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本編
72話 メダカと学校 その11
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丁度同じ頃、
「でだ、これが新しく考案された・・・いや、新しくは無いな、元となる案はだいぶ昔からあったのだが、やっとそれなりに完成した品になる」
とクロノスは居並ぶ面々を見回した、場所は荒野の天幕、各軍団長に補佐官、事務官も同席し、クンラートらヘルデル側の人員も列席している、クロノスの前には鉄製のやたらと仰々しく厳つい品が置かれている、真っ黒く無骨なそれは一目で禍々しい品である事が分かり、一同は兵器と言われればそうであろうがどうやって使うものやらと訝し気にそれを見つめ、クンラートは腕を組んで睨みつける有様で、クロノスはその想像通りの反応に内心で小さくほくそ笑むと、
「では、タロウ、説明を」
と振り返った、エッ俺?とタロウは思わず驚いた、まさか話しを振られるとは思わず、さっさと終わらないかなとボーッとしていた為である、
「そうだよ、ほれ、さっさと済ませろ」
クロノスがジロリとタロウを睨みつけスッと自席に戻ってしまった、えーとタロウは内心で文句を言いつつも、指名されてしまった以上その場を代わらなければクロノスの面目を潰しかねないなと腰を上げる、一斉にタロウに視線が集まり、カラミッドとレイナウトはタロウ殿も大変だなと苦笑いで、イフナースは明け透けにニヤニヤと微笑む始末であった、
「あー・・・そうですね・・・」
とタロウは仕方ないかと鉄塊を前にすると、
「まずは・・・これの名称ですが、好きに呼んで頂いて構わないと思いますが、俺の国では、トラ・・・虎がいないからな・・・そうだ、クマバサミと呼んでました」
とその品の説明を始める、クマバサミとその見た目通りの厳つい名称にドヨドヨとざわめきが広がった、
「その名前の通りなのですが、本来は獣用の罠になります、それこそ、熊でも鹿でも、狐でも狼でも、馬でもね、この罠であれば捕獲・・・そうですね、殺傷能力だけを考えると弱いほうだと思いますが、確実に捕獲又は怪我をさせる事ができる、まぁそういう品になりまして、恐らくゴブリンやらオークやオーガにも効果は十分と考えられます、なので、私が冒険者の頃に殿下に愚痴っていたのが・・・まぁ、こうして形になった・・・そういう経緯であります、でなんですが、そうなると勿論なんですが人にも有効な罠です」
さらにざわめきが広がる、
「そうは言ってもですが、こんなね、いかにもな罠にかかる者がいるのかって疑問もあると思うんですが、これが割とかかります、仕掛け方にもよるのですが、そりゃもう問題になるくらい・・・なので、実は俺の国では使用は禁止されてました、あまりにも危ないって事ですね、人に対してという意味で」
「まて、それほどに危険なのか?」
イフナースが思わず疑問を呈する、
「はい、危険です、そりゃだって熊やら鹿やらに有効な罠ですよ、危険でないわけがない・・・その上で・・・想定通りの威力があるとすれば・・・そうですね、人の足程度であれば砕きます」
なんととほぼ全員が目を丸くする、
「なので、扱いには御注意を、構造自体はそれほど難しくなく、こうして試作品とはいえ形になってますので量産も難しくない品です、慎重に取り扱う事と、場合によっては・・・そうですね、扱える者を制限する法的罰則が必要かも知れないことを先に申し上げます、そうは言っても一度これの製法・・・まぁ、簡単な仕掛けですからね、構造がバレてしまえばあっという間に広がるでしょうが・・・対策が必要になる事だけは明白である事を先に・・・厳にお伝えします」
とタロウは一同をゆっくりと見渡した、それはまた随分と酷い言い草だなと目を細める者が多数である、タロウとしては忌避どころか嫌悪するくらいで丁度良いとまで考えていた、
「では、実際に使用します・・・あー・・・」
とタロウは振り返り、誰か助手が欲しいかなと見渡すと、一人の兵士がソッと立ち上がる、会議の前にクロノスから紹介されたその罠を作り上げた鍛冶職人であった、
「頼む」
とタロウは小さく微笑み、コクリと頷く職人であった、そしてタロウが押さえ、鍛冶職人が閉じられた鋼鉄製の牙をゆっくりと開き、タロウが確認しながら留め金をかける、あっという間の出来事にそう開くのかと一同は感心し、何とも簡単な仕掛けだなと腕を組む、
「この状態で仕掛けます、では、どう作動するかとなりますが」
とタロウがどうしたもんだかと周囲を見渡すと、職人が天幕の奥から太いこん棒を持ち出してきた、ゴブリンやらオークやらが好みそうな太く重く無骨な代物である、
「あっ、ありがとう、これは確かに丁度いいね」
とタロウが受け取りながら微笑むと職人は頬を引きつらせる、どうやら緊張しているらしい、それも致し方ない、これほどの軍の高官に囲まれることなどその人生においてありえない事であり、また想像もしていなかった事であろう、
「では、いきますね」
とタロウはそのこん棒を逆手に構え、開かれた牙の中央、円盤状の金属板を狙ってこん棒の先を叩き付けた、瞬間、
ガッ!!バキッ!!
罠の作動音とこん棒が砕かれる音が同時に天幕内に響く、オオッと偉丈夫達が歓声を上げた、
「あっ、すいません、破片がそちらまで・・・」
しかしタロウはアチャーと近場のお偉いさん達に頭を下げた、砕かれたこん棒の破片が見事にあっちこっちと飛び散ってしまい、まるで想定していなかった為、慌ててしまう、
「いや、構わん」
「うむ」
とメインデルトがその破片の一つを手にし、クンラートも目を輝かせている、どうやらお気に召したらしい、
「すんません、とまぁ、この通り、威力は申し分ないかと、ありがとね」
タロウは職人を労い、職人はやっと笑顔を見せて静かに自席に戻る、
「という訳でして、この状態、刃が閉じた状態であればなんら危険はありませんし、持ち運びもまぁ、重くて持ちづらいってこと以外に問題はないかと、で、先程の開いた状態、それを仕掛けるのですが・・・そうですね」
とタロウは罠を仕掛ける際の注意事項を思いつく限り口にする、二人以上で作業に当たる事、罠自体を地面にしっかり杭等で固定する事、獣用の罠とする場合には大木に鎖か荒縄で括りつける事などとなる、つらつらとした説明であったが、なるほどと頷く男達であった、
「で、最後になるのですが、こちらは見ての通りすぐに命を奪う罠ではありません、動物相手であれば止めが必要で、人を相手にした場合は割とすぐに逃げられる事でしょう、まぁ、一人でこれを踏んだ場合は痛みでそれどころではないと思いますが、よくよく見れば、刃の部分を開けば良いというのが丸わかりです」
確かにと誰かが呟く、
「はい、ですが、対軍隊においてはそれこそが重要なのです」
とここからが本題だなとタロウは咳ばらいを挟む、ムッとタロウへ向かう視線が真剣なものになった、
「想像して欲しいのですが、まず、これを踏んだ兵士、及びその兵士が所属する部隊ですね、軍も冒険者も基本的には複数人で動きます・・・あっ、これは皆さんにとっては当たり前ですね、すいません、で・・・その部隊は恐らくそれ以上進軍する事を躊躇うでしょう、もしくはその進軍を遅らせる事ができます、特に狭所においては、仕掛け方にもよりますが、ある程度敵の進軍路を制御する事も可能かと思います」
とタロウはその場を離れ黒板へ向かい、
「特に今回のように巨岩に挟まれた細い道を通らなければならない・・・まぁ、まず他の土地ではこのような地は無いですからね、特殊過ぎるのであれですけど・・・」
と白墨をカッカと鳴らし、その言葉通りの図面を黒板に描く、そしてバツ印でもって罠を仕掛ける点を示し、人の動き、部隊の動きを線で描き込む、
「こういう場所、こういう仕掛け方・・・これはもう少し考える必要がありますね、現場の見晴らしですとか、土の具合とか・・・簡単なものでは無い事は重々理解されておるかと思います、しかしまぁ、有効な罠になるかなと思います、如何でしょうか?」
大きく頷く者が多数であった、皆なるほどと納得したらしい、
「つまりは、これ自体で敵を殲滅するようなものではないとお考え下さい、より有効に活用するとすれば、この罠と弓兵ですかね、罠のある方向に敵を追い詰める・・・ですとか、動きを止めた相手を狙い撃つですとか・・・あくまで副次的な利用が前提と考えます、罠とはそういうものですからね・・・まぁ、実際に使用する際には皆様の発想次第となりますので、有効活用頂ければ幸い、で、副次的効果としてより重要な考え方がもう一つ」
タロウはニコリと微笑みつつ一同を見渡す、まだあるのかと視線が集中した、
「先程も申しましたがこの罠それだけで絶命する事はありません、なので大変に心細くも感じますが、実はそこが大事でして、この罠は踏んだ相手の足を、つまりはその行動を奪うという点で優秀なのです、皆さまも経験があるかもしれませんが、兵士が上半身の怪我・・・腕やら胴体やらですね、をした場合、その度合いによりますが介添えの必要も無く後方に送れると思うのですね、簡単な治療も必要でしょうが細かい点は置いておいて、ですが、足の怪我となると・・・その搬送に最低二人は必要になると思います、如何でしょう?」
確かにと頷く顔と、そういう事かとタロウを睨みつける者、何とも惨いと首を振る者多数である、同じ軍属でもこんなに反応が違うものなのだなとタロウは感心しつつ、
「つまりは、前線から兵士にして三人分を退却させる事が出来るのですね、うち二人分は一時的なものでしょうがこれは大きいですよ、下手に一人の命を奪うよりも三人の兵士を後方に送る、これはより大きな効果となるでしょう・・・罠を踏んだ兵士は気の毒ですがね」
とタロウはこんなもんかなと白墨を置いた、タロウは昔読んだ小説やら映画やらで得た地雷の知識をこの罠に適用して話していた、実際に使った事も無ければ目にした事もないトラバサミと地雷であるが、その有効性に関しては知識としてあった、当時は何とも酷い兵器もあったもんだと思ったのであるが、冒険者として戦場に立てば大変に有効でかつ戦術的に使える代物である事を実感するに至っている、故にクロノスにこのような罠はないかと確認し、無ければ作れと迄言い切っていた、それがまさか時を経てこうして実現するとは思ってもいなかったが、
「こちらに関してはこんなもんかな?」
とタロウはクロノスに問いかけ、クロノスはコクリと頷き席を立つ、スッと控えるタロウであった、
「では次だ」
とクロノスが先程の職人に目配せし、職人は音も無く天幕を抜け出す、他にもあるのかとざわつく一同であったが、職人とさらに三人の兵士が何やら運び込んできた、その威容に目を丸くする一同である、
「タロウ」
クロノスがめんどくさいとばかりに腰を下ろし、タロウはハイハイとそれの前に立つと、
「こちら、どう呼称しましょうか・・・より優雅に・・・バラ鉄線とでも呼びますか」
タロウはその品にそっと手を添える、斜めに切断された鉄線の先がその見た目通りの痛みを手に感じさせる、これも戦場で使えるであろうとクロノスに話していたもので、
「こちらは見ての通り、鉄線にバラの棘のように短い鉄線を巻きつけたものです、故にバラ鉄線、見た目通りでしょ?簡単な代物だと思われるでしょうが効果は絶大ですね、主に城やら要塞の侵入を阻みたい箇所にこの丸めた状態で設置します、もっとこう隙間を空けてゆったりとさせる必要があるのですが、こちらもしっかりと固定する必要がありまして・・・」
とタロウは言葉を続けた、そして、実際の運用方法を知る限り黒板に図示する、
「以上となります」
こちらも確かに使えそうだと頷く者多数である、クンラートは呆気に取られており、カラミッドとレイナウトはどこか寂しそうであった、カラミッドにしてみればタロウは良き協力者で、やたらと呑気で適当だが気の良い男だとの評価であった、しかし今日のタロウは何とも血生臭く素っ気ない、このような一面もあったのかと思うと背筋が寒くなってしまう、いや、かの大戦を生き延びた英雄の一人であればそれも不思議では無いのかとも思うが、あまりの落差に驚くよりも先に失望の感が強かった、裏切られたような感覚さえある、
「では次だ」
とクロノスが腰を上げる、そうして今度はタロウが帝国から盗んできた兵器群が持ち込まれた、それはすでに検証が済んでおり、その一部は有効性が認められ王国軍内で生産が始まっている、
「これは俺から説明する、すでに確認した者もいるであろうが、改めてその有用性を確認し、活用を協議したい」
とこれはクロノス直々に進めるようで、タロウはやれやれと自席に戻った、今日はさっさと帰りたいんだがなと思いつつ、これも仕事かなと諦めてしまったタロウであった。
「でだ、これが新しく考案された・・・いや、新しくは無いな、元となる案はだいぶ昔からあったのだが、やっとそれなりに完成した品になる」
とクロノスは居並ぶ面々を見回した、場所は荒野の天幕、各軍団長に補佐官、事務官も同席し、クンラートらヘルデル側の人員も列席している、クロノスの前には鉄製のやたらと仰々しく厳つい品が置かれている、真っ黒く無骨なそれは一目で禍々しい品である事が分かり、一同は兵器と言われればそうであろうがどうやって使うものやらと訝し気にそれを見つめ、クンラートは腕を組んで睨みつける有様で、クロノスはその想像通りの反応に内心で小さくほくそ笑むと、
「では、タロウ、説明を」
と振り返った、エッ俺?とタロウは思わず驚いた、まさか話しを振られるとは思わず、さっさと終わらないかなとボーッとしていた為である、
「そうだよ、ほれ、さっさと済ませろ」
クロノスがジロリとタロウを睨みつけスッと自席に戻ってしまった、えーとタロウは内心で文句を言いつつも、指名されてしまった以上その場を代わらなければクロノスの面目を潰しかねないなと腰を上げる、一斉にタロウに視線が集まり、カラミッドとレイナウトはタロウ殿も大変だなと苦笑いで、イフナースは明け透けにニヤニヤと微笑む始末であった、
「あー・・・そうですね・・・」
とタロウは仕方ないかと鉄塊を前にすると、
「まずは・・・これの名称ですが、好きに呼んで頂いて構わないと思いますが、俺の国では、トラ・・・虎がいないからな・・・そうだ、クマバサミと呼んでました」
とその品の説明を始める、クマバサミとその見た目通りの厳つい名称にドヨドヨとざわめきが広がった、
「その名前の通りなのですが、本来は獣用の罠になります、それこそ、熊でも鹿でも、狐でも狼でも、馬でもね、この罠であれば捕獲・・・そうですね、殺傷能力だけを考えると弱いほうだと思いますが、確実に捕獲又は怪我をさせる事ができる、まぁそういう品になりまして、恐らくゴブリンやらオークやオーガにも効果は十分と考えられます、なので、私が冒険者の頃に殿下に愚痴っていたのが・・・まぁ、こうして形になった・・・そういう経緯であります、でなんですが、そうなると勿論なんですが人にも有効な罠です」
さらにざわめきが広がる、
「そうは言ってもですが、こんなね、いかにもな罠にかかる者がいるのかって疑問もあると思うんですが、これが割とかかります、仕掛け方にもよるのですが、そりゃもう問題になるくらい・・・なので、実は俺の国では使用は禁止されてました、あまりにも危ないって事ですね、人に対してという意味で」
「まて、それほどに危険なのか?」
イフナースが思わず疑問を呈する、
「はい、危険です、そりゃだって熊やら鹿やらに有効な罠ですよ、危険でないわけがない・・・その上で・・・想定通りの威力があるとすれば・・・そうですね、人の足程度であれば砕きます」
なんととほぼ全員が目を丸くする、
「なので、扱いには御注意を、構造自体はそれほど難しくなく、こうして試作品とはいえ形になってますので量産も難しくない品です、慎重に取り扱う事と、場合によっては・・・そうですね、扱える者を制限する法的罰則が必要かも知れないことを先に申し上げます、そうは言っても一度これの製法・・・まぁ、簡単な仕掛けですからね、構造がバレてしまえばあっという間に広がるでしょうが・・・対策が必要になる事だけは明白である事を先に・・・厳にお伝えします」
とタロウは一同をゆっくりと見渡した、それはまた随分と酷い言い草だなと目を細める者が多数である、タロウとしては忌避どころか嫌悪するくらいで丁度良いとまで考えていた、
「では、実際に使用します・・・あー・・・」
とタロウは振り返り、誰か助手が欲しいかなと見渡すと、一人の兵士がソッと立ち上がる、会議の前にクロノスから紹介されたその罠を作り上げた鍛冶職人であった、
「頼む」
とタロウは小さく微笑み、コクリと頷く職人であった、そしてタロウが押さえ、鍛冶職人が閉じられた鋼鉄製の牙をゆっくりと開き、タロウが確認しながら留め金をかける、あっという間の出来事にそう開くのかと一同は感心し、何とも簡単な仕掛けだなと腕を組む、
「この状態で仕掛けます、では、どう作動するかとなりますが」
とタロウがどうしたもんだかと周囲を見渡すと、職人が天幕の奥から太いこん棒を持ち出してきた、ゴブリンやらオークやらが好みそうな太く重く無骨な代物である、
「あっ、ありがとう、これは確かに丁度いいね」
とタロウが受け取りながら微笑むと職人は頬を引きつらせる、どうやら緊張しているらしい、それも致し方ない、これほどの軍の高官に囲まれることなどその人生においてありえない事であり、また想像もしていなかった事であろう、
「では、いきますね」
とタロウはそのこん棒を逆手に構え、開かれた牙の中央、円盤状の金属板を狙ってこん棒の先を叩き付けた、瞬間、
ガッ!!バキッ!!
罠の作動音とこん棒が砕かれる音が同時に天幕内に響く、オオッと偉丈夫達が歓声を上げた、
「あっ、すいません、破片がそちらまで・・・」
しかしタロウはアチャーと近場のお偉いさん達に頭を下げた、砕かれたこん棒の破片が見事にあっちこっちと飛び散ってしまい、まるで想定していなかった為、慌ててしまう、
「いや、構わん」
「うむ」
とメインデルトがその破片の一つを手にし、クンラートも目を輝かせている、どうやらお気に召したらしい、
「すんません、とまぁ、この通り、威力は申し分ないかと、ありがとね」
タロウは職人を労い、職人はやっと笑顔を見せて静かに自席に戻る、
「という訳でして、この状態、刃が閉じた状態であればなんら危険はありませんし、持ち運びもまぁ、重くて持ちづらいってこと以外に問題はないかと、で、先程の開いた状態、それを仕掛けるのですが・・・そうですね」
とタロウは罠を仕掛ける際の注意事項を思いつく限り口にする、二人以上で作業に当たる事、罠自体を地面にしっかり杭等で固定する事、獣用の罠とする場合には大木に鎖か荒縄で括りつける事などとなる、つらつらとした説明であったが、なるほどと頷く男達であった、
「で、最後になるのですが、こちらは見ての通りすぐに命を奪う罠ではありません、動物相手であれば止めが必要で、人を相手にした場合は割とすぐに逃げられる事でしょう、まぁ、一人でこれを踏んだ場合は痛みでそれどころではないと思いますが、よくよく見れば、刃の部分を開けば良いというのが丸わかりです」
確かにと誰かが呟く、
「はい、ですが、対軍隊においてはそれこそが重要なのです」
とここからが本題だなとタロウは咳ばらいを挟む、ムッとタロウへ向かう視線が真剣なものになった、
「想像して欲しいのですが、まず、これを踏んだ兵士、及びその兵士が所属する部隊ですね、軍も冒険者も基本的には複数人で動きます・・・あっ、これは皆さんにとっては当たり前ですね、すいません、で・・・その部隊は恐らくそれ以上進軍する事を躊躇うでしょう、もしくはその進軍を遅らせる事ができます、特に狭所においては、仕掛け方にもよりますが、ある程度敵の進軍路を制御する事も可能かと思います」
とタロウはその場を離れ黒板へ向かい、
「特に今回のように巨岩に挟まれた細い道を通らなければならない・・・まぁ、まず他の土地ではこのような地は無いですからね、特殊過ぎるのであれですけど・・・」
と白墨をカッカと鳴らし、その言葉通りの図面を黒板に描く、そしてバツ印でもって罠を仕掛ける点を示し、人の動き、部隊の動きを線で描き込む、
「こういう場所、こういう仕掛け方・・・これはもう少し考える必要がありますね、現場の見晴らしですとか、土の具合とか・・・簡単なものでは無い事は重々理解されておるかと思います、しかしまぁ、有効な罠になるかなと思います、如何でしょうか?」
大きく頷く者が多数であった、皆なるほどと納得したらしい、
「つまりは、これ自体で敵を殲滅するようなものではないとお考え下さい、より有効に活用するとすれば、この罠と弓兵ですかね、罠のある方向に敵を追い詰める・・・ですとか、動きを止めた相手を狙い撃つですとか・・・あくまで副次的な利用が前提と考えます、罠とはそういうものですからね・・・まぁ、実際に使用する際には皆様の発想次第となりますので、有効活用頂ければ幸い、で、副次的効果としてより重要な考え方がもう一つ」
タロウはニコリと微笑みつつ一同を見渡す、まだあるのかと視線が集中した、
「先程も申しましたがこの罠それだけで絶命する事はありません、なので大変に心細くも感じますが、実はそこが大事でして、この罠は踏んだ相手の足を、つまりはその行動を奪うという点で優秀なのです、皆さまも経験があるかもしれませんが、兵士が上半身の怪我・・・腕やら胴体やらですね、をした場合、その度合いによりますが介添えの必要も無く後方に送れると思うのですね、簡単な治療も必要でしょうが細かい点は置いておいて、ですが、足の怪我となると・・・その搬送に最低二人は必要になると思います、如何でしょう?」
確かにと頷く顔と、そういう事かとタロウを睨みつける者、何とも惨いと首を振る者多数である、同じ軍属でもこんなに反応が違うものなのだなとタロウは感心しつつ、
「つまりは、前線から兵士にして三人分を退却させる事が出来るのですね、うち二人分は一時的なものでしょうがこれは大きいですよ、下手に一人の命を奪うよりも三人の兵士を後方に送る、これはより大きな効果となるでしょう・・・罠を踏んだ兵士は気の毒ですがね」
とタロウはこんなもんかなと白墨を置いた、タロウは昔読んだ小説やら映画やらで得た地雷の知識をこの罠に適用して話していた、実際に使った事も無ければ目にした事もないトラバサミと地雷であるが、その有効性に関しては知識としてあった、当時は何とも酷い兵器もあったもんだと思ったのであるが、冒険者として戦場に立てば大変に有効でかつ戦術的に使える代物である事を実感するに至っている、故にクロノスにこのような罠はないかと確認し、無ければ作れと迄言い切っていた、それがまさか時を経てこうして実現するとは思ってもいなかったが、
「こちらに関してはこんなもんかな?」
とタロウはクロノスに問いかけ、クロノスはコクリと頷き席を立つ、スッと控えるタロウであった、
「では次だ」
とクロノスが先程の職人に目配せし、職人は音も無く天幕を抜け出す、他にもあるのかとざわつく一同であったが、職人とさらに三人の兵士が何やら運び込んできた、その威容に目を丸くする一同である、
「タロウ」
クロノスがめんどくさいとばかりに腰を下ろし、タロウはハイハイとそれの前に立つと、
「こちら、どう呼称しましょうか・・・より優雅に・・・バラ鉄線とでも呼びますか」
タロウはその品にそっと手を添える、斜めに切断された鉄線の先がその見た目通りの痛みを手に感じさせる、これも戦場で使えるであろうとクロノスに話していたもので、
「こちらは見ての通り、鉄線にバラの棘のように短い鉄線を巻きつけたものです、故にバラ鉄線、見た目通りでしょ?簡単な代物だと思われるでしょうが効果は絶大ですね、主に城やら要塞の侵入を阻みたい箇所にこの丸めた状態で設置します、もっとこう隙間を空けてゆったりとさせる必要があるのですが、こちらもしっかりと固定する必要がありまして・・・」
とタロウは言葉を続けた、そして、実際の運用方法を知る限り黒板に図示する、
「以上となります」
こちらも確かに使えそうだと頷く者多数である、クンラートは呆気に取られており、カラミッドとレイナウトはどこか寂しそうであった、カラミッドにしてみればタロウは良き協力者で、やたらと呑気で適当だが気の良い男だとの評価であった、しかし今日のタロウは何とも血生臭く素っ気ない、このような一面もあったのかと思うと背筋が寒くなってしまう、いや、かの大戦を生き延びた英雄の一人であればそれも不思議では無いのかとも思うが、あまりの落差に驚くよりも先に失望の感が強かった、裏切られたような感覚さえある、
「では次だ」
とクロノスが腰を上げる、そうして今度はタロウが帝国から盗んできた兵器群が持ち込まれた、それはすでに検証が済んでおり、その一部は有効性が認められ王国軍内で生産が始まっている、
「これは俺から説明する、すでに確認した者もいるであろうが、改めてその有用性を確認し、活用を協議したい」
とこれはクロノス直々に進めるようで、タロウはやれやれと自席に戻った、今日はさっさと帰りたいんだがなと思いつつ、これも仕事かなと諦めてしまったタロウであった。
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