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本編
65話 密談に向けて その10
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その頃寮の内庭では、
「ウルジュラのいいわね」
「でしょー、ムフフー」
「あら、パトリシアのも品があるではないですか」
「そうかしら、今一つですわ、こう、華やかさが欲しいかしら」
「なら、やはり大きく輪を描くのがいいんじゃないかしら」
「それもそうですわね・・・どうやるのかしら・・・」
「それはのう、いっそのことじゃな」
内庭ではこれで三日連続となる染物教室が開かれていた、サビナが講師役となり、カトカはその助手のような立ち位置で、ミナがキャーキャー言いながら走り回り、レインは何とも偉そうに講釈を垂れている、
「はい、イージス君のはこっちですね、マリア様のはこちらです」
「ありがとうございます、わっ、どうでしょう、母様」
「カッコいいわね、私のはどう?」
「美しいと思います」
染色担当はタロウが不在であった為、ゾーイがやらざるを得ない状況であった、しかし、ゾーイは嫌な顔を一切見せずにニコニコとその手を青く染めており、しかし、どこか緊張しているようで時折顔を上げてはチラチラと視線を彷徨わせている、サビナとカトカは申し訳ないなと思いつつもやんごとなき人達の手伝いに集中し、エレインはマリエッテを抱いて見事なまでに門外漢と化していた、昨日、マリア達が午後から生徒達と染物を実践する予定であったのだが、その前にユスティーナ達が訪問しており、政情を鑑みるに少々難しい状況だと判断した為急遽取り止めとなっていた、その為夕食時にもマリア達は姿を見せず、エレインは何とも寂しそうに食事を済ませている、そして、今日改めてマリア達は染物作業の為に早めに寮へと来たのであるが、王妃達やパトリシアも興味があるらしく、そういう事ならばとマリアが誘うと案の定、王族達がこぞって姿を現したのであった、そして困ったことにどうやらさらにめんどくさい人物も紛れ込んでいたようで、
「ほう、では、迷惑は掛けていないのよね」
「それはもう、はい」
「であれば良いですけど・・・あれは少々好きにさせ過ぎたからね、自分はそれで良いと思い込んでいる節があります、それでは周りが迷惑するでしょうに」
「愛が深すぎるのよ」
「そうかしら?あれの才能は見るべきものがあっただけだと言っているでしょう」
「それだけでこんなに長く続いているんですもの、それこそが愛でしょうね」
「あなたはすぐにそれを言うわよね、飢えてるのかしら、それに」
「違いますよ、あなたはそれの向きを代えるべきだと言っているのです、あれだけの可愛らしい孫と曾孫達に囲まれているんですよ、そちらを見なさい」
「見ていますよ、当然でしょう」
「そうかしら、少々邪険に見えますよ」
「子供はその程度にあしらってあげるのが丁度良いのです、立派に両親がいるのですから」
「そうだけど」
「両親のいない子にこそ目をかけるべきなのです、何度も言っているでしょう」
「それこそ十分よ、王妃様達も尽力されているのですから」
「そうですけど」
「全ての子供達を豊かにすることなどできないのですから、そちらこそ程々にするのが賢いですよ」
「それは分かっています、あなたに言われる筋合いはないですよ」
「いいえ、あります、私だってどれだけ資金を提供していると思っているの?」
「それは当然です、富める者は貧しき者に手を差し述べるべきです、そうしないと太る者と痩せる者とで分断されてしまいます、それは富める者にとっても損なのですよ、豊かな市場こそが富める者をより太らせるのです、富める者がそうありたいならば市場と世の中を太らせる必要があるのです、それは貧しき者を太らせる事です、世の貴族も富裕層もそれが分かっていないのです」
「はいはい、何度も聞いてるわよ、賛同してくれる奥様方は増えているんだからそれでいいでしょう」
「それこそ当然です」
「まったく、ユーリ先生御免なさいね、どうにもこの子は昔からこうで、あれね、夫婦揃って理屈が先走るのね、困ったもんだわ」
「そう・・・です・・・かね・・・はい」
ユーリは言葉を濁すしかなかった、ユーリの前に座る二人の老女は服装もその顔形も大きく異なるが纏った雰囲気は同じ物であった、恐らく貴族の端くれか富裕層であるのが一目瞭然で大変に上品である、そして王妃達やパトリシアにまるでこびへつらう事が無い様子にソフィアと似たような者が他にもいるのだなとユーリは唖然ともしていた、
「そうね、こんなもんかしら?」
その一人が熱心に捏ね繰り回していた布をポンとテーブルに置く、
「あら・・・歪ね・・・」
「そういうものだとサビナ先生もおっしゃっていたでしょ」
「そうですけど、やり過ぎじゃない?」
「染めてみないと分かりませんよ」
「そうかしら?」
「あなたのはそれでいいの?簡単過ぎるわ」
「あら、基本に忠実と言って下さる?」
「・・・ものは言いようね」
「あなたに言われたくはないかしら」
仲が良いんだか悪いんだか、ユーリとしては高齢の女性が言いたい放題に言い合っているのをどうしたものかと眺めるしかなかった、その独特の押しの強さもさることながらやはり高齢の女性特有の遠慮の無さと裕福な者特有の傍若無人な態度も端々に見えている、つい先程ゾーイによって二人を紹介され大変に驚いたのであるが、その際に感じた上品で慎ましやかな印象はとうに霧散していた、この二人はとても口が悪く姦しい、いや騒々しい、
「まぁこんなもんね、ゾーイ、お願いできる?」
老女の一人が振り向き、ゾーイがハイッと甲高い声を上げてこちらへすっ飛んできた、どうやらゾーイもこの御仁には頭が上がらないようで、いや、この御仁に顎で使われる事に慣れてしまっているのであろう、老女もまたゾーイを使う事に慣れている様子であった、
「こちら二つね」
「はい、お預かりいたします、それで、どこまで染めますか?半分程度か全体を染めてしまうか」
「私のは全部よ」
「私のは半分ね、この辺まで斜めに」
まるで悩まず答える二人である、頭の回転も素早い様子であった、
「はい、少々お待ち下さい」
ダダッと駆け戻るゾーイである、老女の一人は、
「何もあんなに忙しなくしなくても、あなたよっぽど辛くあたったのかしら?」
「そんな事あるもんですか、でも、ゾーイはこちらに来て正解だったわね、良い顔しているわ」
ニコリと優しく微笑む老女である、
「ユーリ先生のお陰かしらね、どう?こっちでは元気にやってるの?」
柔らかい笑顔を向けられたユーリは、
「そう・・・ですね、元気にはやっていると思います、それ以上に忙しくさせているので、何かと騒がしいというか・・・はい」
しどろもどに答えるユーリに、
「そう・・・それは良かったわ、何よりあの子の顔が全然違うもの、ほら、向こうでは男の中に一人だったでしょ、私も時折気にはしていたんだけど、どうしてもね口出しできる場所ではないから、向こうでは暗い顔している時が多くてね、折角の美人さんなのに残念でね」
ユーリはゾーイに初めて会った時を思い出す、確かに暗い顔であったし、その時には周囲には王族やらロキュスが居た為に緊張している為と思っていたが、どうやらロキュスの研究室でもあのような顔であったらしい、
「そうですか・・・そうでしょうね、ロキュス参謀・・・じゃなかった相談役・・・も気に掛けていらっしゃたようですし・・・」
「そうするように私が言ったのよ、あのボケナスは人の心が分らないのよ」
「ボケナス・・・はどうかと・・・」
ユーリは渋い顔となる、
「いいえ、ハッキリ言わないと駄目なの、ボケナスはボケナスよ」
「それは言いすぎでしょ、あれでも王国の相談役なのよ」
「あれがあれで終わるのであればそれでも良いのよ、見てみなさい、弟子でまともな者がまるで出て来ていないのよ、あれだって若くないんだから次の事を考えるべきなのに、それがなってないわよ」
「そうでしょうけど、それこそ人によるでしょ」
「だから、そこまで引き上げるのがあれの仕事なの、誰彼構わずなんて言ってないのよ、これぞという人を後継に育てないと人材が枯渇してしまうわ、それこそゾーイなんかあの場に居たらそのまま腐っちゃってたわよ、こっちに移るって聞いて、女性の多い環境だって聞いてね、少しは安心したのよ、私は」
「情の深い事だわね」
「そりゃそうでしょ、あっ、思い出した、でね、ユーリ先生、虐めとか虐待とかは無いわよね」
急に剣呑な事を言い出す老女である、
「エッ・・・えっと」
ユーリは思わず背筋を伸ばす、そのような事は無いはずだし、少なくとも研究所内は仲良くやっているつもりである、
「大丈夫でしょ、ユーリ先生も穏やかな人のようだし」
「そう?男だけの組織も気持ち悪いけどね、女だけの組織も陰湿なものよ、表面だけは仲良く見せてドロドロに腐りきっているものでしょ、あんたと私みたいにね」
「それは認めるけど、どうかしらユーリ先生?」
「エッ・・・えーと、そう・・・ですね、今はその・・・それどころじゃなく忙しい感じで、その、私もカトカもサビナもゾーイさんの存在は有難い程でして・・・」
「なら良いわ、いい?ゾーイを泣かしたら私が許しませんからね」
「だから、今日会ったばかりの人に言う事ではないわよ」
「いいえ、あの子は私がそれなりに目をかけていたのよ、折角明るい顔になったようですもの、後はいい男を見付けるだけなのだわ」
「だから、そうなったのはユーリ先生のお陰でしょ、あなたは御礼を言うべきよ、変な圧力かけないで」
「・・・それもそうね、ユーリ先生失礼しましたわ」
素直に頭を垂れる老女である、
「そんな、こちらこそ、その、まだ何とも言えないですが、ゾーイ・・・さんは大事な同僚と思っております、はい、なので、無下に扱う事は決してありませんから」
ユーリが慌てて答えると、
「そうね、そのように扱って下さいね・・・そうだ、ユーリ先生はまだ御一人なのかしら?」
ニヤリと顔を上げる老女である、ユーリは瞬時にこれはめんどくさい話しだと背筋を寒くし、
「えっと、はい、そうですが・・・その」
とワタワタと逃げ場を探す、周囲を見渡すが誰も助けてくれそうな者は無い、王妃達は我関せずと布に向かい、パトリシアとウルジュラはミナとレインを相手にしてキャッキャッと楽しそうで、マリアとマリエッテの乳母もイージスと共に作業に熱中しており、エレインはマリエッテを抱いて腑抜けている、ここで頼りになるはずのカトカとサビナはこちらの雰囲気を敏感に察したのであろう、完全にこちらを視界にも入れておらず背中しか見えない、さらにゾーイはタライに向かって真剣な様子であった、
「ふふっ、あのね、男爵の長男坊なんだけど良い子がいるのよ」
「あら、なら、私の方が勝ちね、子爵の三男よ、自分で商売もしているから世間を知っている良いのがいるわ」
「そう?こっちは男爵位は確実よ、領地も王都のすぐ隣だし、良い葡萄が採れるのよ」
「ユーリ先生であれば、田舎生活よりも都会生活の方が合うんじゃない?」
「それもそうかしら、研究は続けたいのよね?」
「それもあるわね、どうなの?」
「えっ・・・えっとー・・・」
老女二人の猛攻がユーリを襲う、そこへ、
「わっ、皆様いらっしゃってたのですか・・・」
勝手口からタロウが顔を出し、
「あっ、丁度良かった、タロウ、紹介するわ」
と腰を上げて逃げ出すユーリであった。
「ウルジュラのいいわね」
「でしょー、ムフフー」
「あら、パトリシアのも品があるではないですか」
「そうかしら、今一つですわ、こう、華やかさが欲しいかしら」
「なら、やはり大きく輪を描くのがいいんじゃないかしら」
「それもそうですわね・・・どうやるのかしら・・・」
「それはのう、いっそのことじゃな」
内庭ではこれで三日連続となる染物教室が開かれていた、サビナが講師役となり、カトカはその助手のような立ち位置で、ミナがキャーキャー言いながら走り回り、レインは何とも偉そうに講釈を垂れている、
「はい、イージス君のはこっちですね、マリア様のはこちらです」
「ありがとうございます、わっ、どうでしょう、母様」
「カッコいいわね、私のはどう?」
「美しいと思います」
染色担当はタロウが不在であった為、ゾーイがやらざるを得ない状況であった、しかし、ゾーイは嫌な顔を一切見せずにニコニコとその手を青く染めており、しかし、どこか緊張しているようで時折顔を上げてはチラチラと視線を彷徨わせている、サビナとカトカは申し訳ないなと思いつつもやんごとなき人達の手伝いに集中し、エレインはマリエッテを抱いて見事なまでに門外漢と化していた、昨日、マリア達が午後から生徒達と染物を実践する予定であったのだが、その前にユスティーナ達が訪問しており、政情を鑑みるに少々難しい状況だと判断した為急遽取り止めとなっていた、その為夕食時にもマリア達は姿を見せず、エレインは何とも寂しそうに食事を済ませている、そして、今日改めてマリア達は染物作業の為に早めに寮へと来たのであるが、王妃達やパトリシアも興味があるらしく、そういう事ならばとマリアが誘うと案の定、王族達がこぞって姿を現したのであった、そして困ったことにどうやらさらにめんどくさい人物も紛れ込んでいたようで、
「ほう、では、迷惑は掛けていないのよね」
「それはもう、はい」
「であれば良いですけど・・・あれは少々好きにさせ過ぎたからね、自分はそれで良いと思い込んでいる節があります、それでは周りが迷惑するでしょうに」
「愛が深すぎるのよ」
「そうかしら?あれの才能は見るべきものがあっただけだと言っているでしょう」
「それだけでこんなに長く続いているんですもの、それこそが愛でしょうね」
「あなたはすぐにそれを言うわよね、飢えてるのかしら、それに」
「違いますよ、あなたはそれの向きを代えるべきだと言っているのです、あれだけの可愛らしい孫と曾孫達に囲まれているんですよ、そちらを見なさい」
「見ていますよ、当然でしょう」
「そうかしら、少々邪険に見えますよ」
「子供はその程度にあしらってあげるのが丁度良いのです、立派に両親がいるのですから」
「そうだけど」
「両親のいない子にこそ目をかけるべきなのです、何度も言っているでしょう」
「それこそ十分よ、王妃様達も尽力されているのですから」
「そうですけど」
「全ての子供達を豊かにすることなどできないのですから、そちらこそ程々にするのが賢いですよ」
「それは分かっています、あなたに言われる筋合いはないですよ」
「いいえ、あります、私だってどれだけ資金を提供していると思っているの?」
「それは当然です、富める者は貧しき者に手を差し述べるべきです、そうしないと太る者と痩せる者とで分断されてしまいます、それは富める者にとっても損なのですよ、豊かな市場こそが富める者をより太らせるのです、富める者がそうありたいならば市場と世の中を太らせる必要があるのです、それは貧しき者を太らせる事です、世の貴族も富裕層もそれが分かっていないのです」
「はいはい、何度も聞いてるわよ、賛同してくれる奥様方は増えているんだからそれでいいでしょう」
「それこそ当然です」
「まったく、ユーリ先生御免なさいね、どうにもこの子は昔からこうで、あれね、夫婦揃って理屈が先走るのね、困ったもんだわ」
「そう・・・です・・・かね・・・はい」
ユーリは言葉を濁すしかなかった、ユーリの前に座る二人の老女は服装もその顔形も大きく異なるが纏った雰囲気は同じ物であった、恐らく貴族の端くれか富裕層であるのが一目瞭然で大変に上品である、そして王妃達やパトリシアにまるでこびへつらう事が無い様子にソフィアと似たような者が他にもいるのだなとユーリは唖然ともしていた、
「そうね、こんなもんかしら?」
その一人が熱心に捏ね繰り回していた布をポンとテーブルに置く、
「あら・・・歪ね・・・」
「そういうものだとサビナ先生もおっしゃっていたでしょ」
「そうですけど、やり過ぎじゃない?」
「染めてみないと分かりませんよ」
「そうかしら?」
「あなたのはそれでいいの?簡単過ぎるわ」
「あら、基本に忠実と言って下さる?」
「・・・ものは言いようね」
「あなたに言われたくはないかしら」
仲が良いんだか悪いんだか、ユーリとしては高齢の女性が言いたい放題に言い合っているのをどうしたものかと眺めるしかなかった、その独特の押しの強さもさることながらやはり高齢の女性特有の遠慮の無さと裕福な者特有の傍若無人な態度も端々に見えている、つい先程ゾーイによって二人を紹介され大変に驚いたのであるが、その際に感じた上品で慎ましやかな印象はとうに霧散していた、この二人はとても口が悪く姦しい、いや騒々しい、
「まぁこんなもんね、ゾーイ、お願いできる?」
老女の一人が振り向き、ゾーイがハイッと甲高い声を上げてこちらへすっ飛んできた、どうやらゾーイもこの御仁には頭が上がらないようで、いや、この御仁に顎で使われる事に慣れてしまっているのであろう、老女もまたゾーイを使う事に慣れている様子であった、
「こちら二つね」
「はい、お預かりいたします、それで、どこまで染めますか?半分程度か全体を染めてしまうか」
「私のは全部よ」
「私のは半分ね、この辺まで斜めに」
まるで悩まず答える二人である、頭の回転も素早い様子であった、
「はい、少々お待ち下さい」
ダダッと駆け戻るゾーイである、老女の一人は、
「何もあんなに忙しなくしなくても、あなたよっぽど辛くあたったのかしら?」
「そんな事あるもんですか、でも、ゾーイはこちらに来て正解だったわね、良い顔しているわ」
ニコリと優しく微笑む老女である、
「ユーリ先生のお陰かしらね、どう?こっちでは元気にやってるの?」
柔らかい笑顔を向けられたユーリは、
「そう・・・ですね、元気にはやっていると思います、それ以上に忙しくさせているので、何かと騒がしいというか・・・はい」
しどろもどに答えるユーリに、
「そう・・・それは良かったわ、何よりあの子の顔が全然違うもの、ほら、向こうでは男の中に一人だったでしょ、私も時折気にはしていたんだけど、どうしてもね口出しできる場所ではないから、向こうでは暗い顔している時が多くてね、折角の美人さんなのに残念でね」
ユーリはゾーイに初めて会った時を思い出す、確かに暗い顔であったし、その時には周囲には王族やらロキュスが居た為に緊張している為と思っていたが、どうやらロキュスの研究室でもあのような顔であったらしい、
「そうですか・・・そうでしょうね、ロキュス参謀・・・じゃなかった相談役・・・も気に掛けていらっしゃたようですし・・・」
「そうするように私が言ったのよ、あのボケナスは人の心が分らないのよ」
「ボケナス・・・はどうかと・・・」
ユーリは渋い顔となる、
「いいえ、ハッキリ言わないと駄目なの、ボケナスはボケナスよ」
「それは言いすぎでしょ、あれでも王国の相談役なのよ」
「あれがあれで終わるのであればそれでも良いのよ、見てみなさい、弟子でまともな者がまるで出て来ていないのよ、あれだって若くないんだから次の事を考えるべきなのに、それがなってないわよ」
「そうでしょうけど、それこそ人によるでしょ」
「だから、そこまで引き上げるのがあれの仕事なの、誰彼構わずなんて言ってないのよ、これぞという人を後継に育てないと人材が枯渇してしまうわ、それこそゾーイなんかあの場に居たらそのまま腐っちゃってたわよ、こっちに移るって聞いて、女性の多い環境だって聞いてね、少しは安心したのよ、私は」
「情の深い事だわね」
「そりゃそうでしょ、あっ、思い出した、でね、ユーリ先生、虐めとか虐待とかは無いわよね」
急に剣呑な事を言い出す老女である、
「エッ・・・えっと」
ユーリは思わず背筋を伸ばす、そのような事は無いはずだし、少なくとも研究所内は仲良くやっているつもりである、
「大丈夫でしょ、ユーリ先生も穏やかな人のようだし」
「そう?男だけの組織も気持ち悪いけどね、女だけの組織も陰湿なものよ、表面だけは仲良く見せてドロドロに腐りきっているものでしょ、あんたと私みたいにね」
「それは認めるけど、どうかしらユーリ先生?」
「エッ・・・えーと、そう・・・ですね、今はその・・・それどころじゃなく忙しい感じで、その、私もカトカもサビナもゾーイさんの存在は有難い程でして・・・」
「なら良いわ、いい?ゾーイを泣かしたら私が許しませんからね」
「だから、今日会ったばかりの人に言う事ではないわよ」
「いいえ、あの子は私がそれなりに目をかけていたのよ、折角明るい顔になったようですもの、後はいい男を見付けるだけなのだわ」
「だから、そうなったのはユーリ先生のお陰でしょ、あなたは御礼を言うべきよ、変な圧力かけないで」
「・・・それもそうね、ユーリ先生失礼しましたわ」
素直に頭を垂れる老女である、
「そんな、こちらこそ、その、まだ何とも言えないですが、ゾーイ・・・さんは大事な同僚と思っております、はい、なので、無下に扱う事は決してありませんから」
ユーリが慌てて答えると、
「そうね、そのように扱って下さいね・・・そうだ、ユーリ先生はまだ御一人なのかしら?」
ニヤリと顔を上げる老女である、ユーリは瞬時にこれはめんどくさい話しだと背筋を寒くし、
「えっと、はい、そうですが・・・その」
とワタワタと逃げ場を探す、周囲を見渡すが誰も助けてくれそうな者は無い、王妃達は我関せずと布に向かい、パトリシアとウルジュラはミナとレインを相手にしてキャッキャッと楽しそうで、マリアとマリエッテの乳母もイージスと共に作業に熱中しており、エレインはマリエッテを抱いて腑抜けている、ここで頼りになるはずのカトカとサビナはこちらの雰囲気を敏感に察したのであろう、完全にこちらを視界にも入れておらず背中しか見えない、さらにゾーイはタライに向かって真剣な様子であった、
「ふふっ、あのね、男爵の長男坊なんだけど良い子がいるのよ」
「あら、なら、私の方が勝ちね、子爵の三男よ、自分で商売もしているから世間を知っている良いのがいるわ」
「そう?こっちは男爵位は確実よ、領地も王都のすぐ隣だし、良い葡萄が採れるのよ」
「ユーリ先生であれば、田舎生活よりも都会生活の方が合うんじゃない?」
「それもそうかしら、研究は続けたいのよね?」
「それもあるわね、どうなの?」
「えっ・・・えっとー・・・」
老女二人の猛攻がユーリを襲う、そこへ、
「わっ、皆様いらっしゃってたのですか・・・」
勝手口からタロウが顔を出し、
「あっ、丁度良かった、タロウ、紹介するわ」
と腰を上げて逃げ出すユーリであった。
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