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本編
59話 お披露目会 その13
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「これは素晴らしいな、うん、面白い」
「でしょう、この面白さは王宮の絵師では出せませんわよ」
「そうだな、確か下絵にはパトリシアも加わったと聞いたが?」
「はい、ミナちゃんもですし、レインちゃんもですね、みんなでワイワイと・・・楽しかったですわ」
「そうか、自由な絵画というのも一つだな・・・」
「以前からそう言っているではないですか、絵師達は堅苦しいのですよ、在る物を在るがまま写し取る、それだけにキュウキュウとしてますでしょ、このように無い物を描写し、在る物もまたその印象だけを活写するのです、これもまた絵画の面白さですわ」
「面白い事を言うな・・・なんだ、どこでそんな事を学んだのだ?」
「どこでって、ふふっ、私の正装や訪問着が優れているのは御存知でしょう、あれはね、常に新しいものを作り出すようにしているからですわ、新しいものとは未だこの世に無いものです、つまり、私のお抱えのお針子達は無い物を作り続けているのです、転じて・・・」
「あー、分かった分かった、であれば無いものを描くのも面白いだろうという事か」
「そうですわ、それと表現方法ですわね、見ただけでそれと分かる、しかしその形はしていない、この大樹がまさにそれですわ、よく見れば樹木の描写では無いですが、どう見ても素晴らしい大樹でありましょう?」
「なるほど・・・確かにな」
「でしょう?ニコリーネにはね、捕らわれるなと言い含めてますの、描きたいものを描きたいように、この壁画が一つの答えですわね、ま、だいぶ悩んだようですし、レインちゃんの助力があってこそ・・・なのですが・・・」
「レインちゃんか・・・まったく・・・」
ボニファース国王とパトリシアは暖炉前の応接テーブルで茶を片手に壁画を見上げ、その隣りでは、
「これはいいな、様になる」
「そうですね、使いやすそうです」
「うん、そうか・・・あれだな道具も飾り方次第なのかもな」
「確かに・・・独創的とは正にこの事ですね、美しいです」
クロノスとアフラはガラスペンの飾られた台を目にしてしきりと感嘆していた、さらに、その隣りでは、
「うん、悪くないですわ」
「そうね、これならちょっと気になった時にも使えますわね」
「可愛いねー、これー」
「見た目も良いし、でも表面を均すには良いかもだけど、削るのには少し心許ないかしら」
「使い分ければ良いでしょう」
「そうですわね、うん、そうね」
「うふふ、この前買ったのも良かったけどねー、これもいいなー」
エフェリーンとマルルースとウルジュラはガラスの爪やすりを手にしてこちらも感心しきりであった、国王一行をガラス鏡店へ招き入れると一行は一頻り鏡を見渡したが、国王達の生活には既にその存在は組み入れられた上に全身鏡等の新商品も既に周知の事である、その為特に大きな驚きは無かった、しかし、しっかりと商品として並べられたそれはやはり事務所の片隅で見たそれとは大きく違うようで、それなりにそれぞれのガラス鏡を満喫し、エレインが想定した通りに店内を歩き回ると壁画を見上げて応接テーブルを囲む事となった、そこで、彼等の興味の対象になったのが壁画であり、ガラスペンの飾り台であり、ガラスの爪やすりである、国王は壁画をいたく気に入ったようでパトリシアと芸術談義に花を咲かせ、クロノスとアフラはテーブルの片隅に置かれたガラスペンの台座の機能性と佇まいに目を見張った、エフェリーンとマルルースとウルジュラはガラスの爪やすりを実際に使用し、その使い勝手と見た目の良さにすっかり惚れ込んでいる様子である、期せずして向かえる側になっているイフナースはその家族の様子をなんとはなしに眺めて嬉しそうに茶を口にしており、エレインとテラはその様子に何とか安堵の吐息を吐いた、正直な所二人は店を披露するにあたって、新商品では満足頂けないかもしれないと不安だったのである、事あるごとに顔を出す面々である為ガラス鏡だけでは満足されない事は分かりきっており、銀食器に関してもこの屋敷では当たり前に使用している、そこで二人は比較的に隠しやすいガラスの爪やすりとガラスペンの台座を意図して隠蔽していた、どうやらその思惑は正解であった様子である、
「こうなるといよいよ本格的だな、忙しくなるだろうな」
クロノスはガラスペンを台座に戻しつつテラへ視線を送る、エレインとテラは席には着かずに寄り添うように控えていた、
「はい、皆様の御助力があってこそと思います」
恭しく頭を垂れるテラとエレインである、
「大したことはしてないだろう、ま、お互いに利用し合ってこうなっているだけだ」
イフナースがニヤリとテラを見上げ、
「ほう、死にかけていた男が何か言ってるな」
クロノスがニヤリと茶化す、
「むっ、それは言わない約束だろうが」
「知るか、そんな約束していないぞ」
「だからといって、言ってはいかん事もあるだろう」
「かもしらんが、間違ってはおらん」
「それは詭弁というものだ、第一どうしろというのだ、俺が何とかできればしていたぞ、自分の事だからな」
「そりゃそうだろうさ」
「むぅ・・・」
二人の言い争いは全く以て兄弟喧嘩のそれである、ボニファースは鼻で笑い、
「いい歳した男同士で口喧嘩とはな、仲の良いことだ」
「父上・・・」
イフナースがジロリとボニファースを睨みつけるが、
「それだけ元気になったという事であろう、良い事だな」
ニヤリと口元を嬉しそうに歪める、
「それはそうですが・・・」
「そうね、クロノスに口答えなんて、元気になった証拠よね」
「そうだねー、この間まで寝台であーとかうーとか言ってるだけだったしねー」
「全くだわ、あの頃の方がまだ可愛げがあったというものですよ」
パトリシアとウルジュラ、エフェリーンが参戦する、
「可愛げ・・・寝ていた方が良かったと仰るか?」
イフナースは憤然と言い返す、
「そうね、今ではだって、顔も見せない、何をしているか報告もない」
「うんうん、来たと思ったらすぐに帰るし」
「たまにはこっちで休んでも良いのよ、そんなにエレインさんの近くがいいの?」
エフェリーンが含みのある笑顔を見せると、
「ん?何の話しだ?」
「あら?違うの?」
「まったく、訳が分からん」
イフナースはどうやら本心から良く分かっていないらしい、話しの流れの中でエレインが出て来る必然性が皆無である、エレインもまた、どうして自分が関係するのかと不思議そうに首を傾げてしまった、そんな二人に、
「あら・・・面白くないわね」
エフェリーンはフイッと視線を外し、マルルースがニコニコ笑ってまぁまぁと諫める、そこへ、
「失礼致します」
とマフレナとティルが盆を持って入ってきた、
「あら、ティル、こちらはどう?」
マルルースが気さくに声をかける、
「はい、奥様、大変充実しております」
満面の笑みを浮かべるティルにマルルースも笑顔を見せ、
「そうだ、漬物はそろそろかしら?」
「そうですね、今日明日辺りが良い頃合いとソフィアさんが仰ってました」
「それは楽しみだな」
ボニファースが嬉しそうに微笑む、
「そうね、で、今日はどのような菓子なのかしら?」
「はい、先日御報告致しました、チーズの焼き菓子です、それと、グランロールケーキになります」
「やったー、食べて見たかったんだよー」
ウルジュラがサッと背筋を伸ばし、
「そう言えば、チーズの菓子はまだ作ってませんでしたわね」
「そうね、料理人が乗り気じゃないのよね」
「絵師もそうですけど、料理人も入れ替えが必要なのではないですか?」
「それは、飛躍であろう、これはこれ、あれはあれだ」
「ですが、新しい物や新しい人を入れないと面白くないですわよ」
「その前に伝統やら格式というものがある、それを守りつつの文化というものだ」
「あら、でも、良い物は良い物ですし、美味しいものは美味しいですわよ」
「それはそうだがな」
「折角ソフィアさんが教えてくれてるのにー」
「それは分かっている、何事も時間がかかる事はあるだろう」
「料理が?」
「絵師が?」
娘二人に睨みつけられボニファースはまったくと鼻息を荒くするしかない、その間にもマフレナとティルによって配膳は済まされ、銀食器も並べられる、
「おう、そうだ、エレイン会長、こいつを追加で発注したいのだがな」
ボニファースが銀の4本フォークを手にして顔を上げた、
「はい、ありがとうございます」
「うむ、ヨリックにも言ってある、忘れないように頼むぞ」
「はい、確かに」
「では、頂こう」
とボニファースが取り掛かろうとすると同時に、
「わっ、チーズ美味しい・・・」
「うん、上品ね、柔らかくて」
「チーズの味がしっかりあるね」
「ほのかな甘味が良いですわね」
「うー、とろけるのに、さっぱりしてる」
「そうね、不思議な食感だわ・・・」
どうやら既にチーズの焼き菓子は女性陣の口中に納まっているようで、ボニファースは思わず眉を顰めるが、まぁ、この場であれば良いであろうと4本フォークを焼き菓子に伸ばす、エレインはその様子に再び安堵の吐息を吐いた、供されたチーズの焼き菓子はティルとミーンによって改良された品である、ソフィアが作った際には初めての料理という事もあって失敗したらしいのであるが、それでも菓子としては充分に美味しい品であった、しかしソフィアは納得していなかったらしく、ティルとミーンにはこうしたかったとの理想の形が伝えらえていた、そこで、二人はその理想の形となるように忙しい中時間を見つけては試行錯誤していたのである、ティルとしては今日この日が成果を示す場であり、自分の力を示す格好の機会でもあった、王城に戻ってしまっては王族の口に入る料理を担当する事は難しいであろう、エレインも今日この場が一つの関門であったがティルもまたそうなのであった、故に気合が入っているのである、特にこのチーズの焼き菓子はソフィアでさえ難しいと肩を落とした菓子なのであった、それをティルとミーンは何とか形にし昨晩の寮で試食された、その場でも勿論絶賛の声が上がり、ソフィアも認めるほどの品となったのである、
「良かったです、ティルさんの努力の賜物ですわ」
エレインが事の経緯を簡潔に説明すると、
「まぁ・・・やはり、ティルをこちらに送って正解でしたわね」
「そのようですね、ちゃんと作り方はまとめてあるんでしょうね」
「はい、奥様、本日の報告書にしたためております」
「ならいいわ、しかし、こうなると、やはり料理人ね・・・陛下・・・」
マルルースとエフェリーンもどうやら料理人への不満が鎌首をもたげてきたらしい、
「わかった、わかった、そう言うな、ティル、お前が戻ったら少し考えよう、こちらでの修業しっかりやるのだぞ」
ボニファースもこれは自分が引かなければ治まらんなと譲歩しつつ焼き菓子を頬張る、
「はっ、もったいないお言葉です」
ティルは恭しく頭を垂れた、その顔は実に誇らしそうである、そのニヤケ顔を隠す為の一礼であった、
「では、どうしましょうか、もう一つお披露目したい品があるのです」
エレインは綺麗になった皿を見渡し、
「あら、まだあるの?」
口元をナプキンで上品に押さえながらエフェリーンが問う、
「はい、以前に頂いていた課題になります、御意見も頂ければ幸いと思います」
エレインが目配せするとマフレナとティルが一旦退室し、お盆にガラス小瓶を載せて戻ってきた、
「あら、へー、可愛らしいわね」
「そうだねー、ガラスの瓶にレースかー、わー、なるほどなー、いいなーこれー、楽しいねー」
「そうね・・・うん、お洒落だわ・・・」
女性陣にはその見た目から大変に好評となり、
「ふーん、分かりましたわエレインさん」
パトリシアがニヤリとエレインを見上げる、
「はい、お時間を頂いておりました、やわらかクリームを上品にかつお洒落にした品です」
エレインはやわらかクリームの開発経緯を説明する、何の事は無い、やわらかクリーム自体は香り付けして、ガワを飾っただけなのである、しかしそれだけでもパトリシアをはじめ女性陣の評価は得られたようで、さらに、新たに作った棒状のやわらかクリームを披露するとこれには女性達は歓喜の声を上げ、男性達は何をそこまでと目を細くした、しかし実際に使用してみると、その効能と使いやすさ、その工夫に度肝を抜かれている様子であった、エレインは御満足頂けたようだと、ここで今日三度目になる安堵の吐息を吐くのであった。
「でしょう、この面白さは王宮の絵師では出せませんわよ」
「そうだな、確か下絵にはパトリシアも加わったと聞いたが?」
「はい、ミナちゃんもですし、レインちゃんもですね、みんなでワイワイと・・・楽しかったですわ」
「そうか、自由な絵画というのも一つだな・・・」
「以前からそう言っているではないですか、絵師達は堅苦しいのですよ、在る物を在るがまま写し取る、それだけにキュウキュウとしてますでしょ、このように無い物を描写し、在る物もまたその印象だけを活写するのです、これもまた絵画の面白さですわ」
「面白い事を言うな・・・なんだ、どこでそんな事を学んだのだ?」
「どこでって、ふふっ、私の正装や訪問着が優れているのは御存知でしょう、あれはね、常に新しいものを作り出すようにしているからですわ、新しいものとは未だこの世に無いものです、つまり、私のお抱えのお針子達は無い物を作り続けているのです、転じて・・・」
「あー、分かった分かった、であれば無いものを描くのも面白いだろうという事か」
「そうですわ、それと表現方法ですわね、見ただけでそれと分かる、しかしその形はしていない、この大樹がまさにそれですわ、よく見れば樹木の描写では無いですが、どう見ても素晴らしい大樹でありましょう?」
「なるほど・・・確かにな」
「でしょう?ニコリーネにはね、捕らわれるなと言い含めてますの、描きたいものを描きたいように、この壁画が一つの答えですわね、ま、だいぶ悩んだようですし、レインちゃんの助力があってこそ・・・なのですが・・・」
「レインちゃんか・・・まったく・・・」
ボニファース国王とパトリシアは暖炉前の応接テーブルで茶を片手に壁画を見上げ、その隣りでは、
「これはいいな、様になる」
「そうですね、使いやすそうです」
「うん、そうか・・・あれだな道具も飾り方次第なのかもな」
「確かに・・・独創的とは正にこの事ですね、美しいです」
クロノスとアフラはガラスペンの飾られた台を目にしてしきりと感嘆していた、さらに、その隣りでは、
「うん、悪くないですわ」
「そうね、これならちょっと気になった時にも使えますわね」
「可愛いねー、これー」
「見た目も良いし、でも表面を均すには良いかもだけど、削るのには少し心許ないかしら」
「使い分ければ良いでしょう」
「そうですわね、うん、そうね」
「うふふ、この前買ったのも良かったけどねー、これもいいなー」
エフェリーンとマルルースとウルジュラはガラスの爪やすりを手にしてこちらも感心しきりであった、国王一行をガラス鏡店へ招き入れると一行は一頻り鏡を見渡したが、国王達の生活には既にその存在は組み入れられた上に全身鏡等の新商品も既に周知の事である、その為特に大きな驚きは無かった、しかし、しっかりと商品として並べられたそれはやはり事務所の片隅で見たそれとは大きく違うようで、それなりにそれぞれのガラス鏡を満喫し、エレインが想定した通りに店内を歩き回ると壁画を見上げて応接テーブルを囲む事となった、そこで、彼等の興味の対象になったのが壁画であり、ガラスペンの飾り台であり、ガラスの爪やすりである、国王は壁画をいたく気に入ったようでパトリシアと芸術談義に花を咲かせ、クロノスとアフラはテーブルの片隅に置かれたガラスペンの台座の機能性と佇まいに目を見張った、エフェリーンとマルルースとウルジュラはガラスの爪やすりを実際に使用し、その使い勝手と見た目の良さにすっかり惚れ込んでいる様子である、期せずして向かえる側になっているイフナースはその家族の様子をなんとはなしに眺めて嬉しそうに茶を口にしており、エレインとテラはその様子に何とか安堵の吐息を吐いた、正直な所二人は店を披露するにあたって、新商品では満足頂けないかもしれないと不安だったのである、事あるごとに顔を出す面々である為ガラス鏡だけでは満足されない事は分かりきっており、銀食器に関してもこの屋敷では当たり前に使用している、そこで二人は比較的に隠しやすいガラスの爪やすりとガラスペンの台座を意図して隠蔽していた、どうやらその思惑は正解であった様子である、
「こうなるといよいよ本格的だな、忙しくなるだろうな」
クロノスはガラスペンを台座に戻しつつテラへ視線を送る、エレインとテラは席には着かずに寄り添うように控えていた、
「はい、皆様の御助力があってこそと思います」
恭しく頭を垂れるテラとエレインである、
「大したことはしてないだろう、ま、お互いに利用し合ってこうなっているだけだ」
イフナースがニヤリとテラを見上げ、
「ほう、死にかけていた男が何か言ってるな」
クロノスがニヤリと茶化す、
「むっ、それは言わない約束だろうが」
「知るか、そんな約束していないぞ」
「だからといって、言ってはいかん事もあるだろう」
「かもしらんが、間違ってはおらん」
「それは詭弁というものだ、第一どうしろというのだ、俺が何とかできればしていたぞ、自分の事だからな」
「そりゃそうだろうさ」
「むぅ・・・」
二人の言い争いは全く以て兄弟喧嘩のそれである、ボニファースは鼻で笑い、
「いい歳した男同士で口喧嘩とはな、仲の良いことだ」
「父上・・・」
イフナースがジロリとボニファースを睨みつけるが、
「それだけ元気になったという事であろう、良い事だな」
ニヤリと口元を嬉しそうに歪める、
「それはそうですが・・・」
「そうね、クロノスに口答えなんて、元気になった証拠よね」
「そうだねー、この間まで寝台であーとかうーとか言ってるだけだったしねー」
「全くだわ、あの頃の方がまだ可愛げがあったというものですよ」
パトリシアとウルジュラ、エフェリーンが参戦する、
「可愛げ・・・寝ていた方が良かったと仰るか?」
イフナースは憤然と言い返す、
「そうね、今ではだって、顔も見せない、何をしているか報告もない」
「うんうん、来たと思ったらすぐに帰るし」
「たまにはこっちで休んでも良いのよ、そんなにエレインさんの近くがいいの?」
エフェリーンが含みのある笑顔を見せると、
「ん?何の話しだ?」
「あら?違うの?」
「まったく、訳が分からん」
イフナースはどうやら本心から良く分かっていないらしい、話しの流れの中でエレインが出て来る必然性が皆無である、エレインもまた、どうして自分が関係するのかと不思議そうに首を傾げてしまった、そんな二人に、
「あら・・・面白くないわね」
エフェリーンはフイッと視線を外し、マルルースがニコニコ笑ってまぁまぁと諫める、そこへ、
「失礼致します」
とマフレナとティルが盆を持って入ってきた、
「あら、ティル、こちらはどう?」
マルルースが気さくに声をかける、
「はい、奥様、大変充実しております」
満面の笑みを浮かべるティルにマルルースも笑顔を見せ、
「そうだ、漬物はそろそろかしら?」
「そうですね、今日明日辺りが良い頃合いとソフィアさんが仰ってました」
「それは楽しみだな」
ボニファースが嬉しそうに微笑む、
「そうね、で、今日はどのような菓子なのかしら?」
「はい、先日御報告致しました、チーズの焼き菓子です、それと、グランロールケーキになります」
「やったー、食べて見たかったんだよー」
ウルジュラがサッと背筋を伸ばし、
「そう言えば、チーズの菓子はまだ作ってませんでしたわね」
「そうね、料理人が乗り気じゃないのよね」
「絵師もそうですけど、料理人も入れ替えが必要なのではないですか?」
「それは、飛躍であろう、これはこれ、あれはあれだ」
「ですが、新しい物や新しい人を入れないと面白くないですわよ」
「その前に伝統やら格式というものがある、それを守りつつの文化というものだ」
「あら、でも、良い物は良い物ですし、美味しいものは美味しいですわよ」
「それはそうだがな」
「折角ソフィアさんが教えてくれてるのにー」
「それは分かっている、何事も時間がかかる事はあるだろう」
「料理が?」
「絵師が?」
娘二人に睨みつけられボニファースはまったくと鼻息を荒くするしかない、その間にもマフレナとティルによって配膳は済まされ、銀食器も並べられる、
「おう、そうだ、エレイン会長、こいつを追加で発注したいのだがな」
ボニファースが銀の4本フォークを手にして顔を上げた、
「はい、ありがとうございます」
「うむ、ヨリックにも言ってある、忘れないように頼むぞ」
「はい、確かに」
「では、頂こう」
とボニファースが取り掛かろうとすると同時に、
「わっ、チーズ美味しい・・・」
「うん、上品ね、柔らかくて」
「チーズの味がしっかりあるね」
「ほのかな甘味が良いですわね」
「うー、とろけるのに、さっぱりしてる」
「そうね、不思議な食感だわ・・・」
どうやら既にチーズの焼き菓子は女性陣の口中に納まっているようで、ボニファースは思わず眉を顰めるが、まぁ、この場であれば良いであろうと4本フォークを焼き菓子に伸ばす、エレインはその様子に再び安堵の吐息を吐いた、供されたチーズの焼き菓子はティルとミーンによって改良された品である、ソフィアが作った際には初めての料理という事もあって失敗したらしいのであるが、それでも菓子としては充分に美味しい品であった、しかしソフィアは納得していなかったらしく、ティルとミーンにはこうしたかったとの理想の形が伝えらえていた、そこで、二人はその理想の形となるように忙しい中時間を見つけては試行錯誤していたのである、ティルとしては今日この日が成果を示す場であり、自分の力を示す格好の機会でもあった、王城に戻ってしまっては王族の口に入る料理を担当する事は難しいであろう、エレインも今日この場が一つの関門であったがティルもまたそうなのであった、故に気合が入っているのである、特にこのチーズの焼き菓子はソフィアでさえ難しいと肩を落とした菓子なのであった、それをティルとミーンは何とか形にし昨晩の寮で試食された、その場でも勿論絶賛の声が上がり、ソフィアも認めるほどの品となったのである、
「良かったです、ティルさんの努力の賜物ですわ」
エレインが事の経緯を簡潔に説明すると、
「まぁ・・・やはり、ティルをこちらに送って正解でしたわね」
「そのようですね、ちゃんと作り方はまとめてあるんでしょうね」
「はい、奥様、本日の報告書にしたためております」
「ならいいわ、しかし、こうなると、やはり料理人ね・・・陛下・・・」
マルルースとエフェリーンもどうやら料理人への不満が鎌首をもたげてきたらしい、
「わかった、わかった、そう言うな、ティル、お前が戻ったら少し考えよう、こちらでの修業しっかりやるのだぞ」
ボニファースもこれは自分が引かなければ治まらんなと譲歩しつつ焼き菓子を頬張る、
「はっ、もったいないお言葉です」
ティルは恭しく頭を垂れた、その顔は実に誇らしそうである、そのニヤケ顔を隠す為の一礼であった、
「では、どうしましょうか、もう一つお披露目したい品があるのです」
エレインは綺麗になった皿を見渡し、
「あら、まだあるの?」
口元をナプキンで上品に押さえながらエフェリーンが問う、
「はい、以前に頂いていた課題になります、御意見も頂ければ幸いと思います」
エレインが目配せするとマフレナとティルが一旦退室し、お盆にガラス小瓶を載せて戻ってきた、
「あら、へー、可愛らしいわね」
「そうだねー、ガラスの瓶にレースかー、わー、なるほどなー、いいなーこれー、楽しいねー」
「そうね・・・うん、お洒落だわ・・・」
女性陣にはその見た目から大変に好評となり、
「ふーん、分かりましたわエレインさん」
パトリシアがニヤリとエレインを見上げる、
「はい、お時間を頂いておりました、やわらかクリームを上品にかつお洒落にした品です」
エレインはやわらかクリームの開発経緯を説明する、何の事は無い、やわらかクリーム自体は香り付けして、ガワを飾っただけなのである、しかしそれだけでもパトリシアをはじめ女性陣の評価は得られたようで、さらに、新たに作った棒状のやわらかクリームを披露するとこれには女性達は歓喜の声を上げ、男性達は何をそこまでと目を細くした、しかし実際に使用してみると、その効能と使いやすさ、その工夫に度肝を抜かれている様子であった、エレインは御満足頂けたようだと、ここで今日三度目になる安堵の吐息を吐くのであった。
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