778 / 1,471
本編
66話 歴史は密議で作られる その5
しおりを挟む
「戻りましたー」
グルジアとレスタが食堂に入ると、
「へー・・・凄いっすねこれ・・・」
「ねっ、便利でしょ」
「はい、えっとこれもタロウさんが?」
「いや、これは学園長」
「あら・・・こんなもん隠してたんですか、あの先生・・・」
「みたいよー」
ブラスとカトカが額を突き合わせており、レインがこちらでもニマニマと席に着いている、しかし、帰ってきたばかりの二人は、
「わっ、カトカさんカッコいいー」
「うんうん、どうしたんですかー、それー」
グルジアが黄色い声を上げ、レスタも珍しく大声となった、
「あー、お帰りー」
カトカは何とも嫌そうに顔を上げ、
「お疲れ様」
ブラスも振り返るがどこか嬉しそうであった、妙にだらしない顔である、しかしそんな事はどうでもよいとばかりに、
「えー、あっそっかー、今日のあれのおめかしですねー」
グルジアはバタバタとカトカに駆け寄り、
「いいなー、綺麗だなー、凄いなー」
レスタも興奮してグルジアに続いた、
「もう、からかわないでよ、お仕事中なんだから」
カトカはしかし実に嫌そうに顔を歪めた、こうなるのが分かってはいたのであるが、やはりどうにも不愉快である、先程までも北ヘルデルから三階に戻った途端にユーリにキャーキャーと騒がれ、それはゾーイやサビナも同様の扱いであったのだが、やはりカトカのそれは違うらしく、ユーリはサビナとゾーイを巻き込んで嫌がるカトカに説教をする始末であった、タロウが何やら抱えて戻り、下にブラスが待っているぞと伝えてくれたお陰でその場は逃げ出したのであるが、結局こうして生徒達のおもちゃになってしまう、これだから嫌なのだとカトカは内心で大きく溜息を吐いた、
「そんな事言わないで下さいよー」
「そうですよ、美しいです、うん」
そんなカトカの気持ちにはまるで無関心な二人である、カトカと若干の距離を置いてキャーキャーと騒がしい、
「まったく・・・」
レインまでが呆れて二人を見上げた、
「えー、レインちゃんもそう思うでしょー」
「そうだがな、本人は嫌がっておるだろ」
「そうなんですかー、こんなに美しいのにー」
「じゃから、騒がれるのが嫌なのじゃ」
レインが巻き込まれる形であったがカトカの内心を適格に言葉にしたようで、カトカはエッとレインを見つめてしまった、ここでレインが助けになるなんてまるで思っていなかったのである、
「そうでしょうけどー」
「ねー、だって、だってー」
「うん、わー、やっぱり全然違いますよー」
「ですよねー」
「もう・・・分かった、分かったから、少し静かにして、お仕事中なの」
カトカはジロリと二人を睨むが、その冷たい視線もまた魅力的で、
「わっ・・・しびれる・・・」
「うん、ユーリ先生の気持ちが分かる・・・」
「うん、分かるね」
「なんか、ゾクゾクする・・・」
興奮した二人は低い声となるも、カトカの顔から目を離せない、
「まったく・・・ハー、これだから嫌なのよ」
カトカは呟いて二人を無視する事としたらしい、カトカは他の二人とタロウと共に北ヘルデルに向かい、訪問着を仕立てたのであるが、その場が正に常軌を逸していると表現するに正しい状況であった、北ヘルデル特有の寒さはまるで感じない天井の高い部屋に通されると、そこには大量の衣服が並んでおり、パトリシアはその中央にあって優雅に茶を傾けている、どうすればいいのかと取り合えず頭を下げる三人であったが、パトリシアは、ニコリと微笑むと、カトカはこれ、サビナはこれ、ゾーイはこれと、すでに目を着けていた服を指差し、業者であろう女性がバタバタと動き出した、そして、これまた始めての経験であったのが、三人はほぼ同時に全身鏡の前で着替えさせられたのであった、なるほどこう使うのが正しいのかもしれないと思ったのは嵐が落ち着いた後であったのだが、パトリシアは本人の確認も無しに、次はこれ次はこれと見事に三人をおもちゃにして楽しそうで、アフラも特に止める事も無く甲斐甲斐しく走り回っている、三人はどういう状況なのかと目を回して遠慮どころか拒否する事もできず、そして、上品な訪問着を五着、ついでだからと正装を二着、見繕う事になったのである、
「まぁ・・・その、はい、取り合えずこちらはお受けします」
ブラスがだらしない顔のまま何とか取りまとめた、そして二人の女生徒の反応に、女性でもこうなるんだろうなと何気に感心していたりする、なにせ、カトカに関しては美女である事は誰もが一致する評価なのであろうが、その人が珍しくも上品な訪問着であり、先程まではミナとソフィアがいたが、じっくりと対面で話す事が出来たのだ、正常な一男性としてこれほどの幸運と栄誉は無いであろう、無論、つまらない事は言えないし、言った瞬間にこの寮には出入り禁止になってもおかしくない、そう強く自分に言い聞かせつつ、仕事に集中する事で何とか乗り切った、その顔が常以上に緩んでしまっていたとしてもである、
「宜しくお願いします」
カトカはさっさと逃げようと切り上げて腰を上げかけるが、
「これ、なんですか?」
レインが弄繰り回していたアバカスにレスタが気付いたらしい、
「アバカスって言うんだって、計算機なんだってさ」
ブラスがニヤリと答え、
「ふふん、これは便利じゃぞ」
レインもニヤリと微笑む、
「計算機?」
「そうよ、こうやって使うの」
カトカがどうやら落ち着いたらしいと、アバカスを手元に引き寄せて実際に使って見せる、すると、
「これは便利だ・・・」
「うん、確かに」
グルジアもレスタもすぐに真剣な瞳をアバカスに向ける、
「そっか、こんな簡単な事だったんだ・・・」
グルジアは目から鱗とカトカの隣に座りアバカスに触れる、カンカンと玉を弾き、なるほどと頷いた、商会で育った娘として、これほど便利な物もないであろう、
「そうなのよね、こんな簡単な事なのにね、今までなかったのがほんとに不思議」
「ですね・・・うわっ、何か私たちバカみたい・・・」
「そこまで言っちゃ駄目よ」
「ですけど・・・ねぇ」
グルジアが顔を上げて誰にともなく同意を求める、
「それは良く分かる、大いに分かる」
うんうんとブラスが頷き、レインはどこか冷ややかな笑みを浮かべた、
「ですよね、ほら、黒板に書いて計算するのが普通だと思ってましたけど・・・そっか、数字だけ出すならこんなでいいんだ」
「そうなんだよなー、俺らも地面に書いたりしてたけど」
「そうですよね、建築とかだとそうですよね」
「うん、これ、何にでも使えるよな」
「ですよー・・・凄いなー」
ブラスとグルジアが話し込んでいる隣で、レスタがそっとアバカスに手を伸ばす、そして、カンカンと玉を弾き、にやりと微笑むが、すぐにん?と首を傾げた、
「これって、エレインさんには教えたんですか?」
「まだよー、取り合えずほら学園長からの依頼だからねー、学園で教えたいみたいなんだわ」
「へー・・・それいいですね、そっか、学園長か、いや、これあっという間に売れますよ」
「そうだよな、商売してれば絶対欲しいよな」
「ですよ、だって、うん、あー、締め作業とか楽になるなー」
「・・・グルジアさんそんな事までしてたの?」
「そりゃだって、商会の娘ですもん、計算は子供のころからやらされましたよー」
「あっ、そりゃそうよね」
「そうなんです」
「えっ、商会の娘さんなの?」
「はい」
「それで建築?」
「好きなんです」
「それは前にも聞いたけどさ、あー・・・でも羨ましいかもな好きな事勉強できるって」
「そんな風に言われると・・・」
「悪い意味で言ってないよ、でも、それはとても幸せな事だよなって・・・思うな、うん」
「それは確かに、幸せよね」
「そうですけどー」
三人が若干脱線した話しになっていると、
「あの・・・」
レスタがおずおずと顔を上げる、
「ん、どうかした?」
カトカがニコリと微笑む、先程までの不興はすっかり消えていた、カトカとしても周りの反応には慣れている節があり、また、本人もどちらかと言えばサバサバした気質である、つまらない事に拘泥しないのもまた美女の一要因と言えよう、
「あの・・・ですね、この玉って・・・こんなに必要なんでしょうか?」
レスタが不思議そうにアバカスの玉を一つ弾いた、エッと三人の視線がレスタに集まり、レインもオッと強い視線をレスタに向ける、
「どういう事?」
カトカが真剣な口調となる、
「えっと・・・たぶんなんですが、えっと、えっと」
レスタはどう説明するべきかと言葉を探し、四人の視線が集まる中、
「あの・・・この玉って5個あれば計算できると思うんです・・・よ、ね・・・」
とアバカスを弾きながらその理屈を説明しだした、
「えっと、これ玉が10個ありますけど、たぶん、9個でいいんですよ、で、そう考えたら、5の玉を別にして、1の玉を4つ?つまり玉は5個で間に合うんじゃないかなって・・・」
それは実に単純な言葉であったが、
「待って、それ面白い、どういう事?」
カトカが猛然とレスタに向かう、
「えっと、えっと、黒板借ります」
レスタはカトカの前にあった黒板に手を伸ばし、続けて説明する、
「えっと、玉が10個だとこうして、右から左?逆でもいいですけど、端に寄せるんですよね、で、私が思ったのが、まず9個でいいんです、こんな感じ・・・で、でも、これだとだったらもっと減らしたいなって思ったら、こうやって、5の玉を一個にするんで、で、真ん中に寄せる感じで、で、こうすると、1から4はそのままで、5になったらこれをこうして、6の時は・・・」
「5と1が1つ?」
「そうです、そうすれば9まで表示できて、で、10になったら」
「そっか、上の段に1をあげて、無しにする・・・」
カッカッとレスタは黒板を鳴らし、不安そうに顔を上げた、
「・・・確かにそうかも・・・」
「えっ、凄い・・・」
「うん、計算できるね・・・」
「出来ますよね」
「ほう・・・これは大したもんじゃな・・・いや、凄いぞこれは」
やっと理解できた他三人と、レインまでもが目を丸くしている、
「ですよね、出来ますよね」
レスタはホッと安堵の吐息を吐いた、たどたどしく説明しながらも、自信はあったのであるがやはり他者の理解は難しいのかなと不安感があった、しかし、どうやらカトカもグルジアもブラスでさえ納得出来たらしい、良かったーと内心で微笑み、思い付きではあったが間違ってはいなかったなと嬉しく思う、
「・・・レスタさん、あなた天才だわ・・・」
カトカが呆然と呟き、
「異論はないのう・・・」
レインが突然半身を揺する、今にも踊りだしそうな所を強引に押さえているのであろうか、どういう感情表現なのか不明であるが、心底感心し喜んでいるのは理解できた、
「えへへ・・・そんな事無いですよー」
レスタが頬を染めて俯いた、
「いいえ、そんな事あります・・・うん、ブラスさん、この10玉のアバカスと、5玉のアバカスを作って下さい、いや、待って下さい・・・違うな、やっぱり作って下さい」
どっちだよとブラスは呆れつつ、
「あっ、はい、そうですね、はい、作ります」
と頷かざるを得ない、
「で、レスタさん、学園長と話しましょう、その前に、所長とも話しましょう、今すぐに」
カトカがガタリと立ち上がる、レスタはエッとカトカを見上げ、
「ほら、行きますよ」
カトカはアバカスと黒板を引っ掴むと階段へ走り、
「早くなさい」
椅子に座ったままのレスタを叱りつける勢いである、レスタはハイッと大声を上げて立ち上がり階段へ向かった、そこへ、
「はーい、次レインよー、打合せは終わったのー?」
厨房からソフィアが顔を出し、
「おめかし終ったー」
訪問着に着替えたミナが駆け込んでくる、しかし、食堂内ではポカンとあっけに取られた顔の三人が階段を見つめており、
「どした?」
ソフィアが首を傾げ、
「どした?」
ミナがそれを真似て首を傾げるのであった。
グルジアとレスタが食堂に入ると、
「へー・・・凄いっすねこれ・・・」
「ねっ、便利でしょ」
「はい、えっとこれもタロウさんが?」
「いや、これは学園長」
「あら・・・こんなもん隠してたんですか、あの先生・・・」
「みたいよー」
ブラスとカトカが額を突き合わせており、レインがこちらでもニマニマと席に着いている、しかし、帰ってきたばかりの二人は、
「わっ、カトカさんカッコいいー」
「うんうん、どうしたんですかー、それー」
グルジアが黄色い声を上げ、レスタも珍しく大声となった、
「あー、お帰りー」
カトカは何とも嫌そうに顔を上げ、
「お疲れ様」
ブラスも振り返るがどこか嬉しそうであった、妙にだらしない顔である、しかしそんな事はどうでもよいとばかりに、
「えー、あっそっかー、今日のあれのおめかしですねー」
グルジアはバタバタとカトカに駆け寄り、
「いいなー、綺麗だなー、凄いなー」
レスタも興奮してグルジアに続いた、
「もう、からかわないでよ、お仕事中なんだから」
カトカはしかし実に嫌そうに顔を歪めた、こうなるのが分かってはいたのであるが、やはりどうにも不愉快である、先程までも北ヘルデルから三階に戻った途端にユーリにキャーキャーと騒がれ、それはゾーイやサビナも同様の扱いであったのだが、やはりカトカのそれは違うらしく、ユーリはサビナとゾーイを巻き込んで嫌がるカトカに説教をする始末であった、タロウが何やら抱えて戻り、下にブラスが待っているぞと伝えてくれたお陰でその場は逃げ出したのであるが、結局こうして生徒達のおもちゃになってしまう、これだから嫌なのだとカトカは内心で大きく溜息を吐いた、
「そんな事言わないで下さいよー」
「そうですよ、美しいです、うん」
そんなカトカの気持ちにはまるで無関心な二人である、カトカと若干の距離を置いてキャーキャーと騒がしい、
「まったく・・・」
レインまでが呆れて二人を見上げた、
「えー、レインちゃんもそう思うでしょー」
「そうだがな、本人は嫌がっておるだろ」
「そうなんですかー、こんなに美しいのにー」
「じゃから、騒がれるのが嫌なのじゃ」
レインが巻き込まれる形であったがカトカの内心を適格に言葉にしたようで、カトカはエッとレインを見つめてしまった、ここでレインが助けになるなんてまるで思っていなかったのである、
「そうでしょうけどー」
「ねー、だって、だってー」
「うん、わー、やっぱり全然違いますよー」
「ですよねー」
「もう・・・分かった、分かったから、少し静かにして、お仕事中なの」
カトカはジロリと二人を睨むが、その冷たい視線もまた魅力的で、
「わっ・・・しびれる・・・」
「うん、ユーリ先生の気持ちが分かる・・・」
「うん、分かるね」
「なんか、ゾクゾクする・・・」
興奮した二人は低い声となるも、カトカの顔から目を離せない、
「まったく・・・ハー、これだから嫌なのよ」
カトカは呟いて二人を無視する事としたらしい、カトカは他の二人とタロウと共に北ヘルデルに向かい、訪問着を仕立てたのであるが、その場が正に常軌を逸していると表現するに正しい状況であった、北ヘルデル特有の寒さはまるで感じない天井の高い部屋に通されると、そこには大量の衣服が並んでおり、パトリシアはその中央にあって優雅に茶を傾けている、どうすればいいのかと取り合えず頭を下げる三人であったが、パトリシアは、ニコリと微笑むと、カトカはこれ、サビナはこれ、ゾーイはこれと、すでに目を着けていた服を指差し、業者であろう女性がバタバタと動き出した、そして、これまた始めての経験であったのが、三人はほぼ同時に全身鏡の前で着替えさせられたのであった、なるほどこう使うのが正しいのかもしれないと思ったのは嵐が落ち着いた後であったのだが、パトリシアは本人の確認も無しに、次はこれ次はこれと見事に三人をおもちゃにして楽しそうで、アフラも特に止める事も無く甲斐甲斐しく走り回っている、三人はどういう状況なのかと目を回して遠慮どころか拒否する事もできず、そして、上品な訪問着を五着、ついでだからと正装を二着、見繕う事になったのである、
「まぁ・・・その、はい、取り合えずこちらはお受けします」
ブラスがだらしない顔のまま何とか取りまとめた、そして二人の女生徒の反応に、女性でもこうなるんだろうなと何気に感心していたりする、なにせ、カトカに関しては美女である事は誰もが一致する評価なのであろうが、その人が珍しくも上品な訪問着であり、先程まではミナとソフィアがいたが、じっくりと対面で話す事が出来たのだ、正常な一男性としてこれほどの幸運と栄誉は無いであろう、無論、つまらない事は言えないし、言った瞬間にこの寮には出入り禁止になってもおかしくない、そう強く自分に言い聞かせつつ、仕事に集中する事で何とか乗り切った、その顔が常以上に緩んでしまっていたとしてもである、
「宜しくお願いします」
カトカはさっさと逃げようと切り上げて腰を上げかけるが、
「これ、なんですか?」
レインが弄繰り回していたアバカスにレスタが気付いたらしい、
「アバカスって言うんだって、計算機なんだってさ」
ブラスがニヤリと答え、
「ふふん、これは便利じゃぞ」
レインもニヤリと微笑む、
「計算機?」
「そうよ、こうやって使うの」
カトカがどうやら落ち着いたらしいと、アバカスを手元に引き寄せて実際に使って見せる、すると、
「これは便利だ・・・」
「うん、確かに」
グルジアもレスタもすぐに真剣な瞳をアバカスに向ける、
「そっか、こんな簡単な事だったんだ・・・」
グルジアは目から鱗とカトカの隣に座りアバカスに触れる、カンカンと玉を弾き、なるほどと頷いた、商会で育った娘として、これほど便利な物もないであろう、
「そうなのよね、こんな簡単な事なのにね、今までなかったのがほんとに不思議」
「ですね・・・うわっ、何か私たちバカみたい・・・」
「そこまで言っちゃ駄目よ」
「ですけど・・・ねぇ」
グルジアが顔を上げて誰にともなく同意を求める、
「それは良く分かる、大いに分かる」
うんうんとブラスが頷き、レインはどこか冷ややかな笑みを浮かべた、
「ですよね、ほら、黒板に書いて計算するのが普通だと思ってましたけど・・・そっか、数字だけ出すならこんなでいいんだ」
「そうなんだよなー、俺らも地面に書いたりしてたけど」
「そうですよね、建築とかだとそうですよね」
「うん、これ、何にでも使えるよな」
「ですよー・・・凄いなー」
ブラスとグルジアが話し込んでいる隣で、レスタがそっとアバカスに手を伸ばす、そして、カンカンと玉を弾き、にやりと微笑むが、すぐにん?と首を傾げた、
「これって、エレインさんには教えたんですか?」
「まだよー、取り合えずほら学園長からの依頼だからねー、学園で教えたいみたいなんだわ」
「へー・・・それいいですね、そっか、学園長か、いや、これあっという間に売れますよ」
「そうだよな、商売してれば絶対欲しいよな」
「ですよ、だって、うん、あー、締め作業とか楽になるなー」
「・・・グルジアさんそんな事までしてたの?」
「そりゃだって、商会の娘ですもん、計算は子供のころからやらされましたよー」
「あっ、そりゃそうよね」
「そうなんです」
「えっ、商会の娘さんなの?」
「はい」
「それで建築?」
「好きなんです」
「それは前にも聞いたけどさ、あー・・・でも羨ましいかもな好きな事勉強できるって」
「そんな風に言われると・・・」
「悪い意味で言ってないよ、でも、それはとても幸せな事だよなって・・・思うな、うん」
「それは確かに、幸せよね」
「そうですけどー」
三人が若干脱線した話しになっていると、
「あの・・・」
レスタがおずおずと顔を上げる、
「ん、どうかした?」
カトカがニコリと微笑む、先程までの不興はすっかり消えていた、カトカとしても周りの反応には慣れている節があり、また、本人もどちらかと言えばサバサバした気質である、つまらない事に拘泥しないのもまた美女の一要因と言えよう、
「あの・・・ですね、この玉って・・・こんなに必要なんでしょうか?」
レスタが不思議そうにアバカスの玉を一つ弾いた、エッと三人の視線がレスタに集まり、レインもオッと強い視線をレスタに向ける、
「どういう事?」
カトカが真剣な口調となる、
「えっと・・・たぶんなんですが、えっと、えっと」
レスタはどう説明するべきかと言葉を探し、四人の視線が集まる中、
「あの・・・この玉って5個あれば計算できると思うんです・・・よ、ね・・・」
とアバカスを弾きながらその理屈を説明しだした、
「えっと、これ玉が10個ありますけど、たぶん、9個でいいんですよ、で、そう考えたら、5の玉を別にして、1の玉を4つ?つまり玉は5個で間に合うんじゃないかなって・・・」
それは実に単純な言葉であったが、
「待って、それ面白い、どういう事?」
カトカが猛然とレスタに向かう、
「えっと、えっと、黒板借ります」
レスタはカトカの前にあった黒板に手を伸ばし、続けて説明する、
「えっと、玉が10個だとこうして、右から左?逆でもいいですけど、端に寄せるんですよね、で、私が思ったのが、まず9個でいいんです、こんな感じ・・・で、でも、これだとだったらもっと減らしたいなって思ったら、こうやって、5の玉を一個にするんで、で、真ん中に寄せる感じで、で、こうすると、1から4はそのままで、5になったらこれをこうして、6の時は・・・」
「5と1が1つ?」
「そうです、そうすれば9まで表示できて、で、10になったら」
「そっか、上の段に1をあげて、無しにする・・・」
カッカッとレスタは黒板を鳴らし、不安そうに顔を上げた、
「・・・確かにそうかも・・・」
「えっ、凄い・・・」
「うん、計算できるね・・・」
「出来ますよね」
「ほう・・・これは大したもんじゃな・・・いや、凄いぞこれは」
やっと理解できた他三人と、レインまでもが目を丸くしている、
「ですよね、出来ますよね」
レスタはホッと安堵の吐息を吐いた、たどたどしく説明しながらも、自信はあったのであるがやはり他者の理解は難しいのかなと不安感があった、しかし、どうやらカトカもグルジアもブラスでさえ納得出来たらしい、良かったーと内心で微笑み、思い付きではあったが間違ってはいなかったなと嬉しく思う、
「・・・レスタさん、あなた天才だわ・・・」
カトカが呆然と呟き、
「異論はないのう・・・」
レインが突然半身を揺する、今にも踊りだしそうな所を強引に押さえているのであろうか、どういう感情表現なのか不明であるが、心底感心し喜んでいるのは理解できた、
「えへへ・・・そんな事無いですよー」
レスタが頬を染めて俯いた、
「いいえ、そんな事あります・・・うん、ブラスさん、この10玉のアバカスと、5玉のアバカスを作って下さい、いや、待って下さい・・・違うな、やっぱり作って下さい」
どっちだよとブラスは呆れつつ、
「あっ、はい、そうですね、はい、作ります」
と頷かざるを得ない、
「で、レスタさん、学園長と話しましょう、その前に、所長とも話しましょう、今すぐに」
カトカがガタリと立ち上がる、レスタはエッとカトカを見上げ、
「ほら、行きますよ」
カトカはアバカスと黒板を引っ掴むと階段へ走り、
「早くなさい」
椅子に座ったままのレスタを叱りつける勢いである、レスタはハイッと大声を上げて立ち上がり階段へ向かった、そこへ、
「はーい、次レインよー、打合せは終わったのー?」
厨房からソフィアが顔を出し、
「おめかし終ったー」
訪問着に着替えたミナが駆け込んでくる、しかし、食堂内ではポカンとあっけに取られた顔の三人が階段を見つめており、
「どした?」
ソフィアが首を傾げ、
「どした?」
ミナがそれを真似て首を傾げるのであった。
1
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」
魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。
――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。
「ここ……どこ?」
現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。
救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。
「ほら、食え」
「……いいの?」
焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。
行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる