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本編
66話 歴史は密議で作られる その11
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さらにそこへ、
「おう、もう来ていたか」
イフナースが階段を下りて来た、訪問着を纏い普段以上に凛々しい立ち姿である、その後ろにはリンドとゾーイが付き従っている、
「これはイース様、御機嫌麗しゅう」
学園長が腰を上げ恭しく低頭し、これには周りの者達もそれに倣わない訳にはいかず、タロウとソフィアでさえ頭を下げた、ここがイフナースの屋敷である事もあるが何とも珍しい光景だとイフナースは苦笑いを浮かべ、
「今更なんだ、堅苦しい」
大きく埃でも払うかのように手を振る、そこへ、
「イース様ー、これー、これー、楽しいのよー」
ミナがテテッと駆け寄った、
「おう、お前さんは変らんな、それでいいぞ」
イフナースがミナの頭に手を置いて撫で回し、ミナはエヘヘーと照れ笑いである、
「ん?何だそれは?」
「これー、えっと、えっと、これなにー」
ミナが振り回すアバカスをイフナースが受け取るが一見してその使い方を理解できる者はまずいないであろう、
「それはアバカスと申しましてな」
顔を上げた学園長が嬉々として駆け寄る、
「あー・・・」
「こりゃ大変だ・・・」
「暇つぶしにはいいんじゃないの?」
研究所組は渋い顔で学園長の背中を見つめ、ゾーイはここにまで持って来たのかと鼻白む、しかし学園長はまったく意に介す事は無くイフナースを相手にしてあーだこーだと始めてしまった、
「まっ、いいか、じゃ」
とタロウはそのまま会場へ入った、中ではメイド達が歩き回っているが会場の設営はほぼ終わっている様子で、ブレフトが最終確認とばかりに全体を眺め回している、
「お疲れ様です」
タロウが軽く声を掛けると、
「これはタロウ様」
ブレフトが会釈で返し、メイド達も足と手を止めて静かに頭を下げた、
「どうです?」
「十分かと思います、楽師も来ております」
ブレフトの視線の先には先日馴染みになった楽師がチョコンと座っていた、数本のルートがその足元に並んでおり、さらに御付きの若い者であろう、男性が一人その傍に立っている、タロウに気付いた楽師が小さく頭を下げ、その付き人件護衛役となる男性も低頭しすぐに顔を上げた、
「良かった、では、準備はこんなもんですかね?」
「はい、お時間も良い頃合いかと思います」
「そうですね、まぁ、後はじっくり待ちますか」
「はい」
タロウはそのまま楽師の下に歩み寄り、その労を労う、楽師は優雅に席を立つと丁寧に再び低頭した、二人共に上品な人物であった、楽師はやはり遊女屋で遊女では無いにしても貴族や富裕層の相手もしている為、しっかりと礼儀を弁えた人物で、また付き人も本職はならず者とされる組織の一員ではあるが、とてもそうは見えない気品すら漂わせる好男子であった、フィロメナが気を利かせたのであろう、タロウはそのまま今日演奏される楽曲の打合せを済ませる、ニコリと嬉しそうにしかし若干の緊張が見える笑顔で応える楽師であった、それも致し方無い事である、普段であれば通い慣れた場所での演奏で、相手も基本的に酔客である、正直ちゃんと聞いているのかどうかなど分かったものではない相手で、さらに今日の演奏はタロウから直々に教わった楽曲であった、高度な技術は必要の無い曲ばかりであったが、どの曲も楽師は初めて耳にする曲で、楽師の常識からやや外れてもいたが、素晴らしい曲であるのは間違いない、
「気楽にいこう、会話の邪魔にならず、眠りにさそう程度にね」
その覆い隠された緊張をタロウは見透かして優しい笑みを浮かべる、
「あっ、でも、あれか眠くなったら駄目なのかな?」
冗談のつもりでさらに笑顔を見せると、楽師もやっと肩の力を抜いて柔らかな笑みを見せ、付き人もまた笑みを湛える、
「うん、そんな感じで」
タロウが満足そうな微笑むと、
「何やってるのー」
ミナがタロウの下に駆けて来た、
「おわっ」
タロウは慌ててミナの頭を押さえつけ、
「こら、ちゃんと挨拶しないと駄目だろ」
「えー、なんでー」
「なんでってな、あー、これ俺の娘ね」
タロウは苦笑いでミナと楽師を引き合わせる、楽師は嬉しそうな笑みでミナに会釈をする、
「うふふー、これひくの?、あのね、あのね、タロウも上手なのー、ミナ好きなのー」
楽師の足元の楽器に今にも手を伸ばそうとするミナをタロウは慌てて止め、ヒョイと小脇に抱えると、
「じゃ、宜しく、合図は俺が送るから、それに合わせて、あとは・・・打合せ通りでいい感じに」
楽師と付き人はその様に微笑みながら会釈で答えた、
「ぶー、まだなにもしてないでしょー」
「まだ、なにもしてないだけだ」
「だから、してないでしょー」
「やる前に止めたの」
「ぶー、ケチー」
「こら、今日は何だ、眠いのか?落ち着きが無いぞ」
「眠くないー」
「はいはい、おめかししたんだからおしとやかにしなさい」
「してるー」
「してないだろ」
小脇に抱えられたミナがジタバタしながら言い返し、メイド達は失礼とは分っていてもクスクスと笑ってしまう、
「ほらー、お姉ちゃん達に笑われてるぞー」
「いいでしょー、笑うのは大事ってタロウ言ってたー」
「そりゃそうだがさ、っていうかよくそんなの覚えてたな」
「えへへー、エライー?」
「おしとやかじゃないからエラク無い」
「えー、ぶーぶー」
タロウ相手に好き放題言い放つミナである、メイド達は何とか笑いを堪えようとするが難しく、ブレフトや楽師は堪え切れずに顔を背けて笑ってしまった、
「まったく、ほれ、座ってなさい、ブレフトさん、ミナはここで良かったか?」
「あっ、はい、そこです、と思います」
ブレフトは慌てて席次表の置いてあるテーブルに走る、
「うふふー、この椅子好きー」
タロウが無理矢理座らせるとミナは笑顔で椅子で遊びだす、
「ん、だろう?」
「うん、フワフワでボンボンするー」
「なっ」
タロウがミナを笑顔で見下ろすと、そこへドヤドヤと招待客達が入ってきたようで、
「ミナ、ここにいたの?」
ソフィアが金切り声を上げた、
「ソフィア、頼む、落ち着きが無いどころじゃない」
「そうね、さっきまで暇だったからはしゃいでるんでしょ、ミナー、じっとしてないと怒られるからねー」
ソフィアが二人に駆け寄った、
「えー、だってー」
「もう、レアンお嬢様も来るんだから、しっかりなさい」
「そうなのー?」
「そうよ、言ってなかった?」
「聞いてないー、嬉しいー」
「でしょう、お嬢様に笑われるわよ」
「うー、でもー」
「でもなに?」
「・・・何でもない・・・」
「でしょうね、ほら、ちゃんとしなさい」
「わかったー」
ソフィアにかまわれてやっとミナは渋々と黙り込んだ、まったくとタロウは溜息を一つ吐いて、さて仕事かなと廊下に向かう、室内ではブレフトが各人に席を伝え、メイドが段取り通りに席へ案内を始めていた、こちらは昨日の打合せ通りとなる、木戸から入る夕焼けが若干暗いかなと感じられるようになってきた頃合いで、タロウが廊下に出ると会場の入口のすぐ隣にイフナースとエレインが控えており、メイドが一人その傍らに控えている、これも昨日の練習通り、打合せ通りの光景であった、
「準備万端かな?」
「まぁな」
タロウの笑みにイフナースも笑みで答えた、
「あっ、リンドさんは?」
「戻ったぞ、向こうに行ったと思うが、戻ったかな?わからん」
「あら・・・まぁ、そっちはほっときましょう、そうだ、修行の方はどうです?結局初日しか相手をしてませんでした」
タロウはニヤリとして立ち話しと決め込む事にした、賓客達が来るまでのちょっとした休息のつもりである、
「ん?ここで話す事か?」
「明日からも忙しくなるでしょ、今の内ですよ、暇ですし」
「それもそうか」
イフナースはめんどくさそうに後ろ頭をボリボリかくと、
「あー・・・何とか・・・なっているとは思うぞ、リンドからはその調子で続けましょう、とは言われている」
「そうですか、それは良かった・・・ですが?」
「何だその聞き方は?」
「ご不満のようですから」
「まぁな、自分では良く分からん、客観的に見れないからな、炎の高さなぞ下から見てはどれも変らん」
「そうですね、しかし、リンドさんからは評価されている?」
「らしい」
「では、それを続けましょう」
「わかっている、しかし、それではリンドやアフラの修行の邪魔になるのではないのか?」
「大丈夫ですよ、あの二人はちゃんと制御できるているので、それに二人がいないと殿下の修行はままなりません」
「そうだがさ」
イフナースは不満そうに口元を歪ませた、今日も先程までイフナースはリンドと共に荒野で魔法の修行に専念していた、タロウの指導によるとイフナースはまず魔力の制御を身に着ける事が優先とされ、その為にはイフナースが苦手とする炎を操る魔法を両手から発し、その炎を自在に操れるようになる事が第一段階となるらしい、而してイフナースが一度も成功した試しの無いその魔法を唱えると、両の掌から炎の柱が天高く吹き上がり、自身の顔と言わず全身が正に焼けるように熱くなった、慌てて止めたのであるが、そのままであればまずイフナースの命にも関わっていたであろう、しかしタロウはその有様を見てなるほどと首を傾げ、挙句に丁度良いと手を叩く、何が丁度良いのかとイフナースやリンドが睨む間もなく、その炎の影響からイフナースを守るにはリンドとアフラが主題としている結界魔法が有効であると言い出し、イフナースの修行に合わせて二人の修行も行われる事となった、実際にやる事は簡単でリンドかアフラがイフナースに結界魔法を施し、その上でイフナースは魔法を発動する、結界魔法でイフナースを守るのがリンドとアフラの修行であり、イフナースは気兼ねなく魔法を使える事となる、試してみれば結界魔法の外にある掌は熱を持つが耐えられないほどでは無く、顔や体に対しても涼しいとはとても言えないが逃げ出すほどの熱は感じられなかった、それで行こうと決定したのが初日の事であり、その後主にタロウが忙しくなり立ち会う事が無かったのであるが、イフナースはリンドとアフラ、ゾーイも合わせてしっかりと荒野での修行は継続されていた、
「まぁ、ほら、殿下には優しくするようにと、クロノスから言い含められておりますのでね、もしなんでしたら即効性のある方策もあるにはありますよ」
「・・・それは聞いている」
「もしよければ・・・」
タロウが実に意地の悪い笑みをイフナースに向ける、
「わかっている、地道が一番なのであろう」
イフナースはクロノスから聞いた特訓と呼ぶに相応しい苦行を思い出す、クロノスにしろユーリにしろソフィアにしろ、時間が無い状況でもあったが、タロウによる指導は苛烈であったらしく、あの時の事は今でも夢に見るぞとクロノスを遠く暗い目にするほどに酷いものであったらしい、
「はい、そうなのです」
「ふん、しかし、愚痴の一つは言わせてもらおう」
「その程度であればいつでも・・・」
「ならよい」
イフナースはフンと不愉快そうに腕を組んだ、その隣で静かに聞いてたエレインもメイドも何のことやらと不思議そうである、どうやらタロウがイフナースに修行をつけているようなのであるが、とても師弟のような会話では無いし、タロウは意地悪くも楽しそうで、イフナースはどこかへそを曲げているようである、そこへ、
「失礼します、ブレフト殿はいらっしゃいますか?」
門衛の一人が階段を駆け上がってきた、
「おう、来たか?」
「はい、只今表に馬車が3台」
「ん、ブレフトを」
イフナースがメイドに指示を出し、メイドは小さく頷き会場へ入った、
「さて、いよいよですか」
「だな、エレイン嬢、すまんが小芝居にもう暫く付き合ってもらうぞ」
イフナースがエレインを見下ろす、
「はい、ですが・・・」
「うん、多くを語らないのが良いのであったな」
「はい、それが宜しいかと思います」
「そうしよう」
優しい笑みを見せるイフナースにエレインも何とか笑みを返した、
「それでは、私は中に」
「おう、頼むぞ」
タロウがサッと会場へ戻りブレフトに声を掛け、ブレフトが速足で階下へ向かった、いよいよ国の命運を左右する小さな食事会が始まるのであった。
「おう、もう来ていたか」
イフナースが階段を下りて来た、訪問着を纏い普段以上に凛々しい立ち姿である、その後ろにはリンドとゾーイが付き従っている、
「これはイース様、御機嫌麗しゅう」
学園長が腰を上げ恭しく低頭し、これには周りの者達もそれに倣わない訳にはいかず、タロウとソフィアでさえ頭を下げた、ここがイフナースの屋敷である事もあるが何とも珍しい光景だとイフナースは苦笑いを浮かべ、
「今更なんだ、堅苦しい」
大きく埃でも払うかのように手を振る、そこへ、
「イース様ー、これー、これー、楽しいのよー」
ミナがテテッと駆け寄った、
「おう、お前さんは変らんな、それでいいぞ」
イフナースがミナの頭に手を置いて撫で回し、ミナはエヘヘーと照れ笑いである、
「ん?何だそれは?」
「これー、えっと、えっと、これなにー」
ミナが振り回すアバカスをイフナースが受け取るが一見してその使い方を理解できる者はまずいないであろう、
「それはアバカスと申しましてな」
顔を上げた学園長が嬉々として駆け寄る、
「あー・・・」
「こりゃ大変だ・・・」
「暇つぶしにはいいんじゃないの?」
研究所組は渋い顔で学園長の背中を見つめ、ゾーイはここにまで持って来たのかと鼻白む、しかし学園長はまったく意に介す事は無くイフナースを相手にしてあーだこーだと始めてしまった、
「まっ、いいか、じゃ」
とタロウはそのまま会場へ入った、中ではメイド達が歩き回っているが会場の設営はほぼ終わっている様子で、ブレフトが最終確認とばかりに全体を眺め回している、
「お疲れ様です」
タロウが軽く声を掛けると、
「これはタロウ様」
ブレフトが会釈で返し、メイド達も足と手を止めて静かに頭を下げた、
「どうです?」
「十分かと思います、楽師も来ております」
ブレフトの視線の先には先日馴染みになった楽師がチョコンと座っていた、数本のルートがその足元に並んでおり、さらに御付きの若い者であろう、男性が一人その傍に立っている、タロウに気付いた楽師が小さく頭を下げ、その付き人件護衛役となる男性も低頭しすぐに顔を上げた、
「良かった、では、準備はこんなもんですかね?」
「はい、お時間も良い頃合いかと思います」
「そうですね、まぁ、後はじっくり待ちますか」
「はい」
タロウはそのまま楽師の下に歩み寄り、その労を労う、楽師は優雅に席を立つと丁寧に再び低頭した、二人共に上品な人物であった、楽師はやはり遊女屋で遊女では無いにしても貴族や富裕層の相手もしている為、しっかりと礼儀を弁えた人物で、また付き人も本職はならず者とされる組織の一員ではあるが、とてもそうは見えない気品すら漂わせる好男子であった、フィロメナが気を利かせたのであろう、タロウはそのまま今日演奏される楽曲の打合せを済ませる、ニコリと嬉しそうにしかし若干の緊張が見える笑顔で応える楽師であった、それも致し方無い事である、普段であれば通い慣れた場所での演奏で、相手も基本的に酔客である、正直ちゃんと聞いているのかどうかなど分かったものではない相手で、さらに今日の演奏はタロウから直々に教わった楽曲であった、高度な技術は必要の無い曲ばかりであったが、どの曲も楽師は初めて耳にする曲で、楽師の常識からやや外れてもいたが、素晴らしい曲であるのは間違いない、
「気楽にいこう、会話の邪魔にならず、眠りにさそう程度にね」
その覆い隠された緊張をタロウは見透かして優しい笑みを浮かべる、
「あっ、でも、あれか眠くなったら駄目なのかな?」
冗談のつもりでさらに笑顔を見せると、楽師もやっと肩の力を抜いて柔らかな笑みを見せ、付き人もまた笑みを湛える、
「うん、そんな感じで」
タロウが満足そうな微笑むと、
「何やってるのー」
ミナがタロウの下に駆けて来た、
「おわっ」
タロウは慌ててミナの頭を押さえつけ、
「こら、ちゃんと挨拶しないと駄目だろ」
「えー、なんでー」
「なんでってな、あー、これ俺の娘ね」
タロウは苦笑いでミナと楽師を引き合わせる、楽師は嬉しそうな笑みでミナに会釈をする、
「うふふー、これひくの?、あのね、あのね、タロウも上手なのー、ミナ好きなのー」
楽師の足元の楽器に今にも手を伸ばそうとするミナをタロウは慌てて止め、ヒョイと小脇に抱えると、
「じゃ、宜しく、合図は俺が送るから、それに合わせて、あとは・・・打合せ通りでいい感じに」
楽師と付き人はその様に微笑みながら会釈で答えた、
「ぶー、まだなにもしてないでしょー」
「まだ、なにもしてないだけだ」
「だから、してないでしょー」
「やる前に止めたの」
「ぶー、ケチー」
「こら、今日は何だ、眠いのか?落ち着きが無いぞ」
「眠くないー」
「はいはい、おめかししたんだからおしとやかにしなさい」
「してるー」
「してないだろ」
小脇に抱えられたミナがジタバタしながら言い返し、メイド達は失礼とは分っていてもクスクスと笑ってしまう、
「ほらー、お姉ちゃん達に笑われてるぞー」
「いいでしょー、笑うのは大事ってタロウ言ってたー」
「そりゃそうだがさ、っていうかよくそんなの覚えてたな」
「えへへー、エライー?」
「おしとやかじゃないからエラク無い」
「えー、ぶーぶー」
タロウ相手に好き放題言い放つミナである、メイド達は何とか笑いを堪えようとするが難しく、ブレフトや楽師は堪え切れずに顔を背けて笑ってしまった、
「まったく、ほれ、座ってなさい、ブレフトさん、ミナはここで良かったか?」
「あっ、はい、そこです、と思います」
ブレフトは慌てて席次表の置いてあるテーブルに走る、
「うふふー、この椅子好きー」
タロウが無理矢理座らせるとミナは笑顔で椅子で遊びだす、
「ん、だろう?」
「うん、フワフワでボンボンするー」
「なっ」
タロウがミナを笑顔で見下ろすと、そこへドヤドヤと招待客達が入ってきたようで、
「ミナ、ここにいたの?」
ソフィアが金切り声を上げた、
「ソフィア、頼む、落ち着きが無いどころじゃない」
「そうね、さっきまで暇だったからはしゃいでるんでしょ、ミナー、じっとしてないと怒られるからねー」
ソフィアが二人に駆け寄った、
「えー、だってー」
「もう、レアンお嬢様も来るんだから、しっかりなさい」
「そうなのー?」
「そうよ、言ってなかった?」
「聞いてないー、嬉しいー」
「でしょう、お嬢様に笑われるわよ」
「うー、でもー」
「でもなに?」
「・・・何でもない・・・」
「でしょうね、ほら、ちゃんとしなさい」
「わかったー」
ソフィアにかまわれてやっとミナは渋々と黙り込んだ、まったくとタロウは溜息を一つ吐いて、さて仕事かなと廊下に向かう、室内ではブレフトが各人に席を伝え、メイドが段取り通りに席へ案内を始めていた、こちらは昨日の打合せ通りとなる、木戸から入る夕焼けが若干暗いかなと感じられるようになってきた頃合いで、タロウが廊下に出ると会場の入口のすぐ隣にイフナースとエレインが控えており、メイドが一人その傍らに控えている、これも昨日の練習通り、打合せ通りの光景であった、
「準備万端かな?」
「まぁな」
タロウの笑みにイフナースも笑みで答えた、
「あっ、リンドさんは?」
「戻ったぞ、向こうに行ったと思うが、戻ったかな?わからん」
「あら・・・まぁ、そっちはほっときましょう、そうだ、修行の方はどうです?結局初日しか相手をしてませんでした」
タロウはニヤリとして立ち話しと決め込む事にした、賓客達が来るまでのちょっとした休息のつもりである、
「ん?ここで話す事か?」
「明日からも忙しくなるでしょ、今の内ですよ、暇ですし」
「それもそうか」
イフナースはめんどくさそうに後ろ頭をボリボリかくと、
「あー・・・何とか・・・なっているとは思うぞ、リンドからはその調子で続けましょう、とは言われている」
「そうですか、それは良かった・・・ですが?」
「何だその聞き方は?」
「ご不満のようですから」
「まぁな、自分では良く分からん、客観的に見れないからな、炎の高さなぞ下から見てはどれも変らん」
「そうですね、しかし、リンドさんからは評価されている?」
「らしい」
「では、それを続けましょう」
「わかっている、しかし、それではリンドやアフラの修行の邪魔になるのではないのか?」
「大丈夫ですよ、あの二人はちゃんと制御できるているので、それに二人がいないと殿下の修行はままなりません」
「そうだがさ」
イフナースは不満そうに口元を歪ませた、今日も先程までイフナースはリンドと共に荒野で魔法の修行に専念していた、タロウの指導によるとイフナースはまず魔力の制御を身に着ける事が優先とされ、その為にはイフナースが苦手とする炎を操る魔法を両手から発し、その炎を自在に操れるようになる事が第一段階となるらしい、而してイフナースが一度も成功した試しの無いその魔法を唱えると、両の掌から炎の柱が天高く吹き上がり、自身の顔と言わず全身が正に焼けるように熱くなった、慌てて止めたのであるが、そのままであればまずイフナースの命にも関わっていたであろう、しかしタロウはその有様を見てなるほどと首を傾げ、挙句に丁度良いと手を叩く、何が丁度良いのかとイフナースやリンドが睨む間もなく、その炎の影響からイフナースを守るにはリンドとアフラが主題としている結界魔法が有効であると言い出し、イフナースの修行に合わせて二人の修行も行われる事となった、実際にやる事は簡単でリンドかアフラがイフナースに結界魔法を施し、その上でイフナースは魔法を発動する、結界魔法でイフナースを守るのがリンドとアフラの修行であり、イフナースは気兼ねなく魔法を使える事となる、試してみれば結界魔法の外にある掌は熱を持つが耐えられないほどでは無く、顔や体に対しても涼しいとはとても言えないが逃げ出すほどの熱は感じられなかった、それで行こうと決定したのが初日の事であり、その後主にタロウが忙しくなり立ち会う事が無かったのであるが、イフナースはリンドとアフラ、ゾーイも合わせてしっかりと荒野での修行は継続されていた、
「まぁ、ほら、殿下には優しくするようにと、クロノスから言い含められておりますのでね、もしなんでしたら即効性のある方策もあるにはありますよ」
「・・・それは聞いている」
「もしよければ・・・」
タロウが実に意地の悪い笑みをイフナースに向ける、
「わかっている、地道が一番なのであろう」
イフナースはクロノスから聞いた特訓と呼ぶに相応しい苦行を思い出す、クロノスにしろユーリにしろソフィアにしろ、時間が無い状況でもあったが、タロウによる指導は苛烈であったらしく、あの時の事は今でも夢に見るぞとクロノスを遠く暗い目にするほどに酷いものであったらしい、
「はい、そうなのです」
「ふん、しかし、愚痴の一つは言わせてもらおう」
「その程度であればいつでも・・・」
「ならよい」
イフナースはフンと不愉快そうに腕を組んだ、その隣で静かに聞いてたエレインもメイドも何のことやらと不思議そうである、どうやらタロウがイフナースに修行をつけているようなのであるが、とても師弟のような会話では無いし、タロウは意地悪くも楽しそうで、イフナースはどこかへそを曲げているようである、そこへ、
「失礼します、ブレフト殿はいらっしゃいますか?」
門衛の一人が階段を駆け上がってきた、
「おう、来たか?」
「はい、只今表に馬車が3台」
「ん、ブレフトを」
イフナースがメイドに指示を出し、メイドは小さく頷き会場へ入った、
「さて、いよいよですか」
「だな、エレイン嬢、すまんが小芝居にもう暫く付き合ってもらうぞ」
イフナースがエレインを見下ろす、
「はい、ですが・・・」
「うん、多くを語らないのが良いのであったな」
「はい、それが宜しいかと思います」
「そうしよう」
優しい笑みを見せるイフナースにエレインも何とか笑みを返した、
「それでは、私は中に」
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「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
「雑草係」と追放された俺、スキル『草むしり』でドラゴンも魔王も引っこ抜く~極めた園芸スキルは、世界樹すら苗木扱いする神の力でした~
eringi
ファンタジー
「たかが雑草を抜くだけのスキルなんて、勇者パーティには不要だ!」
王立アカデミーを首席で卒業したものの、発現したスキルが『草むしり』だった少年・ノエル。
彼は幼馴染の勇者に見下され、パーティから追放されてしまう。
失意のノエルは、人里離れた「魔の森」で静かに暮らすことを決意する。
しかし彼は知らなかった。彼のスキル『草むしり』は、対象を「不要な雑草」と認識すれば、たとえドラゴンであろうと古代兵器であろうと、根こそぎ引っこ抜いて消滅させる即死チートだったのだ。
「あれ? この森の雑草、ずいぶん頑丈だな(ドラゴンを引っこ抜きながら)」
ノエルが庭の手入れをするだけで、Sランク魔物が次々と「除草」され、やがて森は伝説の聖域へと生まれ変わっていく。
その実力に惹かれ、森の精霊(美女)や、亡国の女騎士、魔王の娘までもが彼の「庭」に集まり、いつしかハーレム状態に。
一方、ノエルを追放した勇者たちは、ダンジョンの茨や毒草の処理ができずに進行不能となり、さらにはノエルが密かに「除草」していた強力な魔物たちに囲まれ、絶望の淵に立たされていた。
「ノエル! 戻ってきてくれ!」
「いや、いま家庭菜園が忙しいんで」
これは、ただ庭いじりをしているだけの少年が、無自覚に世界最強に至る物語。
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