セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

66話 歴史は密議で作られる その19

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そしてタロウが戻るとその後ろには食事を終えたメイドが続き、さらにブレフトとリンドも顔を出す、二人はそのままそれぞれの主の後ろに控え、メイド達はししゃもを供して壁際に控えた、

「ここまでが現状の報告となりますな、補足するべき事があればと思いますが、如何ですかな?」

学園長の長ったらしい説明が終わったようで、本来忌避される程の長話であったがレイナウトらは集中を切らさず、ボニファースらもまた夢に見る程に何度も話し合われた内容であったが、対する三人の反応に注視しつつ遮る事は無かった、

「充分であろう、良くまとめられていると思うぞ」

ボニファースがニコリと学園長を労う、

「はっ、恐縮でございます」

学園長はこんなもんかなと一同を見渡しゆっくりと腰を下ろした、

「・・・これもまた真実なのであろうな・・・」

レイナウトが顔を上げる、

「そうだな、儂としてはそう思っている」

「その根拠は?」

「クロノスを信頼しておる、良き王国人であり、英雄で、婿だ、そしてその友であり・・・少々常識外れではあるが、明晰な上に博識なタロウをクロノスが信頼しておる、であれば信頼するのが筋と言うものであろう」

ボニファースの意外な言葉にクロノスとタロウは同時に口をへの字に曲げ、イフナースはニヤリと二人に微笑みかける、

「それでは答えになっておらん」

「そうかな?他には・・・あー、パウロその帽子に関してとこいつらの髭面の理由も合わせて話すべきかな?」

全員の視線が学園長に向かう、その半分はそう言われればと怪訝そうなもので、残り半分の目は厭らしく笑っていた、

「そうですな、実はタロウ殿に・・・そのお力を借りましてな、この端の街・・・ノーバ・パネフィシアと先程お話した街ですな」

学園長が再び腰を上げると地図を示し、

「ここを視察したのですわ」

「なに?」

「どういうことか?」

「どうもこうも無いですよ、私達もですな、このような話しをタロウ殿から聞いたのが・・・10日も前の事ですか・・・御三方同様に信じられませんでな、そこで、取り合えずとこの街、それとこの要塞を訪問致しました、要塞に関しては遠目で観察する程度でしたが、この街には足を踏み入れております、その際に向こうの文化、仕来り等も少々学びましてな、この髭はその象徴でしょう、向こうでは成人男性は髭を伸ばすのが行儀作法、この帽子もまた文化的な背景がありますが、タロウ殿曰く、禿げ隠しと・・・それだけでは無いのですが、気に入ってしまいましてな、ほら、寒くなってきましたからな心地よいのですよ、寂しくなった頭には」

学園長がダハハと誤魔化すように笑うと、ボニファース達は苦笑いを浮かべ、レイナウトらはポカンと学園長の頭に乗った帽子を注視する、

「いや・・・文化云々は・・・それよりも、そのような事が可能なのか?」

「陸路で20日以上かかるのであろう、不可能だ、往復で一月だぞ」

「そうですな・・・儂もそう思いますが・・・どうかなどこまで話してよいのか・・・」

学園長がタロウに問いかけた、

「あー、では、それは俺からの方が良かろう」

クロノスが口を開いた、対する三人の視線がクロノスに向かう、クロノスは酒を一嘗めし、

「噂やら演劇やらで知っていよう、俺が魔王を倒したとき、俺の他に5人の仲間と近衛が3人生き残った、突入した時はそれなりの人数であったのだがな・・・まぁ、それはいい、その時の一人がタロウだ」

「なっ・・・」

「それは・・・」

レイナウトよりもカラミッドとリシャルトの驚きの方が大きかった、クロノスの言葉通りに演劇にしろ吟遊詩人の歌にしろその英雄譚の中でクロノスを助けた名も無い英雄が五人いるとされており、さらにそれらを補佐した近衛の精鋭が三人生き残ったとされている、これは王国であれば子供でも知っている事であり、憧れの対象でもある、また、その五人は栄誉も褒賞も受けずに郷里に帰ったと締め括る物語が多く、その去り際の潔さに神々の使いなのではないかとさえ噂され持て囃されてもいた、

「そうなのか?」

レイナウトがタロウを睨む、しかしその目には先程までの険は無く、純粋な尊敬が滲んでいた、

「・・・確かに、少々面はゆいですが、そうなります」

タロウはここはまぁ認めなければならないのであろうなと渋々とであるが答えた、それでこの件が真実であるとはならないだろうが、信頼感は少しは上がるであろう、

「なんと・・・」

「消えた英雄の一人・・・」

護衛達も食事を終えて警護体制に戻っていた、しかし、衝撃の事実に黙している事が難しかったようである、ザワザワと顔を見合わせタロウへ視線を向けている、

「そういうわけですな、で・・・ハッキリ言ってしまいます、タロウ殿の魔法でそちらに赴き、陛下達もまた近しい魔法でこの場に居ります」

「なに?」

「そのような魔法があるのか?」

「あります、詳細を語るのは難しいですが・・・王国でも軍でも上位者しか知りえぬ事実です」

大きく目を見開く三人に学園長は諭すように語り掛け、

「話を戻しますとな・・・まぁ、その英雄たる人物がフラリと・・・現れてこのような重大事を伝えてくれたのです、より具体的な検証は・・・また、これは話が別になりますが、取り合えず真として動いても良かろうと思いましてな、で、出来る事から始めている・・・そのような段階でありますな」

余りの事に絶句する三人を見つめ学園長はそう締め括り、ボニファースは次の話題へ移る事とした、この場はタロウの正体もその稀な魔法も主題では無い、

「・・・ロキュス、あれを」

「はっ」

ロキュスは足元に置いた革袋から上質紙の束を取り出すとボニファースの前に置いた、ボニファースはそれをタロウとレイナウト、カラミッドと学園長に自ら配り、

「やっと翻訳が出来てな、中々に面白い事が書いてある、他国から見ると我が自慢の王国も自慢の国民も田舎者の蛮族扱いらしい」

タロウに微笑みかける、

「あっ、例のあれですか」

タロウはその冊子を手に取るとパラパラと捲る、それはタロウが帝国から盗み出した王国の報告書それの翻訳である、

「一応確認してくれ、翻訳者もこちらに無い単語はどうしようもないらしくてな、地名やら人物名やらは音だけで表記するしかなかったらしい、故に少々読みづらい」

「それは致し方ないでしょうね・・・」

タロウは改めてゆっくりとページを捲る、それは十頁にも満たない冊子である、分厚い書物に慣れているタロウからすれば物足りないと感じるが、帝国にしろ王国にしろ役所で取り扱う報告書であればこの程度で充分なのであろう、つまりその程度の分量であるが、内容が薄い訳ではない、実に簡潔な文言で国土から農産物、市井の生活等多岐に渡っていた、カラミッドもレイナウトもその書を捲り始め、リシャルトはカラミッドのそれを覗き込み、学園長はホクホクと笑顔になって読み込んでいる、

「どうかな?」

「・・・はい、大筋では間違っていないかと、少々ニュアンスが事なる部分もありますが、些細な問題です」

「ニュアンス?」

「あー・・・意味合いとか受け取り方とかですかね」

「何処の言葉だ?」

「異国です」

「だろうな」

「間違ってはいないのだろう?」

「はい、必要十分と思います」

タロウはペラペラと頁を捲りそっとテーブルに置いた、あっという間に全頁に目を通したのであろうか、

「もういいのか?」

「えぇ」

「早いな」

「そうだね」

「まったく」

クロノスは呆れ顔で冊子に手を伸ばす、自身もまた今日の午前中に一度目を通しており、なるほどと納得できる所もあれば馬鹿にしているなと憤慨する箇所もあった、しかし、リンドと共に目を通して出した結論はタロウの報告との齟齬は見られず、また、実際に帝国の都市を視察した二人である、何とも見下した表現の多い内容であるが、それも致し方ないであろうなと納得するしか無かった、

「・・・蛮族扱いか・・・」

レイナウトがポツリと呟く、

「そのようですな・・・不愉快な・・・」

カラミッドも思わず口を開いた、そして暫くの間沈黙が支配した、ボニファースらはししゃもと蒸しパンに手を伸ばし、酒を舐めつつ三人の様子を伺っている、

「なるほど・・・これは?どういう代物なのだ?」

レイナウトが読み終えたのか冊子を閉じて顔を上げる、

「皇帝とやら向けの報告書らしい、今回の侵攻、それに先だって行われたこちら側の下見の結果だそうだ」

「・・・周到だな・・・」

「その通りだ、既に向こうはその気なのだ、感謝すべきは・・・」

「その計画をこちらが知っている事を向こうが知らない事・・・ですな」

「そうなる、戦においては何より重要だ、先の大戦時に於いては初動の遅れがどこまでも尾を引いたからな」

「何だ、それもこちらの間違いだとでも言うのか?」

「そうは言っていない、第一、魔王本陣がノードを落とすまで誰も侵攻に気付かなかったのだ、致し方あるまい」

「それはそうだが・・・」

「無論、その後の公の対応も杜撰であった、それは公も思う所であろう」

「・・・その通りだがな、しかしだ・・・」

「分かっている、魔物や魔獣がまさか軍隊の体を為すとは誰も思っておらなんだからな、後手に回るのも仕方無い、国内でもあの状況に正確に対応できる人物などそうはいない・・・いや、いないと断言できような、儂でも無理じゃ」

「・・・フンッ、だろうな」

レイナウトが不愉快そうに鼻を鳴らし、ボニファースはやれやれと目を眇める、

「失礼、こちらでは魔族との大戦には触れられておりますが、魔法関連がまったく見当たりませんな・・・生活から食料から農地まで、実に詳細で正確かと思いますが・・・」

カラミッドが不思議そうに頁を捲り直す、

「ほう・・・伯は実に良い感をしているな、その通りだ、タロウ曰く、帝国はその方面を嫌悪の対象としているらしい、実際にはどうか分らんが、どうなのだ?」

「以前報告した通りです、嫌悪の対象とは言い得て妙かと思います、少なくとも軍では活用しておらず、日常生活でもまず見ておりません、全ての帝国の街に行った訳では無いのでその点不正確かもしれませんが、軍で活用していないという事はそういう事なのでしょう」

タロウが静かに答える、軍とは効率を重視する組織である、民間で生み出され便利とされるものは軍でも勿論便利に使われるもので、その採用に於いては遠慮など無くまして貪欲とさえ言える、湯沸し器がその良い例となろう、我が命と家族の命、国家の命運がかかっているのだ、様々な事象に於いて早く便利に手軽になる事になんの躊躇いも無い、而してその新しい物品や知識は兵士の間に広がり、除隊した兵士が郷里に持ち帰る事によってさらに民間に広がる、これは国内に限るのであろうが伝播手段の一つとして厳然と存在し、文化、技術の発展に大いに寄与していたりもする、

「・・・なるほど・・・そういう事もあるのでしょうな・・・」

カラミッドも大きく吐息を吐き出すと手にした冊子をリシャルトに手渡し、

「この書にあります通り、確かにこの町は侵攻に安いでしょうね、さらに軍団基地とするのにも最適です・・・」

苦々しい顔で地図を睨みつけた、

「だな・・・そればかりはどうしようもない」

レイナウトも同意のようである、そしてそれはこの場にいるメイド以外の人物は誰も異を唱える事の出来ない事実であった、

「せめて城塞を築くべきでしたか・・・」

「それでも攻めてくることは止められんだろう」

「現状では持ち堪える事もできないですよ、時間稼ぎも難しい、北ヘルデルに早馬を飛ばしても2日・・・軍を動かすとすれば・・・」

「到着に10日・・・まぁ、蹂躙されておるな・・・民を逃がすのも難儀であろう・・・」

「そうなります・・・」

カラミッドとレイナウトはどうやら帝国の侵攻を真実として受け入れる事とした様子である、二人は冊子を捲りながらそれぞれに考えていた、この異常な状況を作ってまで国王自らが二人の前に姿を表し、さらに英雄であるクロノス、長い間病床にあった実の息子、相談役となっているらしいかつての軍参謀ロキュスに、二人でさえその顔を知る前大戦時の総大将であるメインデルトが同席している、これがもしやタロウの仕掛けた余興であるかも、とも考えたが、ここまでする理由が無くまたあまりにも趣味が悪い、そしてそのタロウが英雄の一人であったという重大事も明かされている、これは王国内でも知る者は少ない、

「さて・・・じゃ・・・」

ボニファースがやっと今日の本題に移れるかなと前のめりになった、

「儂としてはこの街を守りたい、当然だな、ここは王国である、貴様らがどう思おうが大事な国民であり大事な我が国の領土である」

レイナウトは不愉快そうに顔を上げ、カラミッドもまた渋い顔となった、

「でな・・・こちらも軍を上げねば対応できん、向こうの一個軍団はこちらの倍だ、さらに全軍は三倍かな?そして主戦場をこの街にはしたくない、となると・・・」

「荒野ですか?」

カラミッドが難しそうに首を捻る、

「左様、そう考えておる、向こうもな街路も無いこの地を踏破するべく訓練中のようでな、侵攻は恐らく来年始め、しかし儂は早くなることはあっても遅くなることは無いと思っておる」

ボニファースの言葉にメインデルトが大きく頷いた、

「そこで、幾つか対応策を考えておる、それを共同で取り組みたい」

「共同だと?」

「そうだ、別に貴様らの許可なぞいらんがな、軍の展開も、事前調査も・・・しかし、それで後ろから討たれては笑えないからな、ここは一つ王国の為は勿論だがモニケンダムを守る為だ、大戦時のようにわだかまりは棚上げとしようぞ」

「・・・」

「そういう事か・・・」

レイナウトとカラミッドは腕を組んで大きく鼻息を吐き出した、タロウはその二人と何とも厳しい面相となっているリシャルトを見つめ、まぁここは飲まねば難しかろうなと思う、そして同時にどうやらヘルデルは帝国とは組んでいない事を確信した、タロウが最も懸念していたのがそこである、もし帝国とヘルデルが手を結び、帝国軍を引き入れるような戦略を取ったなら王国に勝ち目はなかったであろう、無論そのような事実を裏付ける証拠はタロウが知る限り無かったが、どこでどのような密約が行われているのかは分からず、それは刻一刻と変化するものである、こうやっている間にも帝国の間者とヘルデルの現公爵クンラートが会合を持っていても不思議では無く、タロウがもし帝国側に立ったなら、絶対にそうしたであろうとも考えている、この瞬間はまだまだ予断を許されない状況であったのだ。
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