セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

43話 職人達とネイルケア その7

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その頃六花商会の事務所である、エレインとテラとブラスが羊皮紙に書かれた図面を間に置いて打ち合わせ中であった、議題は店舗の改修である、取得した屋敷の店舗部分をどう使うかをまず考え、その上で必要な改修工事の算段をつける、これはテラと言えど始めての作業である為、ブラスが経験と知識を買われて相談相手になっていた、無論改修工事を依頼する為でもあるが、なにせ史上初のガラス鏡の店舗なのだ、前例が無く、ただ商品を並べれば良いというわけではないとエレインは考えていた、彼女の頭の中には明確な方向性があるにはあったが、その妄想でしかないフワフワグズグズしたものと実際にある店舗をどう使うかの擦り合わせとして重要な作業なのである、

「なるほど、詳細な図面ですね」

「はい、これはありがたいです」

エレインとテラがしげしげと図面を見つめる、

「そうですね、ちょっと気合入れました」

ブラスが照れ笑いを浮かべ、

「で、基本的な考え方なんですが、扉の大きさが基本になっています、この幅ですね、簡単に言えば、これが一単位で、これの倍数がこの部屋の幅になります、横もそうですが縦もそうなります、こちらの事務所もそうですね、つまり建築物の基本の大きさになります」

ブラスが図面を指し示し、さらに事務所内を見渡す、エレインとテラも顔を上げて扉や壁を見渡し、感覚的に理解したのかなるほどと呟いた、

「さらに、調度品もそれに合わせて作られます、棚とか箪笥は若干の差異はありますが、扉の幅と同じかその内側に納まる大きさになっております」

「えっ、そうなんですか?」

エレインが驚いている、

「はい、勿論凝った装飾の入った家具はその限りでは無い場合が多いですが、基本はそうです、なので壁に並べたりした時には目安になるのですね、特に幅に関してはある程度の範囲内で共通していないと置きにくいんですよね、さらに奥行ですね、これは約半分です、これも同じ理屈です、ある程度共通してないと配置した時にでこぼこしちゃう、それと高さも同じですね、高さは扉の高さを超える棚や箪笥は普通は作りません」

「断言できますの?」

エレインが意地悪そうに問うと、

「はい、できますよ」

ブラスは何を当然の事を聞くのかと不思議そうである、

「あら、理由があっての事ですわよね?」

エレインは尚食い下がる、すると、

「あ、もう、会長ったら」

テラが何かに気付いて微笑み、

「家具に関しては確かにそうですよね、だって、扉から入らなくなります」

テラが当然の事を口にして、ブラスは、

「はい、その通りです」

何を今更といった感じである、

「・・・分ってましたわよ、もう、なによ、二人して・・・」

エレインもその意味に気付いて顔を真っ赤にした、

「はい、それにあまりに大きい家具は使い難いです、例えば扉よりも大きい箪笥があったとしたら一番上の引き出しはどうやっても使えなくなってしまいます、俺の顔と同じかそれより上にある引き出しですからね、そりゃ使えないですよね、ではそれ以外の家具はどうしているかというと、例えば、壁一面に棚がある場合は大工が作ります、バラバラの部材を運び込んで室内で組み立てるのですね、寝台とかもそうですよね、部材で運び込んで室内で組み立てる、で、完全に壁とか床に固定してしまう、そんな感じで現場に合わせるのが普通です、最近ですとお店とかでは、壁一面を棚にするのが流行りらしいです、今回はそこまでは必要無いのかなと思いますが参考までに」

ブラスはエレインの様子を気にする事無く淡々と話し続ける、今日のブラスは実に事務的な口調であった、いつもの適当で遊び半分な態度は欠片も見えない、真摯に説明し、自身の経験と知識の中から必要であろう事項を感情を交えず説明している、恐らくであるがブノワトが隣りにいない事も関係しているのであろうか、これが彼本来の仕事の仕方なのであろうなとテラは深読みしてほくそ笑む、

「なるほど、そうしますと、この図面を見ながら配置を考えていけば良いのですね」

言葉少なくなってしまったエレインに代わりテラが確認する、

「はい、屋敷に残されていた棚が数本ありますし、それらは先程話した基本の大きさです、高さも胸くらいまでなので、一般的な商品棚といってよいかと、そうなると、奥行と幅が分ればこの図面に配置してみるのは簡単ですよね、そこで、こういうのを作ってきました、使ってみて下さい」

ブラスが傍らに置いた布袋から小さな木片を数枚取り出す、

「これがこの図面に合わせて作った棚の大きさの木片です、これをこんな感じに配置してみるんですね」

図面上に木片を並べ始めるブラスである、

「まぁ、これは分かり易い」

「はい、木片は多めに用意してありますのでいろいろやってみて下さい、実際に動かすと手間ですがこれであれば、楽なもんです、ただキツキツに並べるのは勘弁して下さい、現場では絶対に収まらないので」

「確かに、そうなると、こちらが入口ですから、動線を考えて・・・うん、鏡を飾る壁に大して棚を配置するには・・・」

テラが木片を動かし始め、エレインも、

「人の大きさはどう考えればいいんですの」

抑えた感じの咳払いを数度してから打ち合わせに復帰する、

「はい、それも扉の幅を基準に考えて大丈夫かと思います、扉を通れないほど横幅の大きい人はまずいないので、ですので、この木片を2枚並べた大きさが・・・こんな感じで正方形にして、これが1人分の大きさと考えて良いかと思います、上から見た感じですね、少し大きいかなと思いますが、この程度の空間がないとかなり狭いと感じる筈です」

ブラスがさらに木片を追加して、テラが商品棚として並べた木片と木片の間に置く、

「こう見ますと、1人の方が通るのは楽ですが、2人並んで立つのはちょっと難しいかなと、平民相手の商売であれば十分な空間なんですが、貴族相手の商売ですと、2人がこう斜めに並んで歩いてもさらに余裕があった方が良いと言われておりますね」

「そうね、貴族様方は必ず従者の方が付き従いますからね、そこに店員も付いて歩くとなると・・・うーん、棚を中央に置こうかと思っておりましたが・・・少し狭いのかしら」

「であれば、棚をこう真ん中に2列配置しまして・・・」

「そうなるとこちらの壁にガラス鏡を並べる事になりますでしょう」

「あ、こちらの空間も欲しくなるのですね」

「こちらの壁側は通路ではないですからね、こちらもある程度の空間を置きまして・・・こうかしら?」

エレインとテラがあーでもないこーてもないと指を忙しくする、ブラスはその様子を静かに観察しつつ、

「窓からの採光も考えて下さい、それと暖炉ですね、私も少し悩んだのですが、仮に暖炉のある壁にガラス鏡を配置する事にすると、確かその壁は赤でないと・・・と伺ってましたが・・・」

助言を口にして、その助言から想起された事前に相談された事柄が引き出される、

「そうね、それもあったわね、あの壁を赤ですか・・・」

「少しクドイかもですね・・・」

うーんと首を捻る二人である、

「えっと、広い方の壁ですからね、あの部屋自体が広いとはいえ棚を配置してガラス鏡を配置すると現状よりかは手狭に感じると思います、そこで壁を濃い色にするのは今一つかな・・・と、こちらの短い壁であればなんとかと思いますが、それにしても赤の色味も勘案する必要が出てきます」

「その通りですね」

「ですが、そこは譲れないのですよ」

エレインがパトリシアの顔を思い浮かべる、

「そうですか・・・であれば、一度塗ってみても良いかと思います・・・正直なところ、赤一面に塗った壁は見た事がないのですよ、偉そうな口をききましたが・・・はい、それと、修正は難しくないです、やはりクドイようであれば漆喰を塗り直せばよいです、但し、予算の問題がありますけど」

ブラスは腕を組んで目を瞑る、壁一面を赤で塗装した場面を思い浮かべるが、今一つ想像が難しかった、

「そういわれれば、私もですね、普通壁は木そのままか漆喰ですもんね」

「その上冬場は毛皮や絨毯を張ったりしますからね、壁そのものを装飾にするというのは馴染みが無いですね」

「なるほど、壁を装飾品にすると考えればいいのかな?うん・・・そう考えれば有効なのかも・・・面白いかもですね・・・上手くいけばですが」

「上手くいけばね、一度、アフラさんに相談してみようかしら、実際に塗った壁を見てみたいとも思いますし」

「あるんですか?そんなの?」

「あるらしいです、ただ、ちょっと難しいかしら?うん、ま、その点は要検討としましょう」

「そうですね」

エレインとテラは頷きつつ図面へと視線を戻す、

「あ、では、もう一つ、これも余計なお世話かもしれないのですが、お客さんが休憩される空間ですね、これは暖炉の前が良いかと思いますよ」

ブラスが図面を指し示す、

「それもそうですわね・・・」

「はい、これから寒くなりますからね・・・お客様には温まって頂かないと・・・」

「ですよね、ただ、そうなると暖炉側の壁にガラス鏡を飾るのはどうかなという感じがします、なので、短い面の奥・・・入口の手前の方がいいのかな?そこにガラス鏡を掲示して、で、反対側には3面鏡を置かれるのはどうでしょう?その上で棚はこのような配置に」

ブラスが木片を動かす、部屋の中央に置かれていた棚を外壁側の壁に寄せ、中央を大きく広げた配置である、

「そうですわね、この方が広くて良いかしら?」

「確かに、折角広々とした部屋ですしね、それに応接空間から全体を見渡す事も出来ますし」

「俺も店舗の設計相談は時々受けるのですが、結局あれです、大きく空間を取った方が良いみたいです、お客さんもお店の人も動きやすいので」

「なるほど、そういうものですか」

エレインはうんうんと頷いている、

「確かにそうかもしれませんね」

テラも同意を示した、

「それと、もう一つ、お店の人と打ち合わせをしていると、商品を並べる事に執着というか、それが一番の関心事になってしまっている事があるんです、それは良いのですが、それに付随して・・・正直なところ半分倉庫というか物置になる場合があるんですよね店の中が、残されていた棚もそういうふうな作りでしたね、下半分の引き出しは保管庫なんですよはっきり言えば、上半分に商品が並べられていて、お客さんはその棚を見る、店員さんは補充の為に下の引き出しを使う、一見理にかなってます、ですが、倉庫は別にあるんですよね、それも割と使い易い感じで、なので・・・すいません、小売りの経験が無い俺が言うべきではないのですが、ま、そういう事ですね」

「なるほど・・・その通りですね、うん、どうしてもそうなんです、商品を見せるべきなのに、利便性を考えてしまって、展示できる棚を潰しているんですよ」

テラが目から鱗とばかりに快哉を上げた、

「そうなんですの?」

エレインが不思議そうに問う、

「はい、特に今回のお店に関しては店の中に在庫を置く必要がないのですよね、お客様にお渡しする分は倉庫に入れておいて、注文を受けてから持って来る形で良いのです、検品という感じで確認頂くのですね、そうなると、展示してある商品はあくまで展示物なんです見本なんですよ、これと同じ物を別途お渡し致しますよという感じですね、ガラス鏡に関しては壁に固定しますからね、あわせ鏡や手鏡にしても複数人が触れた品をお渡しするのは印象が良くないです」

「なるほど・・・そういうふうに運用すればいいのね」

店舗の設計から運営方法に話題は移り変わった、ブラスの現実的で遠慮のない意見が役に立っている様子である、それから3人は地下倉庫の在庫方法から人員配置、客の動線と従業員の動線迄様々に意見を交わし合う、そこへ、

「失礼しまーす」

ブノワトの明るい声によって打ち合わせは一先ず終了する事になるのであった。
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