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本編
16話 開店 その9
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「ソフィア様、その節は大変お世話になりました」
ライニールはベンチに座り談笑しているソフィアに気付いて駆け寄った、そして勢い良く腰を折る、
「あら、ライニールさん、こちらこそお茶会の時は御免なさいね」
今にも昼寝を始めそうな二人を置いてソフィアは腰を上げた、
「いえ、そのような事は決して、ソフィア様のお陰で奥様は快癒されました、何と御礼を言って良いかまったく、言葉がありません」
「そう、あ、そのようね」
店舗の前で泣き崩れるケイランの前に、綺麗な立ち姿のユスティーナが見える、その手はレアンが支えているが馬車に乗り街に出てこれるほど回復したという事なのだろう、
「良かったわね、遠目にも健康そうに見えるけど、体力はまだかしら?まぁ、暫くは無理させちゃだめよ」
「勿論です、しかし、食が戻られて屋敷内を自由に歩けるようになりました、今日も是非街を見たいと御自分から・・・それに、レアン様がずっとついて回られて、やっと、親子の関係を取り戻した様子です、なんとも、ありがたいことです」
しみじみと語るライニールに、
「お嬢様来てるの?」
ライニールの姿を見てから急いでブロンパンを食べきったミナはさらに強引に飲み込んでライニールにしがみ付く、
「はい、あちらに、ミナさんも、本当にありがとうございました」
ライニールの礼にキョトンとした顔を見せて、
「ん、じゃ、行く」
パッとミナは走り出した、
「こらこら、失礼の無いようにね」
ソフィアの言葉はミナには届いていないようであった、それから暫くしてエレインが一行を寮内に通すのが見える、
「ライニールさんは行かなくて良いの?」
「はい、御家族の団欒は大事にしたいのです、屋敷ではどうしても周りに人が多いですから・・・って、まぁ、メイドの一人くらいはよいかな・・・」
ライニールは3人で過ごせる時間を重要と考えている様子である、
「あー、そういうもんなの貴族様って?」
「そうですね、他家がどうかは分かりませんが、当家は奥様の事もありましたし家族内にも距離があったと思います、それがゆっくりとですが近くなっていると感じます、レアン様にはそれが一番必要だったのかとも思いまして」
「そう」
「はい、奥様が元気になられて、レアン様が寄り添うようになってから、レアン様の癇癪も無くなりました、やはりレアン様は優しいお嬢様なのです」
「そう」
ソフィアは静かに相槌を打つ、
「でも、大変だったんじゃないの?胡麻が毒になるなんて誰も思わないでしょ」
「そうですね、それはもう大変でした、ですが、どんな医者でも奥様を回復させる事は出来ませんでしたからね、最後の希望というか、やってみる価値はあると・・・私もですが、レアン様が一番声を上げられまして」
「なるほどね、まぁ胡麻だしね、絶対使わないと駄目な食材ではないから、その点は良かったわね、人によっては小麦と蕎麦が駄目なのよ、そうなると、大変なのよね」
「そう、それです、ソフィア様はその知識はどちらで得られたのですか?」
ライニールは思い出したように問うた、
「どちらって、そうねぇ」
とソフィアは斜め上を見る、どう誤魔化そうかと思案して、
「昔、これも貴族様の知り合いにね、同じような症状だったのよね、その人は可愛そうに小麦だったのよ、どうやら貴族様に多い病のようね、あれかしら良い物ばかり食べているとそうなるのかしら?」
「それで?」
「それでって、まぁその人に聞いてね、で、知り合いに相談したりなんだり、医者の知らない、病とは言いにくい病気も結構あるって事ね」
「なるほど」
言葉を探しながら答えるソフィアを見て、ライニールはそこで追及の手を緩めた、
「それより、ほら、あなたも試しなさい、美味しいわよ」
ソフィアはライニールを連れて店舗へ向かう、マフレナへライニールを渡すとミナとレインを探す、
「でねー、お嬢様がー」
トーラーを見上げて何かしら一生懸命なミナとそれを無表情で眺めるレイン、トーラーは何とも困った顔であるが邪険にするわけにもいかず、来客が落ち着いているのがせめてもの救いであろうか、
「どう?お客様は予定通り?」
寮からエレインが戻って来る、
「はい、やはり時間を大雑把でも区切ったのが良かったですね、貴族方が被るとどうしても対応しきれなくなります、ですが、そろそろ学園関係者と皆さんの御家族が来るかと、その後くらいでリシア様ですね」
「そっか、じゃ、順調ね、まぁ、明日は生徒のみなら気も使わないし、もう少し頑張りましょうね」
「勿論です、ありがとうございます」
「おー、どんな感じー」
ジャネットが額に汗して駆けて来た、
「わ、ジャネットさん、もう放課の時間ですか」
エレインは素直に驚く、
「えへへ、走って帰ってきた、気になっちゃってさー、で、で?」
「順調です、皆さん喜んで頂いてますよ」
「そっか、うん、だよね、じゃ、どうしよう?お店手伝う?」
「そうね、ただ、店の方はもう暫く婦人部に任せて良いわよ、準備だけしてもらって、いつでも交代できるようにだけお願いしますね」
「りょうーかーい」
ジャネットは騒々しく婦人部に声を掛けながら店舗の2階へ駆け上がった、
「そうなると、学園長達が来るかしら、まぁ、大丈夫でしょ」
エレインがさてとと店舗全体に視線を移した頃に、
「すいません、エレイン様、遅れました」
オリビアがジャネット同様駆け込んできた、息も絶え絶えで苦しそうである、
「オリビアまで、もう」
エレインは微笑む、
「その、ジャネットさんは足が速いんですよね、とても、追い付けませんでした」
ハーハーと息を整えつつ額の汗を拭う、
「ジャネットさんと駆けっこで勝負するなんて、らしくないですよ、ほら、貴女も交代する準備だけしておいて下さい」
「はい、すいません」
オリビアは2度3度大きく深呼吸をしてジャネットの後を追った、エレインはそんなオリビアを見送りつつそろそろかしらとそっと木戸から食堂を窺う、中ではクレオノート一家が楽し気に食事を続けている、しかしカラミッドの皿はもう空になりそうであった、
「そろそろね、マフレナさん、お客様をお連れしますので、予定通りに、ケイランさんに引き続きお願いしましょう」
マフレナと軽く打合せをして食堂に向かった。
「なるほど、実際やると難しいな」
「大丈夫です、レアン様、お上手ですよ」
「ケイランさん、レアンを甘やかしては駄目ですよ」
「お嬢様、ガンバエー」
「ミナの応援は力が抜けるなぁ」
「ヒドーイ、ミナもやりたいなー」
「ミナちゃんはもう少し大きくなってからね」
「はい、ではもう一度、垂らしてから空気を混ぜるように掻き混ぜて、それから伸ばすのがコツですよ」
「簡単に言うのう、でも、うん、何となく分かってきたぞ」
キャイキャイとレアンのアイスケーキ制作は続いた、店舗の空いた場所に旧式の紫大理石を設置し、店舗内にはレアンとケイラン、店舗外ではユスティーナとカラミッドが並んで眺めており、その隣りには背の届かないミナをトーラーが抱えていて、さらに隣りにはライニールもハラハラとレアンの手元を覗いている、
「うむ、これでどうじゃ」
やっと満足できる形が出来たらしい、
「はい、これは良いですね、では、どうします、このままでもブロンパンで包んでも良いですよ」
「そうさのう、父上はどの食し方が良いかの」
レアンがカラミッドを見る、
「ん、先で良いのか?後でも良いぞ」
「カラミッド様に食べて欲しいのですよ、ねぇ、レアン?」
「そうです父上、それに次はもっと良くなります、それは母上のです」
「そういう魂胆か、まったくこの娘は」
カラミッドは嬉しそうに笑うと、
「では、ブロンパンで、黒糖ソースを頼もうか」
「はい、承りました」
ケイランが広げたパンにアイスケーキを載せると、
「こうかな?」
レアンが見様見真似で三角に折りたたむ、そこに黒糖ソースを流し込むと、
「うむ、出来たぞ、父上、どうぞ」
少々不格好であったが作り上げたブロンパンを誇らしげにカラミッドに差し出す、
「これは、お嬢様、光栄の至り、早速頂きますぞ」
カラミッドは砕けた口調でお道化るとじっくりとブロンパンを見る、
「さ、どうぞ、溶けちゃいますよ」
ユスティーナの優しい言葉に、
「そうだな、頂こう」
神妙な口調になると、そっと口に運んだ、
「うむ、美味いな、美味いぞ、レアン」
「材料は一緒なのです、美味しいに決まってます」
レアンは冷静である、既に次の作業にかかっていた、
「うむ、まったくじゃ、美味いに決まっておるな」
うんうんと涙ぐむカラミッドはあっという間に平らげてしまう、
「カラミッド様、もう少しゆっくり食せば宜しいのに」
「そう言われてもな、美味いものは美味いのだ、まったく」
夫婦は楽し気に微笑み合う、
「母上はどうされます?」
「そうねぇ・・・」
微笑ましい家族の光景をエレインと従業員達は遠巻きに笑顔で眺めるのであった。
ライニールはベンチに座り談笑しているソフィアに気付いて駆け寄った、そして勢い良く腰を折る、
「あら、ライニールさん、こちらこそお茶会の時は御免なさいね」
今にも昼寝を始めそうな二人を置いてソフィアは腰を上げた、
「いえ、そのような事は決して、ソフィア様のお陰で奥様は快癒されました、何と御礼を言って良いかまったく、言葉がありません」
「そう、あ、そのようね」
店舗の前で泣き崩れるケイランの前に、綺麗な立ち姿のユスティーナが見える、その手はレアンが支えているが馬車に乗り街に出てこれるほど回復したという事なのだろう、
「良かったわね、遠目にも健康そうに見えるけど、体力はまだかしら?まぁ、暫くは無理させちゃだめよ」
「勿論です、しかし、食が戻られて屋敷内を自由に歩けるようになりました、今日も是非街を見たいと御自分から・・・それに、レアン様がずっとついて回られて、やっと、親子の関係を取り戻した様子です、なんとも、ありがたいことです」
しみじみと語るライニールに、
「お嬢様来てるの?」
ライニールの姿を見てから急いでブロンパンを食べきったミナはさらに強引に飲み込んでライニールにしがみ付く、
「はい、あちらに、ミナさんも、本当にありがとうございました」
ライニールの礼にキョトンとした顔を見せて、
「ん、じゃ、行く」
パッとミナは走り出した、
「こらこら、失礼の無いようにね」
ソフィアの言葉はミナには届いていないようであった、それから暫くしてエレインが一行を寮内に通すのが見える、
「ライニールさんは行かなくて良いの?」
「はい、御家族の団欒は大事にしたいのです、屋敷ではどうしても周りに人が多いですから・・・って、まぁ、メイドの一人くらいはよいかな・・・」
ライニールは3人で過ごせる時間を重要と考えている様子である、
「あー、そういうもんなの貴族様って?」
「そうですね、他家がどうかは分かりませんが、当家は奥様の事もありましたし家族内にも距離があったと思います、それがゆっくりとですが近くなっていると感じます、レアン様にはそれが一番必要だったのかとも思いまして」
「そう」
「はい、奥様が元気になられて、レアン様が寄り添うようになってから、レアン様の癇癪も無くなりました、やはりレアン様は優しいお嬢様なのです」
「そう」
ソフィアは静かに相槌を打つ、
「でも、大変だったんじゃないの?胡麻が毒になるなんて誰も思わないでしょ」
「そうですね、それはもう大変でした、ですが、どんな医者でも奥様を回復させる事は出来ませんでしたからね、最後の希望というか、やってみる価値はあると・・・私もですが、レアン様が一番声を上げられまして」
「なるほどね、まぁ胡麻だしね、絶対使わないと駄目な食材ではないから、その点は良かったわね、人によっては小麦と蕎麦が駄目なのよ、そうなると、大変なのよね」
「そう、それです、ソフィア様はその知識はどちらで得られたのですか?」
ライニールは思い出したように問うた、
「どちらって、そうねぇ」
とソフィアは斜め上を見る、どう誤魔化そうかと思案して、
「昔、これも貴族様の知り合いにね、同じような症状だったのよね、その人は可愛そうに小麦だったのよ、どうやら貴族様に多い病のようね、あれかしら良い物ばかり食べているとそうなるのかしら?」
「それで?」
「それでって、まぁその人に聞いてね、で、知り合いに相談したりなんだり、医者の知らない、病とは言いにくい病気も結構あるって事ね」
「なるほど」
言葉を探しながら答えるソフィアを見て、ライニールはそこで追及の手を緩めた、
「それより、ほら、あなたも試しなさい、美味しいわよ」
ソフィアはライニールを連れて店舗へ向かう、マフレナへライニールを渡すとミナとレインを探す、
「でねー、お嬢様がー」
トーラーを見上げて何かしら一生懸命なミナとそれを無表情で眺めるレイン、トーラーは何とも困った顔であるが邪険にするわけにもいかず、来客が落ち着いているのがせめてもの救いであろうか、
「どう?お客様は予定通り?」
寮からエレインが戻って来る、
「はい、やはり時間を大雑把でも区切ったのが良かったですね、貴族方が被るとどうしても対応しきれなくなります、ですが、そろそろ学園関係者と皆さんの御家族が来るかと、その後くらいでリシア様ですね」
「そっか、じゃ、順調ね、まぁ、明日は生徒のみなら気も使わないし、もう少し頑張りましょうね」
「勿論です、ありがとうございます」
「おー、どんな感じー」
ジャネットが額に汗して駆けて来た、
「わ、ジャネットさん、もう放課の時間ですか」
エレインは素直に驚く、
「えへへ、走って帰ってきた、気になっちゃってさー、で、で?」
「順調です、皆さん喜んで頂いてますよ」
「そっか、うん、だよね、じゃ、どうしよう?お店手伝う?」
「そうね、ただ、店の方はもう暫く婦人部に任せて良いわよ、準備だけしてもらって、いつでも交代できるようにだけお願いしますね」
「りょうーかーい」
ジャネットは騒々しく婦人部に声を掛けながら店舗の2階へ駆け上がった、
「そうなると、学園長達が来るかしら、まぁ、大丈夫でしょ」
エレインがさてとと店舗全体に視線を移した頃に、
「すいません、エレイン様、遅れました」
オリビアがジャネット同様駆け込んできた、息も絶え絶えで苦しそうである、
「オリビアまで、もう」
エレインは微笑む、
「その、ジャネットさんは足が速いんですよね、とても、追い付けませんでした」
ハーハーと息を整えつつ額の汗を拭う、
「ジャネットさんと駆けっこで勝負するなんて、らしくないですよ、ほら、貴女も交代する準備だけしておいて下さい」
「はい、すいません」
オリビアは2度3度大きく深呼吸をしてジャネットの後を追った、エレインはそんなオリビアを見送りつつそろそろかしらとそっと木戸から食堂を窺う、中ではクレオノート一家が楽し気に食事を続けている、しかしカラミッドの皿はもう空になりそうであった、
「そろそろね、マフレナさん、お客様をお連れしますので、予定通りに、ケイランさんに引き続きお願いしましょう」
マフレナと軽く打合せをして食堂に向かった。
「なるほど、実際やると難しいな」
「大丈夫です、レアン様、お上手ですよ」
「ケイランさん、レアンを甘やかしては駄目ですよ」
「お嬢様、ガンバエー」
「ミナの応援は力が抜けるなぁ」
「ヒドーイ、ミナもやりたいなー」
「ミナちゃんはもう少し大きくなってからね」
「はい、ではもう一度、垂らしてから空気を混ぜるように掻き混ぜて、それから伸ばすのがコツですよ」
「簡単に言うのう、でも、うん、何となく分かってきたぞ」
キャイキャイとレアンのアイスケーキ制作は続いた、店舗の空いた場所に旧式の紫大理石を設置し、店舗内にはレアンとケイラン、店舗外ではユスティーナとカラミッドが並んで眺めており、その隣りには背の届かないミナをトーラーが抱えていて、さらに隣りにはライニールもハラハラとレアンの手元を覗いている、
「うむ、これでどうじゃ」
やっと満足できる形が出来たらしい、
「はい、これは良いですね、では、どうします、このままでもブロンパンで包んでも良いですよ」
「そうさのう、父上はどの食し方が良いかの」
レアンがカラミッドを見る、
「ん、先で良いのか?後でも良いぞ」
「カラミッド様に食べて欲しいのですよ、ねぇ、レアン?」
「そうです父上、それに次はもっと良くなります、それは母上のです」
「そういう魂胆か、まったくこの娘は」
カラミッドは嬉しそうに笑うと、
「では、ブロンパンで、黒糖ソースを頼もうか」
「はい、承りました」
ケイランが広げたパンにアイスケーキを載せると、
「こうかな?」
レアンが見様見真似で三角に折りたたむ、そこに黒糖ソースを流し込むと、
「うむ、出来たぞ、父上、どうぞ」
少々不格好であったが作り上げたブロンパンを誇らしげにカラミッドに差し出す、
「これは、お嬢様、光栄の至り、早速頂きますぞ」
カラミッドは砕けた口調でお道化るとじっくりとブロンパンを見る、
「さ、どうぞ、溶けちゃいますよ」
ユスティーナの優しい言葉に、
「そうだな、頂こう」
神妙な口調になると、そっと口に運んだ、
「うむ、美味いな、美味いぞ、レアン」
「材料は一緒なのです、美味しいに決まってます」
レアンは冷静である、既に次の作業にかかっていた、
「うむ、まったくじゃ、美味いに決まっておるな」
うんうんと涙ぐむカラミッドはあっという間に平らげてしまう、
「カラミッド様、もう少しゆっくり食せば宜しいのに」
「そう言われてもな、美味いものは美味いのだ、まったく」
夫婦は楽し気に微笑み合う、
「母上はどうされます?」
「そうねぇ・・・」
微笑ましい家族の光景をエレインと従業員達は遠巻きに笑顔で眺めるのであった。
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