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本編
82話 雪原にて その8
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タロウとクロノスの軽口は雪原を撫でる風によってかき消され、二人もやがて押し黙りただただ歩を進めた、そして、
「御足労頂けたようだな」
赤い旗のすぐ隣、無骨なテーブルを前にして踏ん反り返るベリアヌス提督、その隣には前回も立ち合った不安そうに背を丸める通訳、その背後には50騎もの騎兵が並び王国軍を睨みつけている、タロウはスッと歩み出て王国側の全員に聞こえるように提督の言葉を訳した、帝国の通訳も正しく訳されたようだと提督に耳打ちする、
「お招き感謝しよう」
メインデルトがニンマリと微笑み、クンラートも一歩馬を進ませる、今度は帝国の通訳が声に出して訳したようで、タロウはなるほど、こうする他ないのかなと首を傾げる、もしくはこれが帝国の通常の会話の手法なのであろうか、相手の言葉は自前の通訳が訳し、こちらの言葉は相手に訳させその内容を確認する、少々手間がかかるなと思うも、多くの国家、民族を侵略してきた帝国が編み出した意志疎通の段取りになるのであろう、
「で、どのような御用向きかな?」
メインデルトが笑顔を崩さず続けた、
「うむ、席を用意した、ここは一つゆっくりと話したい」
ベリアヌスもニンマリと微笑む、この二人何気に共通点が多いよな等と思いつつ通訳に徹するタロウ、クンラートが何か言いたそうであったがグッと堪えたようで、クロノスもまた顔を強張らせている、
「話しとは?」
「難しいものでは無い、皇帝より返礼が下賜たまわれた、それと、先日の宣戦布告への回答となる」
「そんなものは必要としておらぬ、貴軍の展開だけで答えになっていよう」
ジロリとベリアヌスを睨みつけ、やっとその笑顔が消えるメインデルト、
「受け取るべきである、こちらとしても蛮族では無いという事を示さねばならん」
ギラリとメインデルトを睨み返すベリアヌス、
「フッ・・・気にしていたのか?随分と狭量だな・・・」
「帝国を貶す者には相応の報いを与える必要がある、ただそれだけである、しかし、それだけではつまらないと友愛を重んじる皇帝陛下のお考えでな、ついてはお主らの流儀に従ってやろうとの礼儀でもある、謹んで受け取るべきと思うがな」
「そうか・・・まぁ、そこまで言うのであれば・・・」
ガチャガチャと馬を下りるメインデルト、前回と違い本気の軍装である為やたらと装飾品が多かった、そしてそのまま椅子を引きドカリと腰を下ろす、冷たい風にさらされたその椅子は何とも冷たく感じられ、尻の奥から冷気が立ち上がってくるようで、こりゃ年寄りにはキツイなと顔を歪めてしまった、
「では・・・だ、まずは、布告文に対する回答となる」
ベリアヌスが左手を上げると通訳が懐から羊皮紙の巻物を取り出し、ソッと握らせる、そのままガッと開くベリアヌス、
「イウス・サンクタム帝国、皇帝ジウス・アンドロイス・シェザーレ・ミドレンシア5世陛下よりの親書となる、謹んで拝聴するように」
書面を確認し、メインデルトに視線を合わせる、メインデルトはフンと鼻で笑い答えとした、そのまま朗々とベリアヌスはその親書を読み上げた、何のことは無い、この荒野の所有者が帝国である事、現在モニケンダムと呼ばれる都市とその周辺も同様であり、ついては王国はそれを返還するべきであり、侵略者は王国だと決めつけている、そして、双方どちらにその所有権があるかは実力を見せる必要も無いと明言もしていた、つまりは軍事的衝突となれば帝国が勝つとの意志表示となっている、
「以上だ、甚だ簡単な内容で申し訳ないがな、帝国語すら理解しておらぬ貴公らにはこれで十分であろう」
フンと鼻を鳴らして巻物をまとめるベリアヌス、タロウはやっと終わったとホッと溜息を吐いてしまった、何気に通訳という仕事は気を使う、挙句に相手は一定のスピードで読み上げるものだから理解は出来るがそれと同時に言葉にするのは若干の工夫が必要であった、なるほど、故郷で見た通訳の仕事に就く多くの者がメモを片手に一文程度を遅れて通訳するのはこういう事なのだなと感じる、もう少しこっちの身にもなって欲しいものだと思ってしまったタロウであった、
「王国語を解しないお主らに言われる筋合いではない」
しかしそんなタロウを毛ほども気にせず言葉を続ける二人、
「近い内に帝国語が貴様らの言語となるのだ、それまでにしっかりと身につけろ、いや、その前に貴様は屍になっておろうがな」
「そっくりそのままお返ししよう、貴様の子孫が王国語を使う事になるやもしれぬ・・・墓の下で知らぬ言葉で祈りを受けよ、王国は寛大である、貴様の罪を子に背負わせるようなみみっちい事はせぬよ」
ニヤリと睨み合う二人である、帝国側の通訳もこの寒風の中額に汗を滲ませてその勤めを果たしており、大変だよなーと同情してしまうタロウである、
「フン・・・まぁいい・・・例のものを」
ベリアヌスが振り返る、ハッと近衛兵が返したようで、その場所をスッと空けた、その先には荷車があり、そこから兵士二人が巨大な壺をテーブルに運んで来る、それをフンッと鼻で笑って見守るメインデルト、クロノスも何もそこまでしなくてもと眉を顰め、近衛達もなるほど、前回の様子は聞いていたが、どうやらそれをそのままなぞっているのだなと理解する、やがて兵士二人が難儀する程に巨大な壺が一つ、その半分以下の小さな壺が一つ、王国の標準的なそれよりも巨大な樽が一つ、ドンとばかりにテーブルに並べられる、無論、上手い事メインデルトとベリアヌスの邪魔にならないようにしているらしく、タロウからはベリアヌスの顔が見えなくなり、邪魔くせーなと思いつつメインデルトの背後に回るタロウであった、
「我が帝国ではな、貢物に対しては倍以上の品を下賜する事となっておる、ありがたく受け取るがいい」
ベリアヌスがニヤリと口を開いた、
「貢物だと・・・」
ギッと睨みつけるメインデルト、通訳しつつヘーっと感心するタロウである、どうやら某大陸の古代の皇帝よろしく朝貢の文化でもあるのであろうか、まぁ、タロウが見るにこの帝国も我が世界の中心であるとする中華思想に似た観念を持っている、となればどうやら王国を下に見ているのが当然で、他の侵略した国々や民族にもそのように接しているのであろう、
「・・・なんだ?違うのか?」
ニヤニヤと微笑み以上だとばかりに腰を上げるベリアヌス、しかし、
「失礼、口を挟んでも宜しいですかな?」
タロウがその場全員に聞こえるように大声を発した、なんだ?とメインデルトが顔を上げ、クロノスがおいおいと眉を顰める、ベリアヌスも立ち上がったままタロウを睨みつけた、前回の事もある、騎兵の数人がスッと馬を進ませたようだ、
「・・・構わんぞ、何かあるのか?」
心底楽しそうに微笑むメインデルト、この男が首を突っ込むと言う事は必ず何かあるなとその勘が囁いている、
「はっ、失礼ながら申し上げます」
スッと背筋を正すタロウ、しかし、その立ち姿はやはり近衛のそれと比すとなんともだらしないもので、それはタロウも自覚しており、あーなんか違うなー、締まらんなー、カッコつかんなー等と思いつつ、口を開くも、
「・・・ちと・・・めんどいな・・・」
さてどうしたものかと視線を泳がせた、話すべき事は明確にあるのであるが、それを王国語と帝国語で話すべきかと悩んでしまう、しかしその視界に帝国側の通訳の不安そうな顔が入り、あっ、帝国語は向こうで訳してもらうかと瞬時に判断すると、
「失礼」
ゴホンとわざとらしく咳ばらいを挟む、実際少しばかり無理をして声を出しており、さらには荒野の乾燥した大気の中とあっては喉が少々いがらっぽい、風邪でも引いたかなと思うも、まぁ大丈夫だろうと顔を上げ、
「まずは・・・その樽ですね・・・毒入りのウィスキーを返礼とされるとは帝国はやはり礼も義を知らぬ蛮族と見えますな」
スッとベリアヌスに視線を向けるタロウ、ナッとメインデルトが目を丸くし、クロノスや近衛達、クンラートもエッと声を上げてしまう、
「貴様、愚弄するか」
通訳の言葉が終わるか終わらぬかで激高するベリアヌス、
「・・・愚弄など・・・真実の前では非難にあたりませんよ」
ニコリと微笑んでみるタロウである、その笑顔すらベリアヌスにとっては愚弄となった、通訳を待たずに、
「何を言うか、名誉ある帝国軍が毒などという粗末なものを使う事は無い」
「そうですか?」
ハテ?と首を傾げるタロウ、メインデルトはポカンとタロウを見上げ、クンラートと近衛達はただただ見守ってしまう、しかしクロノスがスッと馬を進ませ、
「真実なのだな?」
と確認する、
「ん?あぁ、ほれ、その樽に入っているのがウィスキーだ、で、こっちの壺は砂糖だな、例の白いやつ」
「あれか、こんなにか・・・」
「そうみたい、で、そっちの小さい壺が砂金だ」
「エッ・・・この壺いっぱいか?」
「らしい、どうやらだいぶ見栄を張ったんじゃないのかなー・・・」
のんびり答えるタロウである、ヘーと感心するクロノス、そしてその言葉もまた訳されており、ナントと目を丸くするのはベリアヌスとなる、その通訳もまたあせあせと不安そうに訳していた、なにせタロウは二つの壺にも樽にも手を触れていない、またベリアヌスからその中身を知らされてもいない、どうやって中身を見抜いたのかと背筋を寒くするのは当然であった、
「で、どれに毒?」
「ウィスキーだな、砂糖には含まれていないようだけど・・・うん、大丈夫そう・・・」
左目を閉じて壺を見つめるタロウ、どうせこんな事だろうとは思っていた、物見櫓で見物中にこの樽を準備しているのに感付き、そのまま魔力で持って調査したのである、つまり、この場に来るまでに既に樽の中身は看破していた、そしてこうなるであろうなと思い、一人抜け出したのである、見事にクロノスに捕まったがこれはこれでまぁ良しとしよう、
「ほう・・・で、どうする?」
ニヤリとタロウを見下ろすクロノス、なんとなれば一暴れして見せても良いかと思うも、ここはタロウとメンイデルトに任せるべきであった、
「どうします?」
クロノスの問いをそのままメインデルトに投げるタロウ、
「・・・まったく、面白いな」
ガッハッハと大笑するメインデルトであった、ベリアヌスが憎々し気に三人を睨むも、口を開く事は無かった、
「うむ、では・・・こう伝えろ、我が王国の仕来りとして、戦場に於いて酒を出されたら酌み交わすのが礼儀である、ここは一つこちらの礼儀でもって答えたい・・・あっ、うむ、前回もな、茶も出せなかった由、大変に残念に思っている、礼を重んじる王国としてはやはり喉を潤す時間を持ちたいとな・・・」
メインデルトがタロウに告げるも、それはそのまま帝国の通訳が訳したようで、熱く滾った視線をメインデルトに叩き付けるベリアヌスである、
「左様ですか・・・では・・・」
タロウも主旨を理解する、となればやはり盃が欲しいであろうと懐から湯呑を二つ取り出した、
「準備が良いな」
これはこれはと微笑むメインデルト、
「お前、こんなもんまで持ち歩いているのか・・・」
クロノスが呆れて苦笑する、
「まぁねー、では、酌みますか・・・」
スッと樽に歩み寄るタロウ、しかし、これでは真偽がハッキリしないなと思い直し、
「どうでしよう、提督、そちらの代表者に酌んで頂くのは・・・」
ニコリと柔らかく微笑んでみた、ここでタロウかもしくは王国側が酒を酌んだら、そこで毒を入れたのなんだのとめんどくさい事になりそうで、何もそこまでとも思うが、何事も疑念を残さないようにとの判断である、まぁ・・・すでに禍根は生じているようにも思うが、
「・・・つまらん・・・会談は以上だ・・・」
スッと踵を返すベリアヌス、おやおやと微笑むタロウ、ニマニマとその背を見つめるメインデルトとクロノス、クンラートも馬脚を露すとはこういう事かと鼻で笑う、しかし、
「隊に戻り次第戦闘となる、この戦力差では今日中に終わるであろうがな、精々あがけ田舎者どもが」
ベリアヌスは足を止めどうやら捨て台詞であるらしい、あらまと目を丸くするタロウ、あっ、訳さなきゃと慌てて翻訳すると、
「それは楽しみだ」
ガッハッハと笑うメインデルト、ですなと微笑むクロノスとクンラートであった。
「御足労頂けたようだな」
赤い旗のすぐ隣、無骨なテーブルを前にして踏ん反り返るベリアヌス提督、その隣には前回も立ち合った不安そうに背を丸める通訳、その背後には50騎もの騎兵が並び王国軍を睨みつけている、タロウはスッと歩み出て王国側の全員に聞こえるように提督の言葉を訳した、帝国の通訳も正しく訳されたようだと提督に耳打ちする、
「お招き感謝しよう」
メインデルトがニンマリと微笑み、クンラートも一歩馬を進ませる、今度は帝国の通訳が声に出して訳したようで、タロウはなるほど、こうする他ないのかなと首を傾げる、もしくはこれが帝国の通常の会話の手法なのであろうか、相手の言葉は自前の通訳が訳し、こちらの言葉は相手に訳させその内容を確認する、少々手間がかかるなと思うも、多くの国家、民族を侵略してきた帝国が編み出した意志疎通の段取りになるのであろう、
「で、どのような御用向きかな?」
メインデルトが笑顔を崩さず続けた、
「うむ、席を用意した、ここは一つゆっくりと話したい」
ベリアヌスもニンマリと微笑む、この二人何気に共通点が多いよな等と思いつつ通訳に徹するタロウ、クンラートが何か言いたそうであったがグッと堪えたようで、クロノスもまた顔を強張らせている、
「話しとは?」
「難しいものでは無い、皇帝より返礼が下賜たまわれた、それと、先日の宣戦布告への回答となる」
「そんなものは必要としておらぬ、貴軍の展開だけで答えになっていよう」
ジロリとベリアヌスを睨みつけ、やっとその笑顔が消えるメインデルト、
「受け取るべきである、こちらとしても蛮族では無いという事を示さねばならん」
ギラリとメインデルトを睨み返すベリアヌス、
「フッ・・・気にしていたのか?随分と狭量だな・・・」
「帝国を貶す者には相応の報いを与える必要がある、ただそれだけである、しかし、それだけではつまらないと友愛を重んじる皇帝陛下のお考えでな、ついてはお主らの流儀に従ってやろうとの礼儀でもある、謹んで受け取るべきと思うがな」
「そうか・・・まぁ、そこまで言うのであれば・・・」
ガチャガチャと馬を下りるメインデルト、前回と違い本気の軍装である為やたらと装飾品が多かった、そしてそのまま椅子を引きドカリと腰を下ろす、冷たい風にさらされたその椅子は何とも冷たく感じられ、尻の奥から冷気が立ち上がってくるようで、こりゃ年寄りにはキツイなと顔を歪めてしまった、
「では・・・だ、まずは、布告文に対する回答となる」
ベリアヌスが左手を上げると通訳が懐から羊皮紙の巻物を取り出し、ソッと握らせる、そのままガッと開くベリアヌス、
「イウス・サンクタム帝国、皇帝ジウス・アンドロイス・シェザーレ・ミドレンシア5世陛下よりの親書となる、謹んで拝聴するように」
書面を確認し、メインデルトに視線を合わせる、メインデルトはフンと鼻で笑い答えとした、そのまま朗々とベリアヌスはその親書を読み上げた、何のことは無い、この荒野の所有者が帝国である事、現在モニケンダムと呼ばれる都市とその周辺も同様であり、ついては王国はそれを返還するべきであり、侵略者は王国だと決めつけている、そして、双方どちらにその所有権があるかは実力を見せる必要も無いと明言もしていた、つまりは軍事的衝突となれば帝国が勝つとの意志表示となっている、
「以上だ、甚だ簡単な内容で申し訳ないがな、帝国語すら理解しておらぬ貴公らにはこれで十分であろう」
フンと鼻を鳴らして巻物をまとめるベリアヌス、タロウはやっと終わったとホッと溜息を吐いてしまった、何気に通訳という仕事は気を使う、挙句に相手は一定のスピードで読み上げるものだから理解は出来るがそれと同時に言葉にするのは若干の工夫が必要であった、なるほど、故郷で見た通訳の仕事に就く多くの者がメモを片手に一文程度を遅れて通訳するのはこういう事なのだなと感じる、もう少しこっちの身にもなって欲しいものだと思ってしまったタロウであった、
「王国語を解しないお主らに言われる筋合いではない」
しかしそんなタロウを毛ほども気にせず言葉を続ける二人、
「近い内に帝国語が貴様らの言語となるのだ、それまでにしっかりと身につけろ、いや、その前に貴様は屍になっておろうがな」
「そっくりそのままお返ししよう、貴様の子孫が王国語を使う事になるやもしれぬ・・・墓の下で知らぬ言葉で祈りを受けよ、王国は寛大である、貴様の罪を子に背負わせるようなみみっちい事はせぬよ」
ニヤリと睨み合う二人である、帝国側の通訳もこの寒風の中額に汗を滲ませてその勤めを果たしており、大変だよなーと同情してしまうタロウである、
「フン・・・まぁいい・・・例のものを」
ベリアヌスが振り返る、ハッと近衛兵が返したようで、その場所をスッと空けた、その先には荷車があり、そこから兵士二人が巨大な壺をテーブルに運んで来る、それをフンッと鼻で笑って見守るメインデルト、クロノスも何もそこまでしなくてもと眉を顰め、近衛達もなるほど、前回の様子は聞いていたが、どうやらそれをそのままなぞっているのだなと理解する、やがて兵士二人が難儀する程に巨大な壺が一つ、その半分以下の小さな壺が一つ、王国の標準的なそれよりも巨大な樽が一つ、ドンとばかりにテーブルに並べられる、無論、上手い事メインデルトとベリアヌスの邪魔にならないようにしているらしく、タロウからはベリアヌスの顔が見えなくなり、邪魔くせーなと思いつつメインデルトの背後に回るタロウであった、
「我が帝国ではな、貢物に対しては倍以上の品を下賜する事となっておる、ありがたく受け取るがいい」
ベリアヌスがニヤリと口を開いた、
「貢物だと・・・」
ギッと睨みつけるメインデルト、通訳しつつヘーっと感心するタロウである、どうやら某大陸の古代の皇帝よろしく朝貢の文化でもあるのであろうか、まぁ、タロウが見るにこの帝国も我が世界の中心であるとする中華思想に似た観念を持っている、となればどうやら王国を下に見ているのが当然で、他の侵略した国々や民族にもそのように接しているのであろう、
「・・・なんだ?違うのか?」
ニヤニヤと微笑み以上だとばかりに腰を上げるベリアヌス、しかし、
「失礼、口を挟んでも宜しいですかな?」
タロウがその場全員に聞こえるように大声を発した、なんだ?とメインデルトが顔を上げ、クロノスがおいおいと眉を顰める、ベリアヌスも立ち上がったままタロウを睨みつけた、前回の事もある、騎兵の数人がスッと馬を進ませたようだ、
「・・・構わんぞ、何かあるのか?」
心底楽しそうに微笑むメインデルト、この男が首を突っ込むと言う事は必ず何かあるなとその勘が囁いている、
「はっ、失礼ながら申し上げます」
スッと背筋を正すタロウ、しかし、その立ち姿はやはり近衛のそれと比すとなんともだらしないもので、それはタロウも自覚しており、あーなんか違うなー、締まらんなー、カッコつかんなー等と思いつつ、口を開くも、
「・・・ちと・・・めんどいな・・・」
さてどうしたものかと視線を泳がせた、話すべき事は明確にあるのであるが、それを王国語と帝国語で話すべきかと悩んでしまう、しかしその視界に帝国側の通訳の不安そうな顔が入り、あっ、帝国語は向こうで訳してもらうかと瞬時に判断すると、
「失礼」
ゴホンとわざとらしく咳ばらいを挟む、実際少しばかり無理をして声を出しており、さらには荒野の乾燥した大気の中とあっては喉が少々いがらっぽい、風邪でも引いたかなと思うも、まぁ大丈夫だろうと顔を上げ、
「まずは・・・その樽ですね・・・毒入りのウィスキーを返礼とされるとは帝国はやはり礼も義を知らぬ蛮族と見えますな」
スッとベリアヌスに視線を向けるタロウ、ナッとメインデルトが目を丸くし、クロノスや近衛達、クンラートもエッと声を上げてしまう、
「貴様、愚弄するか」
通訳の言葉が終わるか終わらぬかで激高するベリアヌス、
「・・・愚弄など・・・真実の前では非難にあたりませんよ」
ニコリと微笑んでみるタロウである、その笑顔すらベリアヌスにとっては愚弄となった、通訳を待たずに、
「何を言うか、名誉ある帝国軍が毒などという粗末なものを使う事は無い」
「そうですか?」
ハテ?と首を傾げるタロウ、メインデルトはポカンとタロウを見上げ、クンラートと近衛達はただただ見守ってしまう、しかしクロノスがスッと馬を進ませ、
「真実なのだな?」
と確認する、
「ん?あぁ、ほれ、その樽に入っているのがウィスキーだ、で、こっちの壺は砂糖だな、例の白いやつ」
「あれか、こんなにか・・・」
「そうみたい、で、そっちの小さい壺が砂金だ」
「エッ・・・この壺いっぱいか?」
「らしい、どうやらだいぶ見栄を張ったんじゃないのかなー・・・」
のんびり答えるタロウである、ヘーと感心するクロノス、そしてその言葉もまた訳されており、ナントと目を丸くするのはベリアヌスとなる、その通訳もまたあせあせと不安そうに訳していた、なにせタロウは二つの壺にも樽にも手を触れていない、またベリアヌスからその中身を知らされてもいない、どうやって中身を見抜いたのかと背筋を寒くするのは当然であった、
「で、どれに毒?」
「ウィスキーだな、砂糖には含まれていないようだけど・・・うん、大丈夫そう・・・」
左目を閉じて壺を見つめるタロウ、どうせこんな事だろうとは思っていた、物見櫓で見物中にこの樽を準備しているのに感付き、そのまま魔力で持って調査したのである、つまり、この場に来るまでに既に樽の中身は看破していた、そしてこうなるであろうなと思い、一人抜け出したのである、見事にクロノスに捕まったがこれはこれでまぁ良しとしよう、
「ほう・・・で、どうする?」
ニヤリとタロウを見下ろすクロノス、なんとなれば一暴れして見せても良いかと思うも、ここはタロウとメンイデルトに任せるべきであった、
「どうします?」
クロノスの問いをそのままメインデルトに投げるタロウ、
「・・・まったく、面白いな」
ガッハッハと大笑するメインデルトであった、ベリアヌスが憎々し気に三人を睨むも、口を開く事は無かった、
「うむ、では・・・こう伝えろ、我が王国の仕来りとして、戦場に於いて酒を出されたら酌み交わすのが礼儀である、ここは一つこちらの礼儀でもって答えたい・・・あっ、うむ、前回もな、茶も出せなかった由、大変に残念に思っている、礼を重んじる王国としてはやはり喉を潤す時間を持ちたいとな・・・」
メインデルトがタロウに告げるも、それはそのまま帝国の通訳が訳したようで、熱く滾った視線をメインデルトに叩き付けるベリアヌスである、
「左様ですか・・・では・・・」
タロウも主旨を理解する、となればやはり盃が欲しいであろうと懐から湯呑を二つ取り出した、
「準備が良いな」
これはこれはと微笑むメインデルト、
「お前、こんなもんまで持ち歩いているのか・・・」
クロノスが呆れて苦笑する、
「まぁねー、では、酌みますか・・・」
スッと樽に歩み寄るタロウ、しかし、これでは真偽がハッキリしないなと思い直し、
「どうでしよう、提督、そちらの代表者に酌んで頂くのは・・・」
ニコリと柔らかく微笑んでみた、ここでタロウかもしくは王国側が酒を酌んだら、そこで毒を入れたのなんだのとめんどくさい事になりそうで、何もそこまでとも思うが、何事も疑念を残さないようにとの判断である、まぁ・・・すでに禍根は生じているようにも思うが、
「・・・つまらん・・・会談は以上だ・・・」
スッと踵を返すベリアヌス、おやおやと微笑むタロウ、ニマニマとその背を見つめるメインデルトとクロノス、クンラートも馬脚を露すとはこういう事かと鼻で笑う、しかし、
「隊に戻り次第戦闘となる、この戦力差では今日中に終わるであろうがな、精々あがけ田舎者どもが」
ベリアヌスは足を止めどうやら捨て台詞であるらしい、あらまと目を丸くするタロウ、あっ、訳さなきゃと慌てて翻訳すると、
「それは楽しみだ」
ガッハッハと笑うメインデルト、ですなと微笑むクロノスとクンラートであった。
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