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本編
72話 初雪 その45
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「腕を前から上にあげてー、背伸びの運動ー」
内庭に揃った子供達にまずはとタロウは自己紹介をさせた、簡単なものであったが、女子達は独特の距離の近さで笑顔になるも、男子一人だけのブロースはどこか寂しそうである、タロウはまぁそういう事もあるかなと特に指摘する事は無く、身体を動かす前に少し運動するぞとラジオ体操を始めた、子供達を等間隔に並べ、俺の真似をして身体を動かしてなと一言置いて腕を振り上げる、ミナ達はこれもオユウギかと目を輝かせるも、どうやら違うらしい、しかし、面白そうだと真似を始め、フロールとブロースも尚不思議そうにしながらも手を動かし始める、一緒に出てきたレインもまた奇妙な事をと何とも渋い顔であったが、取り合えずと動き出したようで
「次はー、手足の運動、脚が大事だぞー」
股を割って腕を振り回し始めるタロウに、子供達はクスクスと笑ってしまうも素直に従ったようで、短い両腕をこれでもかと振り回し短い両脚を曲げ伸ばし実に一生懸命であった、続いて大きく身体を伸ばし、前に後ろに折り曲げ、軽いジャンプを終えて再び股を割る、そしてゆっくりと呼吸を整えた頃には皆その目は真剣なものになっており、
「どうだ、温まったか?」
ニヤリと微笑むタロウに大きく頷く子供達、
「ん、今日は寒いがな、それでも、身体を動かすと温かくなる、暑かったら外套脱いでもいいからなー」
とタロウが促すもやはり外套を脱ぎだす者はいなかった、真面目に身体を動かしたとはいえ、雪が積もる内庭で風も冷たい、日差しも弱く、今冬一番の冷え込みかもしれない日であった、何もこんな日に外に出さなくても良かったかなとタロウは思うも、まぁ、折角の機会である、気も向いた事だしやるだけやってみようと思い立ったしなと自己弁護し、
「では、今日は縄跳びをします」
タロウの宣言に、皆キョトンとしてしまう、ミナとレインも初耳であった、ナワトビとはとその表情にありありと浮かんでいる、
「ふふーん、やってみると楽しいからな、じゃ、準備するぞー」
とタロウは投げ置いた巨大な革袋に向かいゴソリと細い縄を取り出す、荒縄であったが細く頑丈に作られた品で、店主曰く何に使っても上等な品であると自慢げであった、そしてそれはタロウの目的とお眼鏡にも適う適度な品でもあり、故にこうして大量に手元にあるのである、
「じゃ、一人ずつ切っていくからな、こっち来てー」
子供達を集め順番に両手に握らせ長さを調節し、切り渡していく、子供達は何をするんだろうと早速縄を振り回し始め、ブロースが薄く積もった雪に叩き付けるのをフロールがコラッと叱りつける、タロウはおねーさんだなーと微笑みつつ、
「じゃ、みんなでやってみるぞ、最初は見ててな」
自分の縄を用意しこう構えると視線を集めるタロウ、素直にそれに従う子供達、レインも何の意味があるのかと不思議そうにタロウに倣った、
「まずは前とび」
タロウは久しぶりだなーと思い、軽く跳びはね足腰の調子を確認し、ヒュンヒュンと軽快な音を立てて跳び始める、オォッと目を見開く子供達、レインもこれはと驚いた様子で、
「いいかー、こうやって、縄にひっかから無いように高く跳ぶのが大事だぞー、高く跳んで、その間に足の下を潜らせるんだ、腕はあまり動かさない、手首を上手く使う感じだぞー」
タロウはそう注釈を付け加えるも子供達は聞いているのかいないのか次第に目を輝かせ始め、うずうずと縄を持ち直したり、軽くジャンプを始めたりと蠢きだす、
「ん、じゃ、やってみて」
タロウはニヤリと微笑み、してやったりと内心で微笑んだ、タロウが幼少の頃、女児は特に縄跳びで遊んでいたように思う、キャッキャッと楽しそうで、身体を動かす事が苦手であったその頃のタロウは何が面白いんだかと不思議であった、而してこちらの子供達もそうなのであろうなとは見ていたのである、そしてそれは実に正しかったらしい、子供達は早速と縄を構え、大きく振り回す、しかし、やはり初めてではぎこちない上にどうしても足にぶつけてしまう、それも寒空の下、素足にサンダル履きなものだから当たり所が悪いと激痛が走るもので、ノールがイタイーと叫び、ブロースがギャーと大声を上げた、しかし、大したもので泣き出すような事は無く、タロウが不味いかなと手を差し出しそうになるもすぐに縄を構え直す、どうやら王国の子供達は歯や顎の強靭さもそうだが、その根性も一段上のようであった、やがて、
「出来たー、これでいい?これでいい?」
ミナがゆっくりとした動作であったが、確実にピョンピョンと飛び跳ねる、
「おう、いいぞ、最初はゆっくりでいいからな、縄を前に下ろしてピョンと飛び跳ねる、前に進まないように上にだぞ、その場で出来るようにな、手は腰の位置から動かさない、視線は下の方、それがコツってやつだ」
「うん、わかった、楽しいー」
ミナの様子に感化されたのか、他の子供達もより熱心に足元を見つめ、そして、
「こう?」
「おう、上手いぞー」
「出来たー」
「ん、そうだ」
「うー・・・」
「おう、サスキアちゃんも上手だぞー」
「俺はー」
「ブロース君も上等」
「これでいいのー」
「フロールちゃんも上出来だ」
とほぼ全員がゆっくりとした拙い動きであったが何とかそれなりの形になったようである、タロウは再び大したもんだなーと感心してしまう、初めての縄跳びとなればもう少してこずるかと思っていたのだ、それがあっという間にモノにしている、やはり身体能力が違うのか、それとも飲み込みが速いのか、郷里の子供達と比較してみたいななどと思ってしまった、その脇で、
「ふん、悪くないのう」
とレインが見事にシュタシュタと軽快に飛び跳ねていた、ホヘーと手を止めてレインを見つめてしまう子供達、
「さっすがレインだね、上手いもんだ」
タロウが素直に褒めると、
「むー、負けないー」
とミナがムキになり、即座に足にぶつけてフギャーと悲鳴を上げた、アッハッハと笑いだす子供達、
「こりゃ、レインは一番年上なんだから、上手いに決まっているの、落ち着いてやりなさい」
タロウの注意にミナはムーと不満そうに口を尖らせるも、今度はゆっくりと縄を振り始め、
「それでいい、みんなも上手だからね、だから、しっかり確実にゆっくりと慣れていこう、で、慣れてきたら回数を増やしていこう、急ぐ必要はないぞー」
ハーイと素直な返事が響く、そうして、特にタロウが指導する事も無く、前とびは簡単にクリアしたようである、こうなるととタロウはどうしたもんだかと首を捻ってしまった、次々と課題を出すべきか、連続回数で競わせるか、はたまた持続時間も面白そうだが、それとも大縄跳びに移行しようかと残った縄に視線を落とす、そこへ、
「・・・これがタイイク?」
と勝手口から保護者二人とエルマが顔を出し、不思議そうに首を捻った、
「ん、いらっしゃい」
タロウがニコリと微笑むと、
「ソフィー、ソフィーもやろー」
ミナが叫び、
「おかーさんもー、楽しいよー」
とフロールも叫ぶ、
「先生もー」
と叫んだのはなんとサスキアであった、サスキアはすっかり顔を上気させ、実に軽快に跳び続けている、どうやらサスキアは何事も器用に熟せる娘であったらしい、
「エッ・・・楽しいの?」
さらに不思議そうに首を捻ってしまう大人が三人、取り合えず何をやっているのか気になって顔を出したのであるが、どうせタロウの事だから妙な事をやっているのだろうとの勘繰りは見事に正解はしたようで、しかし、子供達の笑顔と真剣な様子を見るにどうやらまともな事をしているのではないかと考えを改めざるを得ないソフィアとエルマである、
「楽しーよー」
「うん、面白ーい」
ブロースまでもが笑顔であった、先程までは女の中に一人だけかと妙に固い顔つきであったのだ、それがあっという間に解れたらしい、
「面白いんだ・・・」
ソフィアとフェナが顔を見合わせ、エルマはいよいよ首を捻ってしまう、
「ふふん、面白いぞ、っていうかまぁ・・・楽しくなるかな、ほれ、ソフィアやってみるか?」
タロウが自身が使っていた縄を差し出す、
「・・・やるの?」
嫌そうにタロウを見つめるソフィア、
「まぁ・・・何事も経験?」
「そりゃそうだけど・・・」
渋々と縄を受け取ると、
「あっ、つっかけはよした方がいいかな、ちゃんとサンダル履いて」
「えっ・・・もう、めんどくさいわねー」
と言葉とは裏腹にさっさと食堂に戻るソフィア、フェナがどうしようかなとソフィアの背と子供達を見比べ、ここは一緒にやるべきかとソフィアの背を追う、エルマもどうしようかなとキョロキョロと周りを伺うも、
「・・・すいません、私は・・・」
と遠慮したようである、エルマとしても興味はあったが、それ以上に顔のベールが心配になったのである、軽快に跳びはねる事で素肌が露出すると折角慣れた子供達を怖がらせかねない、
「ん、そうだね、じゃ、ゆっくり見てて、寒いから、無理しないでね」
「はい、そうします」
エルマが薄く微笑み勝手口を閉めて邪魔にならないようにとその壁際に立った、そしてソフィアとフェナが回り込んで内庭に入ると、子供達が集まって、やってみてーと囃し立てる、そうして新たに縄を切り出して二人も挑戦するのであるが、そこは流石のソフィアである、元冒険者は伊達ではない、数回跳びはねコツをつかんだようで、レイン顔負けにヒュンヒュンとやり始め、ソフィースゴーイとミナの嬉しそうな歓声が上がり、フフンと余裕の笑みを見せるソフィア、しかしその隣のフェナは今一つリズムにのれないのか跳べても精々二三回で、もうとフロールは呆れ、ブロースはこうだよこうと教え始める始末、しかしフェナは楽しそうであった、子供と一緒に運動する事など初めてであったのだ、そもそも意味のない運動という行為が王国には存在しない、武術訓練等は当然あるが、それはしっかりと意味のある行為で、単純に縄を振り回して跳びはねる行為等、遊びであっても存在していなかったのだ、エルマは全体を俯瞰しつつなるほどこれがタイイクなのかと感心してしまう、タロウ曰く、身体を動かして鍛える事を目的としているらしく、まるで意味の無い行為なのであるが、それ故に安全で他意が無かった、身体を動かす以外の意味を見出せないのである、タイイクの目的を聞いた時には、まさか子供の頃から剣を振り回すのだろうかと訝しく思ったのであるが、而してその内実は見事にエルマの予想を裏切り、そして実に理に適った方法なのだろうなと納得せざるを得なかった、
「ん、ほら、みんなも頑張れー、大人に負けるなー」
タロウがニヤニヤと檄を飛ばすと、それもそうだと子供達も動き出す、どうやらソフィアとフェナの相手が丁度良い小休止となったらしい、負けないとばかりに気合を入れるミナとノールとノーラ、フロールも跳び始め、ブロースも負けるものかと真剣な顔である、サスキアもより軽快により早くと目の色を変えた、
「ふふん、どうです、奥様?」
やれやれと手を止めたソフィアとフェナにタロウはニヤニヤと問いかける、
「・・・悪く無いわね・・・」
息を切らさず答えるソフィア、しかしそれは若干の瘦せ我慢もあった、この程度で息を荒げていては何を言われるか分かったものではなく、
「ハッ・・・ハッ・・・楽しい・・・ですけど・・・難しい・・・です」
こっちは素直に苦しそうにするフェナである、
「そだねー、まぁ、ほら、やってるうちに上手くなるもんだから、じゃ、休んでて、老体に無理させちゃ駄目だからねー」
アッハッハと明るく笑うタロウに、老体だとーと二人の鋭い視線が突き刺さる、
「あっ・・・ほら、それはほら、あれだ、子供達と比較したら?って感じ・・・」
ワタワタと慌てるタロウどうやらこれも軽口であった、いけないすっかりと弛緩していると自制するも時すでに遅く、見事に二人の怒りは収まらないようで、
「やってやろうじゃないのよー」
「そう・・・ですね、子供に負けるわけにはいきません」
ソフィアもフェナも勝気である、別にタロウは焚き付けたつもりはないんだがと焦ってしまった、二人は燃えるような瞳で縄を構え、猛然と振り回し始める、ソフィアは見事にその意の通り華麗に跳びはねるのであるが、フェナは気合が入ったところで上手くなる訳でもなく、すぐにバシッと痛そうな音を立てて手を止めた、
「あー・・・フェナさん、老体は謝るからさ、安全にね・・・初めてやる事でしょ、上手く出来なくて当然だから・・・ね」
「そ・・・のようですね・・・」
フェナはムッとタロウを睨みつけ、しかし、痛い事は痛いし、下手な事は下手である、もっと若ければとフェナは思いつつも、ここは渋々とタロウの忠告に従う事にしたようで、それでも呼吸を整えると再び縄を構えた、子供の手前もある、ここはせめて子供と同じくらいに出来ないと母親の面子に関わってくる、さらにフェナは負けず嫌いであった、実父であるエフモントからもよく注意されてはいたが、一度頭に上った熱い血潮はそう簡単には下りてくれないのである、
「あー・・・まぁ、いっか・・・大人だし」
タロウは好きにさせるかと二人は放っておくこととし、
「じゃ、もっと難しいの、見せるからなー、無理してやらなくていいけど、挑戦してもみてもいいぞー」
と子供達を見渡すと、その視線が集まったのを確認し、後ろとび、交差とび、二重とびと基本的な技を見せつけるのであった。
内庭に揃った子供達にまずはとタロウは自己紹介をさせた、簡単なものであったが、女子達は独特の距離の近さで笑顔になるも、男子一人だけのブロースはどこか寂しそうである、タロウはまぁそういう事もあるかなと特に指摘する事は無く、身体を動かす前に少し運動するぞとラジオ体操を始めた、子供達を等間隔に並べ、俺の真似をして身体を動かしてなと一言置いて腕を振り上げる、ミナ達はこれもオユウギかと目を輝かせるも、どうやら違うらしい、しかし、面白そうだと真似を始め、フロールとブロースも尚不思議そうにしながらも手を動かし始める、一緒に出てきたレインもまた奇妙な事をと何とも渋い顔であったが、取り合えずと動き出したようで
「次はー、手足の運動、脚が大事だぞー」
股を割って腕を振り回し始めるタロウに、子供達はクスクスと笑ってしまうも素直に従ったようで、短い両腕をこれでもかと振り回し短い両脚を曲げ伸ばし実に一生懸命であった、続いて大きく身体を伸ばし、前に後ろに折り曲げ、軽いジャンプを終えて再び股を割る、そしてゆっくりと呼吸を整えた頃には皆その目は真剣なものになっており、
「どうだ、温まったか?」
ニヤリと微笑むタロウに大きく頷く子供達、
「ん、今日は寒いがな、それでも、身体を動かすと温かくなる、暑かったら外套脱いでもいいからなー」
とタロウが促すもやはり外套を脱ぎだす者はいなかった、真面目に身体を動かしたとはいえ、雪が積もる内庭で風も冷たい、日差しも弱く、今冬一番の冷え込みかもしれない日であった、何もこんな日に外に出さなくても良かったかなとタロウは思うも、まぁ、折角の機会である、気も向いた事だしやるだけやってみようと思い立ったしなと自己弁護し、
「では、今日は縄跳びをします」
タロウの宣言に、皆キョトンとしてしまう、ミナとレインも初耳であった、ナワトビとはとその表情にありありと浮かんでいる、
「ふふーん、やってみると楽しいからな、じゃ、準備するぞー」
とタロウは投げ置いた巨大な革袋に向かいゴソリと細い縄を取り出す、荒縄であったが細く頑丈に作られた品で、店主曰く何に使っても上等な品であると自慢げであった、そしてそれはタロウの目的とお眼鏡にも適う適度な品でもあり、故にこうして大量に手元にあるのである、
「じゃ、一人ずつ切っていくからな、こっち来てー」
子供達を集め順番に両手に握らせ長さを調節し、切り渡していく、子供達は何をするんだろうと早速縄を振り回し始め、ブロースが薄く積もった雪に叩き付けるのをフロールがコラッと叱りつける、タロウはおねーさんだなーと微笑みつつ、
「じゃ、みんなでやってみるぞ、最初は見ててな」
自分の縄を用意しこう構えると視線を集めるタロウ、素直にそれに従う子供達、レインも何の意味があるのかと不思議そうにタロウに倣った、
「まずは前とび」
タロウは久しぶりだなーと思い、軽く跳びはね足腰の調子を確認し、ヒュンヒュンと軽快な音を立てて跳び始める、オォッと目を見開く子供達、レインもこれはと驚いた様子で、
「いいかー、こうやって、縄にひっかから無いように高く跳ぶのが大事だぞー、高く跳んで、その間に足の下を潜らせるんだ、腕はあまり動かさない、手首を上手く使う感じだぞー」
タロウはそう注釈を付け加えるも子供達は聞いているのかいないのか次第に目を輝かせ始め、うずうずと縄を持ち直したり、軽くジャンプを始めたりと蠢きだす、
「ん、じゃ、やってみて」
タロウはニヤリと微笑み、してやったりと内心で微笑んだ、タロウが幼少の頃、女児は特に縄跳びで遊んでいたように思う、キャッキャッと楽しそうで、身体を動かす事が苦手であったその頃のタロウは何が面白いんだかと不思議であった、而してこちらの子供達もそうなのであろうなとは見ていたのである、そしてそれは実に正しかったらしい、子供達は早速と縄を構え、大きく振り回す、しかし、やはり初めてではぎこちない上にどうしても足にぶつけてしまう、それも寒空の下、素足にサンダル履きなものだから当たり所が悪いと激痛が走るもので、ノールがイタイーと叫び、ブロースがギャーと大声を上げた、しかし、大したもので泣き出すような事は無く、タロウが不味いかなと手を差し出しそうになるもすぐに縄を構え直す、どうやら王国の子供達は歯や顎の強靭さもそうだが、その根性も一段上のようであった、やがて、
「出来たー、これでいい?これでいい?」
ミナがゆっくりとした動作であったが、確実にピョンピョンと飛び跳ねる、
「おう、いいぞ、最初はゆっくりでいいからな、縄を前に下ろしてピョンと飛び跳ねる、前に進まないように上にだぞ、その場で出来るようにな、手は腰の位置から動かさない、視線は下の方、それがコツってやつだ」
「うん、わかった、楽しいー」
ミナの様子に感化されたのか、他の子供達もより熱心に足元を見つめ、そして、
「こう?」
「おう、上手いぞー」
「出来たー」
「ん、そうだ」
「うー・・・」
「おう、サスキアちゃんも上手だぞー」
「俺はー」
「ブロース君も上等」
「これでいいのー」
「フロールちゃんも上出来だ」
とほぼ全員がゆっくりとした拙い動きであったが何とかそれなりの形になったようである、タロウは再び大したもんだなーと感心してしまう、初めての縄跳びとなればもう少してこずるかと思っていたのだ、それがあっという間にモノにしている、やはり身体能力が違うのか、それとも飲み込みが速いのか、郷里の子供達と比較してみたいななどと思ってしまった、その脇で、
「ふん、悪くないのう」
とレインが見事にシュタシュタと軽快に飛び跳ねていた、ホヘーと手を止めてレインを見つめてしまう子供達、
「さっすがレインだね、上手いもんだ」
タロウが素直に褒めると、
「むー、負けないー」
とミナがムキになり、即座に足にぶつけてフギャーと悲鳴を上げた、アッハッハと笑いだす子供達、
「こりゃ、レインは一番年上なんだから、上手いに決まっているの、落ち着いてやりなさい」
タロウの注意にミナはムーと不満そうに口を尖らせるも、今度はゆっくりと縄を振り始め、
「それでいい、みんなも上手だからね、だから、しっかり確実にゆっくりと慣れていこう、で、慣れてきたら回数を増やしていこう、急ぐ必要はないぞー」
ハーイと素直な返事が響く、そうして、特にタロウが指導する事も無く、前とびは簡単にクリアしたようである、こうなるととタロウはどうしたもんだかと首を捻ってしまった、次々と課題を出すべきか、連続回数で競わせるか、はたまた持続時間も面白そうだが、それとも大縄跳びに移行しようかと残った縄に視線を落とす、そこへ、
「・・・これがタイイク?」
と勝手口から保護者二人とエルマが顔を出し、不思議そうに首を捻った、
「ん、いらっしゃい」
タロウがニコリと微笑むと、
「ソフィー、ソフィーもやろー」
ミナが叫び、
「おかーさんもー、楽しいよー」
とフロールも叫ぶ、
「先生もー」
と叫んだのはなんとサスキアであった、サスキアはすっかり顔を上気させ、実に軽快に跳び続けている、どうやらサスキアは何事も器用に熟せる娘であったらしい、
「エッ・・・楽しいの?」
さらに不思議そうに首を捻ってしまう大人が三人、取り合えず何をやっているのか気になって顔を出したのであるが、どうせタロウの事だから妙な事をやっているのだろうとの勘繰りは見事に正解はしたようで、しかし、子供達の笑顔と真剣な様子を見るにどうやらまともな事をしているのではないかと考えを改めざるを得ないソフィアとエルマである、
「楽しーよー」
「うん、面白ーい」
ブロースまでもが笑顔であった、先程までは女の中に一人だけかと妙に固い顔つきであったのだ、それがあっという間に解れたらしい、
「面白いんだ・・・」
ソフィアとフェナが顔を見合わせ、エルマはいよいよ首を捻ってしまう、
「ふふん、面白いぞ、っていうかまぁ・・・楽しくなるかな、ほれ、ソフィアやってみるか?」
タロウが自身が使っていた縄を差し出す、
「・・・やるの?」
嫌そうにタロウを見つめるソフィア、
「まぁ・・・何事も経験?」
「そりゃそうだけど・・・」
渋々と縄を受け取ると、
「あっ、つっかけはよした方がいいかな、ちゃんとサンダル履いて」
「えっ・・・もう、めんどくさいわねー」
と言葉とは裏腹にさっさと食堂に戻るソフィア、フェナがどうしようかなとソフィアの背と子供達を見比べ、ここは一緒にやるべきかとソフィアの背を追う、エルマもどうしようかなとキョロキョロと周りを伺うも、
「・・・すいません、私は・・・」
と遠慮したようである、エルマとしても興味はあったが、それ以上に顔のベールが心配になったのである、軽快に跳びはねる事で素肌が露出すると折角慣れた子供達を怖がらせかねない、
「ん、そうだね、じゃ、ゆっくり見てて、寒いから、無理しないでね」
「はい、そうします」
エルマが薄く微笑み勝手口を閉めて邪魔にならないようにとその壁際に立った、そしてソフィアとフェナが回り込んで内庭に入ると、子供達が集まって、やってみてーと囃し立てる、そうして新たに縄を切り出して二人も挑戦するのであるが、そこは流石のソフィアである、元冒険者は伊達ではない、数回跳びはねコツをつかんだようで、レイン顔負けにヒュンヒュンとやり始め、ソフィースゴーイとミナの嬉しそうな歓声が上がり、フフンと余裕の笑みを見せるソフィア、しかしその隣のフェナは今一つリズムにのれないのか跳べても精々二三回で、もうとフロールは呆れ、ブロースはこうだよこうと教え始める始末、しかしフェナは楽しそうであった、子供と一緒に運動する事など初めてであったのだ、そもそも意味のない運動という行為が王国には存在しない、武術訓練等は当然あるが、それはしっかりと意味のある行為で、単純に縄を振り回して跳びはねる行為等、遊びであっても存在していなかったのだ、エルマは全体を俯瞰しつつなるほどこれがタイイクなのかと感心してしまう、タロウ曰く、身体を動かして鍛える事を目的としているらしく、まるで意味の無い行為なのであるが、それ故に安全で他意が無かった、身体を動かす以外の意味を見出せないのである、タイイクの目的を聞いた時には、まさか子供の頃から剣を振り回すのだろうかと訝しく思ったのであるが、而してその内実は見事にエルマの予想を裏切り、そして実に理に適った方法なのだろうなと納得せざるを得なかった、
「ん、ほら、みんなも頑張れー、大人に負けるなー」
タロウがニヤニヤと檄を飛ばすと、それもそうだと子供達も動き出す、どうやらソフィアとフェナの相手が丁度良い小休止となったらしい、負けないとばかりに気合を入れるミナとノールとノーラ、フロールも跳び始め、ブロースも負けるものかと真剣な顔である、サスキアもより軽快により早くと目の色を変えた、
「ふふん、どうです、奥様?」
やれやれと手を止めたソフィアとフェナにタロウはニヤニヤと問いかける、
「・・・悪く無いわね・・・」
息を切らさず答えるソフィア、しかしそれは若干の瘦せ我慢もあった、この程度で息を荒げていては何を言われるか分かったものではなく、
「ハッ・・・ハッ・・・楽しい・・・ですけど・・・難しい・・・です」
こっちは素直に苦しそうにするフェナである、
「そだねー、まぁ、ほら、やってるうちに上手くなるもんだから、じゃ、休んでて、老体に無理させちゃ駄目だからねー」
アッハッハと明るく笑うタロウに、老体だとーと二人の鋭い視線が突き刺さる、
「あっ・・・ほら、それはほら、あれだ、子供達と比較したら?って感じ・・・」
ワタワタと慌てるタロウどうやらこれも軽口であった、いけないすっかりと弛緩していると自制するも時すでに遅く、見事に二人の怒りは収まらないようで、
「やってやろうじゃないのよー」
「そう・・・ですね、子供に負けるわけにはいきません」
ソフィアもフェナも勝気である、別にタロウは焚き付けたつもりはないんだがと焦ってしまった、二人は燃えるような瞳で縄を構え、猛然と振り回し始める、ソフィアは見事にその意の通り華麗に跳びはねるのであるが、フェナは気合が入ったところで上手くなる訳でもなく、すぐにバシッと痛そうな音を立てて手を止めた、
「あー・・・フェナさん、老体は謝るからさ、安全にね・・・初めてやる事でしょ、上手く出来なくて当然だから・・・ね」
「そ・・・のようですね・・・」
フェナはムッとタロウを睨みつけ、しかし、痛い事は痛いし、下手な事は下手である、もっと若ければとフェナは思いつつも、ここは渋々とタロウの忠告に従う事にしたようで、それでも呼吸を整えると再び縄を構えた、子供の手前もある、ここはせめて子供と同じくらいに出来ないと母親の面子に関わってくる、さらにフェナは負けず嫌いであった、実父であるエフモントからもよく注意されてはいたが、一度頭に上った熱い血潮はそう簡単には下りてくれないのである、
「あー・・・まぁ、いっか・・・大人だし」
タロウは好きにさせるかと二人は放っておくこととし、
「じゃ、もっと難しいの、見せるからなー、無理してやらなくていいけど、挑戦してもみてもいいぞー」
と子供達を見渡すと、その視線が集まったのを確認し、後ろとび、交差とび、二重とびと基本的な技を見せつけるのであった。
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「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
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