セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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82話 貴人の虜囚 その11

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「はい、というわけで、新しい先生、マリレーナ・クオン先生です」

テラの事務室で話し込んでいた三人を世話役の奥様が呼びに来た、音楽の授業が終わり、休憩時間となったとの事で、であれば早速次の授業をお願いできるかしらとエルマが言い出し、流石にそれはとマリレーナは及び腰であったが、何も初回から真っ当な講義にする必要は無いとエルマは笑い、取り合えず顔合わせであり、子供達に顔を覚えてもらう為であると説得した、その程度であればと了承するマリレーナである、何事も初めてはある、それが準備万端整えて向かうか、突然ポンと始まるかの違いでしかない、そして突然始まった際の対応こそが社会人、ひいては大人の技量が最も発揮される場面であったりする、

「マリレーナです、皆さん、宜しくお願いします」

優しい笑みを浮かべ一礼するマリレーナ、子供達はポカンとマリレーナを見つめており、そうだったんだとミシェレとヘラルダ、ニコリーネが驚きつつも笑顔であった、ニコリーネはわざわざ一階から呼び出されている、挨拶は一度で済ませてしまいましょうとのエルマの配慮であった、レインもホウと興味深げにマルレーナを見つめている、さらにレアンはウンウンと満足そうに腕を組み、エレインとテラも微笑みつつ様子を伺う、そしてユスティーナとキッサ店の御婦人方、御令嬢達も顔を連ねていた、その貴族の者達はここ数日すっかり常連となっていたが、時折階段を駆け上がったり駆け下りたりしている子供達が何をやっているのかまでは聞いていなかった、ついでだからとユスティーナが事情を話し、エレインもそれに補足した、そうだったのですかと非常に驚いた貴族の面々であった、

「さっ、皆さんも挨拶、あっ、そうね、フロールさん、お願いできる?」

エルマがニコリと微笑む、あっハイッとフロールがピョンと跳ねるように立ち上がり、

「・・・えっと、えっと、皆さん、起立」

普段とは若干違う為、どうしようかと悩みながら号令をかけた、あっそうだとゾロゾロと立ち上がる子供達、

「・・・えっと・・・どういえば・・・」

しかしフロールも流石にそこまで気が利かないようで、恐る恐るとエルマに助けを求めた、

「挨拶だけで結構よ、よろしくお願いします、でいいわね、で、ちゃんとお辞儀をしましょう」

フフッと微笑むエルマ、ハイッとフロールは明るく返し、

「えっと、よろしくお願いしますマリレーナ先生」

とハッキリと大きく告げた、その文言をそのまま繰り返す子供達、そして一斉にゆっくりと頭を垂れる、これはと驚いたのはやはり貴族の御夫人達と御令嬢達であった、階下で聞いた折にはそんな小さな子供に何を教える必要があるのかと懐疑的であった、鼻で笑う御夫人もいたほどであるが、しかしこうしてそれなりの礼儀を身につけた幼児を見れば目も覚めるというもので、なるほどユスティーナが力を入れ、商会の会長たるエレインが主催しているとなるとやはり違うのだと感じる、

「はい、宜しくお願いします」

ニコリと微笑み優雅に腰を折るマリレーナ、先程音楽の授業の前にもしっかりと先生であるヘラルダと挨拶を交わしていたのを見ている、なるほど、これは確かに違うなと理解したマリレーナであった、

「着席」

フロールがここはいつも通りでいいのだなと号令をかけた、ガタガタと椅子が鳴り腰を下ろす子供達、

「では・・・そうですね、私は・・・そうね、まずは自己紹介からかしら?」

んーと首を傾げるマリレーナ、子供達に話して理解できる程度がいいのかなと考えるも、そこが難しいと先程エルマから話されていた、エルマ曰く子供騙しでは子供に通じないそうなのだ、少しばかり適当で良いだろうとか子供だからと手を抜くとすぐに見抜かれるらしい、そして見抜かれた瞬間からその程度の相手として認識するそうで、特にエルマとマリレーナがそうなのであるが、あくまで講師として接するのであればやはり初手からその実力を見せるべきなのだとか、その点、ミシェレはあくまで助手として講師と子供達の間に立つようにしているらしく、またヘラルダとニコリーネは実に分かりやすい技術を持っている、その技術を見せるだけで子供達は先生だと認識したらしい、しかしやはり知識を与える立場となるとそれを見せつける事は難しい、相手が大人であってもある程度の時間か明確で分かりやすい肩書が必要となるであろう、肩書や役職とは実に便利な道具なのである、

「生まれは皆さんと同じこの街、モニケンダムです」

優しくゆっくりとかつ笑顔を忘れず語り始めるマリレーナ、レアンの前では厳しい家庭教師として振る舞っているが、ここではその必要も無いし、やはり駄目であったとエルマも認めていた、肩の力を抜いて笑みを忘れず、しかし怒る時は怒るのが肝要であるらしい、つまりは自分の子供と同じように、いや、自分の子供の親しい友人を相手にするようにするのが最良であるとの事である、

「そこから皆さんと同じ年の頃にヘルデルに行きました、お父さんとお母さんの仕事の為ですね」

と続けるマリレーナ、それを見つめるレアンがニコニコと微笑み、ユスティーナもこうなるのねと微笑んでいる、レアンとしては幼児教育の話題が持ち上がった頃からマリレーナを送るべきだとユスティーナに進言しており、ユスティーナもそれが一番なのだがと理解しつつも、レアンの教育が手薄になる事を危惧していた、親として当然の事である、あくまでマリレーナは伯爵家の家庭教師なのだ、こちらに関わればレアンのそれに影響するのは必至である、挙句レアンが怠ける為にそう言い出したのかしらと訝しく思ってしまい、それを口にする事は無かったがレアンも察したのであろう、であれば一日おきにこちらとあちらを行き来すればいいと代替案を出す始末であった、そこまで知恵を回したのかと苦笑するしかなかったユスティーナである、かくしてその案が採用される事となり、またレアンの家庭教師の日には今の倍の時間、勉学に向かう事が親娘の間で取り決められている、そこまでは考えていなかったと口をへの字に曲げつつ了承するしかなったレアンであったりした、

「・・・ん、では、私達は・・・」

「ですな」

ユスティーナがレアンに囁き、静かに頷くレアン、そのまま二人は静かに退室する、エレインと奥様方もそれに倣った、あっ向こうに行くのねと視界の端で捉えたマリレーナ、しかし話しを中断する事は無い、子供達の真面目で熱心な瞳にすっかり魅了されてしまった事もある、子供達は皆、実に真剣であった、たかが自己紹介なのであるが、身じろぎもせず静かに、そして集中するその様は大人でも難しいかもなとすっかり感心してしまうマリレーナである、

「ふぅ、上手くいきそうですな」

廊下に出た瞬間に満足そうにユスティーナを見上げるレアン、

「そうね、マリレーナであれば大丈夫でしょう」

ユスティーナも嬉しそうである、

「そう言ったではないですか」

ニンマリと微笑むレアン、

「そうね、あなたの言った通りだったわね」

ニコリと微笑むユスティーナである、そうして貴族の御婦人方とも改めて幼児教育について話しながらソウザイ店を後にした、なんとも珍しい集団である、この街の領主と有力とされる貴族の婦人と娘達がぞろぞろと寒い街中を歩いている、本来であれば馬車を使って移動するのが貴族の作法なのであるが、この人数となるとそれは難しかった、さらにはその馬車も若干遠くの馬車だまりに止めており、距離がある、連れていたメイドが流石にそれはと止めるもユスティーナとレアンはめんどくさいと一喝し、こうして歩く事になっていた、行く先は学園である、そして、

「お待ちしておりました」

学園の入口、そこで伯爵家の従者がわざわざ待っていたようであった、兵士達が行き交う中、恭しく頭を垂れるその従者、待たせたわねと微笑むユスティーナである、何事かと兵士達は距離を取る、まぁこうなるよなーとエレインとテラは苦笑してしまう、

「カラミッド様は来ているの?」

とユスティーナは先導する従者に確認する、

「お館様は荒野でございます、本日は激しい戦闘となっていると報告されております」

「あらっ・・・そうなの・・・」

一転表情を曇らせるユスティーナ、レアンもナニッ?と数歩駆け出し、他の貴族達もまぁと口元を押さえてしまう、

「はい、しかし、もう決着は着いたとも報告されておりました、故に、より正確な報告をお待ち頂ければと思います」

冷静な従者である、ユスティーナに先立ち学園での下準備というか、根回しは終わっている、何のことは無い、リシャルトがカラミッドの命を受け、遺体の搬送とその管理、葬送の段取りの為に常駐する事となり、その助手として動きつつ、ユスティーナの来訪を待っていたのである、ユスティーナとレアンが遺体を確認し、祈りを捧げたいと切望した為であった、

「そう・・・」

心配そうに呟くユスティーナ、レアンもムーと眉を顰める、

「それと、そういう事ですので、病院となっている講堂と病室への立ち入りは今暫く御遠慮いただきたく思います、負傷兵の対応で忙しくなっておりまして」

「そうなのね・・・」

スッと視線を上げるユスティーナ、学園の玄関口の半分ほどまで入っており、その奥で兵士達と生徒達がバタバタと走り回っているのが確認できた、出来れば負傷兵達にも会っておきたいとユスティーナは考えていたが、どうやら難しそうである、

「致し方ないですな」

レアンも忙しそうな生徒達を見つめる、エレインとテラ、御婦人方も心配そうな視線となる、

「ですので、まずはこちらへ、内庭の天幕に御遺体を移しております、棺の準備はまだまだこれから、筵に包まれただけの粗末な状態でありますが、その点御容赦を」

「容赦も何も、承知で来ております、案内なさい」

若干キツイ口調になってしまうユスティーナ、ハッと従者は返しこちらですと先導する、兵士達や生徒達の邪魔にならないようにとやや遠回りになったが一行は内庭へ出て天幕へ入った、そこには数十ものこんもりと膨れ上がった筵が整然と並べられていた、これがと言葉を無くす一同、

「御遺体の保存の為に火も焚いておりません、その為この寒さは御容赦下さい、また、匂いもあります、気分が悪くなる事があるかもしれません、御注意下さい」

スッと脇に避ける従者、

「そうね・・・この天幕がそうなの?」

「はい、こちらがモニケンダム軍所属の兵士達となります、もう二つ我が軍の天幕があります、他にも各軍団毎に収容しております、天幕の数で言えば数十となります・・・それと・・・本日の戦闘でもう少し増えるかもしれません、また、戦場にあって回収されていない遺体もあります・・・」

従者が言い難そうに答えた、

「そう・・・そうよね、そうなるのよね・・・」

フウと一息ついて筵を見つめるユスティーナ、レアンや御夫人達、御令嬢、エレインとテラもやっと理解した、先程まではああしたいこうしたい、こうすればいいと能天気に口にしていた、しかし実際に並べられた遺体を見ればそれがただの遊びであったと感じる、言葉だけでは理解出来ない現実が目の前に広がっているのだ、この筵一つ一つが兵士の遺体であり、さらにはそれがモニケンダムの市民であり、兵士だったのだ、もしかしたら街中のどこかで擦れ違っていたかもしれない男達、もしかしたら知り合いの家族であるかもしれない人物の遺体なのである、

「・・・御一人ずつ見て回れるかしら・・・」

「はい、手前から・・・あっ、蝋燭、では無かった、光柱をお持ちします、名前も所属部隊も判明している者ばかりです御確認下さい」

ススッと動くその従者、ユスティーナとレアンが従者を待って近くの筵に向かう、他の女性達もまた神妙に従い続いた。
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