セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

82話 雪原にて その46

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「おう、やるぞ」

イフナースがめんどくさそうに木板に返すと、

「よろしくー」

タロウの気の抜けた言葉が返ってきた、まったくあいつはと目を細め、ポイッと伝令兵に木板を投げ返すイフナース、伝令兵は受け取るとスッと下がった、

「では、だ」

フンと鼻息を荒くし気合を入れるイフナース、しかしその背後では、

「・・・つまりはあれか、あの声を送る技術はルーツ殿が開発したのか」

「そう・・・ですねー・・・でも、開発・・・っていう感じでは無かったと思うなー・・・」

「なんと、どういう意味だ」

「やってみたら出来たとか・・・なんとか・・・そんな感じだと思いましたねー・・・違ったかなー・・・」

ロキュスとユーリが馬を寄せ、空を見上げてゴソゴソと話し込んでおり、リンドも静かにそれに加わっていた、トーラーとシームがおいおいと目を細め、伝令兵や近衛兵もなんとなく耳に入るものだからホヘーと感心して空に浮かぶ異様な発光物を見上げている、

「またタロウ殿かと思ったが・・・いや、策は聞いていたのだ、実際に目にすればもう少し理解も出来ると思ったが、難しい・・・」

憎々し気に球形の結界魔法を睨むロキュス、そこまで見つめても眩しいとは感じられず、それもまたとんでもない技術であったりするのであるが、そこまでは気付いていなかった、

「ですねー・・・」

対してユーリはどこまでも他人事である、しかしそれはロキュスの前であるからで、その心中ではあのボケナス野郎どもが好き勝手やりやがって怒りまくっていたりする、挙句どうやらルーツが絡んでいるらしい、タロウのみならばまだ問い詰める事もできるし、それで溜飲を下げる事もあろうが、ルーツ相手となれば本気の喧嘩になりかねない、それで殴り合いやら殺し合いになるようなものではないが、少なくとも建設的な話し合いになる事は無く、またユーリとしてもルーツの実力はある程度把握しているが、今回のそれはまるで規模が違っていた、恐らく技術的にも異なっている、ここまで出来るのかと改めて背筋を寒くしてしまっている、

「・・・タロウ殿が仰ってましたね・・・」

そこへ口を挟んだのがリンドである、

「なんじゃ?」

「なにを?」

同時に振り返るロキュスとユーリ、

「はい・・・なんでも、技術を反転させる事もまた、技術であると・・・」

ムーと首を傾げるリンド、ロキュスとユーリはなんじゃそりゃとリンドを見つめ、しかし、ほぼ同時に、

「・・・すると、あれか、あのように音を受け取る事・・・」

「木板の応用か・・・」

と何かに気付いた様子である、ロキュスは音そのものの魔力操作、ユーリは魔法陣からの発想となり、それぞれの得意分野が如実に表れた反応である、

「まぁ・・・そういう事なのでしょう」

「・・・確かに、いや、監視魔法であったか、声も探れると聞いてな、どういう事かと問い質したのだが・・・」

「じゃ、あの結界魔法が振動しているのかしら・・・タロウが音は振動だと言ってたけど、そこまで器用な事やってるの・・・いや・・・いくらなんでも・・・」

二人同時に未だボンヤリと浮かぶ結界魔法を見上げた、そこへ、

「おい、やるぞ」

フンヌと叫ぶイフナース、アッ、ハイッとビクリと肩を揺らしたロキュスとユーリ、リンドがそうだったと背筋を伸ばす、トーラーとシームがやれやれと苦笑してしまった、

「では・・・はい、では、やりましょう」

ユーリが取り繕うように馬を進ませた、ユーリは何気に馬術が得意であったりする、北ヘルデルで研究職であった頃に気晴らしにと初めてみたら殊の外楽しく、こりゃ確かに貴族の皆様が夢中になる訳だと納得してしまった、そしてタロウが伝えたという新しい鞍にも驚いていたりする、今日の乗馬は数か月振りで若干おっかなびっくりであったのだが、実に楽なのだ、あれっ私こんなに上手かったかしらとユーリは首を捻ったが、それはこの新しい鞍と、クロノスが手塩に掛けて育てたその馬のお陰であったりする、

「ですな」

ロキュスもサッと馬を進める、

「うむ、頼むぞ」

帝国軍に向けて答えるイフナース、ハッと二人が応じたのを確認し、再び息を整える、そして、数歩馬を進ませ単騎で突出した、合戦が始まる前であり、イフナースとメインデルト、クンラートは最前線に位置し、互いの姿も視認できる距離にある、そしてその背後には遠慮なく足を苛む積雪にも、時折吹きすさぶ寒風にも動じず整然と居並ぶ王国兵と騎馬兵の群れ、この先頭に立つことが正に軍団長の誉れであり、王家の使命であった、先の大戦では見る事が少なかった大軍団同士のぶつかり合い、これぞ合戦であるとイフナースは二日前から感じている、そしてケルネーレスが存命であればここに立ったのは兄貴なのだろうなとふと考えてしまう、しかし、そうなるとこれから自分が行うような人外の行為は難しかったのだろうか、いや、それであっても代わりはいる、なんとでもなるであろうし、王国と王国民を守る為ならなんでもやるのが為政者としての王家の勤めなのだ、そして、今、これから、自分がリンドの言う魔王に値する者である事を表明する事になる、それが正しいのかどうかは分からない、しかし、タロウが言うように、もうこの場をより静かに納める為には取り得る策の一つではある、願うべきは皇帝とやらの認識と理解力と判断が狂っていないことだけであろうか、

「・・・ん・・・」

スッと息を吸い込むイフナース、そしてゆっくりと右腕を天に伸ばす、いよいよかとリンドとトーラー、シームが身構え、何をやるのだろうかと兵士達、近衛達の視線も集まる、ロキュスとユーリはここは独壇場にするべきと馬の手綱を引いた、その指示に従い静止する馬二頭、そして、イフナースはさて呪文はいらないのだよなとタロウの指導を思い出す、朝一番での打合せ、そこでタロウは変に魔法を使おうとするものだから余計に威力が増していると断言した、何だそれはとロキュスもイフナースも鼻白んでしまったが、しかしリンドは確かにそうかもしれないと唖然としており、クロノスやトーラーらはそういうものなのかなと首を傾げていたと思う、そしてタロウはただの魔力をぶつけるだけ、それだけでも普通の人であれば耐えられず、また、周囲への被害も少ないらしい、いや、であればお前が俺に教えたのはなんだったのだとイフナースは反論したが、それはあくまで基本であり、その上、つまりは呪文に頼った魔法の行使を超えたその先には、直接魔力を操るという乱暴でより直感的な手法があるとの事で、しかしそれをやるとあっという間に魔力が枯渇し、普通の人であればぶっ倒れるのだとか、なんだよそれはとイフナースは目を細め、しかしロキュスは確かにその通りと何かに気付いたらしかった、タロウはニコリと微笑み、殿下であれば丁度良いと思いましてねと普段通り飄々としていた、ムカつくなーとイフナースは感じたのであるが、それからのより具体的な指導は難しくなかった、こうか?とイフナースが言われた通りにやってみれば確かに簡単に出来てしまったのである、それでいいですけど、加減を間違えないでとタロウは慌てて諫め、ロキュスは目を剥き、リンドは流石ですと感嘆していた、そして本番である、ここはしっかり決めなければならない、そうでないと控えとしてついてきているユーリかリンドにお株を奪われるというもので、王家として王太子としてそれだけは譲れなかったりする、

「・・・こう・・・だな・・・」

瞑目し掲げた掌に集中するイフナース、やがて掌に魔力が集まり始め、掲げた右腕は血の気が落ちる代わりに魔力で満たされていく、そう実感できた、

「さらに・・・」

小さく呟くイフナース、ゆっくりと目を開け、タロウに言われた通り感覚を広げていく、見るのではなく、感じる、あらゆる感覚をじっとりと拡散し、大気に沁み込ませる、タロウはそこまでは必要無いし出来ないかもと言っていたが、イフナースとしても矜持というものがある、タロウにそこまで言われれば意地でもやって見せたくなったのだ、恐らくタロウも自分の一挙手一投足を監視している筈で、となればその鼻を明かしてやりたいとも思う、そして、

「・・・なるほど・・・」

再び小さく呟くイフナース、大気の魔力の流れが理解出来た、それは風と共に荒野を舞い、そしてこの大地に吸い込まれている、これが荒野病の元凶かとほくそ笑む、タロウも普段はそこまではやらないし魔力の流れを観察したところであまり意味は無いと断言していた、風に吹かれる埃のようなものらしい、なるほど、その言葉の通り砂埃か霧雨のような鬱陶しさが感じられた、

「・・・どうなっておるのだ?」

ロキュスが不思議そうに首を傾げる、

「そう・・・ですね・・・」

ムーとユーリもイフナースの背中を見つめるしかない、ユーリとしては何かあったら困るからと急遽呼び出されており、実は何をやるかも理解していなかったりする、しかしリンドから是非にと頼まれ、いるだけでいいのであればとこうして付き従っていた、

「タロウからどのように話されたのですか?」

ユーリは思わずロキュスに問うた、

「いや・・・そのな、魔力をぶつける・・・それだけなのだが・・・しかし、大気の魔力も集めると・・・そのような事が可能なのかどうか・・・」

ナッ・・・とロキュスを睨むユーリ、それはユーリの主題となる研究で、ユーリ自身確かにやろうと思えば出来る事であるが、それほど得意ではない、第一非常にめんどくさい、タロウはこうやればいいよと実に気軽にやって見せていたものであるが、少なくともユーリはソフィア以外にその特異な手法を真似て見せた者を知らない、そのソフィアもなるほどねーと納得し、それ以降その技術を行使する事は無かった、

「殿下であれば出来ると思う・・・とタロウ殿は言っていたが・・・」

「マジですか・・・」

ポカンとイフナースの背中を見つめるユーリ、すると、イフナースの掲げた手の先に太く大きな魔力の奔流が形成された、ムオッと呻くロキュス、ユーリもまたゲッと呻いてしまう、やがてその渦巻く柱は徐々に長く太く巨大なものになっていく、そしてあっという間に天を穿つ巨大な柱となった、緑と青に輝く魔力の渦が飾り紐のように絡み合い、厚い雲を貫いて屹立する、ただただ無言で見つめるしかないロキュスとユーリ、トーラーとシームも何だこれはと固まり、となれば兵士達、近衛達もただただその天空へと向かう細く輝く竜巻を見上げる他無い、すると、

「光の帯である、我が王国の秘術、王太子殿下のみが扱えるこの力、貴様らに耐えられものではない、最後の通告となる、帝国兵はこの荒野から去れ、然らずんば全滅の憂き目を見よう・・・」

球形の結界が震え帝国語が響き渡った、何と言っているのかとざわめく王国兵達、トーラーがアッと気付いて静まれと一喝し、シームも馬を翻す、ここで王国側が混乱しては意味が無い、見れば第二軍団も混成軍も落着きを無くしている様子、さらには帝国軍にも動きが見えた、規律正しく整列していた兵士達の中からバラバラと背を向け遁走する兵士が現れたようで、これは確かに見た目だけでも恐ろしいであろうとトーラーもシームも理解する、さらにはそれがどうやらこちらに向けられた何らかの攻撃手段であると理解できれば尚の事であろう、

「・・・では、痛い目を見るがいい・・・」

再び結界が震えた、そして伝令兵がトーラーに駆け寄り木板を差し出す、なんだと受け取るトーラー、

「お疲れ様ー、殿下にね、一薙ぎしてみてーって伝えてー」

何とも軽い調子のタロウであった、エッアッ、ハイとトーラーは叫んで、手綱を操る、そのままイフナースの側に向かうも、何とも立ち寄れない雰囲気で、しかしここはと意を決して飛び込み、

「殿下、タロウ殿より、一薙ぎするようにとの指示です」

大きく叫んだ、

「・・・了解だ」

静かに返すイフナース、そしてその手がゆっくりと倒された。
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