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本編
58話 胎動再び その17
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夕飯時になり食堂はミーンとティルとオリビアの手によって準備万端整えられ、いつものようにソフィアの口上を待つ面々に向かって、
「はい、今日も創作料理よー」
ソフィアが楽しそうに宣言する、
「でね、今日はほら、昨日作り過ぎちゃったから品数は少ないけどね」
しかし一転ソフィアは申し訳なさそうにそう続けた、確かに品数は少ない、単純に2種類である、皆すっかりと馴染んだシロメンと、こちらは特に御馳走とは言い難い野菜の煮物であった、ただし、その二種共に大きくいつもと違うのが濃厚なチーズの香りをこれでもかと漂わせている点である、
「あー、ソフィア、分かったから、食べていい?」
ユーリがよほど空腹なのであろうかはしたない言葉だなとは思いつつもソフィアを軽く睨む、
「まぁまぁ、でね、知って欲しいのは昨日のチーズとは違うチーズなの、なんだっけ、カマンベールだっけ?」
ソフィアがティルに確認し、ティルは、
「はい、西の方のチーズになります」
ニコニコと笑顔で答える、
「そうよね、西となると、エレインさんはそっちよね、どんなもん?」
何とも曖昧な質問を投げかけるソフィアであった、エレインはどう答えるべきかと悩みつつ、
「はい、確かに、故郷ではチーズとなるとカマンベールですわね、でも、高級品でしたよ、私も食べた事無いかな?父上が饗応の為に仕入れた事はありましたが・・・それだけかしら?」
と悩みながらオリビアへ視線を向け、オリビアもうーんと首を傾げながら、
「はい、御屋敷で料理に使っているのはあまり・・・うん、見た事はないですかね・・・」
と答える、
「そっか、やっぱり高級品なんだねー、でも、うん、何かいっぱい貰ったから贅沢に使っちゃいました」
アッハッハとソフィアは誤魔化すように高笑いして、
「でね、たぶん大丈夫だと思うんだけど、食べ過ぎないようにして欲しいかな?」
とソフィアは続け、ジャネットやエレインはん?と何かを思い出し、
「もしかして?」
「もしかして?」
と同時にソフィアへ視線を向け、
「もしかするの?」
ミナがまだかなーと思いながらジャネットとエレインの顔を見上げた、
「はい、その通りです、このチーズを使ったお菓子を二品作ってみました、なので、食の細い人は注意してねー」
途端オーッと女性の声とは思えない低い歓声が巻き起こり、
「チーズのお菓子?」
「甘くなるのかな?」
「すごい贅沢だね」
「うん、楽しみ」
「でも、こっちも美味しそうだよー」
「だよねー」
「また、お腹いっぱいになっちゃうー」
期待と不安と悲鳴が交じり合う、実際の所昨日のチーズ料理はソフィアが思った以上に余ってしまった、チーズそのものが消化の良い食材ではない事と、初めて見る料理という事、さらに味も良かった為に皆がっついてしまい食べ始めの勢いはあっという間に収束してしまったのである、無論その余った分は今朝の朝食に回され、それはそれで好評であったのが幸いと言えよう、
「じゃ、頂きましょう」
ざわめきが治まったのを確認してソフィアは腰を下ろし、それを合図に手が動き出す、そして、
「うわ、トロトロ・・・」
「濃厚だ・・・」
「オイシー」
「チーズって味違うんですね」
「そうだね、何か全然別物だよね、昨日とは」
「確かに、昨日のも美味しいけど、カマンベールだっけ?こっちも美味しいな、なんだろ、味が濃い感じがする」
「そうですね、それと干し肉の塩気とが合わさって、うん、シロメンと合うな、凄いな、御馳走だ」
「うん、御馳走だ」
だいぶ舌が肥えてきた若い女性達であるがしっかりとその味を堪能し同時に批評も止まない、シロメンは見る間にその量を減らしていき、
「煮物も美味しいよ」
「うん、合うね、驚きだ・・・」
「ねー、あー、幸せだ・・・」
「もう・・・、でも、分かる」
「でしょー、やっぱり美味しい料理は幸せだよー」
「ちょっとお酢が欲しいかな」
「そうだね、サッパリさせてもいいかもねー」
「確かに」
溶かしたチーズを煮物にかけただけなのであるが、それはそれで好評であった、シロメンの干し肉の塩気が無い為に薄味に感じるが、実際に薄味である、それはソフィアの狙い通りであったりする、あまりに濃い味の品ばかりだと飽きてしまうであろうとの配慮であった、何せチーズそのものが濃厚なのである、調味料としてはそれ以上のものは必要ないであろうと試食の段階で判断された、
「美味しいですよね、ソフィアさん凄いな」
「はい、まったく何て言うか発想について行けないですよ」
ティルとミーンも料理を楽しみながらしみじみと頷き合う、今日も昼過ぎに寮へ顔を出したところ、ソフィアは、
「柔らかいチーズって初めてなのよねー、取り敢えずー、いろいろやってみましょうかー」
と歌うように朗らかに言葉だけなら大変に不安な事を言い出した、しかし既に食堂の黒板には幾つかの料理名が並び、その内でソフィアが今日食べたいものとして二品が選び出された、それがシロメンであり野菜の煮物である、まだ御披露目していない残りの二品は、
「折角だから、お菓子も作ってみたいのよ」
「お菓子ですか?」
驚く二人にソフィアは、
「だって、そのままでも食べれるんでしょ、で、話を聞く限りお酒のつまみよね、だったらお菓子にもなるんじゃないかな?」
と微妙に正しいのか間違っているのか判断に困る事を言い出し、二人は首を傾げて悩むが、ソフィアはまるで気にせず、
「じゃ、やりますか」
と厨房へ入るとシロメンの作り方を二人に教えながら仕込みを始め、試しにとカマンベールを溶かし千切った干し肉に付けて三人で味を見た、すると、
「これだわね」
とニヤリと微笑み、
「これですね」
と二人も微笑む、カマンベールの濃厚な味わいに塩気と干し肉の固いコリコリとした食感が合わさり見事としか言えない一品であった、たかだかそれだけの品なのにである、カマンベールに少なからず接した事のあるティルとしては目から鱗とその思い付きに感服せざるを得ず、ミーンにしてもどう思考すればこんな単純なのに格別な品を作り出せるのかと驚愕するしかなかった、
「ふふ、こう上手くいくと嬉しいわねー」
そんな二人を尻目にソフィアは小躍りしながら調理を続け、そして、この場になっている、
「ミーンさん、昨日の資料読みましたわ」
昨日に続きエレインは険しい瞳をミーンに向け、
「はい、明日もお楽しみ下さい」
ミーンは笑顔で答えとする、
「ふふっ、いいですわ、楽しみに待ちますわよ、こちらでもチーズの仕入れが出来そうですし」
「そうなんですか?」
「カチャーさんに確認して貰いましたから、ただ、ゴーダチーズは確実なのですが、こちらは別途確認ですね」
「なるほど・・・西の方ですからね、王都を超えての搬送となると難しいかもですね」
「そうですわね・・・残念ですわ」
エレインは心底そう思っているのであろう、若干寂しそうに視線を落とすがすぐにフォークでシロメンを口に運び幸せそうに咀嚼する、そして、その場は姦しくもあっという間に終わりを迎え、ソフィアの忠告にも関わらずその日の料理は余すことなく綺麗に片付いた、ソフィアは嬉しく思いつつも呆れ顔であったが、それ以上に皆の瞳の奥がランランと光輝くのを感じ、
「じゃ、片付けたら次ねー」
変に勿体ぶったら一悶着ありそうだと腰を上げる、すぐに生徒達も苦しそうであるが席を立ち、厨房へと皿が片付けられ、その際にも厨房の作業台に置かれた思わせぶりに鎮座する布をかけれた皿を目にして、
「あれですか?」
「あれよー」
「早く食べたいです」
「そうねー」
ソフィアは面と向かって催促する娘達を華麗にいなして片付けを終えると、件の皿を食堂へ運び入れ、
「じゃ、次ねー」
とミーンとティルに目配せする、二人はコクリと頷き新たな小皿を一人一人に配る、
「さて、今度は上品に頂きましょうか、どうする?お茶でも入れる?」
ここでソフィアの意地の悪さがムクムクと顔を出す、これ見よがしにテーブルに置いた皿を前にして勿体ぶってムフンと一息吐いた、
「えー」
と生徒達の非難の声が巻き起こるが、
「それもいいかしら・・・」
「はい、上品にとなれば宜しいかと思います」
落ち着いたエレインとオリビアの様子、それから、
「白湯でもいいけど、お茶もいいわね」
「そうですね、折角ですし」
ユーリとサビナ達大人組もそれも良かろうとソフィアの思い付きに肯定的で、
「そっか、じゃ、ティルさんとミーンさんは、こっちをお願いね、私はお茶用意してくるわー」
とその場を二人に任せてソフィアは厨房へ入り、オリビアがその後をすぐに追った、そして任された二人は、
「では」
「はい、えっと、では、切り分けさせて頂きます」
と布を取り外す、途端、
「おおっ」
「えっと、これがそのカマンベール?」
「へー、そっか、見た事無かったからだけど、随分違うのね」
「小さくない?」
「こういうものなのかな?」
「そうですね、なんか・・・」
「うん、埃っぽい感じ?」
「そうね、全然印象違うなー」
「これでチーズなの?」
大き目の平皿には見た目そのままのカマンベールチーズが並び別の皿には分厚いパンケーキが重そうな見た目を誇示している、
「はい、ソフィアさんがですね、恐らく初めて見るだろうからって、見た目をそのままにお菓子として作ったのがこれです」
ティルが説明し、
「そうなんです、で、こっちなんですが、ソフィアさんはナベヤキって呼んでました、エレインさん達なら覚えているかもって」
「・・・あっ」
ジャネットが思い出してポンと手を打ち、
「うん、覚えてる、最初の最初のやつだ・・・」
ケイスも目を丸くした、
「・・・懐かしいわね」
エレインもしっかりと覚えていたようで、
「なに、どうかしたの?」
事情を知らない面々が三人へ視線を向ける、
「えへへ、えっとですね・・・」
とジャネットが当時の事を思い出しながら懐かしそうに話し、エレインが、
「ある意味でこれが切っ掛けだったのですよ・・・もう随分昔の事のように思います」
涙ぐみそうになりながらナベヤキを見つめた、
「そっかー、そりゃ思い出深いわねー」
「そうですね、えへへ、でも、うん、そっか、ね、頂きましょう」
ケイスは嬉しそうに微笑む、ティルとミーンはそんな深い事情があったのかと面喰ってしまうが、それはそれとしてとナイフを手にして、
「えっと、人数が多いのでうーんと六分割かな」
「だね、それで間に合うはず」
と切り分け作業に入る、それぞれの皿に行き渡る頃に、
「はい、お茶欲しい人」
とソフィアとオリビアが戻って来て、結局全員に茶を配り、
「じゃ、説明はいいかしら?」
とソフィアもめんどくさくなったのか腰を下ろしかけるが、
「はい、聞きたいです」
「そうねー、これはどういう料理なの?」
グルジアとユーリの言葉に口を尖らせながらもソフィアは下げかけた腰を上げ姿勢を正すと、
「えっと、その真っ白いのがカマンベールチーズっていうチーズなんだって、で、今日の料理に使ったのがまさにそれね、で、見た事無い人もいるだろうなと思って、そのままを提供しようと思ったんだけど、ふと思ったのよ」
ソフィアは芝居がかった仕草で小首を傾げると、
「蜂蜜と合うんじゃないかなーって思って、で、試したら、ね」
とミーンとティルへ笑いかける、
「はい、すんごい合うんです」
「うん、美味しいんですよ」
二人も笑顔で答える、一同はなるほどこれがそうかとカマンベールの中程にある黄色の層を見つめた、
「そこでね、上下に二つに切って、折角だからレインの蜂蜜漬けを塗ってみました、たぶん美味しいです、というか絶対美味しいから、レインに感謝するように」
唐突に名前の出たレインは何じゃとめんどくさそうにソフィアを見上げ、ソフィアはフフンと鼻で笑うと、
「もう一つはね、カマンベールチーズとスポンジケーキを組み合わせようと思ったんだけど、上手くいかなくて、ならばと思ってね、ナベヤキの中にその失敗したカマンベールと小麦と卵のソースを挟んでみたの、よく見ると分かるでしょ」
見ればそのナベヤキも三層構造になっており、中央部分は黄色、上と下はまだらな黒色である、黒色は黒糖の塊である、ソフィアのナベヤキはこの完全に溶けていない黒糖が味の秘訣であると、ソフィア自身が語っていた、
「確かに・・・これはどうなんです?」
「美味しいわよ、ね」
再びソフィアの視線がティルとミーンに向かい、
「勿論です」
「はい、絶品です」
試食をしている二人は胸を張って答えた、
「そう言う事、じゃ、頂きましょう」
やっとソフィアは腰を下ろした、それを合図にまずは茶に手を伸ばす者、スプーンに手を伸ばすがどう食すればよいかと躊躇っている者等戸惑っている事が丸わかりであったが、若干の時間をおいてカチャカチャと皿の鳴る音が響きだす、そして、
「うっわ、何だこれ」
「うん、こんな味なんだ・・・」
「甘い・・・美味しい・・・」
「うん、チーズってもっと固いのかと思ってた・・・」
「そうだね、プニプニだ、初めて食べた」
「蜂蜜の甘さとドライフルーツの酸味とチーズの柔らかさが混ざり合って、複雑なのに美味しい・・・凄いなこれ」
「そうだね、単純な料理なのにね」
「うふ、美味しいー」
「こっちのナベヤキも素晴らしいです」
「うん、チーズの香りといい黒糖の優しい甘さといい・・・」
「中と外側の食感が違うのも楽しいね、こりゃお菓子だ、うん、それも高級品だ」
「ドーナッツに入れても美味しいかもね」
「あっ、それ私も思った」
「あら、遅いですわよ、昨日の時点で気付かないとですわ」
「エレイン様、厳しいよー」
「信じられない、凄いな・・・」
「うん、幸せだ・・・」
「うん、幸せだね」
どうやらデザートも好評のようである、ソフィアはニヤリと勝ち誇った笑顔を見せ、ミーンとティルも嬉しそうな笑顔となって二つのデザートに手を伸ばすのであった。
「はい、今日も創作料理よー」
ソフィアが楽しそうに宣言する、
「でね、今日はほら、昨日作り過ぎちゃったから品数は少ないけどね」
しかし一転ソフィアは申し訳なさそうにそう続けた、確かに品数は少ない、単純に2種類である、皆すっかりと馴染んだシロメンと、こちらは特に御馳走とは言い難い野菜の煮物であった、ただし、その二種共に大きくいつもと違うのが濃厚なチーズの香りをこれでもかと漂わせている点である、
「あー、ソフィア、分かったから、食べていい?」
ユーリがよほど空腹なのであろうかはしたない言葉だなとは思いつつもソフィアを軽く睨む、
「まぁまぁ、でね、知って欲しいのは昨日のチーズとは違うチーズなの、なんだっけ、カマンベールだっけ?」
ソフィアがティルに確認し、ティルは、
「はい、西の方のチーズになります」
ニコニコと笑顔で答える、
「そうよね、西となると、エレインさんはそっちよね、どんなもん?」
何とも曖昧な質問を投げかけるソフィアであった、エレインはどう答えるべきかと悩みつつ、
「はい、確かに、故郷ではチーズとなるとカマンベールですわね、でも、高級品でしたよ、私も食べた事無いかな?父上が饗応の為に仕入れた事はありましたが・・・それだけかしら?」
と悩みながらオリビアへ視線を向け、オリビアもうーんと首を傾げながら、
「はい、御屋敷で料理に使っているのはあまり・・・うん、見た事はないですかね・・・」
と答える、
「そっか、やっぱり高級品なんだねー、でも、うん、何かいっぱい貰ったから贅沢に使っちゃいました」
アッハッハとソフィアは誤魔化すように高笑いして、
「でね、たぶん大丈夫だと思うんだけど、食べ過ぎないようにして欲しいかな?」
とソフィアは続け、ジャネットやエレインはん?と何かを思い出し、
「もしかして?」
「もしかして?」
と同時にソフィアへ視線を向け、
「もしかするの?」
ミナがまだかなーと思いながらジャネットとエレインの顔を見上げた、
「はい、その通りです、このチーズを使ったお菓子を二品作ってみました、なので、食の細い人は注意してねー」
途端オーッと女性の声とは思えない低い歓声が巻き起こり、
「チーズのお菓子?」
「甘くなるのかな?」
「すごい贅沢だね」
「うん、楽しみ」
「でも、こっちも美味しそうだよー」
「だよねー」
「また、お腹いっぱいになっちゃうー」
期待と不安と悲鳴が交じり合う、実際の所昨日のチーズ料理はソフィアが思った以上に余ってしまった、チーズそのものが消化の良い食材ではない事と、初めて見る料理という事、さらに味も良かった為に皆がっついてしまい食べ始めの勢いはあっという間に収束してしまったのである、無論その余った分は今朝の朝食に回され、それはそれで好評であったのが幸いと言えよう、
「じゃ、頂きましょう」
ざわめきが治まったのを確認してソフィアは腰を下ろし、それを合図に手が動き出す、そして、
「うわ、トロトロ・・・」
「濃厚だ・・・」
「オイシー」
「チーズって味違うんですね」
「そうだね、何か全然別物だよね、昨日とは」
「確かに、昨日のも美味しいけど、カマンベールだっけ?こっちも美味しいな、なんだろ、味が濃い感じがする」
「そうですね、それと干し肉の塩気とが合わさって、うん、シロメンと合うな、凄いな、御馳走だ」
「うん、御馳走だ」
だいぶ舌が肥えてきた若い女性達であるがしっかりとその味を堪能し同時に批評も止まない、シロメンは見る間にその量を減らしていき、
「煮物も美味しいよ」
「うん、合うね、驚きだ・・・」
「ねー、あー、幸せだ・・・」
「もう・・・、でも、分かる」
「でしょー、やっぱり美味しい料理は幸せだよー」
「ちょっとお酢が欲しいかな」
「そうだね、サッパリさせてもいいかもねー」
「確かに」
溶かしたチーズを煮物にかけただけなのであるが、それはそれで好評であった、シロメンの干し肉の塩気が無い為に薄味に感じるが、実際に薄味である、それはソフィアの狙い通りであったりする、あまりに濃い味の品ばかりだと飽きてしまうであろうとの配慮であった、何せチーズそのものが濃厚なのである、調味料としてはそれ以上のものは必要ないであろうと試食の段階で判断された、
「美味しいですよね、ソフィアさん凄いな」
「はい、まったく何て言うか発想について行けないですよ」
ティルとミーンも料理を楽しみながらしみじみと頷き合う、今日も昼過ぎに寮へ顔を出したところ、ソフィアは、
「柔らかいチーズって初めてなのよねー、取り敢えずー、いろいろやってみましょうかー」
と歌うように朗らかに言葉だけなら大変に不安な事を言い出した、しかし既に食堂の黒板には幾つかの料理名が並び、その内でソフィアが今日食べたいものとして二品が選び出された、それがシロメンであり野菜の煮物である、まだ御披露目していない残りの二品は、
「折角だから、お菓子も作ってみたいのよ」
「お菓子ですか?」
驚く二人にソフィアは、
「だって、そのままでも食べれるんでしょ、で、話を聞く限りお酒のつまみよね、だったらお菓子にもなるんじゃないかな?」
と微妙に正しいのか間違っているのか判断に困る事を言い出し、二人は首を傾げて悩むが、ソフィアはまるで気にせず、
「じゃ、やりますか」
と厨房へ入るとシロメンの作り方を二人に教えながら仕込みを始め、試しにとカマンベールを溶かし千切った干し肉に付けて三人で味を見た、すると、
「これだわね」
とニヤリと微笑み、
「これですね」
と二人も微笑む、カマンベールの濃厚な味わいに塩気と干し肉の固いコリコリとした食感が合わさり見事としか言えない一品であった、たかだかそれだけの品なのにである、カマンベールに少なからず接した事のあるティルとしては目から鱗とその思い付きに感服せざるを得ず、ミーンにしてもどう思考すればこんな単純なのに格別な品を作り出せるのかと驚愕するしかなかった、
「ふふ、こう上手くいくと嬉しいわねー」
そんな二人を尻目にソフィアは小躍りしながら調理を続け、そして、この場になっている、
「ミーンさん、昨日の資料読みましたわ」
昨日に続きエレインは険しい瞳をミーンに向け、
「はい、明日もお楽しみ下さい」
ミーンは笑顔で答えとする、
「ふふっ、いいですわ、楽しみに待ちますわよ、こちらでもチーズの仕入れが出来そうですし」
「そうなんですか?」
「カチャーさんに確認して貰いましたから、ただ、ゴーダチーズは確実なのですが、こちらは別途確認ですね」
「なるほど・・・西の方ですからね、王都を超えての搬送となると難しいかもですね」
「そうですわね・・・残念ですわ」
エレインは心底そう思っているのであろう、若干寂しそうに視線を落とすがすぐにフォークでシロメンを口に運び幸せそうに咀嚼する、そして、その場は姦しくもあっという間に終わりを迎え、ソフィアの忠告にも関わらずその日の料理は余すことなく綺麗に片付いた、ソフィアは嬉しく思いつつも呆れ顔であったが、それ以上に皆の瞳の奥がランランと光輝くのを感じ、
「じゃ、片付けたら次ねー」
変に勿体ぶったら一悶着ありそうだと腰を上げる、すぐに生徒達も苦しそうであるが席を立ち、厨房へと皿が片付けられ、その際にも厨房の作業台に置かれた思わせぶりに鎮座する布をかけれた皿を目にして、
「あれですか?」
「あれよー」
「早く食べたいです」
「そうねー」
ソフィアは面と向かって催促する娘達を華麗にいなして片付けを終えると、件の皿を食堂へ運び入れ、
「じゃ、次ねー」
とミーンとティルに目配せする、二人はコクリと頷き新たな小皿を一人一人に配る、
「さて、今度は上品に頂きましょうか、どうする?お茶でも入れる?」
ここでソフィアの意地の悪さがムクムクと顔を出す、これ見よがしにテーブルに置いた皿を前にして勿体ぶってムフンと一息吐いた、
「えー」
と生徒達の非難の声が巻き起こるが、
「それもいいかしら・・・」
「はい、上品にとなれば宜しいかと思います」
落ち着いたエレインとオリビアの様子、それから、
「白湯でもいいけど、お茶もいいわね」
「そうですね、折角ですし」
ユーリとサビナ達大人組もそれも良かろうとソフィアの思い付きに肯定的で、
「そっか、じゃ、ティルさんとミーンさんは、こっちをお願いね、私はお茶用意してくるわー」
とその場を二人に任せてソフィアは厨房へ入り、オリビアがその後をすぐに追った、そして任された二人は、
「では」
「はい、えっと、では、切り分けさせて頂きます」
と布を取り外す、途端、
「おおっ」
「えっと、これがそのカマンベール?」
「へー、そっか、見た事無かったからだけど、随分違うのね」
「小さくない?」
「こういうものなのかな?」
「そうですね、なんか・・・」
「うん、埃っぽい感じ?」
「そうね、全然印象違うなー」
「これでチーズなの?」
大き目の平皿には見た目そのままのカマンベールチーズが並び別の皿には分厚いパンケーキが重そうな見た目を誇示している、
「はい、ソフィアさんがですね、恐らく初めて見るだろうからって、見た目をそのままにお菓子として作ったのがこれです」
ティルが説明し、
「そうなんです、で、こっちなんですが、ソフィアさんはナベヤキって呼んでました、エレインさん達なら覚えているかもって」
「・・・あっ」
ジャネットが思い出してポンと手を打ち、
「うん、覚えてる、最初の最初のやつだ・・・」
ケイスも目を丸くした、
「・・・懐かしいわね」
エレインもしっかりと覚えていたようで、
「なに、どうかしたの?」
事情を知らない面々が三人へ視線を向ける、
「えへへ、えっとですね・・・」
とジャネットが当時の事を思い出しながら懐かしそうに話し、エレインが、
「ある意味でこれが切っ掛けだったのですよ・・・もう随分昔の事のように思います」
涙ぐみそうになりながらナベヤキを見つめた、
「そっかー、そりゃ思い出深いわねー」
「そうですね、えへへ、でも、うん、そっか、ね、頂きましょう」
ケイスは嬉しそうに微笑む、ティルとミーンはそんな深い事情があったのかと面喰ってしまうが、それはそれとしてとナイフを手にして、
「えっと、人数が多いのでうーんと六分割かな」
「だね、それで間に合うはず」
と切り分け作業に入る、それぞれの皿に行き渡る頃に、
「はい、お茶欲しい人」
とソフィアとオリビアが戻って来て、結局全員に茶を配り、
「じゃ、説明はいいかしら?」
とソフィアもめんどくさくなったのか腰を下ろしかけるが、
「はい、聞きたいです」
「そうねー、これはどういう料理なの?」
グルジアとユーリの言葉に口を尖らせながらもソフィアは下げかけた腰を上げ姿勢を正すと、
「えっと、その真っ白いのがカマンベールチーズっていうチーズなんだって、で、今日の料理に使ったのがまさにそれね、で、見た事無い人もいるだろうなと思って、そのままを提供しようと思ったんだけど、ふと思ったのよ」
ソフィアは芝居がかった仕草で小首を傾げると、
「蜂蜜と合うんじゃないかなーって思って、で、試したら、ね」
とミーンとティルへ笑いかける、
「はい、すんごい合うんです」
「うん、美味しいんですよ」
二人も笑顔で答える、一同はなるほどこれがそうかとカマンベールの中程にある黄色の層を見つめた、
「そこでね、上下に二つに切って、折角だからレインの蜂蜜漬けを塗ってみました、たぶん美味しいです、というか絶対美味しいから、レインに感謝するように」
唐突に名前の出たレインは何じゃとめんどくさそうにソフィアを見上げ、ソフィアはフフンと鼻で笑うと、
「もう一つはね、カマンベールチーズとスポンジケーキを組み合わせようと思ったんだけど、上手くいかなくて、ならばと思ってね、ナベヤキの中にその失敗したカマンベールと小麦と卵のソースを挟んでみたの、よく見ると分かるでしょ」
見ればそのナベヤキも三層構造になっており、中央部分は黄色、上と下はまだらな黒色である、黒色は黒糖の塊である、ソフィアのナベヤキはこの完全に溶けていない黒糖が味の秘訣であると、ソフィア自身が語っていた、
「確かに・・・これはどうなんです?」
「美味しいわよ、ね」
再びソフィアの視線がティルとミーンに向かい、
「勿論です」
「はい、絶品です」
試食をしている二人は胸を張って答えた、
「そう言う事、じゃ、頂きましょう」
やっとソフィアは腰を下ろした、それを合図にまずは茶に手を伸ばす者、スプーンに手を伸ばすがどう食すればよいかと躊躇っている者等戸惑っている事が丸わかりであったが、若干の時間をおいてカチャカチャと皿の鳴る音が響きだす、そして、
「うっわ、何だこれ」
「うん、こんな味なんだ・・・」
「甘い・・・美味しい・・・」
「うん、チーズってもっと固いのかと思ってた・・・」
「そうだね、プニプニだ、初めて食べた」
「蜂蜜の甘さとドライフルーツの酸味とチーズの柔らかさが混ざり合って、複雑なのに美味しい・・・凄いなこれ」
「そうだね、単純な料理なのにね」
「うふ、美味しいー」
「こっちのナベヤキも素晴らしいです」
「うん、チーズの香りといい黒糖の優しい甘さといい・・・」
「中と外側の食感が違うのも楽しいね、こりゃお菓子だ、うん、それも高級品だ」
「ドーナッツに入れても美味しいかもね」
「あっ、それ私も思った」
「あら、遅いですわよ、昨日の時点で気付かないとですわ」
「エレイン様、厳しいよー」
「信じられない、凄いな・・・」
「うん、幸せだ・・・」
「うん、幸せだね」
どうやらデザートも好評のようである、ソフィアはニヤリと勝ち誇った笑顔を見せ、ミーンとティルも嬉しそうな笑顔となって二つのデザートに手を伸ばすのであった。
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救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
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「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」
魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。
――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。
「ここ……どこ?」
現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。
救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。
「ほら、食え」
「……いいの?」
焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。
行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
「雑草係」と追放された俺、スキル『草むしり』でドラゴンも魔王も引っこ抜く~極めた園芸スキルは、世界樹すら苗木扱いする神の力でした~
eringi
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「たかが雑草を抜くだけのスキルなんて、勇者パーティには不要だ!」
王立アカデミーを首席で卒業したものの、発現したスキルが『草むしり』だった少年・ノエル。
彼は幼馴染の勇者に見下され、パーティから追放されてしまう。
失意のノエルは、人里離れた「魔の森」で静かに暮らすことを決意する。
しかし彼は知らなかった。彼のスキル『草むしり』は、対象を「不要な雑草」と認識すれば、たとえドラゴンであろうと古代兵器であろうと、根こそぎ引っこ抜いて消滅させる即死チートだったのだ。
「あれ? この森の雑草、ずいぶん頑丈だな(ドラゴンを引っこ抜きながら)」
ノエルが庭の手入れをするだけで、Sランク魔物が次々と「除草」され、やがて森は伝説の聖域へと生まれ変わっていく。
その実力に惹かれ、森の精霊(美女)や、亡国の女騎士、魔王の娘までもが彼の「庭」に集まり、いつしかハーレム状態に。
一方、ノエルを追放した勇者たちは、ダンジョンの茨や毒草の処理ができずに進行不能となり、さらにはノエルが密かに「除草」していた強力な魔物たちに囲まれ、絶望の淵に立たされていた。
「ノエル! 戻ってきてくれ!」
「いや、いま家庭菜園が忙しいんで」
これは、ただ庭いじりをしているだけの少年が、無自覚に世界最強に至る物語。
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