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本編
82話 雪原にて その29
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その頃ソウザイ店の三階、子供達の教室では小さな緑色に輝く木板を子供達が無言で見つめており、やがて、
「・・・聞こえますかー・・・」
おずおずとした不安そうな小声が木板から発せられ、オオーっと叫ぶ子供達、すぐに、
「聞こえるよー、そっちは?そっちはどう?」
ミナが大声を上げた、すかさず、
「聞こえるー、これ、すげー、楽しいー」
ギャーギャーと騒ぎ出す板の向こう側、さらにワッと子供達が騒ぎ出し、我先にと木板に顔を近づけ、
「ホントー?」
「聞こえてるー?」
「そっちはどうですかー」
「どうなってるのー?これー?」
「母ちゃんいるー?」
「お客さんはー?」
「儲かってるー?」
と騒ぎつつも何やら妙に生臭い事を言い出しており、おいおいと顔を顰めるレイン、エルマとミシェレはまったくもうと顔を顰めてしまう、一コマ目の授業を終えた休憩時間で、さて次は読み書きの勉強かなーと準備していたところにミナがこれで遊ぶーと木板を取り出しレインにねだって起動させ、なんだなんだと子供達が集まり、木片の一枚をブロース達男子集団が手にして一階に下りたらしい、
「・・・まぁ・・・遊び道具よねー」
エルマが呆れつつも笑顔となり、
「ですねー・・・」
ミシェレもフフッと微笑んでしまう、
「子供にとってはこれでよいのじゃ」
フンと鼻で笑うレインである、
「それもそうよね」
エルマも昨晩、その木板を目にし、実際に使ってみて大変に驚いたもので、王城で初めて転送陣を潜った時以上の驚きであったと思う、いや、どちらも度肝を抜かすほどに驚いたのであるが、王城という王国の最先端の技術が集まるであろう場所で、かつ巨大な転送陣に関してはなるほどこういう魔法もあるのかと理解できずともどこか納得してしまったものであるが、この木板はタロウがなんとも雑に取り出し、さらには大変に小さく頼りないとすら思える小汚い木片に過ぎず、はてこれがなんなのかと誰もが訝しく思った事であろう、エルマも実際にそう感じ、しかし起動してみればなんと遠方との会話が可能であるという考えた事もなかったような機能の魔法陣であったのだ、驚愕の度合いというものがあるとすればこの木板の方が遥かに大きかったとエルマは思う、さらにそれをその場で大量に生産する事になり、この手軽さはなんなんだろうと改めて感心するも、そこまでやれるだけの技術も人材も寮には揃っているのだと気付くにいたり、正にあの寮、いやタロウとソフィアとユーリの周辺が王国の最新技術の集まる場所となってしまっているのだなと感嘆する他なかった、さらには今朝もアツリョク鍋なるものに目を丸くしてしまっている、実際に使ってみたいとも思っていた、現環境に於いてはエルマが調理をする事は無さそうであるが、折を見てコンロなるものも使ってみたいんだよなーと思うエルマであったりする、
「おっきいおっちゃんはー?」
「いるよー、おっちゃんなんかしゃべってー」
その声はブロースのようである、バタバタと騒々しい板の向こう、フェナがコラッと叱責したらしく、マンネルさんでしょとさらに叱責が続くもブロースはまるで無視しているようで、これにしゃべってーと他の子供達の声が響いた、
「エッ?これ?」
マンネルの声が大きく聞こえ、
「あー、おっちゃんだー」
「うん、おっちゃんだー」
「おっきいおっちゃんだー」
キャーキャーと騒ぎ出す教室の子供達、
「エッ、なんだこれ?」
「えっとねー、お話しできるのー」
「お話?」
「うん、誰かー、しゃべってー」
「なにをー?」
ミナが問い返し、クスクスと笑いだす子供達、
「なにをって、エッ、今のミナちゃんか?」
「そだよー、おっちゃん元気ー?」
「元気って・・・さっきも会った、えっ、すげーなこれ、エッ、なんだこれ?」
「触っちゃダメー、ミナちゃんのなのー」
「あっ、あぁ悪い・・・いや、エッ・・・あっ、リノルトさん、バーレントさん、これ、凄いっすよ」
と若干声が遠くなる、
「あー、そうだ、今日はなにー」
男子の一人が大きく叫んだようだ、
「なにってなにがー?」
「えっと、お菓子ー、お昼のー」
「あっ、なんだろ?なんだろ?」
「楽しみー、なにー?」
「教えてー」
ワッと叫ぶ子供達、これにはエルマもミシェレも思わず微笑む、いや、気持ちは分かるのである、しかしあくまで勉強が主体の幼児教育なのだ、昼の食事を楽しみにして来られると趣旨が違うと言えば違い、それでいいとも思うがやはりどこか納得できかねる、
「おっちゃん、なにー?」
とブロースが叫んだところで、
「なんだこれ?」
別の男性の声が響き、
「なんか遠くの人と話せるらしいです」
マンネルの説明が微かに聞こえる、
「だからー、今日はなにー?」
「なにってなにが?」
「お昼のおかしー」
「あぁ、今日はなー、蒸しパンだぞー」
「蒸しパンだー」
「蒸しパンかー」
「蒸しパン好きー」
「美味しいよねー」
キャーキャーと騒ぐ子供達、と同時に、
「えっ、ホントだ声がする・・・」
「教室と繋がってるのー」
「あー・・・どうせあれだろタロウさんだろ」
「だろうなー・・・すまん、見せてくれ」
大人達の声が大きくなり、
「あー、大工のおっちゃんの仲間だー」
ミナの大声が教室に響き、それがそのままソウザイ店にも届くのであった。
「なるほどー」
「やっぱりタロウさんだったか」
「でしょうねー」
マンネルとリノルトとバーレントが厨房の手前、カウンターテーブルに置かれた木板をシゲシゲと見つめ、
「ですね、これも色々と使えそうなんですがどうでしょう?」
テラがニコリと三人をうかがう、ヒョイとニコリーネもその輪に加わり、フェナがどうでもいいが仕事しろとばかりにマンネルを睨みつけていたりする、
「ですねー・・・」
「あれですよ、テラさんを呼び出す時に使えます」
「それも出来るわね」
「三階に行かなくてもよくなりますよね、あっ、ガラス鏡店の方にも置いておけば向こうとのやり取りも格段に楽ですよ」
「確かにね」
マンネルがすぐにその利便性を理解したようで、まったく同じことを考えていたなと微笑んでしまうテラ、
「あっ、そっか、そうなるとあれだ、工場に置いておけばすぐに呼び出せますね」
マンネルがニヤリとリノルトとバーレントへ微笑む、それもそうだと納得すると同時にウゲッと顔を顰める二人、
「・・・いや・・・いや、それもそうですね」
「うん、連絡は楽になるな・・・」
「でも、こっちからは難しいな・・・」
「なんでよ」
「ほら、うちの家系は魔法が全く駄目でさ・・・職人が数人使えるかな?・・・だから、事務仕事してる連中だと・・・ちょっとなー・・・」
「あー・・・そう言えばそうだったなー」
「そうなんだよ」
「そこが問題よねー」
「ですよねー・・・便利なのはわかるんですが・・・使えない者も多そうだなー」
「なるほど・・・それもあるな・・・」
ムーと顔を顰めるリノルト、リノルトはそこそこ魔法を使えると自負しているが、バーレントはまったく使えないのである、それを知ったのは幼少期を過ぎ、魔法を何となく教えてもらう年頃になった頃で、リノルトやブラスはあれもできるこれも出来ると得意気に遊んでいたが、バーレントは悔しそうな顔をしてそれを眺めているだけであった、大人達からはそういうものだと諭され、遊びで使うなとリノルトやブラスは叱られていた、それ以後、リノルトらは日常生活に於いて魔法を使用する事は無く、大人になってからやっと許可され大っぴらに使えるようになったもので、王国の子供達はそうして魔法を使いこなせるようになっていくのである、
「ユーリ先生が研究中らしいのですが、まだ先だとも言ってましたね」
テラがやんわりと微笑む、ニコリーネがウンウンと大きく頷いた、
「そうなんですか?」
パッと顔を上げるバーレント、
「あっ・・・確かにチラッと聞いた事あるかな・・・どういうもんなんです?」
リノルトが同意し、マンネルも興味深げにテラを見つめる、
「詳しくは聞いてないんですが、魔力を持たない人でも使えるようにしたいって事らしくて、だから、具体的に何をどうするのかは聞いてないですし・・・聞いても分からないとも思いますが、そういう研究らしいです」
テラがウーンと首を傾げながら答える、ヘーと感心する職人三人、フェナも思わず手を止めて振り返った、
「いつになるかは分からないけどなんとかするって・・・ユーリ先生は笑ってますけどね、あの先生ならそれなりに出来そうですけどね」
「なるほどー・・・」
「あの先生もなー」
バーレントとリノルトがうーんと首を傾げ、マンネルもあの先生ってそんなに凄い人だったんだと目を丸くする、マンネルとしては前の店からの付き合いではある、毎日のように朝食と夕食時には顔を合わせており、サビナと知り合う前から軽口を交わせる顔見知り程度の仲ではあった、
「あっ、で、相談なんですけどね」
ニコリと話題を変えるテラ、バーレントはガラス鏡店への納品を終えてソウザイ店に顔を出しており、リノルトも同様にガラス鏡店を経由して軍への納品を終えた帰りである、バーレントはガラス鏡を、リノルトは定期的な湯沸し器の納品であり、街中が混む前の午前の早い時間に運び込む事としていた、どちらも大荷物であったからで、而してバーレントは何となくソウザイ店へ顔を出していた、柔らかいパンが売っていれば買って行きたいと他の職人達と足を向けた所で、リノルトはブレフトとの打ち合わせを終えたところにテラが行き会い、声をかけられ一緒に店に来た次第となる、
「アツリョク鍋なんですけど」
「あー、どうでした?納品しましたけどソフィアさんがいらっしゃらなくて、あれでいいのかなーって不安だったんです」
リノルトがパッと顔を明るくする、なんだそりゃとリノルトへ視線を向けるマンネルとバーレント、
「あれで良かったみたいです、ソフィアさんもタロウさんも良い出来だって褒めてました」
ウフフと微笑むテラ、ニコリーネも確かにと大きく頷く、ニコリーネとしては何気に暇な時間帯であった、奥様達が街に繰り出す程の時間ではなく、また勤め人達の帰宅の時間でもない、肖像画書きの準備はしてあるが、正直手持無沙汰な頃合いなのであった、
「それは良かったです、あっ、爆発しませんでした?」
爆発?と首を傾げるマンネルとバーレント、
「それはもう大丈夫です、ソフィアさんは上手い事使えば大丈夫って事でしたし、タロウさんもこれなら少しくらい無理してもちゃんと使えるだろうって、ただ、ほら、大きくて重いのと、やっぱりある程度慣れと経験が必要かなって」
「すいません、それはなんとも・・・」
大きく首を傾げるリノルト、ソフィアからの注文で取り合えず作ってみたはいいが、親父達や職人からはまずもって危険であるから厚く重くしろと厳重に言われ、その通りにしか作れなかったリノルトである、無論鍋やら釜やらの製造はお手の物であるが、蓋で密閉でき、しかし小さな穴を開けてそこから湯気を出せるようにする鍋と注文され、試行錯誤の末に作り上げたのが件の圧力鍋であった、そして実際に試用もしていない、取り合えず形を見てもらい、修正しようと思って寮を訪ねたのであるが、ソフィアは不在でメイドさんに託すほかなく、しかしどうやら使えたようでリノルトとしては安堵するしかない状況であったりする、
「そうよねー、で、あれと同じ物を三つくらいかな、ここでも使いたくて・・・」
ニコーと微笑むテラ、
「エッ、三つもですか?」
「そうね、で、あっ、フェナさんもいい?」
こちらに背を向け鍋に向かうフェナに声をかけるテラ、はい?と不思議そうにフェナが振り返る、
「そのアツリョク鍋なんだけど、恐らくあれね、マンネルさんとフェナさんに使ってもらう事になって、で、出来れば店でも取り扱いたいのよ、商品としてね、だから・・・うん、物が届いたらでいいんだけど」
ニコニコと展望を口にするテラ、そんな鍋があるのかとフェナとマンネル、バーレントが目を丸くし、こりゃまた忙しくなるなと嬉しさ半分で頬を引きつらせるリノルトであった。
「・・・聞こえますかー・・・」
おずおずとした不安そうな小声が木板から発せられ、オオーっと叫ぶ子供達、すぐに、
「聞こえるよー、そっちは?そっちはどう?」
ミナが大声を上げた、すかさず、
「聞こえるー、これ、すげー、楽しいー」
ギャーギャーと騒ぎ出す板の向こう側、さらにワッと子供達が騒ぎ出し、我先にと木板に顔を近づけ、
「ホントー?」
「聞こえてるー?」
「そっちはどうですかー」
「どうなってるのー?これー?」
「母ちゃんいるー?」
「お客さんはー?」
「儲かってるー?」
と騒ぎつつも何やら妙に生臭い事を言い出しており、おいおいと顔を顰めるレイン、エルマとミシェレはまったくもうと顔を顰めてしまう、一コマ目の授業を終えた休憩時間で、さて次は読み書きの勉強かなーと準備していたところにミナがこれで遊ぶーと木板を取り出しレインにねだって起動させ、なんだなんだと子供達が集まり、木片の一枚をブロース達男子集団が手にして一階に下りたらしい、
「・・・まぁ・・・遊び道具よねー」
エルマが呆れつつも笑顔となり、
「ですねー・・・」
ミシェレもフフッと微笑んでしまう、
「子供にとってはこれでよいのじゃ」
フンと鼻で笑うレインである、
「それもそうよね」
エルマも昨晩、その木板を目にし、実際に使ってみて大変に驚いたもので、王城で初めて転送陣を潜った時以上の驚きであったと思う、いや、どちらも度肝を抜かすほどに驚いたのであるが、王城という王国の最先端の技術が集まるであろう場所で、かつ巨大な転送陣に関してはなるほどこういう魔法もあるのかと理解できずともどこか納得してしまったものであるが、この木板はタロウがなんとも雑に取り出し、さらには大変に小さく頼りないとすら思える小汚い木片に過ぎず、はてこれがなんなのかと誰もが訝しく思った事であろう、エルマも実際にそう感じ、しかし起動してみればなんと遠方との会話が可能であるという考えた事もなかったような機能の魔法陣であったのだ、驚愕の度合いというものがあるとすればこの木板の方が遥かに大きかったとエルマは思う、さらにそれをその場で大量に生産する事になり、この手軽さはなんなんだろうと改めて感心するも、そこまでやれるだけの技術も人材も寮には揃っているのだと気付くにいたり、正にあの寮、いやタロウとソフィアとユーリの周辺が王国の最新技術の集まる場所となってしまっているのだなと感嘆する他なかった、さらには今朝もアツリョク鍋なるものに目を丸くしてしまっている、実際に使ってみたいとも思っていた、現環境に於いてはエルマが調理をする事は無さそうであるが、折を見てコンロなるものも使ってみたいんだよなーと思うエルマであったりする、
「おっきいおっちゃんはー?」
「いるよー、おっちゃんなんかしゃべってー」
その声はブロースのようである、バタバタと騒々しい板の向こう、フェナがコラッと叱責したらしく、マンネルさんでしょとさらに叱責が続くもブロースはまるで無視しているようで、これにしゃべってーと他の子供達の声が響いた、
「エッ?これ?」
マンネルの声が大きく聞こえ、
「あー、おっちゃんだー」
「うん、おっちゃんだー」
「おっきいおっちゃんだー」
キャーキャーと騒ぎ出す教室の子供達、
「エッ、なんだこれ?」
「えっとねー、お話しできるのー」
「お話?」
「うん、誰かー、しゃべってー」
「なにをー?」
ミナが問い返し、クスクスと笑いだす子供達、
「なにをって、エッ、今のミナちゃんか?」
「そだよー、おっちゃん元気ー?」
「元気って・・・さっきも会った、えっ、すげーなこれ、エッ、なんだこれ?」
「触っちゃダメー、ミナちゃんのなのー」
「あっ、あぁ悪い・・・いや、エッ・・・あっ、リノルトさん、バーレントさん、これ、凄いっすよ」
と若干声が遠くなる、
「あー、そうだ、今日はなにー」
男子の一人が大きく叫んだようだ、
「なにってなにがー?」
「えっと、お菓子ー、お昼のー」
「あっ、なんだろ?なんだろ?」
「楽しみー、なにー?」
「教えてー」
ワッと叫ぶ子供達、これにはエルマもミシェレも思わず微笑む、いや、気持ちは分かるのである、しかしあくまで勉強が主体の幼児教育なのだ、昼の食事を楽しみにして来られると趣旨が違うと言えば違い、それでいいとも思うがやはりどこか納得できかねる、
「おっちゃん、なにー?」
とブロースが叫んだところで、
「なんだこれ?」
別の男性の声が響き、
「なんか遠くの人と話せるらしいです」
マンネルの説明が微かに聞こえる、
「だからー、今日はなにー?」
「なにってなにが?」
「お昼のおかしー」
「あぁ、今日はなー、蒸しパンだぞー」
「蒸しパンだー」
「蒸しパンかー」
「蒸しパン好きー」
「美味しいよねー」
キャーキャーと騒ぐ子供達、と同時に、
「えっ、ホントだ声がする・・・」
「教室と繋がってるのー」
「あー・・・どうせあれだろタロウさんだろ」
「だろうなー・・・すまん、見せてくれ」
大人達の声が大きくなり、
「あー、大工のおっちゃんの仲間だー」
ミナの大声が教室に響き、それがそのままソウザイ店にも届くのであった。
「なるほどー」
「やっぱりタロウさんだったか」
「でしょうねー」
マンネルとリノルトとバーレントが厨房の手前、カウンターテーブルに置かれた木板をシゲシゲと見つめ、
「ですね、これも色々と使えそうなんですがどうでしょう?」
テラがニコリと三人をうかがう、ヒョイとニコリーネもその輪に加わり、フェナがどうでもいいが仕事しろとばかりにマンネルを睨みつけていたりする、
「ですねー・・・」
「あれですよ、テラさんを呼び出す時に使えます」
「それも出来るわね」
「三階に行かなくてもよくなりますよね、あっ、ガラス鏡店の方にも置いておけば向こうとのやり取りも格段に楽ですよ」
「確かにね」
マンネルがすぐにその利便性を理解したようで、まったく同じことを考えていたなと微笑んでしまうテラ、
「あっ、そっか、そうなるとあれだ、工場に置いておけばすぐに呼び出せますね」
マンネルがニヤリとリノルトとバーレントへ微笑む、それもそうだと納得すると同時にウゲッと顔を顰める二人、
「・・・いや・・・いや、それもそうですね」
「うん、連絡は楽になるな・・・」
「でも、こっちからは難しいな・・・」
「なんでよ」
「ほら、うちの家系は魔法が全く駄目でさ・・・職人が数人使えるかな?・・・だから、事務仕事してる連中だと・・・ちょっとなー・・・」
「あー・・・そう言えばそうだったなー」
「そうなんだよ」
「そこが問題よねー」
「ですよねー・・・便利なのはわかるんですが・・・使えない者も多そうだなー」
「なるほど・・・それもあるな・・・」
ムーと顔を顰めるリノルト、リノルトはそこそこ魔法を使えると自負しているが、バーレントはまったく使えないのである、それを知ったのは幼少期を過ぎ、魔法を何となく教えてもらう年頃になった頃で、リノルトやブラスはあれもできるこれも出来ると得意気に遊んでいたが、バーレントは悔しそうな顔をしてそれを眺めているだけであった、大人達からはそういうものだと諭され、遊びで使うなとリノルトやブラスは叱られていた、それ以後、リノルトらは日常生活に於いて魔法を使用する事は無く、大人になってからやっと許可され大っぴらに使えるようになったもので、王国の子供達はそうして魔法を使いこなせるようになっていくのである、
「ユーリ先生が研究中らしいのですが、まだ先だとも言ってましたね」
テラがやんわりと微笑む、ニコリーネがウンウンと大きく頷いた、
「そうなんですか?」
パッと顔を上げるバーレント、
「あっ・・・確かにチラッと聞いた事あるかな・・・どういうもんなんです?」
リノルトが同意し、マンネルも興味深げにテラを見つめる、
「詳しくは聞いてないんですが、魔力を持たない人でも使えるようにしたいって事らしくて、だから、具体的に何をどうするのかは聞いてないですし・・・聞いても分からないとも思いますが、そういう研究らしいです」
テラがウーンと首を傾げながら答える、ヘーと感心する職人三人、フェナも思わず手を止めて振り返った、
「いつになるかは分からないけどなんとかするって・・・ユーリ先生は笑ってますけどね、あの先生ならそれなりに出来そうですけどね」
「なるほどー・・・」
「あの先生もなー」
バーレントとリノルトがうーんと首を傾げ、マンネルもあの先生ってそんなに凄い人だったんだと目を丸くする、マンネルとしては前の店からの付き合いではある、毎日のように朝食と夕食時には顔を合わせており、サビナと知り合う前から軽口を交わせる顔見知り程度の仲ではあった、
「あっ、で、相談なんですけどね」
ニコリと話題を変えるテラ、バーレントはガラス鏡店への納品を終えてソウザイ店に顔を出しており、リノルトも同様にガラス鏡店を経由して軍への納品を終えた帰りである、バーレントはガラス鏡を、リノルトは定期的な湯沸し器の納品であり、街中が混む前の午前の早い時間に運び込む事としていた、どちらも大荷物であったからで、而してバーレントは何となくソウザイ店へ顔を出していた、柔らかいパンが売っていれば買って行きたいと他の職人達と足を向けた所で、リノルトはブレフトとの打ち合わせを終えたところにテラが行き会い、声をかけられ一緒に店に来た次第となる、
「アツリョク鍋なんですけど」
「あー、どうでした?納品しましたけどソフィアさんがいらっしゃらなくて、あれでいいのかなーって不安だったんです」
リノルトがパッと顔を明るくする、なんだそりゃとリノルトへ視線を向けるマンネルとバーレント、
「あれで良かったみたいです、ソフィアさんもタロウさんも良い出来だって褒めてました」
ウフフと微笑むテラ、ニコリーネも確かにと大きく頷く、ニコリーネとしては何気に暇な時間帯であった、奥様達が街に繰り出す程の時間ではなく、また勤め人達の帰宅の時間でもない、肖像画書きの準備はしてあるが、正直手持無沙汰な頃合いなのであった、
「それは良かったです、あっ、爆発しませんでした?」
爆発?と首を傾げるマンネルとバーレント、
「それはもう大丈夫です、ソフィアさんは上手い事使えば大丈夫って事でしたし、タロウさんもこれなら少しくらい無理してもちゃんと使えるだろうって、ただ、ほら、大きくて重いのと、やっぱりある程度慣れと経験が必要かなって」
「すいません、それはなんとも・・・」
大きく首を傾げるリノルト、ソフィアからの注文で取り合えず作ってみたはいいが、親父達や職人からはまずもって危険であるから厚く重くしろと厳重に言われ、その通りにしか作れなかったリノルトである、無論鍋やら釜やらの製造はお手の物であるが、蓋で密閉でき、しかし小さな穴を開けてそこから湯気を出せるようにする鍋と注文され、試行錯誤の末に作り上げたのが件の圧力鍋であった、そして実際に試用もしていない、取り合えず形を見てもらい、修正しようと思って寮を訪ねたのであるが、ソフィアは不在でメイドさんに託すほかなく、しかしどうやら使えたようでリノルトとしては安堵するしかない状況であったりする、
「そうよねー、で、あれと同じ物を三つくらいかな、ここでも使いたくて・・・」
ニコーと微笑むテラ、
「エッ、三つもですか?」
「そうね、で、あっ、フェナさんもいい?」
こちらに背を向け鍋に向かうフェナに声をかけるテラ、はい?と不思議そうにフェナが振り返る、
「そのアツリョク鍋なんだけど、恐らくあれね、マンネルさんとフェナさんに使ってもらう事になって、で、出来れば店でも取り扱いたいのよ、商品としてね、だから・・・うん、物が届いたらでいいんだけど」
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