セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

文字の大きさ
507 / 1,471
本編

51話 宴の始末 その7

しおりを挟む
それから厨房ではクレオの一時の調理が始まり、

「あー、ちょっと寮見て来るね」

とジャネットが寮へ戻ると、すぐにミナとレインを連れて戻ってきた、ミナはやはりどこか暗い顔であったが、厨房と言わず事務所と言わず充満する甘い香りにソワソワとし始め、型抜き作業が始まると、

「ニャンコ、ミナ、ニャンコやる」

「えー、早い者勝ち?、じゃ、私はどれにしようかなー」

「ルルはこれ、ワンコ」

「ワンコ?ワンコは犬よね・・・これワンコなの?」

「そうなの、タレ耳のワンコなの、で、コミンは、これ、サレバはこれ、グルジアはこれー、レスタはこれー、レインはこれー」

「これは星?」

「あっ、お花かな?」

「蝶々だー嬉しー」

「・・・葉っぱなのかなこれ?」

「まったく、現金なものじゃのう」

それぞれに型を押しつけると、自分は猫の型を確保して、

「やって見せるから見てるのー」

つま先立ちで作業台に手を伸ばし、グルジアによって伸ばされた生地から次々と型を抜いていく、

「おぉー、ミナちゃん上手ー」

「うふふ、ニャンコは任せて、簡単だからみんなやるのー」

「はいはい、じゃ、どうしようか2人ずつくらいでやりますか」

やはりというべきかグルジアが作業の中心となっている、年齢的なものも大きいが社会経験のあるグルジアはこういった作業でも頼りになる、どのような簡単な作業でも中心となる人物はどうしても必要であり、そういう人物がいた方が円滑に進むものである、さらに、寮の先輩であるジャネットすらねーさん呼びで慕いだしたグルジアの言う事である、他の新入生も異論無くその指示に従っていた、しかし、グルジアはこういった作業にはそれほど慣れてはいない、何となく状況を見ながら指示しているだけであった、だが、それで充分であったりする、

「そんで、そんで、お目目はこの丸でお鼻はバツなのー」

「なるほど・・・」

「わ、可愛いなー、いいなーニャンコ、私も作りたいなー」

「むー、分かった・・・ニャンコはミナのだけど、特別に許す」

「キャー、ありがとうミナちゃん、優しいねー」

「でも、可愛く作るのー、可愛くないとやり直しなのー」

「そっかー、厳しいなー」

「そうなの、お菓子作りは厳しいの」

「えー、とっても楽しいよー」

「楽しいけど厳しいのー」

ミナが加わった事により厨房はより明るい歓声が飛び交う、ジャネットはやっぱ子供は偉大だなーと関心しつつカスタードクリームを仕上げると、

「あっ、ちゃんとあれだ、二つ組みになるように数えながら作ってねー」

と注意点も忘れない、

「あっ、そうですよね、2枚合わせにするんですもんね」

「そうそう、余っちゃってもいいけど、そしたらそしたで食べるだけなんだけどさー」

「それは何か寂しいですよー」

「まぁね、焼き菓子だけでも美味しいんだけどねー、折角だしねー」

「それもそうですね」

「蝶々は模様を入れても可愛いのよー」

「あっ、そうか、それも面白そう」

「ワンコはどうするの?」

「ワンコはこれー、三角でお鼻にするのー」

「おおー、なるほどー」

和気藹々と作業は進み、抜かれた生地は次々と焼き上げられ、さらにルルの手によってカスタードを挟んだそれが出来上がると、

「完成ー、ミナっちどう?」

ジャネットがルルから渡された一枚目を得意そうにミナへ差し出した、ミナはしげしげとその裏と表を確認し、

「む・・・色も厚さも良い感じ・・・うん、合格ー」

「もー、ミナちゃん厳しいなー」

仕上げを担当したルルがホッと一息吐いた、硬い焼き菓子に柔らかいカスタードクリームを塗りつけるのであるが、これが予想以上に難しく慣れが必要な作業のようである、その為、ジャネットに確認しながら思考錯誤しつつの作業となってしまい妙に時間がかかってしまった、しかし、それだけの価値はあったようである、

「合格かー、やったねー」

「いえー」

サレバとコミンが片手を高々と上げてその手を打ち合った、パンッという明るい音が響き、

「わっ、何それ、カッコイイ」

「えへへー、うちの田舎だと上手くいったらやるんですよー」

「いいなー、ミナっちもやろう」

「どうやるのー」

「えっとねー、片手でも両手でもいいから頭より上に上げて、それで気持ちを合わせてこうです」

サレバが目配せし、コミンがサッと両手を上げた、ニヤリと微笑んだサレバがこちらもサッと両手を上げると、再びパンッと気持ちの良い手拍子の音が響く、

「えっと、こう?」

恐る恐るとミナは小麦粉塗れの両手を上げ、ジャネットが低いなーと思いつつもその手に両手を合わせた、パンッとこちらも子気味よい音が響き、

「おお、何か気持ちいい」

「うん、楽しいー、ルルもー」

ミナは両手を上げて隣りに立つルルに向かい、

「じゃ、私は、レスタとー」

ジャネットとミナはその場にいる全員とハイタッチを繰り返し、その度に歓声が巻き起こった、そしてそれぞれが手の届く範囲でハイタッチを繰り返す、手に付着していた小麦粉が舞い散る中、心からの笑い声が厨房を満たす、しかし、

「こりゃ、焦げるぞ」

ミナとレインがハイタッチを終えた瞬間に、レインの厳しい声が飛んだ、

「あっ、やべ」

「そうだったー」

ジャネットとルルが慌てて溶岩板に取り付き、さらに大きな笑い声が起こる、

「楽しいな・・・えへへ」

レスタが静かに呟いた、同年代の友達が居なかったレスタとしては夢にも見れなかった眩しい程の状況であった、兄達が大声を上げながら山野を駆け回り、時々怒られながらも汚れた顔で輝くような笑顔を浮かべているのをいつも羨ましそうに眺めていたのであるが、今正にあの輝くような笑顔を自分も浮かべているのであろうかと考えてしまう、どうにもレスタの悪い癖なのであるが、どうしても自分を一歩引いて観察してしまうのであった、それは親に褒められた時も叱られた時も嬉しい時も泣いている時もそうであった、自分がどう見えているかとか回りの人間はどう見ているかとか、何故自分はそうしているのかとか、こうすれば何が変わるのだろうかとか、この行為に意味はあったのであろうかとか、ただ素直に感情を吐き出せば良い事には薄々気付いているのであるが素直にそう出来ない性分なのである、思慮深いとも観察力があるとも異なった意味合いのそれはレスタとしては幼少期からの癖であり、他人は感情を発露している時にどう考えているのかと勘繰った事もあったが、そのような会話が成立する相手はおらず、両親にも兄弟にも相談していない、故に自分が特殊であるか普通であるかの判断基準も持ち合わせていなかった、恐らくこの場で話題に出したら、グルジアあたりにめんどくさい性格ねと笑い飛ばされた事であろう、大人から見ればその程度の事なのであるが、レスタは自分のこの性分への対処の仕方を未だ理解していなかった、

「そうですね、楽しいですね」

グルジアも心の底から湧き上がる笑顔を抑えられずにいた、そしてそれを素直に表に出している事を幸せに感じている、実家ではどうしても暗く陰鬱としていたし、本人もそうであるが周りがそうすべきとする見えない圧力もあった、家族はそれを危惧していたが、旦那を喪って間もない状態では外面的にも何ともしようのない事でもあったのである、しかし、今日この場でやっと久しぶりに自然な笑顔を取り戻した感がある、高が菓子作りなのであるが、同年代の女性達で一つの事に取り組む事等グルジアとしては初めての行為であった、ルルやサレバ達は田舎育ちという事もあり、祭りの準備や村総出で行う植え付けと刈入れの時は駆り出される事が常であり、そうなると当然であるが子供達で出来る仕事を割り振られ、キャーキャーと騒ぎつつ怒られながら事に当たった、田舎では子供達も立派な労働力なのである、しかし都会育ちで商家のお嬢様であったグルジアは集団で何かをやる経験は少なかった、あったとしてもそれはより年嵩の身内と一緒であったり、商売関係や嫁ぎ先での嫁としての立場を纏った集まりであった、つまりある程度片意地を張らなければならない場所が多かったのである、故にグルジアは思う、この場のように純粋で他意の無い笑顔に包まれるのは貴重な事なのかもしれない、学問を志した自分の選択はこんな些細な事も含めて間違っていなかったと、

「あ、そうだ、この生地使い切っちゃっていいんですか?」

「いいよー」

「そんなに焼きます?」

「そのつもりー、ほら、ルルさんのお土産もだけど、みんなで食べる分も作っちゃっおうって、エレイン会長が言ってたからねー」

「わっ、嬉しいですー」

「ふふん、じゃ、どうしようか、いっぱい作ってみんなでお茶にしようか」

ジャネットが軽い感じで言い放ち、

「はーい」

より明るい歓声が厨房に満ちたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

「雑草係」と追放された俺、スキル『草むしり』でドラゴンも魔王も引っこ抜く~極めた園芸スキルは、世界樹すら苗木扱いする神の力でした~

eringi
ファンタジー
「たかが雑草を抜くだけのスキルなんて、勇者パーティには不要だ!」 王立アカデミーを首席で卒業したものの、発現したスキルが『草むしり』だった少年・ノエル。 彼は幼馴染の勇者に見下され、パーティから追放されてしまう。 失意のノエルは、人里離れた「魔の森」で静かに暮らすことを決意する。 しかし彼は知らなかった。彼のスキル『草むしり』は、対象を「不要な雑草」と認識すれば、たとえドラゴンであろうと古代兵器であろうと、根こそぎ引っこ抜いて消滅させる即死チートだったのだ。 「あれ? この森の雑草、ずいぶん頑丈だな(ドラゴンを引っこ抜きながら)」 ノエルが庭の手入れをするだけで、Sランク魔物が次々と「除草」され、やがて森は伝説の聖域へと生まれ変わっていく。 その実力に惹かれ、森の精霊(美女)や、亡国の女騎士、魔王の娘までもが彼の「庭」に集まり、いつしかハーレム状態に。 一方、ノエルを追放した勇者たちは、ダンジョンの茨や毒草の処理ができずに進行不能となり、さらにはノエルが密かに「除草」していた強力な魔物たちに囲まれ、絶望の淵に立たされていた。 「ノエル! 戻ってきてくれ!」 「いや、いま家庭菜園が忙しいんで」 これは、ただ庭いじりをしているだけの少年が、無自覚に世界最強に至る物語。

処理中です...