セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

82話 雪原にて その45

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荒野での午前の早い時間、タロウらは物見櫓での打合せを終え、ボニファースらを交えた天幕での会議も終えた、両軍は既に布陣を完了し、三度目の緊張の中にある、互いに今日は何を仕掛けて来るかと慎重になっており、くるぶしまで埋まる程の積雪の中、睨み合いが続くのは当然の状況と言えた、

「特に何もなさそうかな?」

ボニファースが松葉杖を鳴らして振り返る、物見櫓には昨日同様に焼け跡の地図に駒が並べられルーツの部下達が忙しく動き回っている、大きな違いはその中心に座るのがメインデルトではなくアンドリースであり、そのメインデルトは俺は前線にあるべきだとして第二軍団を率いて前線であった、メインデルトとしてもこの地図を用いた指揮については評価していたが、やはりどうしても性に合わないらしい、だろうなとボニファースもアンドリースも他の軍団長らも納得するところで、メインデルトの気性も実力も心底理解している重鎮達なのであった、

「そのようですな・・・」

地図を前にしてムフーと鼻息を荒くするアンドリース、他の軍団長らも地図を覗き込んだり、両軍を眺めたりと落ち着いてはいるが所在無げであった、

「昨日同様、重装歩兵が中心・・・まぁ、向こうとしてはそうする他ないでしょうな」

「然り・・・他に手が無いと言えばなさそうではある」

「あの・・・バリスタと呼んでいたか、あの大弓も建造には時間がかかりそうですし・・・」

「第一木材が気軽に手に入らんだろう」

「そこですな、なんともこの地は・・・食料はまだしも水も調達が難しい上に燃やす物も無い・・・向こうは難儀しておるでしょう」

「輜重の動きは分かるか?」

軍団長の一人がルーツの部下に確認する、ハッと背筋を伸ばし報告するその部下、

「なるほど・・・そうなるか・・・」

「当然でしょう、五万もの軍勢となれば補給もまた大量になります」

「あの狭い道では休む事も難儀であろうに・・・」

「然り・・・帝国の兵も勤勉なのだな・・・」

ムーと腕を組んで頷き合う軍団長である、ルーツの部下からの報告によれば、イフナースが作った道を馬車やら牛車が列を連ねて往復しているらしい、それもその大半が樽であるらしく、この地では確かに井戸を掘る事も不可能で、いや、可能ではあるであろうがその暇も無いのであろう、となれば軍団長らとしてもその輜重隊を何とかすればと当然の事を考えるのであるが、それをタロウが言う周する事なかれの言葉に従い放置する事としている、これはボニファース直々の命令であり、この特殊な土地の事情を鑑みればそれが良いのであろうと納得する軍団長らである、何せこの地に引き込んだのはこちら側なのだ、そして今日から始まる策、自分達が帝国側であったとしたら何とも動きようがなくなるであろうなと思われる、そこまで出来るのであろうかと訝しむ者も多かったが、タロウはあっさりと可能ですと答え、イフナースもまた見ていろと不適に笑っていた、ボニファースもまた口を開かなかったが笑みを浮かべていたりする、

「・・・では、そろそろか・・・」

さてとボニファースが近場の椅子を引っ張りデンと腰を据えた、前線を一望に納める特等席とも言える場所で、侍医がサッと近寄り松葉杖を預かる、

「ハッ」

ルーツの部下がバッと上階へ向かう、いよいよかと軍団長らもボニファースの周りに集まった、アンドリースも少し悩んで腰を上げる、策が上手く行けばここでの指揮も必要無いであろう、いや、アンドリースが考えるに本日決行されるそれは策とも呼べぬ見世物である、しかし、今回の戦争、その見世物によってこの地が戦場となっている、タロウ曰く人を騙すのに見世物こそが至上であるらしい、この男はどこまで本気なのかと不愉快に思ったアンドリースであった、そして、

「はい、じゃ、始めようか」

物見櫓の上階でタロウが指示を受け取り、オウとルーツも腰を上げた、ゲインが暇そうに前線へ視線を向け、

「早過ぎねぇか?」

クロノスがのんびりと微笑む、

「早い方がいいだろ、このくそ寒い中兵士の皆さんが一番キツイぞ」

タロウが眉を顰め、まったくだとルーツが溜息をつく、

「そりゃそうだがよ、目的を考えると・・・まぁ、いいか、どうせある程度ぶつかるだろ」

「そう思うか?」

「まぁな、向こうさんももう意地を張るしかないんだよ」

「それは最初からそうだろが」

「だとしたら、もう、あれだぞ、全軍特攻とか言い出すもんだぞ、こうなったらよ」

ムッとタロウを睨むクロノス、

「それをさせない為だよ」

睨み返すタロウ、

「そう簡単じゃないだろ、っていうか・・・本来であれば・・・うん、こっちがしっかり攻めてやればあっさりと終わるだろ」

クロノスがムスッと前線を睨む、

「それを言ったらよ、オメーが暴れりゃいいんだよ」

ルーツがめんどくさそうにボリボリと頭をかいた、

「オメーもだろ、っていうか、タロウでもゲインでもいいんだよ」

「俺を一緒にすんな」

「一緒だよ」

「だから違うって」

「何がだよ」

「違うだろ、俺は・・・まぁいいさ、じゃ、決行だ、いいな?」

タロウがその場の全員に確認する、ゲイン以外がゆっくりと頷いた、

「ん、では、殿下に連絡を」

ハッとルーツの部下が木板を差し出す、それは既に緑色の輝きを見せていた、

「殿下、聞こえますか?」

木板に話しかけるタロウ、その木板から伝わるものは何もない、どうやら前線は静かであるらしい、昨日とは大きく異なっている、

「おう、やるか?」

あっさりとイフナースの声が返って来た、

「はい、準備願います」

「分かっている、リンド、ロキュス、ユーリ先生、始めるぞ」

イフナースの指示が飛んだらしい、リンドとロキュスの返事も聞こえる、

「ん、じゃ、頼む、あっ、黒板・・・あった」

タロウはテーブルに投げ出されていた黒板を手にすると、前線へ視線を向けた、

「まずは・・・結界か・・・」

自ら記した黒板を見つめ手順を再確認する、自分でやると言った以上やらなきゃなーと思いつつ、しかしやはりもう少し他の人にも役割を与えた方が良かったかなとも考える、まぁそれも仕方ない、時間が無かった事もあるが、どこまで出来るであろうかとの興味もあった、あくまで自分は黒子でありたいとも思うが、それも限界というものがある、タロウはフーと一息入れて右手を上げて集中する、この結界魔法もリンドさんかアフラさんに頼めば良かったなと思いつつ、その魔力を飛ばした、しかし、その腕の先に大きな変化は無い、しかし、

「こりゃスゲーな・・・こんなことも出来るのか・・・」

タロウの隣りに立ったルーツが灰色の空を見つめ、

「そうなのか?」

クロノスがその隣りに並ぶ、ルーツの部下達もその背後で空を見つめるが見えている者はいないであろう、

「まずな、これが・・・なんていうか・・・球形結界とでも呼ぶか・・・」

タロウの開発した結界魔法は基本的に球形である、故にわざわざそう呼称する必要は無いのであるが、先の大戦、そして今回の戦争に於いて多用されたその結界魔法を標的の無い、地面という平らな場所すら無い空中で発動させたのはこれが初めてとなる、恐らくリンドやユーリも空を見上げて気付いている事であろう、

「じゃ、次に・・・」

さらに魔力を込めるタロウ、その球形の結界内に光の魔法を注ぎ込む、そういうイメージである、すると、

「オオッ・・・」

「こりゃまた・・・」

「見事なもんだ・・・」

クロノスら無骨な男達でも思わず感嘆する光景となった、ゲインもノソリと腰を上げ、中腰のままタロウの隣りにズイッと顔を出す、曇天の厚い雲の下に黄色く輝く球体が現出した、しかしその輝きは押さえられている、それ故に太陽のような輝きでは無く、魔力そのものが持つ漂うような曖昧な輝きで、見つめていても眩しいとは感じないであろう、タロウはそのように調整したつもりである、すると、階下からもおっさん達のざわめきが響き、イフナースと繋がっている木板からも兵士達の声と共に、ロキュスの狼狽えるなとの声が響く、いやいやそこは素直に楽しもうよと微笑んでしまうタロウ、

「ん、下準備は完了」

タロウはフーと一息入れた、

「おう・・・しっかし・・・まぁ、いいけどよ」

ルーツが半眼となってタロウの背に右手を当てた、

「それでいいのか?」

「たぶんな」

半眼のまま答えるルーツ、お前がそう言うならとタロウは大きく咳ばらいをして、

「いいか?」

「・・・待て・・・結界から響く形がいいんだよな?」

スッと瞳を戻すルーツ、

「それが一番だが、難しいか?」

「いや・・・うん、こうか・・・指標が難しい・・・」

「殿下に代えるか?」

「いや・・・うん、何とかなる・・・練習通り・・・」

「だな、練習通りでいい」

「ん・・・これでいい・・・と思う」

静かに答えるルーツ、半眼となりゆっくりと左手が持ち上げる、タロウは小さく頷き、

「・・・帝国軍に告ぐ・・・」

ユックリと黒板を見つめて話し始めた、途端、同じ文言が球形結界から荒野の焼け跡の隅々にまで響き渡った、オオッと階下のざわめきが届き、木板からも兵士達のざわつきが届いた、どうやら成功しているらしい、無論、クロノスにルーツの部下達、ゲインまでもが目を丸くする、しかし問題があるとすればタロウの言葉は帝国語である、そう意識して発しており、王国人では理解できないであろう事で、まぁしかしこのような奇妙な魔法を操るとすれば王国である、もう既に兵達もその辺は慣れてきている様子であった、なにせ毎日のように巨大な転送陣を使い、光柱に照らされたこの荒野の陣地に足を運んでいるのだ、他に何か目新しいものが突然行われてたとしても受け入れるしかない状況でもある、

「これは王国からの通達である・・・帝国軍に告ぐ・・・これは王国からの通達である」

文言を繰り返し音量を確認するタロウ、この物見櫓ではうるさいくらいに響いているが、この程度であれば帝国側にも問題無く届いていると思われた、

「これ以上の戦闘行為は無意味である、貴国との合戦は実に有意義なものであったが、それもどうやら限界であろう、王国の兵、及び技術に対し、貴国はあからさまに脆弱である、王国の慈悲により、今日まで生きながらえる事ができた事を感謝するべきである、しかし、それも今日までとなる、これが最終勧告となる、光の帯に焼かれるか、五体満足の内に帝国へと逃げ出すか、貴殿らにはその選択肢のみが眼前にある」

タロウは努めて感情を排し、ただ朗々とゆっくり、じっくりと読み上げた、その警告文もしくは布告文になるが、これはタロウが草案を作り、先程の会議で少々変更されたものである、要約すればとっとと逃げ出せばこれ以上の被害は無い、逃げ出さなければこれ以上に痛い目を見るぞ、との意味で、ただそれだけの内容となる、そしてタロウはどんなもんかなと前線を見つめる、距離がある為帝国軍の様子は見えなかったが、

「・・・動揺しております・・・」

ルーツの部下の一人がその場全員に聞こえるように報告する、

「だろうな・・・」

クロノスが呟く、

「内容は理解しているみたい?」

タロウが確認すると、

「はい、言葉は通じている様子です、部隊長達が集まっております・・・それと、提督とやら・・・皇帝も何やら動き出しております」

あらまと目を丸くするタロウ、その部下は見事にルーツの魔力操作を扱っているらしい、恐らくその視線を自在に飛ばし帝国軍内を好き勝手に覗きまくっているのである、

「皇帝ねー・・・」

フーンと鼻を鳴らすクロノス、

「そりゃいるだろ」

「まずな、しかし提督もそうだが前線に立つ性格の指揮官では無いのかな?その皇帝は・・・イフナースとメインデルトの報告にも無かったよな?見かけたとも、それらしい奴がいたともさ・・・」

「だな、まぁ、そういうやり方もあるさ、じゃ・・・次か」

タロウがさてとイフナースに通じる木板を手にする、

「とりあえずか・・・」

ルーツがソッと左手を下ろし、タロウの背中に当てていた右手も離す、

「ん、次は殿下の準備が終わったらだね、向こうとしても何が何やらって感じになると思うし・・・」

「了解・・・」

フスーと鼻息を荒くし瞳を戻すルーツ、お疲れさんとタロウは微笑み、

「殿下、お願いできますか?」

と木板に話しかけた。
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