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本編
64話 縁は衣の元味の元 その10
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「おう、いるかー」
ソフィアが来客対応と掃除を終え、さて次はと厨房に足を向けた瞬間、ドカドカと階段がうるさくなりクロノスがヌッと顔を出した、
「誰がー?」
ソフィアはまるで遠慮無く答える、クロノス本人に礼が無いのだ、そのような人物に礼を尽くす必要は皆無である、
「タロウだ、いや、お前さんでもいいぞ」
クロノスはそのままズカズカと食堂へ入り、その後ろにはめんどくさそうな顔のイフナースとアフラが付いてきている、
「あら、殿下にアフラさんまでどうされました?」
ソフィアは後ろの二人には丁寧な対応である、アフラは笑顔で会釈し、
「朝から騒がせてすまんな」
イフナースも渋い顔であったがしっかりと応えた、
「それはかまいませんよ、いつもの事です」
ソフィアがニコリと返すと、
「だな、ほれ、あれだ、なんだ」
クロノスが言い淀んで振り向くと、アフラはスッと先に立ち、
「すいません、ソフィアさん、不躾で申し訳ないのですが、肉挽き機とやらを拝見したいと思いまして」
申し訳なさそうな顔である、
「へっ?あー・・・そういう事・・・なに?ティルさんから報告上がったの?」
「はい、そうなんです、で、パトリシア様も王妃様も、なにより陛下がその・・・食べたいと言って・・・」
アフラは若干言葉を飲み込んだ、国の最高権威者に向かってうるさくてかなわないとその本心を口にする事は出来なかったのである、
「そっかー、ティルさんも真面目に仕事してるのねー」
ソフィアは別の所に感心する、
「それはもう、報告書は皆様楽しみにしてらっしゃいます」
「それはそれで恥ずかしいわね、そろそろ教える料理が無くなってきてるからこっちも困っているのよ」
「そんな事言って、先程ティルに会いましたけど、今日のも凄いですって鼻息を荒くしてましたよ」
「あら・・・そうね、昨日は妙に豪華・・・じゃないけど、私も初めての料理ばかりだったしね」
「ソフィアさんもですか?」
「そうよー、タロウの料理だからね、まっ、私が教えているのは基本タロウの料理なんだけどさ、で、見るだけ?」
とソフィアはクロノスへ視線を移す、イフナースはさして興味が無いのか水槽を見つめており、その水車の仕掛けになんだこれはと目をむいていた、
「それなんだよ、パトリシアも陛下もそれを持ってこいってうるさくてさ・・・あー、タロウに頼んで買ってきてもらえたらとも思っていたんだが・・・」
やれやれとまだ午前の半ばだというのに疲れた顔である、ソフィアは詳細は聞いてないが色々と忙しいんじゃないのかしらとその顔を斜めに睨み、ある意味でこれも仕事なのかしらと前向きに考える事とした、とても王太子様自らが動く事とは思えない、それも二人揃ってである、ある意味で平穏な日常よねーと軽く溜息を吐くと、
「でしょうねー、じゃ、内庭でなんかやってるから、直接言いなさい」
「すまんな」
クロノスとアフラはそのまま厨房に入り、一人残されたのはイフナースである、小さい水音を立ててクルクルと回る水車を見つめ、
「これはどういう事なのだ?」
と振り返った、
「あー・・・それもあれです、タロウが適当に作った代物なんですが、一応意味はあるとか・・・」
「意味?」
「はい、水に空気を混ぜる必要があるとの事で、そこまでするのかって感じですけどねー」
ソフィアは呆れたように答える、
「水に空気?混ぜる?混ざるのか?」
「タロウはそう言ってましたね・・・」
「・・・けったいな上に大仰だな・・・」
「その通りです」
イフナースはしかしそのけったいな仕掛けから目を離せず、ソフィアはさて、夕飯の下準備くらいはしておこうかしらねーと王太子をほっぽって厨房へ入った、それはそれで大変に不敬な行為であったが、いつもの事である、
「おう・・・何やってるんだ?」
クロノスとアフラが内庭に入ると、タロウとブラスが作業台に向かって何やらやっており、その周りでミナとレインがちょこまかと歩き回っていた、
「クロノスだー」
ミナが猛然とクロノスに体当たりをかますが、いつもの事とヒョイと抱え上げられ、ムーと唸って手足をバタバタ振り回す、
「スイランズ様、お疲れ様です」
気付いたブラスが直立不動となり、タロウが背を曲げたまま振り返り、
「おう、おはようさん、どした?」
夫婦揃って大変に不敬な事であったが、クロノスは、
「すまん、頼み事だ、というかお前のせいだ、まったく、めんどくさい」
と憤然とその本心を口にして鼻息を荒くする、
「何だよ、今度は?」
タロウがやれやれと腰を伸ばして振り返る、アフラがサッとクロノスの前に進み出ると、
「おはようございます、タロウ様、実はですね・・・」
と用向きを伝えた、ミナはクロノスに抱きかかえられたままギャーギャーとはしゃいでおり、レインはまったく忙しい事だと顔を顰めている、
「あー・・・そういう事かー」
タロウはそうもなるだろうなと理解を示し、ブラスは、
「確かに、あの肉料理は素晴らしいです」
と満面の笑みとなる、
「何だ、お前は食べたのか?」
クロノスが片眉を上げた、
「はい、昨日の夕飯がそれでした、リノルトが量産する為に預かった一台を借りたのです」
ブラスはムフンと嬉しそうに正直に答える、何のてらいもない、ミナも、
「ハンバーグ、ハンバーグって言うの、美味しいのよー」
と嬌声を上げた、
「それは聞いている、しかし・・・で、旨いのか?」
「旨いです、極上です、あれほどの肉料理はまず無いかと、最初はでかい肉団子かなと思いましたが、全然違います、あれはあれでまったく別の料理です」
ブラスはだらしない笑みを浮かべる、昨夜の食卓を思い出し、よだれを垂れ落とさんばかりであった、
「あー、確かにでかい肉団子だなー」
タロウがのんびりと微笑み、
「それほどか・・・」
クロノスはジロリとブラスを睨む、
「はい、肉のスープというのがあると初めて知りました、スープに漬けているわけではないのですが、こう、肉の汁がじんわりと滲み出るのです、あれは極上です、度肝を抜かれます」
「そうなのー、極上なのー」
ミナが両手をバタつかせてクロノスを見上げる、
「そうか・・・極上か・・・」
クロノスはミナを見下ろし、
「タロウ、食わせろ」
とギンと音が響くほどにタロウを睨み、端的に要求した、
「別に構わないが、あれだろ、肉挽き機が欲しいんじゃなかったのか?」
主旨が違っているだろうとタロウは睨み返すが、
「ブラスに聞いたら食いたくなった」
「恐縮です」
ブラスが再び背筋を伸ばして不動となる、
「別に褒められてないぞ」
タロウが苦笑いをブラスに向けた、
「わかります、しかし、恐縮です」
ブラスもどうやら半分遊んでいるらしいニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべており、タロウはまったくと鼻で笑うと、
「あー、どうしようか、じゃ、あれだ、午後の修練の時にでも何とかするよ、アフラさんに渡せばいいんだろ?肉挽き機?で、食いたかったらソフィアに言ってくれ」
と最も簡潔な方法を提案し、と同時に己が妻に丸投げして作業台に向かった、今日の修練ではイフナースらにある程度手ほどきし、後は様子を見るだけになるであろうとタロウは考えている、クロノスらに施したような厳しい苦行にはならない為、立派な大人が四人も揃っていれば少しくらい目を離しても危険はないであろうと瞬時に判断した、昨日の状況も鑑み少しのんびりやるくらいが丁度良いとも考えていたが、昨日のユーリの反応を見る限り、もう少し手を抜くか、それぞれに合わせる必要があるであろうとも考えている、
「うむ、それでいい・・・が・・・アフラ、使い方を見ておくか?」
クロノスにしては随分と慎重な意見である、
「はい、ソフィアさんにお願い致します、報告書だけでは今一つな部分もありまして」
実に現実的に真面目に応えるアフラであった、
「だな、で、お前さんは何をやっているんだ?」
「メダカー、作ってるのー、あと、ニャンコー、あと、木ー」
ミナが小脇に抱えられたまま叫ぶ、
「メダカ?」
「うん」
「作れるのか?」
「作れるー」
「どういう事だ?」
クロノスは埒が明かないとタロウへ問うと、
「風呂場のタイルだよ、幾何学模様じゃ、寂しいからな、ミナとレインとニコリーネさんにタイルで絵を描いてもらってるんだよ」
タロウは作業に戻りつつ答える、作業台には色とりどりのタイルが並び、タロウはその一枚を手にして、添え木を当て木槌を振るう、バンと小気味よい音が響いてタイルが割れたようだ、
「・・・また面倒な事を・・・」
クロノスはミナを抱えたまま作業台に近寄る、
「むふふー、メダカ可愛いのよー、ニャンコもー」
ミナはニヤニヤとクロノスを見上げ、クロノスはもういいかとミナをタロウの隣に下ろすと、
「ふーん・・・どっかで見たな、タイルで絵を描くのか・・・」
とタイルの一枚を手にした、
「そうか?」
「おう、どこだったかな・・・あー、俺の田舎で似たような事やってるやつがいたな・・・」
クロノスは懐かしそうに微笑する、王国では建物内にタイルを貼る習慣が少ない、精々が装飾として貼られる場合があるらしいがあまり一般的ではないらしい、住宅内に水場が少ない為であろうとタロウは推測しているが、タイルそのものは何気に活用されていた、主に宗教施設の装飾用で用いられるらしく、複雑な色を組み合わせたステンドガラスと合わせて外壁の装飾として活用されており、石造りやレンガ作りの重厚な建物に散見される、その為タイルそのものは様々な色味と大きさと形が存在し、そこそこ高価な代物として扱われているようだ、幸いな事に王国では何気に陶器に関する技術が高く、一部では磁器も作成されていた、ユーリが活用している陶器板を持ち出す必要も無く、その形状も用途も細々とであるが多岐に渡っており、タロウはその事実を目にして大したもんだと舌を巻いたほどである、そして風呂場を作るに当たってブラスは土台として積んだ石をコンクリで固め、漆喰で仕上げをする予定であった、それを聞いたタロウはそれでは駄目だと、タイルを貼る事を主張し、ブラスは特に拘る気は無くタロウの指示に従っているという形である、
「それはどんな感じで?」
「どんな感じって・・・どうだろうな、あれだ、丸いタイルとか、三角のタイルとかで花やらなにやらを形作っていたような?うろ覚えだな・・・」
「そうか、それは見てみたいが、まぁ、これもそれと同じだよ」
タロウは黒板を確認しながらタイルを割っており、ブラスもその隣で作業を再開する、そこへ、
「まだー」
とニコリーネが足場の中から顔を出し、クロノスとアフラの姿に気付いて、
「わっ、失礼しました」
とさっと引っ込んだ、
「あー、すまんな、ニコリーネ、邪魔をしている」
クロノスが律儀に声を掛けると、
「こちらこそ申し訳ありません・・・」
蚊の鳴くような謝罪を口にしてニコリーネがソッと顔を出した、
「構わんぞ、そうなると、あれか、これをその風呂場とやらに貼るのか?」
「そうだよ、漆喰を塗ってその上にペタペタって感じでな、壁と床はタイルで覆う感じになる」
「ほう・・・見ても良いか?」
「いいけど、まだ前の前の段階だぞ、どう貼るかを試行錯誤している状態だ」
「構わんよ」
クロノスはノシノシと足場へ向かい、アフラも興味があるのか静かに付き従う、ニコリーネは慌ててその姿を消した、そこへ、イフナースも顔を出す、ブラスは再び直立不動となって、
「御機嫌麗しゅう、イース様」
と声を張り上げた、
「おう、ブラスも居たか、タロウ殿、あの水車は何だ?」
とこちらも素直な疑問を口にした、
「何だと言われましても、水車ですよ」
「それは分かる、ソフィアさんからも聞いた、水と空気を混ぜるとはどういう事だ」
また説明がめんどくさい事をとタロウは頬をひくつかせ、しかし、己がやった事でもある、
「あー、作業しながらでいいですか?」
とイフナースには一応確認した、
「勿論だ、俺が邪魔している側だからな、それに俺の師匠様だろ、遠慮する事はない」
そう言い切るイフナースであるが、その態度は師匠様に対するそれには見えない、タロウとしてもそのような扱いは望んでおらず、
「そうですね・・・まずは魚の呼吸について説明します」
と作業に戻りながら口を開く、ブラスは師匠様なんだとその真偽は分からないがタロウであればそう呼ばれても仕方ないであろうなと思う、俺も今度からそう呼ぼうかな等と思いながら作業に戻り、ミナは割ったタイルを籠に入れて浴室へ向かい、レインはこちらの話しの方が面白いかもなと作業を続ける振りをして聞き耳を立てるのであった。
ソフィアが来客対応と掃除を終え、さて次はと厨房に足を向けた瞬間、ドカドカと階段がうるさくなりクロノスがヌッと顔を出した、
「誰がー?」
ソフィアはまるで遠慮無く答える、クロノス本人に礼が無いのだ、そのような人物に礼を尽くす必要は皆無である、
「タロウだ、いや、お前さんでもいいぞ」
クロノスはそのままズカズカと食堂へ入り、その後ろにはめんどくさそうな顔のイフナースとアフラが付いてきている、
「あら、殿下にアフラさんまでどうされました?」
ソフィアは後ろの二人には丁寧な対応である、アフラは笑顔で会釈し、
「朝から騒がせてすまんな」
イフナースも渋い顔であったがしっかりと応えた、
「それはかまいませんよ、いつもの事です」
ソフィアがニコリと返すと、
「だな、ほれ、あれだ、なんだ」
クロノスが言い淀んで振り向くと、アフラはスッと先に立ち、
「すいません、ソフィアさん、不躾で申し訳ないのですが、肉挽き機とやらを拝見したいと思いまして」
申し訳なさそうな顔である、
「へっ?あー・・・そういう事・・・なに?ティルさんから報告上がったの?」
「はい、そうなんです、で、パトリシア様も王妃様も、なにより陛下がその・・・食べたいと言って・・・」
アフラは若干言葉を飲み込んだ、国の最高権威者に向かってうるさくてかなわないとその本心を口にする事は出来なかったのである、
「そっかー、ティルさんも真面目に仕事してるのねー」
ソフィアは別の所に感心する、
「それはもう、報告書は皆様楽しみにしてらっしゃいます」
「それはそれで恥ずかしいわね、そろそろ教える料理が無くなってきてるからこっちも困っているのよ」
「そんな事言って、先程ティルに会いましたけど、今日のも凄いですって鼻息を荒くしてましたよ」
「あら・・・そうね、昨日は妙に豪華・・・じゃないけど、私も初めての料理ばかりだったしね」
「ソフィアさんもですか?」
「そうよー、タロウの料理だからね、まっ、私が教えているのは基本タロウの料理なんだけどさ、で、見るだけ?」
とソフィアはクロノスへ視線を移す、イフナースはさして興味が無いのか水槽を見つめており、その水車の仕掛けになんだこれはと目をむいていた、
「それなんだよ、パトリシアも陛下もそれを持ってこいってうるさくてさ・・・あー、タロウに頼んで買ってきてもらえたらとも思っていたんだが・・・」
やれやれとまだ午前の半ばだというのに疲れた顔である、ソフィアは詳細は聞いてないが色々と忙しいんじゃないのかしらとその顔を斜めに睨み、ある意味でこれも仕事なのかしらと前向きに考える事とした、とても王太子様自らが動く事とは思えない、それも二人揃ってである、ある意味で平穏な日常よねーと軽く溜息を吐くと、
「でしょうねー、じゃ、内庭でなんかやってるから、直接言いなさい」
「すまんな」
クロノスとアフラはそのまま厨房に入り、一人残されたのはイフナースである、小さい水音を立ててクルクルと回る水車を見つめ、
「これはどういう事なのだ?」
と振り返った、
「あー・・・それもあれです、タロウが適当に作った代物なんですが、一応意味はあるとか・・・」
「意味?」
「はい、水に空気を混ぜる必要があるとの事で、そこまでするのかって感じですけどねー」
ソフィアは呆れたように答える、
「水に空気?混ぜる?混ざるのか?」
「タロウはそう言ってましたね・・・」
「・・・けったいな上に大仰だな・・・」
「その通りです」
イフナースはしかしそのけったいな仕掛けから目を離せず、ソフィアはさて、夕飯の下準備くらいはしておこうかしらねーと王太子をほっぽって厨房へ入った、それはそれで大変に不敬な行為であったが、いつもの事である、
「おう・・・何やってるんだ?」
クロノスとアフラが内庭に入ると、タロウとブラスが作業台に向かって何やらやっており、その周りでミナとレインがちょこまかと歩き回っていた、
「クロノスだー」
ミナが猛然とクロノスに体当たりをかますが、いつもの事とヒョイと抱え上げられ、ムーと唸って手足をバタバタ振り回す、
「スイランズ様、お疲れ様です」
気付いたブラスが直立不動となり、タロウが背を曲げたまま振り返り、
「おう、おはようさん、どした?」
夫婦揃って大変に不敬な事であったが、クロノスは、
「すまん、頼み事だ、というかお前のせいだ、まったく、めんどくさい」
と憤然とその本心を口にして鼻息を荒くする、
「何だよ、今度は?」
タロウがやれやれと腰を伸ばして振り返る、アフラがサッとクロノスの前に進み出ると、
「おはようございます、タロウ様、実はですね・・・」
と用向きを伝えた、ミナはクロノスに抱きかかえられたままギャーギャーとはしゃいでおり、レインはまったく忙しい事だと顔を顰めている、
「あー・・・そういう事かー」
タロウはそうもなるだろうなと理解を示し、ブラスは、
「確かに、あの肉料理は素晴らしいです」
と満面の笑みとなる、
「何だ、お前は食べたのか?」
クロノスが片眉を上げた、
「はい、昨日の夕飯がそれでした、リノルトが量産する為に預かった一台を借りたのです」
ブラスはムフンと嬉しそうに正直に答える、何のてらいもない、ミナも、
「ハンバーグ、ハンバーグって言うの、美味しいのよー」
と嬌声を上げた、
「それは聞いている、しかし・・・で、旨いのか?」
「旨いです、極上です、あれほどの肉料理はまず無いかと、最初はでかい肉団子かなと思いましたが、全然違います、あれはあれでまったく別の料理です」
ブラスはだらしない笑みを浮かべる、昨夜の食卓を思い出し、よだれを垂れ落とさんばかりであった、
「あー、確かにでかい肉団子だなー」
タロウがのんびりと微笑み、
「それほどか・・・」
クロノスはジロリとブラスを睨む、
「はい、肉のスープというのがあると初めて知りました、スープに漬けているわけではないのですが、こう、肉の汁がじんわりと滲み出るのです、あれは極上です、度肝を抜かれます」
「そうなのー、極上なのー」
ミナが両手をバタつかせてクロノスを見上げる、
「そうか・・・極上か・・・」
クロノスはミナを見下ろし、
「タロウ、食わせろ」
とギンと音が響くほどにタロウを睨み、端的に要求した、
「別に構わないが、あれだろ、肉挽き機が欲しいんじゃなかったのか?」
主旨が違っているだろうとタロウは睨み返すが、
「ブラスに聞いたら食いたくなった」
「恐縮です」
ブラスが再び背筋を伸ばして不動となる、
「別に褒められてないぞ」
タロウが苦笑いをブラスに向けた、
「わかります、しかし、恐縮です」
ブラスもどうやら半分遊んでいるらしいニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべており、タロウはまったくと鼻で笑うと、
「あー、どうしようか、じゃ、あれだ、午後の修練の時にでも何とかするよ、アフラさんに渡せばいいんだろ?肉挽き機?で、食いたかったらソフィアに言ってくれ」
と最も簡潔な方法を提案し、と同時に己が妻に丸投げして作業台に向かった、今日の修練ではイフナースらにある程度手ほどきし、後は様子を見るだけになるであろうとタロウは考えている、クロノスらに施したような厳しい苦行にはならない為、立派な大人が四人も揃っていれば少しくらい目を離しても危険はないであろうと瞬時に判断した、昨日の状況も鑑み少しのんびりやるくらいが丁度良いとも考えていたが、昨日のユーリの反応を見る限り、もう少し手を抜くか、それぞれに合わせる必要があるであろうとも考えている、
「うむ、それでいい・・・が・・・アフラ、使い方を見ておくか?」
クロノスにしては随分と慎重な意見である、
「はい、ソフィアさんにお願い致します、報告書だけでは今一つな部分もありまして」
実に現実的に真面目に応えるアフラであった、
「だな、で、お前さんは何をやっているんだ?」
「メダカー、作ってるのー、あと、ニャンコー、あと、木ー」
ミナが小脇に抱えられたまま叫ぶ、
「メダカ?」
「うん」
「作れるのか?」
「作れるー」
「どういう事だ?」
クロノスは埒が明かないとタロウへ問うと、
「風呂場のタイルだよ、幾何学模様じゃ、寂しいからな、ミナとレインとニコリーネさんにタイルで絵を描いてもらってるんだよ」
タロウは作業に戻りつつ答える、作業台には色とりどりのタイルが並び、タロウはその一枚を手にして、添え木を当て木槌を振るう、バンと小気味よい音が響いてタイルが割れたようだ、
「・・・また面倒な事を・・・」
クロノスはミナを抱えたまま作業台に近寄る、
「むふふー、メダカ可愛いのよー、ニャンコもー」
ミナはニヤニヤとクロノスを見上げ、クロノスはもういいかとミナをタロウの隣に下ろすと、
「ふーん・・・どっかで見たな、タイルで絵を描くのか・・・」
とタイルの一枚を手にした、
「そうか?」
「おう、どこだったかな・・・あー、俺の田舎で似たような事やってるやつがいたな・・・」
クロノスは懐かしそうに微笑する、王国では建物内にタイルを貼る習慣が少ない、精々が装飾として貼られる場合があるらしいがあまり一般的ではないらしい、住宅内に水場が少ない為であろうとタロウは推測しているが、タイルそのものは何気に活用されていた、主に宗教施設の装飾用で用いられるらしく、複雑な色を組み合わせたステンドガラスと合わせて外壁の装飾として活用されており、石造りやレンガ作りの重厚な建物に散見される、その為タイルそのものは様々な色味と大きさと形が存在し、そこそこ高価な代物として扱われているようだ、幸いな事に王国では何気に陶器に関する技術が高く、一部では磁器も作成されていた、ユーリが活用している陶器板を持ち出す必要も無く、その形状も用途も細々とであるが多岐に渡っており、タロウはその事実を目にして大したもんだと舌を巻いたほどである、そして風呂場を作るに当たってブラスは土台として積んだ石をコンクリで固め、漆喰で仕上げをする予定であった、それを聞いたタロウはそれでは駄目だと、タイルを貼る事を主張し、ブラスは特に拘る気は無くタロウの指示に従っているという形である、
「それはどんな感じで?」
「どんな感じって・・・どうだろうな、あれだ、丸いタイルとか、三角のタイルとかで花やらなにやらを形作っていたような?うろ覚えだな・・・」
「そうか、それは見てみたいが、まぁ、これもそれと同じだよ」
タロウは黒板を確認しながらタイルを割っており、ブラスもその隣で作業を再開する、そこへ、
「まだー」
とニコリーネが足場の中から顔を出し、クロノスとアフラの姿に気付いて、
「わっ、失礼しました」
とさっと引っ込んだ、
「あー、すまんな、ニコリーネ、邪魔をしている」
クロノスが律儀に声を掛けると、
「こちらこそ申し訳ありません・・・」
蚊の鳴くような謝罪を口にしてニコリーネがソッと顔を出した、
「構わんぞ、そうなると、あれか、これをその風呂場とやらに貼るのか?」
「そうだよ、漆喰を塗ってその上にペタペタって感じでな、壁と床はタイルで覆う感じになる」
「ほう・・・見ても良いか?」
「いいけど、まだ前の前の段階だぞ、どう貼るかを試行錯誤している状態だ」
「構わんよ」
クロノスはノシノシと足場へ向かい、アフラも興味があるのか静かに付き従う、ニコリーネは慌ててその姿を消した、そこへ、イフナースも顔を出す、ブラスは再び直立不動となって、
「御機嫌麗しゅう、イース様」
と声を張り上げた、
「おう、ブラスも居たか、タロウ殿、あの水車は何だ?」
とこちらも素直な疑問を口にした、
「何だと言われましても、水車ですよ」
「それは分かる、ソフィアさんからも聞いた、水と空気を混ぜるとはどういう事だ」
また説明がめんどくさい事をとタロウは頬をひくつかせ、しかし、己がやった事でもある、
「あー、作業しながらでいいですか?」
とイフナースには一応確認した、
「勿論だ、俺が邪魔している側だからな、それに俺の師匠様だろ、遠慮する事はない」
そう言い切るイフナースであるが、その態度は師匠様に対するそれには見えない、タロウとしてもそのような扱いは望んでおらず、
「そうですね・・・まずは魚の呼吸について説明します」
と作業に戻りながら口を開く、ブラスは師匠様なんだとその真偽は分からないがタロウであればそう呼ばれても仕方ないであろうなと思う、俺も今度からそう呼ぼうかな等と思いながら作業に戻り、ミナは割ったタイルを籠に入れて浴室へ向かい、レインはこちらの話しの方が面白いかもなと作業を続ける振りをして聞き耳を立てるのであった。
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ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
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