらと思い出していたりする、テラは確かに両親が決めた結婚であった、しかしそれであってもテラ自身が悩まなかった訳では決してない、相手の事も知っていたし、なんなら子供の頃から面識もある、家業を手伝うようになってその実力も理解でき始めた頃で、つまりは人生の伴侶として相手は何の不足も無く、また周りの者達もお似合いだと褒めそやされたものである、しかしだからといってうら若き少女であったテラとしてはそれでいいのかなと思い悩むもので、実は相手も悩んでいたと聞いたのは一緒に生活するようになって半年程度経ってからであった、あらまとそこでやっと微笑み合い、理解を深めたものだとテラは今朝思い出していたりする、さらには両親もまた似たような経緯で結婚しており、母はこういうのは慣れなのよと微笑み、かもしれんなと父も微笑んでいた、何気に仲の良い上品な夫婦であった、魔族に襲われなかったら今頃は曾孫に囲まれて悠々自適だったのかもしれないと少しばかり惜しんでしまったテラである、
「・・・ありがとう」
何とか笑みを浮かべるエレイン、しかしその瞳はやはり虚ろである、まぁ好きなだけ悩めばいいわねと机に向かうテラ、しかし、
「アッ・・・」
と振り向いた、なに?とゆっくりと顔を上げるエレイン、
「その・・・午後に王妃様とアンネリーン様、ユスティーナ様もいらっしゃいます」
ゲッと呻いて目をまん丸に見開くエレイン、
「例のあれです、演劇の段取りがどうのこうのでゆっくりと話したいのだそうで、その・・・事務所に呼びに行こうかと思っていたのですよ」
普段であれば丁度良かったもしくは楽が出来たと微笑むところであるが今はそんな事態では無い、少なくとも今のエレインが王妃を前にして正常でいられる訳もなく、ましてただでさえあまり良く思っていないであろう演劇の話題となれば何がどうなるか分かったものでは無いのだ、これはまずいかもと血の気を無くすテラ、エレインも若干青ざめているように見える、
「・・・それはまた・・・」
そう呟いた瞬間にフッと気が遠くなるエレイン、テラもあっこれは駄目なやつだと立ち上がるも、
「・・・大丈夫・・・大丈夫です・・・」
ソッと片手を上げてテラを制するエレインである、ホッとテラが一息つくも、しかしどう見ても大丈夫とは言えない様子のエレイン、
「フー・・・そうね、こんな事で一々倒れていては駄目よね・・・」
自分に言い聞かせるように呟くエレイン、その通りとテラは思うも、今回ばかりは少々倒れても仕方ないかもなとも思う、
「・・・フー・・・でも・・・そうなるとあれかしら・・・席を確保しておいた方が良さそうね」
エレインの瞳に少しばかりの生気が戻った、その瞳をゆっくりとテラに向ける、
「ですね、今の内に」
テラがサッと動くも、
「あっ、いいわ、私がやります、そうよね、下の様子も気になるし・・・何も言わずに上に来ちゃったから・・・」
あっ、ちゃんと聞いてはいたんだと安堵するテラ、
「うん、そうよね、ここは少し動きましょう・・・と言っても、大した事は出来ないですけど・・・」
壁に手をつき支えにして立ち上がるエレイン、身体も言う事を聞かないのかなとテラは手を差し伸べるも、
「平気です、全然、はい」
ニコリと儚げな笑みを浮かべるエレイン、いやいや、そうは見えないけれどと目を細めるテラ、やはりここは休ませるべきかと思うも、しかしそうなればそうなったで騒ぎになりそうで、なにより王妃達の相手をしなかったばかりか床に臥せっていたとなれば、王妃達は構わないかもしれないが、その情報は確実にイフナースまで届くと思われる、そうなればイフナースも心配するであろう、つい先日婚姻を切り出した相手が体調不良となればまともな男であればすっ飛んで来ると思われる、ただでさえイフナースは忙しい状況である、昨日の様子からも合戦が近いらしく、昨日はそれに向けた休養であったのだ、
「・・・そうだ、オリビアさん・・・」
ウーンと首を傾げてしまうテラ、こういう時にはやはりオリビアの存在は大きい、オリビアが無理でも寮の自室に放り込んでソフィアに一言言っておけば安心であるが、オリビアは学園で、ソフィアもまた今日は不在である、朝からミナの髪を整え、ミナは教室はお休みでタロウとソフィーとお出かけなのーとはしゃいでいた、レインが心底嫌そうにしていたのを微笑ましく見ていたテラである、
「そこまではいいわよ、オリビアも学園が終わったらすぐに戻ると言っていたから・・・」
力なく微笑むエレインである、アチャーとテラは思うも、しかし、まぁ正直な所、エレインにはしっかりして貰わないといけない、この商会はエレインとジャネットら古参幹部の求心力で経営している部分がまだまだあった、無論テラも従業員達も皆勤勉であるが、それはある意味で当然のことで、六花商会の経営方針と就業方法を確立したのはエレインなのである、そこでふと思い出す、昨晩、エレインの相談の後、エレインとオリビアが入浴中、ソフィアがポツリと倒れなかっただけしっかりしてきてるわねと微笑み、ユーリも確かにと大きく頷いていた、エルマがどういう事かと問い質し、あれもあったこれもあったと盛り上がる三人、カトカ達も確かにあったなーと参戦し、ミシェレはホヘーと眺めていた、テラもそう言われればと思う所がある、エレイン自身は病弱でもなく気弱な性質でもないとテラはみているが、しかしどうにもその周辺に巻き起こる事件は貴族とはいえ若者には衝撃が大きいような感があり、であれば酒にでも逃げればと思うも、エレイン自身、酒は禁忌である、どうにも状況を良くするどころか悪化させかねない、酒癖が悪いというよりも悪酔いするのである、それだけ重圧を感じているのであろうかとも思うが、よく考えればそれも致し方ない、商会長としての重責もあるし、相手をしているのが王族に伯爵に公爵なのである、恐らくエレイン自身自覚出来ていないであろうが精神的に負担もあろう、困ったものだとテラは思うも、
「そうですね・・・そうだ、覚えておりますか?昨日のエルマ先生の言葉・・・」
テラがスッとエレインの視線を捕らえる、何かしらと首を傾げてしまうエレイン、
「はい、ほら、こういうね、仕事とか、人間関係とか、そういうのをね、笑って蹴飛ばすくらいでないと王族は難しいって・・・」
「・・・そう・・・ね、言ってたわね・・・」
「でしょう?でも、何気にね、人の上に立つ人ってのはそういう資質・・・というか気概が必要なんですよ、少々乱暴で、他人の迷惑を考えない・・・それは、ほら、そう聞くとね、厄介な人だなーって思いますけれど・・・成功する人ってのは多かれ少なかれそういう乱暴な人が多いように思います、なにより貴族様なんて、横柄であればあるほど偉いって感じの人が多いでしょ」
ニコリと微笑むテラ、
「それは・・・言い過ぎですよ」
流石にムッとするエレイン、
「はい、言い過ぎですね、でも、そういうものです、悪い奴ほど長生きするといいますでしょ」
ニコニコとテラは微笑む、
「・・・そうね、雑草こそ生い茂る?」
エレインもつられてニコリと微笑んだ、
「そうです、そういうものです、だから、もう、あれです、何事も蹴飛ばす勢いでいきましょう」
テラがフフンと胸を張る、エレインはもうと頬を緩ませ、
「・・・わかりました、そうね、悩むのは・・・あれね、陽が落ちてからにしましょうか、陽があるうちはお仕事ね・・・」
「それがいいです」
ムフンと微笑むテラ、そうしましょうとエレインはやっとその本来の笑みを取り戻すと、思わずそっとその懐に収めたイフナースの木工細工を握り締めるのであった。
「もう、せめて声をかけて下さい」
テラが扉を開くなり苦言を呈した、エッと振り返るエレイン、暫しテラの顔を見つめ、
「・・・あー・・・そうよねー・・・ごめんなさい・・・」
見事なまでに気の抜けた謝罪を口にした、
「まったく、事情は理解してますけど、だからといって呆けていては駄目ですよ」
プリプリと続けるテラ、そのまま自席に向かい腰を下ろす、テラがガラス鏡店での打合せを終え、さてとソウザイ店に入ったのであるが、心配そうに顔を曇らせた従業員からエレインが来ている事と、碌に話しもしないで階段を上がってしまったと報告され、さらにはニコリーネも事情を知っている為、大丈夫でしょうかとテラに駆け寄る始末であった、テラも驚きそそくさと階段を上がったのであるが、ここは商会長としての顔が大事であろうと開口一番叱ってみたのである、
「そう・・・ね、ごめんなさい・・・」
再び気の抜けた謝罪をするエレインである、まったくとテラは目を細め、まぁ仕方ないかと微笑むと、
「で、どうしたんです?今日はこっちに来る予定では無かったと思いますけど」
ニコリと優しく微笑みエレインに向き直った、そうねーと上の空で答えるエレイン、その事務室は本来倉庫であった部屋で、事務的な作業は基本的にカチャーが常駐する事務所で行う為、業者との打合せ兼テラの事務室として使用している、その為広くなくてもいいとの事で、最も狭いこの部屋が割り当てられていた、ちなみにすぐ隣りの部屋が更衣室となっており、その隣りが倉庫となっていたりする、
「・・・なんか・・・ほら、カチャーさん・・・が悪いわけでは無いんだけど・・・いたたまれなくて・・・」
あらまと目を丸くするテラ、しかしすぐにそれもそうかと微笑み、
「お一人で考えごとをしたいのであれば席を外しますよ」
と優しく問いかける、テラが思うにエレインはまだ悩んでいるのであろう、それも致し方無いと思うし当然だろう、昨晩その事情を聞き、エルマが実に現実的な助言を与えていたと思う、自分は口を開かなかったが、何気に衝撃が大きかった為で、それはオリビアも同様であったと思う、いや、オリビアに関してはその後の入浴や自室に戻ってから話す事も出来たであろうが、オリビアの性格を考えれば、恐らく黙していたと思われる、婚姻そのものへの助言や相談はオリビアでも可能とは思うが、その相手が王族となれば事情は大きく異なるもので、もしかしたらオリビアとしても相談相手が欲しかったのではないであろうか、なにせエレインが王族に嫁ぐとなれば、ほぼ確実に自分もそのままエレインに従って王家のメイドとして雇われることになる、テラが思うにオリビアはその重責を担うに足る資質があると思うが、それはあくまでテラの評価であり、テラ自身王族の生活なぞ知りようもない、となるとオリビアへ助言できるのはティルであろうか、ティルは正真正銘王家に雇われているメイドである、寮では大変に気さくで明るい娘なのであるが、イフナースの屋敷ではやはりメイドらしい立ち居振る舞いで、無駄口を叩く事も無い、そう考えればそうかティルさんがいたなー等と思い出すテラであった、
「そう・・・でも、それは良くないわ・・・ここはテラさんの仕事部屋なんだし・・・」
フーと大きく溜息を衝くエレイン、エレインの今日の予定としては、事務所で事務仕事なり、マフダ達の裁縫仕事の確認なりとソウザイ店に顔を出す事は無いはずであった、しかしどうしても昨日の事が頭から離れない、数字の並んだ黒板を前にしてもまるでその数字が頭に入らず、しかしカチャーの手前しっかりしなければと焦るも、そうなればなったで余計他の事を考えてしまってまるで仕事に集中できず、かといってマフダ達の作業に顔を出してみても、気付けばボーっとしてしまっていた、マフダや奥様方に大丈夫ですかと顔をのぞかれ、あわてて大丈夫と笑ってみるも、皆やはり心配そうである、これは駄目だなと判断し、こうして一人この小さな事務室に逃げ込んだエレインであったりする、
「構いませんよ」
ニコリと微笑むテラである、テラもまた婚姻の折には散々悩んだものであった、昨晩はエルマがその思い出を赤裸々に語り、テラへの配慮も忘れなかったエルマであるが、テラとしても一晩経って落ち着けば少しは助言らしい事もできるからしらと思い出していたりする、テラは確かに両親が決めた結婚であった、しかしそれであってもテラ自身が悩まなかった訳では決してない、相手の事も知っていたし、なんなら子供の頃から面識もある、家業を手伝うようになってその実力も理解でき始めた頃で、つまりは人生の伴侶として相手は何の不足も無く、また周りの者達もお似合いだと褒めそやされたものである、しかしだからといってうら若き少女であったテラとしてはそれでいいのかなと思い悩むもので、実は相手も悩んでいたと聞いたのは一緒に生活するようになって半年程度経ってからであった、あらまとそこでやっと微笑み合い、理解を深めたものだとテラは今朝思い出していたりする、さらには両親もまた似たような経緯で結婚しており、母はこういうのは慣れなのよと微笑み、かもしれんなと父も微笑んでいた、何気に仲の良い上品な夫婦であった、魔族に襲われなかったら今頃は曾孫に囲まれて悠々自適だったのかもしれないと少しばかり惜しんでしまったテラである、
「・・・ありがとう」
何とか笑みを浮かべるエレイン、しかしその瞳はやはり虚ろである、まぁ好きなだけ悩めばいいわねと机に向かうテラ、しかし、
「アッ・・・」
と振り向いた、なに?とゆっくりと顔を上げるエレイン、
「その・・・午後に王妃様とアンネリーン様、ユスティーナ様もいらっしゃいます」
ゲッと呻いて目をまん丸に見開くエレイン、
「例のあれです、演劇の段取りがどうのこうのでゆっくりと話したいのだそうで、その・・・事務所に呼びに行こうかと思っていたのですよ」
普段であれば丁度良かったもしくは楽が出来たと微笑むところであるが今はそんな事態では無い、少なくとも今のエレインが王妃を前にして正常でいられる訳もなく、ましてただでさえあまり良く思っていないであろう演劇の話題となれば何がどうなるか分かったものでは無いのだ、これはまずいかもと血の気を無くすテラ、エレインも若干青ざめているように見える、
「・・・それはまた・・・」
そう呟いた瞬間にフッと気が遠くなるエレイン、テラもあっこれは駄目なやつだと立ち上がるも、
「・・・大丈夫・・・大丈夫です・・・」
ソッと片手を上げてテラを制するエレインである、ホッとテラが一息つくも、しかしどう見ても大丈夫とは言えない様子のエレイン、
「フー・・・そうね、こんな事で一々倒れていては駄目よね・・・」
自分に言い聞かせるように呟くエレイン、その通りとテラは思うも、今回ばかりは少々倒れても仕方ないかもなとも思う、
「・・・フー・・・でも・・・そうなるとあれかしら・・・席を確保しておいた方が良さそうね」
エレインの瞳に少しばかりの生気が戻った、その瞳をゆっくりとテラに向ける、
「ですね、今の内に」
テラがサッと動くも、
「あっ、いいわ、私がやります、そうよね、下の様子も気になるし・・・何も言わずに上に来ちゃったから・・・」
あっ、ちゃんと聞いてはいたんだと安堵するテラ、
「うん、そうよね、ここは少し動きましょう・・・と言っても、大した事は出来ないですけど・・・」
壁に手をつき支えにして立ち上がるエレイン、身体も言う事を聞かないのかなとテラは手を差し伸べるも、
「平気です、全然、はい」
ニコリと儚げな笑みを浮かべるエレイン、いやいや、そうは見えないけれどと目を細めるテラ、やはりここは休ませるべきかと思うも、しかしそうなればそうなったで騒ぎになりそうで、なにより王妃達の相手をしなかったばかりか床に臥せっていたとなれば、王妃達は構わないかもしれないが、その情報は確実にイフナースまで届くと思われる、そうなればイフナースも心配するであろう、つい先日婚姻を切り出した相手が体調不良となればまともな男であればすっ飛んで来ると思われる、ただでさえイフナースは忙しい状況である、昨日の様子からも合戦が近いらしく、昨日はそれに向けた休養であったのだ、
「・・・そうだ、オリビアさん・・・」
ウーンと首を傾げてしまうテラ、こういう時にはやはりオリビアの存在は大きい、オリビアが無理でも寮の自室に放り込んでソフィアに一言言っておけば安心であるが、オリビアは学園で、ソフィアもまた今日は不在である、朝からミナの髪を整え、ミナは教室はお休みでタロウとソフィーとお出かけなのーとはしゃいでいた、レインが心底嫌そうにしていたのを微笑ましく見ていたテラである、
「そこまではいいわよ、オリビアも学園が終わったらすぐに戻ると言っていたから・・・」
力なく微笑むエレインである、アチャーとテラは思うも、しかし、まぁ正直な所、エレインにはしっかりして貰わないといけない、この商会はエレインとジャネットら古参幹部の求心力で経営している部分がまだまだあった、無論テラも従業員達も皆勤勉であるが、それはある意味で当然のことで、六花商会の経営方針と就業方法を確立したのはエレインなのである、そこでふと思い出す、昨晩、エレインの相談の後、エレインとオリビアが入浴中、ソフィアがポツリと倒れなかっただけしっかりしてきてるわねと微笑み、ユーリも確かにと大きく頷いていた、エルマがどういう事かと問い質し、あれもあったこれもあったと盛り上がる三人、カトカ達も確かにあったなーと参戦し、ミシェレはホヘーと眺めていた、テラもそう言われればと思う所がある、エレイン自身は病弱でもなく気弱な性質でもないとテラはみているが、しかしどうにもその周辺に巻き起こる事件は貴族とはいえ若者には衝撃が大きいような感があり、であれば酒にでも逃げればと思うも、エレイン自身、酒は禁忌である、どうにも状況を良くするどころか悪化させかねない、酒癖が悪いというよりも悪酔いするのである、それだけ重圧を感じているのであろうかとも思うが、よく考えればそれも致し方ない、商会長としての重責もあるし、相手をしているのが王族に伯爵に公爵なのである、恐らくエレイン自身自覚出来ていないであろうが精神的に負担もあろう、困ったものだとテラは思うも、
「そうですね・・・そうだ、覚えておりますか?昨日のエルマ先生の言葉・・・」
テラがスッとエレインの視線を捕らえる、何かしらと首を傾げてしまうエレイン、
「はい、ほら、こういうね、仕事とか、人間関係とか、そういうのをね、笑って蹴飛ばすくらいでないと王族は難しいって・・・」
「・・・そう・・・ね、言ってたわね・・・」
「でしょう?でも、何気にね、人の上に立つ人ってのはそういう資質・・・というか気概が必要なんですよ、少々乱暴で、他人の迷惑を考えない・・・それは、ほら、そう聞くとね、厄介な人だなーって思いますけれど・・・成功する人ってのは多かれ少なかれそういう乱暴な人が多いように思います、なにより貴族様なんて、横柄であればあるほど偉いって感じの人が多いでしょ」
ニコリと微笑むテラ、
「それは・・・言い過ぎですよ」
流石にムッとするエレイン、
「はい、言い過ぎですね、でも、そういうものです、悪い奴ほど長生きするといいますでしょ」
ニコニコとテラは微笑む、
「・・・そうね、雑草こそ生い茂る?」
エレインもつられてニコリと微笑んだ、
「そうです、そういうものです、だから、もう、あれです、何事も蹴飛ばす勢いでいきましょう」
テラがフフンと胸を張る、エレインはもうと頬を緩ませ、
「・・・わかりました、そうね、悩むのは・・・あれね、陽が落ちてからにしましょうか、陽があるうちはお仕事ね・・・」
「それがいいです」
ムフンと微笑むテラ、そうしましょうとエレインはやっとその本来の笑みを取り戻すと、思わずそっとその懐に収めたイフナースの木工細工を握り締めるのであった。
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