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本編
82話 雪原にて その34
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クロノスの手にする二本の剣、いや、王国人の常識からすればそれは鉄塊と呼ぶに相応しく、またとても刃がついているとは思えないほどに錆びつき黒々と汚れているその二本、その汚れは王国人の血であり、魔族の血であった、その剣、その本来の所有者は魔族である、鉈のような形状のそれはオーガと呼称される平均的にゲインよりも頭二つ分は巨大な魔族の部隊長であろう個体が所有していたもので、その巨躯に合わせて作られたのであろう、巨大で分厚く、またそのオーガであっても両手で振るう事を想定して鍛造されており、持ち手となる柄の長さも尋常ではない、それを冒険者であったクロノスら一派は先の大戦中に戦利品として持ち帰っており、つまりはそのオーガの部隊長を何とか倒したという証拠ともなる、実際にその戦闘は苛烈を極め、タロウの気転とユーリの魔法、そして複数人の仲間の命を賭して得た戦果であった、而してその剣、無論であるが振るえたものでは無かった、ゲインが何とか引きずって持ち帰ったはよいものの、暫くの間は宿舎として使用していた天幕の横で野晒にされていたのである、それをクロノスが振るえるようになったのはタロウがシゴキと称する修行を終えた後であり、クロノスはそれまで手にしていた剣ではまるで役に立たないとなって困り果て、あれがあったと思い出し、すっかり錆びついたそれを手にし、これだと快哉を叫んでいた、タロウはそこまで人外の筋力を得たのかと自分が施したにも関わらず背筋を寒くしたものであるが、他の仲間達はクロノス以上の快哉でもって巨大な鉄塊を悠々と振り回すクロノスをやんやと祝福したものである、そしてもう一本、これもまた魔族の剣であった、鉈のようなそれと同様に長大で無骨、しかししっかりと両刃の剣であり、こちらもまた両手で扱う事を考慮して柄は長い、その所有者は誰でもない魔王本人であった、魔王もまた恐らくオーガの上位となる個体であったろうとタロウは考えているが、そう考えなければならない程に大柄で、その大柄に見合った剣となればそのまま巨大なものとなるのは必然である、クロノスらとの最終決戦に於いて、力尽きた魔王の首を切り落としたのがその剣であり、クロノスは魔王殺しと勝手に名付けた一振りであった。
而してその二振りの剣、これをタロウが預かっていた事には理由がある、戦後、ボニファースからその剣を国宝としたいとの要請があり、タロウとしては好きにすれば良いであろうと無関心であったが、クロノスはこれを断固として断っている、何もそこまで武器に執着する事もないだろうとタロウらはクロノスを諫めたが、クロノスは頑として譲らず、代わりに魔王の首そのものを譲り渡していた、それこそいらないだろうにとタロウは思うも、クロノスは没落した実家の再興をその時点では考えていたらしい、その二本の剣と魔王の首はそれだけで人を呼べる品である、随分と商売っ気の多い話だとタロウらは呆れたものであるが、クロノスにとっては実家の名誉回復の為の重要な品であった、しかしである、その名誉回復は別の形で成就する事となる、パトリシアとの婚姻であった、実はパトリシアからの秋波をクロノスも明確に感じ取ってはいたらしいが、王家の戯言と本気にしてはおらず、またタロウらも妙に積極的なお姫様だなーと最初は下にも置かない丁寧な対応を心掛けていたのであるが、それも度が過ぎればなんだ遊びに来ているだけかと感心を無くし、しかしユーリとソフィアは同性という事もあり、それなりに対応していたりする、しかし当時はどう見ても男の恰好をした二人である、パトリシアとしてはクロノス意外に興味は無く、若干邪険に扱われ、しかし戦後となって本来の姿に戻った二人を見て大変に感激した様子であったのは微苦笑ものであったりする、そんなこんなで結局その二本の剣、タロウの収納魔法に納められそのまま放置されていたのであった、故にまるで手入れもされていない、タロウとしては収納魔法の内部がどうなっているかをある程度理解している為、まぁ腐る事は無いと考えているが、一度興味本位で取り出してみると見事に当時のままであった、どうやら時間の経過が遅いか、もしくは生物には不向きな空間なのであろう、実際実験がてら子虫を収納魔法に取り込んでみた所、見事に死体となってしまった、これは生物の類は入れては駄目だなと理解し、しかし植物については収納可能であったりする、何が違うのかよくわからんなと思いつつまぁそういうもんだと受け止めるしかなったタロウであった。
そしてゲインの岩塊である、これとタロウの持つ鉄の板、これはどちらもタロウが作製したものであり、実はこの二つこそが魔法技術の結晶とも呼べる最高傑作であったりする、それはやや過言であるがタロウはそう考えていた、ゲインの岩塊については正に岩塊でしかない、大戦時の天幕の側にあった巨大な岩をゲインが掘り出し、これでいいとよく分からないことを言い出した為、タロウと仲間達はせめて使い勝手を良くしてやろうと複数個所に持ち手となる窪みを削り込み、タロウはそれにある魔法を施している、ゲインはこれはいいなと笑顔で振り回す事となり、これもまたクロノス同様喝采を浴びている、タロウとしてもこれでいいのだなと素直に感心していた、なにせゲインはそれまで武器を使用した戦闘を行っていない、あらゆる魔族を革で覆った拳で殴りつけるだけだったのである、まさに力任せの所業であり、相方であるルーツはゲインこそが真の戦士と嘯く有様で、いやその通りだなと仲間内で否定する者はいなかった、そしてゲイン曰く、何も考えず重く硬いものを素早くぶつけるのが全てであるとの事で、いやその通りではあるがと唖然としてしまったタロウである、E=MC二乗そのままの理屈であった、そしてタロウの鉄の板である、これは実に単純であった、ミナを左手に抱いたまま戦闘をするには巨大な盾を構える他無かったのである、故にタロウは魔族大戦に関わる直前に鍛冶屋に特注し、身の丈を覆う程に巨大で分厚い鉄板を作らせ、その裏側に持ち手を数か所設けた、たったそれだけの盾と呼ぶのも馬鹿らしい板となっている、そしてこれにもゲインの岩塊同様の魔法を施している、その魔法こそがタロウの考える魔法の終着点とも言える技術であった、時間遅延の魔法である。
この時間遅延の魔法、タロウとしては魔法の可能性を探る目的で様々な実験をなんとなく試していたのであるが、その中でもやはり時間停止の魔法は欲しいよなと思い立ち、とりあえずと小石を手にして仕掛けてみた、それが見事に失敗に終わっている、恐らくであるがタロウの思うような時間停止の魔法が成功したのであろう、しかしその瞬間にその小石は小さく輝きボロボロに崩れてしまった、あっこうなるんだと呆然とするタロウ、どうやら時間を完全に止めると電子の動きも止まるらしい、となれば分子間の連結が切り離され、俗に言う電離であるとかイオン化と呼ばれる状況になるようで、しかし、時間を止めている以上分子から電子が離れる事も無く、また、恐らくであるがタロウの理解の及ばぬ量子的な働きも介在していると思われる、つまりは魔法は成功したが結果は希望するものでは無かったのだ、これは駄目だなと砂粒どころか粒子と化した手のひらの小山を見つめるしかないタロウ、すぐにこれはまずいと魔法を解けば、こんどは大きく光って爆発する始末であった、手に追えないとは正にこの事である、そうしてタロウは時間停止の魔法は封印することとし、であれば時間遅延ならいけるであろうと工夫したのである、而してそれはタロウの思う所の結果を齎している、タロウの持つ鉄の板は一切の傷がつかない恐らくこの世で最も硬い物体へと変貌した、惜しむらくはその持ち手にもその魔法が影響を及ぼしてしまい、革製のそれがカチカチの鉄板同様に扱いずらい代物になってしまった事で、まぁこれは仕方が無いかと諦める事態となっている、そしてタロウは同様の魔法をゲインの岩塊にも施し、タロウが生み出した奇跡とも呼べる武器が誕生する事となったのであった、しかしどちらも大変に人を選ぶ武器であり、恐らくタロウとゲインにしか扱えない、またタロウはこの時間に関する魔法に関してはソフィアにもユーリにも一切口外していない、使うべきではないと判断した為である、まぁ空間魔法も大概だなとタロウは思うも、やはりタロウ自身がまるで理解できない魔法は大っぴらにするべきでは無いのであった。
「参る!!」
クロノスの叫びが戦場に響いた、それは焼け跡全体を震わせ、戦場に響くあらゆる騒音が一瞬の静寂と感じる程の圧となる、兵士達は何事かと手を止めてクロノスへ視線を向けた、王国軍の兵士も帝国軍の兵士も同時にである、
「フンッ!!」
気合一閃、クロノスが両手に構えた鉄塊が帝国軍の重装歩兵を薙ぎ払う、途端血しぶきを吹き出し両断される重装歩兵達、黒く荒れた大地が瞬く間に血に染まり、クロノスの眼前にはポカリと広い空間が生み出された、そして再びの静寂である、
「ムフー・・・」
満足そうに微笑むクロノス、二本の剣を握り直し、血の池となったその空間へゆっくりと歩み出す、
「・・・あちゃー・・・」
やり過ぎだなと顔を顰めるタロウ、
「本当に・・・」
ゲインがゆっくりとタロウを見下ろす、
「なんだ?」
「・・・衰えないのだな・・・」
ジーッとタロウを見つめるゲイン、タロウはん?と首を傾げ、あぁと思い出し、
「それはだってさ・・・お前もだろ?そう説明したと思うが?」
「・・・その通りだ・・・」
短く答えて岩塊を担ぎ直すゲイン、その瞬間、
「殿下、クロノス殿下だ」
「我らが英雄」
「降臨だ」
「英雄だ」
背後の兵士達が口々に叫び始める、雄叫びとなった歓声はやがて英雄クロノス、その名に集約された、その名が戦場全体を覆い尽くさんばかりに拡大する、
「こりゃまた・・・」
どうしたもんだかと背後を確認するタロウ、大隊の向こうでイフナースとトーラーは唖然とクロノスの姿を見つめており、どうやら止めるつもりも無いらしい、いや、お前らは前も似たようなの見ているだろうがと眉を顰めるタロウ、ここは指揮官らしく兵を統率するべきと思うが、それを伝える術は少ない、やれやれと視線を戻すと、クロノスは血だまりの中ほどに立ち、スッと振り返り、
「静まれ、このまま押し返す、しかし、俺の後には続くな、加減が出来ん」
勇ましいんだか女々しいんだかよく分からない事を叫ぶ、三度静まる王国兵、そこにイフナースの檄が飛んだ、
「クロノス殿下の言うとおりである、あやつは加減が出来ん、全軍このまま別命あるまでこの場を堅持!!」
クロノスの叫びには敵う訳も無いが良く響く戦場の声であった、ガッとその指示に従い盾を構え直す兵士達、
「それでいい、見物していろ」
クロノスはニヤリと微笑み帝国軍へ向かうと、
「来い!!」
と言いつつ大股で歩き出す、いやいや迎え撃つんじゃないのかよとタロウは苦笑しつつ駆け出し、ゲインも大股で歩き出す、クロノスを中心としてタロウは右翼後方、ゲインは左翼後方に位置した、そして、ハッと目を覚ましたかのように重装歩兵が三人に群がる、それを遠慮なく両断するクロノス、ゲインも岩塊を振り回せば羽虫のように飛び散る重装歩兵、しかしタロウだけは地味である、鉄の板を構えたまま突進し、相手のバランスを崩した瞬間を狙って、その急所にナイフを突き刺す、それも出来るだけ血は出るが死ににくい部位、タロウとしてはやはり相手は人間であった、魔物であればまだ獣と思えば獣に見え、殺す事に躊躇は無かったが、人となればやはり違う、挙句何を叫んでいるのか理解できるものだから可哀そうとすら感じてしまっていた、実際に彼らは猛々しく叫んではいるが、それ以上に怯えている様子でもあった、それも致し方ない、一瞬で数十人が肉塊となってしまっているのである、怯えるなというのが難しい、それが戦場であっても、いや戦場であるからこそ恐ろしいのだ、
「いやはや・・・しかし、陛下は使わぬと仰っていた筈ですが・・・」
三人の有様に呆れる他無いトーラーである、
「俺もそう聞いていたがな・・・まぁ、いい、今の内に負傷兵を後方に、やつらに合わせて前線を押し上げる」
「ハッ」
イフナースの指示にトーラーは明確に答えた、シームも戻って来たところで、トーラーが指示を伝えて伝令兵が動き出す、どうやら今日の合戦はこれで終わりのようだなと大きく吐息を吐き出すイフナースであった。
而してその二振りの剣、これをタロウが預かっていた事には理由がある、戦後、ボニファースからその剣を国宝としたいとの要請があり、タロウとしては好きにすれば良いであろうと無関心であったが、クロノスはこれを断固として断っている、何もそこまで武器に執着する事もないだろうとタロウらはクロノスを諫めたが、クロノスは頑として譲らず、代わりに魔王の首そのものを譲り渡していた、それこそいらないだろうにとタロウは思うも、クロノスは没落した実家の再興をその時点では考えていたらしい、その二本の剣と魔王の首はそれだけで人を呼べる品である、随分と商売っ気の多い話だとタロウらは呆れたものであるが、クロノスにとっては実家の名誉回復の為の重要な品であった、しかしである、その名誉回復は別の形で成就する事となる、パトリシアとの婚姻であった、実はパトリシアからの秋波をクロノスも明確に感じ取ってはいたらしいが、王家の戯言と本気にしてはおらず、またタロウらも妙に積極的なお姫様だなーと最初は下にも置かない丁寧な対応を心掛けていたのであるが、それも度が過ぎればなんだ遊びに来ているだけかと感心を無くし、しかしユーリとソフィアは同性という事もあり、それなりに対応していたりする、しかし当時はどう見ても男の恰好をした二人である、パトリシアとしてはクロノス意外に興味は無く、若干邪険に扱われ、しかし戦後となって本来の姿に戻った二人を見て大変に感激した様子であったのは微苦笑ものであったりする、そんなこんなで結局その二本の剣、タロウの収納魔法に納められそのまま放置されていたのであった、故にまるで手入れもされていない、タロウとしては収納魔法の内部がどうなっているかをある程度理解している為、まぁ腐る事は無いと考えているが、一度興味本位で取り出してみると見事に当時のままであった、どうやら時間の経過が遅いか、もしくは生物には不向きな空間なのであろう、実際実験がてら子虫を収納魔法に取り込んでみた所、見事に死体となってしまった、これは生物の類は入れては駄目だなと理解し、しかし植物については収納可能であったりする、何が違うのかよくわからんなと思いつつまぁそういうもんだと受け止めるしかなったタロウであった。
そしてゲインの岩塊である、これとタロウの持つ鉄の板、これはどちらもタロウが作製したものであり、実はこの二つこそが魔法技術の結晶とも呼べる最高傑作であったりする、それはやや過言であるがタロウはそう考えていた、ゲインの岩塊については正に岩塊でしかない、大戦時の天幕の側にあった巨大な岩をゲインが掘り出し、これでいいとよく分からないことを言い出した為、タロウと仲間達はせめて使い勝手を良くしてやろうと複数個所に持ち手となる窪みを削り込み、タロウはそれにある魔法を施している、ゲインはこれはいいなと笑顔で振り回す事となり、これもまたクロノス同様喝采を浴びている、タロウとしてもこれでいいのだなと素直に感心していた、なにせゲインはそれまで武器を使用した戦闘を行っていない、あらゆる魔族を革で覆った拳で殴りつけるだけだったのである、まさに力任せの所業であり、相方であるルーツはゲインこそが真の戦士と嘯く有様で、いやその通りだなと仲間内で否定する者はいなかった、そしてゲイン曰く、何も考えず重く硬いものを素早くぶつけるのが全てであるとの事で、いやその通りではあるがと唖然としてしまったタロウである、E=MC二乗そのままの理屈であった、そしてタロウの鉄の板である、これは実に単純であった、ミナを左手に抱いたまま戦闘をするには巨大な盾を構える他無かったのである、故にタロウは魔族大戦に関わる直前に鍛冶屋に特注し、身の丈を覆う程に巨大で分厚い鉄板を作らせ、その裏側に持ち手を数か所設けた、たったそれだけの盾と呼ぶのも馬鹿らしい板となっている、そしてこれにもゲインの岩塊同様の魔法を施している、その魔法こそがタロウの考える魔法の終着点とも言える技術であった、時間遅延の魔法である。
この時間遅延の魔法、タロウとしては魔法の可能性を探る目的で様々な実験をなんとなく試していたのであるが、その中でもやはり時間停止の魔法は欲しいよなと思い立ち、とりあえずと小石を手にして仕掛けてみた、それが見事に失敗に終わっている、恐らくであるがタロウの思うような時間停止の魔法が成功したのであろう、しかしその瞬間にその小石は小さく輝きボロボロに崩れてしまった、あっこうなるんだと呆然とするタロウ、どうやら時間を完全に止めると電子の動きも止まるらしい、となれば分子間の連結が切り離され、俗に言う電離であるとかイオン化と呼ばれる状況になるようで、しかし、時間を止めている以上分子から電子が離れる事も無く、また、恐らくであるがタロウの理解の及ばぬ量子的な働きも介在していると思われる、つまりは魔法は成功したが結果は希望するものでは無かったのだ、これは駄目だなと砂粒どころか粒子と化した手のひらの小山を見つめるしかないタロウ、すぐにこれはまずいと魔法を解けば、こんどは大きく光って爆発する始末であった、手に追えないとは正にこの事である、そうしてタロウは時間停止の魔法は封印することとし、であれば時間遅延ならいけるであろうと工夫したのである、而してそれはタロウの思う所の結果を齎している、タロウの持つ鉄の板は一切の傷がつかない恐らくこの世で最も硬い物体へと変貌した、惜しむらくはその持ち手にもその魔法が影響を及ぼしてしまい、革製のそれがカチカチの鉄板同様に扱いずらい代物になってしまった事で、まぁこれは仕方が無いかと諦める事態となっている、そしてタロウは同様の魔法をゲインの岩塊にも施し、タロウが生み出した奇跡とも呼べる武器が誕生する事となったのであった、しかしどちらも大変に人を選ぶ武器であり、恐らくタロウとゲインにしか扱えない、またタロウはこの時間に関する魔法に関してはソフィアにもユーリにも一切口外していない、使うべきではないと判断した為である、まぁ空間魔法も大概だなとタロウは思うも、やはりタロウ自身がまるで理解できない魔法は大っぴらにするべきでは無いのであった。
「参る!!」
クロノスの叫びが戦場に響いた、それは焼け跡全体を震わせ、戦場に響くあらゆる騒音が一瞬の静寂と感じる程の圧となる、兵士達は何事かと手を止めてクロノスへ視線を向けた、王国軍の兵士も帝国軍の兵士も同時にである、
「フンッ!!」
気合一閃、クロノスが両手に構えた鉄塊が帝国軍の重装歩兵を薙ぎ払う、途端血しぶきを吹き出し両断される重装歩兵達、黒く荒れた大地が瞬く間に血に染まり、クロノスの眼前にはポカリと広い空間が生み出された、そして再びの静寂である、
「ムフー・・・」
満足そうに微笑むクロノス、二本の剣を握り直し、血の池となったその空間へゆっくりと歩み出す、
「・・・あちゃー・・・」
やり過ぎだなと顔を顰めるタロウ、
「本当に・・・」
ゲインがゆっくりとタロウを見下ろす、
「なんだ?」
「・・・衰えないのだな・・・」
ジーッとタロウを見つめるゲイン、タロウはん?と首を傾げ、あぁと思い出し、
「それはだってさ・・・お前もだろ?そう説明したと思うが?」
「・・・その通りだ・・・」
短く答えて岩塊を担ぎ直すゲイン、その瞬間、
「殿下、クロノス殿下だ」
「我らが英雄」
「降臨だ」
「英雄だ」
背後の兵士達が口々に叫び始める、雄叫びとなった歓声はやがて英雄クロノス、その名に集約された、その名が戦場全体を覆い尽くさんばかりに拡大する、
「こりゃまた・・・」
どうしたもんだかと背後を確認するタロウ、大隊の向こうでイフナースとトーラーは唖然とクロノスの姿を見つめており、どうやら止めるつもりも無いらしい、いや、お前らは前も似たようなの見ているだろうがと眉を顰めるタロウ、ここは指揮官らしく兵を統率するべきと思うが、それを伝える術は少ない、やれやれと視線を戻すと、クロノスは血だまりの中ほどに立ち、スッと振り返り、
「静まれ、このまま押し返す、しかし、俺の後には続くな、加減が出来ん」
勇ましいんだか女々しいんだかよく分からない事を叫ぶ、三度静まる王国兵、そこにイフナースの檄が飛んだ、
「クロノス殿下の言うとおりである、あやつは加減が出来ん、全軍このまま別命あるまでこの場を堅持!!」
クロノスの叫びには敵う訳も無いが良く響く戦場の声であった、ガッとその指示に従い盾を構え直す兵士達、
「それでいい、見物していろ」
クロノスはニヤリと微笑み帝国軍へ向かうと、
「来い!!」
と言いつつ大股で歩き出す、いやいや迎え撃つんじゃないのかよとタロウは苦笑しつつ駆け出し、ゲインも大股で歩き出す、クロノスを中心としてタロウは右翼後方、ゲインは左翼後方に位置した、そして、ハッと目を覚ましたかのように重装歩兵が三人に群がる、それを遠慮なく両断するクロノス、ゲインも岩塊を振り回せば羽虫のように飛び散る重装歩兵、しかしタロウだけは地味である、鉄の板を構えたまま突進し、相手のバランスを崩した瞬間を狙って、その急所にナイフを突き刺す、それも出来るだけ血は出るが死ににくい部位、タロウとしてはやはり相手は人間であった、魔物であればまだ獣と思えば獣に見え、殺す事に躊躇は無かったが、人となればやはり違う、挙句何を叫んでいるのか理解できるものだから可哀そうとすら感じてしまっていた、実際に彼らは猛々しく叫んではいるが、それ以上に怯えている様子でもあった、それも致し方ない、一瞬で数十人が肉塊となってしまっているのである、怯えるなというのが難しい、それが戦場であっても、いや戦場であるからこそ恐ろしいのだ、
「いやはや・・・しかし、陛下は使わぬと仰っていた筈ですが・・・」
三人の有様に呆れる他無いトーラーである、
「俺もそう聞いていたがな・・・まぁ、いい、今の内に負傷兵を後方に、やつらに合わせて前線を押し上げる」
「ハッ」
イフナースの指示にトーラーは明確に答えた、シームも戻って来たところで、トーラーが指示を伝えて伝令兵が動き出す、どうやら今日の合戦はこれで終わりのようだなと大きく吐息を吐き出すイフナースであった。
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