セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

7話 ブノワトさんのスパルタ商売学 その4

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「お湯湧いたかしら?」

一通りの説明を終えて厨房に戻っていたソフィアが頃合いを見て内庭に顔を出した、

「はい、イイ感じだと思いますわ」

エレインが樽に手を突っ込んでお湯を攪拌しながら答える、

その手前には斜めにした椅子の座り心地で遊んでいる無邪気な女生徒達の嬌声が響いている、ソフィアは結界が有効で良かったわなどと思いながら小麦粉他の洗髪剤の材料一式を持って一団に合流した、

「それでと、オリビアさん、よく見ていてね、貴女が一番しっかりしてそうだから、一度で覚えるのよ」

ソフィアは一同の好奇の目が光る中オリビアを中心にして洗髪剤の調合を教える、

「このドロドロ具合で充分よ、食べるわけでは無いしね」

「はい質問いいですか?」

「何、ジャネットさん」

「蜂蜜ってどういう効果があるんです?何か口にしないのは恐れ多いというか・・・」

「そうねぇ、比べて見ればわかるとは思うけど、今、それをやるのもねぇ、一応、私が教わった人からは髪をしっとりさせてくれると聞いてるわ、レインなんか普段と全然違うでしょ」

皆の視線がレインに向かう、確かにその髪はしっとりと纏まっており、普段のレインであればまるで野生児のように髪を振り乱しているが、今日この場に於いては纏まりのある髪で言い過ぎてもいいのであればお嬢様風である、

「他にはある?」

「はい、この他に髪にいい材料ってなにかありますか?」

パウラの質問であった、

「うーん、今日いれてないものだと・・・オイルかしら、それと香料?今日は香料の代わりにこのミカンの搾り汁をいれてるのね、まぁ、それだけの為では無いらしいんだけど、それで例えばお高いけど香水とか使用してもいいと思うわ、でも、少量から試すことね、ほら、匂いがキツイと頭いたくなるでしょう、それと、オイルについては、オリーブとか椿とかいろいろあるからそれも試してみても面白いと思うわ」

「普通の石鹸では駄目ですか?」

ケイスの質問である、

「大丈夫よ、但し、石鹸だけだとちょっと強すぎる?かしら、髪がゴワゴワになっちゃう、昔、私も石鹸で洗ってみて後悔した事があるわね、それで、この洗髪剤を教えてもらって実践してるんだけど、でも、石鹸で洗った後に、オイルとかで洗髪すれば良いと聞いた事はあるわね、うん、それもその内試してみましょうか?」

「なるほど、何事もやってみるですね」

ケイスはソフィアの言葉に鼻息を荒くする、

「そうね、じゃ、実際に洗ってみましょう、最初は誰から?お互いに洗って洗われるようにね」

「では、オリビアはわたくしとですわ」

「はい、お嬢様、勿論です」

お嬢様とメイド組の完成である、

「むー、ならケイスはわたしと、でアニタとパウラでいいんじゃない?」

「ありがとうございます、嬉しいです、あのこういう時いつも私忘れ去られちゃってて」

ケイスがジャネットの側に寄り添って頬を赤くする、

「ふふん、ケイスの魅力に気付かないなんて世の人民はまるで目が付いてないようだなぁ」

ジャネットは左手を胸に当て天に向かって語り掛ける、何かの芝居の台詞であろうか、しかし、その姿はケイスしか見ていなかった、

「んじゃ、最初はわたしが指導しながら洗うわね、洗って欲しい人はって」

ジャネットとエレインが手を上げて一歩進み出る、どうにも負けん気の強い二人であった、

「はい、二人とも椅子に座って、ていうか横になるのが正解かしら、ケイスさんとオリビアさんはこっちで」

上下反転した友人と従者の顔の近さにジャネットとエレインは気恥ずかし気に笑顔を浮かべる、そこからソフィアの指導の元、一同の髪はその積年の汚れを落とす事となった。



「素晴らしい体験でしたわ」

「まったくです、気持ち良かった」

「洗う方も楽しかったですよ、綺麗にするのって快感なんですね」

「はい、これは癖になります」

「定期的に洗うには少々重労働ですね」

「でも、その価値はあると思います」

「あんなに真っ黒になるほど頭って汚いんですね」

「新しい世界にいる気分だわ」

食堂にはカシュパル家特性の洗髪剤を使用して、その効果の程に骨抜きになった年頃のお嬢様達がぐったりと余韻を楽しんでいる、

「はいはい、ほら、いつまでもぐだってないで、オリビアさん、夕食の準備するわよ、ケイスさんほらここで寝ようとしないの、あんた達も何しに来たのよ、夕飯一緒にするなら用意するわよ、っていうかユーリとブノワトさんも一緒になってなんですか」

食堂内は柑橘系の香りが充満しており、その香りと相反するようなだらしない顔を並べる面々にソフィアは檄を飛ばした、

「そうはいってもー、なんか、力抜けちゃってー」

「うん、骨抜きって言葉の意味を初めて理解しましたー」

「幸せなんですもの、浸らせて下さいー」

オリビアでさえその足取りは重く、普段の毅然とした彼女の立ち居振る舞いが嘘のようである、

「そういえばー、あんたら屋台だすんだって?」

ブノワトがジャネットに問い掛ける、

「えー、姉さんそれ誰に聞いたんですかぁー、別に秘密ではないですけどー、一応そのつもりで動いてますです、はい」

ジャネットはテーブルに突っ伏して顔を傾けて回答する、

「登録はすんだの?場所取り大変よ毎月の事だけど」

「登録?場所取り?」

ジャネットは不思議そうな顔をして、何かに気付くとパッと上半身を起こし、アニタを見てパウラを見る、二人共に無言である、

「あんた、事務処理してないわね、締め切りは3日前だから、まだ、大丈夫だけど、良い場所もう無いかもよ」

「すいません、ブノワトさん、それはどういうことですの」

ジャネットの奥ではエレインがジャネットと同じような顔をしている、

「ん?あんたらもしかして・・・」

そこでブノワトは何かを察して溜息を吐いた、

「しょうがない、可愛い後輩の為に一肌脱ごうかしら」

すっとブノワトは立ち上がると壁の黒板に向かう、先程迄とは打って変わった神妙な沈黙の中、ブノワトによる屋台出店迄の手続き講座が始まった。



「以上です、さて、どこから手をつける必要があるのかしら?」

ブノワトは一頻り屋台出店迄の手続きを説明した、それは実に明解で分かり易い講義であり、本職のユーリにも文句を付ける部分がない程であった、

「えっと、出店する商品がはんぎまり?って感じです、で・・・それだけです」

アニタが代表して答える、その答えは尻すぼみに小声となった、

「エレインさんの方も?」

「そうですわね、商品はほぼ、ほぼ決まってますのよ」

「つまり、それだけなのね?」

ブノワトの実に厳しい目が一同を射竦める、その視線の強さは社会人と学生を隔てる経験と覚悟の差によるものなのであろうか、

「でも、良かったじゃない、まだ期限はあるんでしょ」

ユーリは他人事のように言う、実際の所、他人事である、

「ですので、期限は問題ではないのですよ、場所が問題なのです・・・そういえば、学校の許可申請もあった筈ですよ」

ブノワトの視線がユーリに向かった、

「そうなの?うーん、ダナに明日聞いてみなさい、わたしは担当外だわ」

やはり他人事である、

「はいはい、夕食出来たわよー、皆用意してー」

厨房からソフィアが顔を出す、

「どうしたの、何か雰囲気が暗いわよ」

ソフィアは怪訝そうな顔をするがすぐに引っ込み、それと同時にミナとレインがお手伝いーと楽し気に厨房へ向かった、二人は大事な講義の最中にも係わらず食堂の一角で黒板に向かって絵描きに興じていたのである、近頃静かだなと感じると白墨と黒板の奏でる乾いた衝突音が響いているのが食堂の恒例となっていた、やがてオリビアが大皿を持って現れ、その手に乗った大皿には大きなパイが鎮座していた、

「今日は、ミートパイとたまごスープの蕎麦団子入りです、あっさりしていて美味しいですよ、蕎麦駄目な人います?」

ミートパイの香ばしい香りが食堂に漂い溢れ、それまでその場を支配していた柑橘の爽やかな香りを緩やかに駆逐していく、

「しょうがない、食事を終えたら改めて打合せしましょう」

ブノワトの大きな溜息と一緒に夕食の準備が始まった。
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