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本編
74話 東雲の医療魔法 その13
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「まぁ、ここだけの話しにして下さい」
タロウはそう前置いてイフナースを見つめ、イフナースは静かにコクリと頷いた、内庭からミナとレアン、マルヘリートの楽しそうな嬌声が響いてくる、どうやらまだ遊んでいるらしい、シャボン玉程度で何がそんなに楽しいのだろうかとタロウは思うも、自分も子供の時は時を忘れて遊んだもので、どうやらシャボン玉には特別な魅力があるのであろう、
「モニケンダムは金欠らしいです」
タロウがそう続けると、あっこれは駄目なやつだとユーリは即座に勘付いて、茶を一気に煽ると、失礼しますと一言置いて静かに立ち上がり階下へ向かった、イフナースが何とはなしにその背を見送り、
「確かか?」
とボニファースに良く似たじっとりとした視線をタロウに向ける、
「はい、ついでにヘルデルもですね、戦費の備蓄は半年ほどだそうで、それは押さえてますでしょう?」
続けてタロウが確認すると、
「・・・らしいな、ルーツからもそう聞いている」
イフナースが少しも考える事無くそう答えた、
「ですか・・・であれば、番頭さんは正直に俺を頼ったらしいですね」
タロウがさてどうしたものかと腕を組む、
「ふん、あれもなんだ、お前さんには随分と素直なんだな」
「らしいですね、まぁ・・・昔馴染みですし・・・ソフィアとユーリが上手い事取り入っておりますし・・・」
「それだけではないだろう、まぁ、それはいい、こちらとしても嬉しい所なのだが・・・で、どう答えた?」
「まぁ・・・取り合えず阿漕な手、悪辣な手、正当な手、三つ、四つかな?お話しはしましたが」
「何だそれは?」
「どれですか?」
「その三つ四つの四つだ」
「全部?」
「当然」
「・・・それはまぁ・・・後程って事で」
「そう言うな、気になるだろ」
「気にしてて下さい」
「・・・つまらん奴だ」
「恐らく、そのうちの幾つか・・・近いうちに形になると思います、で、俺からの相談事としましてね、そのうちの正当な一つ、こちらを先にお耳に入れておきたいと思いまして」
「・・・聞こうか」
イフナースはスッと背筋を伸ばし座り直す、クロノスが王城に向かった後、しばし三人で談笑したのであるが、そこでイフナースが今朝のカラミッドとレイナウトに呼び出されたのは何であったのだと率直にタロウに問い質した、タロウはさてどうしたものかと逡巡するも、まぁ自分も口にした根回しが必要な部分もあり、恐らくであるがカラミッドらはその方策を採用するであろうと予想している、故にここはイフナース経由で王家に話しがいけば早く、また、その方策にはイフナースも大きく関与する事が想定される、今回の戦争がタロウとボニファースが思う所で落ち着く事になればであったが、
「はい、まぁ・・・簡単ですよ、荒野の大岩をね、本格的に開発して、そこから出る鉱物をね、王家か王国かに買い取ってもらうってだけです」
「・・・」
イフナースはジッとタロウを見つめ、その言葉に嘘は無いなと確信すると、
「なるほど、まぁ、確かにな、あれを使わない手は無い、金欠となればなお、あの金塊は垂涎の的だろうな」
「ですね、分かりやすいですし、すぐに現金になる、それに荒野の開発はどのような結果になろうとやっておいて損はないです、できるだけ迅速に・・・ですね」
「だな・・・で、そうなると・・・あれか、この話しを俺にしたって事は」
タロウはニコリと微笑み、
「話しが早くて助かります、陛下のお耳にも入れておいて下さい、いずれ何らかの手段でもってその意思がそちらに伝わるかと、早ければ明日の会議・・・もしくはヘルデル経由になるかもしれませんがね、どちらにしても金塊や銀塊、宝石類を現金に変えるとなれば正当な手続きが必要でしょう、流石の先代公爵様でもね、そこまで大きな裏の組織を持っている訳ではないでしょうし、このような状況で隠し事があっては要らぬ不和を呼びます、そのようにも進言したつもりなんですが・・・まぁ、あくまで正当な手段ですね」
「確かにな・・・うん、では、今日にも報告は入れておく、他にはあるか?」
「・・・特には、あっ、どうしようかな、一応他の策も話し程度には説明致しましょうか、まだ時間がありますし」
恐らくまだ正午を回った頃合いであった、下の準備を口実に逃げ出す事は可能であったが、クロノスと一緒ならいざ知らず、イフナースを一人にして放置するのも気が引ける、ただそれだけの理由で方針を変換し口が軽くなったタロウであった、
「頼む、面白そうだ」
ニヤリと微笑むイフナースに、ではとタロウは頭をボリボリと掻きむしり、
「まずは悪辣な手なのですが」
と債権に関する事から始まり、宝くじの件、それと魔法石に関してと、カラミッドとレイナウトに提案した内容をそのまま口にした、イフナースはフムフムと熱心に耳を傾ける、その様子は確かにボニファースの息子だなと思われる程にボニファースとよく似ていた、二人共に集中すると腕を組み、首を傾げる癖がある、そして、
「面白いな、うむ、面白い」
とイフナースは椅子に背をもたせ掛け天井を仰いだ、
「御理解頂いて嬉しいですよ」
「そうか?」
「はい、特に債券についてはね、借金とどう違うかと問われましてね、俺も説明に窮しました」
「確かにな、借金と変わらんと言えば変わらんし・・・しかし、あれだな、債券とは金を増やす仕組みと言ったが、金を倍にするって意味あいもあるのではないか?」
「といいますと?」
「うん、説明が難しいが、まぁ、金貨百枚があるとして、それと同額の債券を発行するとする、で債券で金貨を買い取る、するとその債券が有効となり、紙一枚が金貨百枚の価値となる、でそれを売買する事も可能となれば、つまり金貨百枚が二つ存在する事になる、現金と債券と・・・倍になっていると思うが、間違っているか?」
「フフッ、間違ってはいないですね、その通りです」
タロウはニヤーと微笑んでしまった、イフナースも頭の回転が速い、どうやらあっという間に債権の運用までをも想像しているらしかった、
「しかし、債券保有者はいつでもその債券を現金化可能となれば、そうした瞬間に、金貨百枚はただの金貨百枚に戻ってしまう、その債権は無効になるのだろう?まぁ、発行者の元に戻ればになるのか・・・しかし、それだと・・・王国内の経済を混乱させるものにならないか?いくらでも金を増やせることになる・・・」
「そうですね、なので、債券を乱発しない事が重要となります、現金と同じで制御が大事・・・それと売り先です」
「売り先?」
「はい、俺が考えるに・・・債券とは確かに借金なのですが、これはね、王国内でのみ有効とすれば厳密には借金にならんのですよ」
「待て、意味が分からん」
「簡単ですよ、身内に金を借りるか、他者に金を借りるかの違いでしてね、仮の話になりますが、一つの平民の家庭内で、母親が父親に金を借りてそれで新しく・・・そうですね、鍋を買ったとします」
「随分と庶民的になったな」
「まぁ、分かりやすくですよ、するとそれは借金して買った事になりますが、結局その家の資産である鍋が増えました、銀貨は勿論減ってますので、当然ですね、父親に借りた銀貨一枚が、その家の資産となる銀貨一枚の鍋になったのです、果たしてこれはその小さな家の中で何者かに金を借りた事になりますでしょうか?」
「ん?・・・」
とイフナースは首を傾げ、
「・・・それは借金をして買ったとは言わんのではないか?資産としては流動していない・・・」
と静かに呟いた、
「はい、私もそう思います、ですがこれが、隣りの人から金を借りたとなれば」
「それは明確な借金だな、返済する必要がある」
「そういう事です、何故ならば銀貨一枚分の借りが厳然と存在して、借りた家には銀貨一枚分の資産が増えている」
「それがどう・・・あっ、国がその家だというのか?」
ハッと目を見開くイフナース、
「はい、その債権もね、これが都市国家とか、それこそ帝国から借りて来たなら明確な借金です、払えなくなったら大変に困ります、ですが、これが王国内であれば借金と呼ぶには少し状況が異なるのです、何故なら、債券は目的を持って決まった金額を集める為に発行するものでしてね、それはつまりそのままその金額が王国内で消費される事になります、するとどうでしょう、広い目で王国全体を見れば、お金が流動しただけで、生活がちょっと豊かになりました、違います?」
「・・・いや、確かにその通りだが・・・それでもその利息・・・ではない配当か、それは支払う義務がある」
「当然です、ですが、目的があって集めたお金です、当然利益が見込まれる、その利益の内で支払えれば、残りの利益は国の物です、まぁ・・・そう簡単にはね、行かないものですし、規模が大きくなればなるほどに利益を出す迄に期間を要する場合がありますが、まぁ、そこはほら、ちゃんと税金という定期収入がありますから、配当に窮する程に債権を発行しなければ良いだけです、故に国や自治体が展開する限り金を活かす方策としては上等な部類ですよ」
「それだ、税金を上げれば良い、簡単だろ、特にこの街は安すぎるぞ」
「ですね、私も最初そう提案しました」
「だろ?」
「はい、ですが領主様も頑なでしてね、それは絶対にやりたく無いと」
「カラミッドがか?」
「はい、領民にもそう宣告したとの事でね、まぁ、その気持ちも分かります、殿下もこの街はお好きでしょ?」
「・・・まぁな、地方都市にしては良くやっていると思うぞ」
「ですよね、その良くやっているというのがどこにあるのかと言えば、街の人達の笑顔だったり、活気だったり、ではないですか?」
「・・・確かにな、フフッ、泣いている子供がいてもな、何故か安心して見ていられるんだよなこの街は、王都で泣いているガキがいようものなら、大人でも無視した挙句に近寄らないものだが・・・すぐに誰彼が集まってくる、あれは良い光景だった・・・」
ライニールは遠い目をして木窓を見つめてしまう、それはこちらに来た頃、体力づくりと街中を散策していた時に見た光景で、そのあまりの微笑ましさに護衛の近衛とともにポカンと見つめてしまったほどであった、
「そんな事がありましたか・・・」
「あぁ、あれでこの街はどこか違うなと感じたが、お前の言う活気か、優しさか、あれだな、街なのに田舎のような人当たりだと、一緒にいた近衛も驚いていたよ、そういうものかな?」
「そういうものですね、なので、それこそが領主様、クレオノート伯爵家が代々積み重ねてきた治世の結晶と言えましょう、無論、様々な要因で、特に今回はね、見事に矢面に立ってしまいましたが、それかて別にね、領主様が引き入れた問題では無いですから、地政学的に仕方の無い事」
「チセイガク?」
「はい、土地の配置とか山岳、海、その他の土地に由来する事象を軍事的及び経済的に分析した学問です」
「そのようなものがあるのか・・・」
「えぇ、俺の田舎ではありますね、こっちではまだ見ていないかな・・・」
「詳しく教えろ」
「難しいですよ、地図もまともに無いですからこの国は」
「お前が作った地図があるだろ」
「あれはあくまで、極秘です、陛下ともそう取り決めたでしょう」
「そうだがさ」
「まぁ、そんなこんなで、税金はね、上げられないのですよ、俺としてもこの街に関してはそれでいいと思います、こうして王国もヘルデルからも軍が来ています、その双方から重要視されているのですからね、領主の一番の義務である防衛戦力についてはそちらを頼るとする領主様の判断は正しい事になります」
「・・・それはまぁそうだろうがさ・・・」
「故に陛下も・・・いや、これは陛下からお聞き下さい、陛下も色々と悩まれている様子でした」
「・・・親父はそうなんだよ、昔からな・・・爺さんもそうだったがな」
「でしょうね、となると殿下も悩まれる事になるでしょう」
「・・・それを言うな、まだ決定ではない」
「そうは言ってもですね」
「分かっている、クソ義兄様が逃げたからな・・・兄貴が生きていれば押し付けたものを・・・まったく・・・」
イフナースはフンと不愉快そうに鼻を鳴らし、
「最近思うがな、王になりたい奴は王の意味を知らんのだろうな、その重圧を知らんから気軽に言えるんだ・・・」
「そうかもしれませんね」
タロウがニコリと微笑む、そこへ、
「戻りました」
とアフラが静かに階段を下りて来た、普段ギシギシとうるさい階段を無音で下りてくる、タロウはエッとその妙技に気付いて小さく驚いた、
「おう、お疲れ」
話しはここまでだとばかりにイフナースは茶に手を伸ばして振り返る、
「すいません、殿下、殿下もこちらへいらっしゃるようにとの、パトリシア様のお言いつけです」
ニコリと微笑むアフラに、ハッ?とイフナースは頓狂な声を上げてしまい、
「待て、何故そうなる?」
「はい、殿下がいらっしゃっている事を話したら、是非来るようにとの御下命でございます」
「いや、違うだろ、俺はだって母様達の命令でだな」
「それ以上の大問題である、とパトリシア様は仰せです」
「大問題?」
「はい、大問題です」
ニコリとアフラは微笑み、タロウはまぁそういう事ならと、
「じゃ、明後日か後日に来ればいいですよ、予定だとあと二回か三回は同じ手術をやる予定ですから」
「ハッ?いや、それは聞いているが、今日のが重要なのではないのか?」
「重要は重要ですけどね、今日はほら、初めての手技になるので、次回からの方がより洗練されたものになると思いますよ」
タロウがニヤリと答える、その笑みにあっこいつはあっち側だと瞬時に気付くイフナース、
「クロノス様もいらっしゃっておりますから、それはそちらに任せるようにと」
アフラの追撃にイフナースはさらにエッと言葉を無くし、
「それもそうですね、では、どうするのかな?みんな揃ってからお邪魔する感じ?」
「はい、そのようにと仰せつかっております、私もそちらに同席致します」
「あら、じゃ、宜しく、俺はこっちに集中するよ」
「はい、そのように願います」
ニコリと微笑むアフラとタロウ、これほどまでに振り回される次期王がいるものなのかと頬を引きつらせるイフナースであった。
タロウはそう前置いてイフナースを見つめ、イフナースは静かにコクリと頷いた、内庭からミナとレアン、マルヘリートの楽しそうな嬌声が響いてくる、どうやらまだ遊んでいるらしい、シャボン玉程度で何がそんなに楽しいのだろうかとタロウは思うも、自分も子供の時は時を忘れて遊んだもので、どうやらシャボン玉には特別な魅力があるのであろう、
「モニケンダムは金欠らしいです」
タロウがそう続けると、あっこれは駄目なやつだとユーリは即座に勘付いて、茶を一気に煽ると、失礼しますと一言置いて静かに立ち上がり階下へ向かった、イフナースが何とはなしにその背を見送り、
「確かか?」
とボニファースに良く似たじっとりとした視線をタロウに向ける、
「はい、ついでにヘルデルもですね、戦費の備蓄は半年ほどだそうで、それは押さえてますでしょう?」
続けてタロウが確認すると、
「・・・らしいな、ルーツからもそう聞いている」
イフナースが少しも考える事無くそう答えた、
「ですか・・・であれば、番頭さんは正直に俺を頼ったらしいですね」
タロウがさてどうしたものかと腕を組む、
「ふん、あれもなんだ、お前さんには随分と素直なんだな」
「らしいですね、まぁ・・・昔馴染みですし・・・ソフィアとユーリが上手い事取り入っておりますし・・・」
「それだけではないだろう、まぁ、それはいい、こちらとしても嬉しい所なのだが・・・で、どう答えた?」
「まぁ・・・取り合えず阿漕な手、悪辣な手、正当な手、三つ、四つかな?お話しはしましたが」
「何だそれは?」
「どれですか?」
「その三つ四つの四つだ」
「全部?」
「当然」
「・・・それはまぁ・・・後程って事で」
「そう言うな、気になるだろ」
「気にしてて下さい」
「・・・つまらん奴だ」
「恐らく、そのうちの幾つか・・・近いうちに形になると思います、で、俺からの相談事としましてね、そのうちの正当な一つ、こちらを先にお耳に入れておきたいと思いまして」
「・・・聞こうか」
イフナースはスッと背筋を伸ばし座り直す、クロノスが王城に向かった後、しばし三人で談笑したのであるが、そこでイフナースが今朝のカラミッドとレイナウトに呼び出されたのは何であったのだと率直にタロウに問い質した、タロウはさてどうしたものかと逡巡するも、まぁ自分も口にした根回しが必要な部分もあり、恐らくであるがカラミッドらはその方策を採用するであろうと予想している、故にここはイフナース経由で王家に話しがいけば早く、また、その方策にはイフナースも大きく関与する事が想定される、今回の戦争がタロウとボニファースが思う所で落ち着く事になればであったが、
「はい、まぁ・・・簡単ですよ、荒野の大岩をね、本格的に開発して、そこから出る鉱物をね、王家か王国かに買い取ってもらうってだけです」
「・・・」
イフナースはジッとタロウを見つめ、その言葉に嘘は無いなと確信すると、
「なるほど、まぁ、確かにな、あれを使わない手は無い、金欠となればなお、あの金塊は垂涎の的だろうな」
「ですね、分かりやすいですし、すぐに現金になる、それに荒野の開発はどのような結果になろうとやっておいて損はないです、できるだけ迅速に・・・ですね」
「だな・・・で、そうなると・・・あれか、この話しを俺にしたって事は」
タロウはニコリと微笑み、
「話しが早くて助かります、陛下のお耳にも入れておいて下さい、いずれ何らかの手段でもってその意思がそちらに伝わるかと、早ければ明日の会議・・・もしくはヘルデル経由になるかもしれませんがね、どちらにしても金塊や銀塊、宝石類を現金に変えるとなれば正当な手続きが必要でしょう、流石の先代公爵様でもね、そこまで大きな裏の組織を持っている訳ではないでしょうし、このような状況で隠し事があっては要らぬ不和を呼びます、そのようにも進言したつもりなんですが・・・まぁ、あくまで正当な手段ですね」
「確かにな・・・うん、では、今日にも報告は入れておく、他にはあるか?」
「・・・特には、あっ、どうしようかな、一応他の策も話し程度には説明致しましょうか、まだ時間がありますし」
恐らくまだ正午を回った頃合いであった、下の準備を口実に逃げ出す事は可能であったが、クロノスと一緒ならいざ知らず、イフナースを一人にして放置するのも気が引ける、ただそれだけの理由で方針を変換し口が軽くなったタロウであった、
「頼む、面白そうだ」
ニヤリと微笑むイフナースに、ではとタロウは頭をボリボリと掻きむしり、
「まずは悪辣な手なのですが」
と債権に関する事から始まり、宝くじの件、それと魔法石に関してと、カラミッドとレイナウトに提案した内容をそのまま口にした、イフナースはフムフムと熱心に耳を傾ける、その様子は確かにボニファースの息子だなと思われる程にボニファースとよく似ていた、二人共に集中すると腕を組み、首を傾げる癖がある、そして、
「面白いな、うむ、面白い」
とイフナースは椅子に背をもたせ掛け天井を仰いだ、
「御理解頂いて嬉しいですよ」
「そうか?」
「はい、特に債券についてはね、借金とどう違うかと問われましてね、俺も説明に窮しました」
「確かにな、借金と変わらんと言えば変わらんし・・・しかし、あれだな、債券とは金を増やす仕組みと言ったが、金を倍にするって意味あいもあるのではないか?」
「といいますと?」
「うん、説明が難しいが、まぁ、金貨百枚があるとして、それと同額の債券を発行するとする、で債券で金貨を買い取る、するとその債券が有効となり、紙一枚が金貨百枚の価値となる、でそれを売買する事も可能となれば、つまり金貨百枚が二つ存在する事になる、現金と債券と・・・倍になっていると思うが、間違っているか?」
「フフッ、間違ってはいないですね、その通りです」
タロウはニヤーと微笑んでしまった、イフナースも頭の回転が速い、どうやらあっという間に債権の運用までをも想像しているらしかった、
「しかし、債券保有者はいつでもその債券を現金化可能となれば、そうした瞬間に、金貨百枚はただの金貨百枚に戻ってしまう、その債権は無効になるのだろう?まぁ、発行者の元に戻ればになるのか・・・しかし、それだと・・・王国内の経済を混乱させるものにならないか?いくらでも金を増やせることになる・・・」
「そうですね、なので、債券を乱発しない事が重要となります、現金と同じで制御が大事・・・それと売り先です」
「売り先?」
「はい、俺が考えるに・・・債券とは確かに借金なのですが、これはね、王国内でのみ有効とすれば厳密には借金にならんのですよ」
「待て、意味が分からん」
「簡単ですよ、身内に金を借りるか、他者に金を借りるかの違いでしてね、仮の話になりますが、一つの平民の家庭内で、母親が父親に金を借りてそれで新しく・・・そうですね、鍋を買ったとします」
「随分と庶民的になったな」
「まぁ、分かりやすくですよ、するとそれは借金して買った事になりますが、結局その家の資産である鍋が増えました、銀貨は勿論減ってますので、当然ですね、父親に借りた銀貨一枚が、その家の資産となる銀貨一枚の鍋になったのです、果たしてこれはその小さな家の中で何者かに金を借りた事になりますでしょうか?」
「ん?・・・」
とイフナースは首を傾げ、
「・・・それは借金をして買ったとは言わんのではないか?資産としては流動していない・・・」
と静かに呟いた、
「はい、私もそう思います、ですがこれが、隣りの人から金を借りたとなれば」
「それは明確な借金だな、返済する必要がある」
「そういう事です、何故ならば銀貨一枚分の借りが厳然と存在して、借りた家には銀貨一枚分の資産が増えている」
「それがどう・・・あっ、国がその家だというのか?」
ハッと目を見開くイフナース、
「はい、その債権もね、これが都市国家とか、それこそ帝国から借りて来たなら明確な借金です、払えなくなったら大変に困ります、ですが、これが王国内であれば借金と呼ぶには少し状況が異なるのです、何故なら、債券は目的を持って決まった金額を集める為に発行するものでしてね、それはつまりそのままその金額が王国内で消費される事になります、するとどうでしょう、広い目で王国全体を見れば、お金が流動しただけで、生活がちょっと豊かになりました、違います?」
「・・・いや、確かにその通りだが・・・それでもその利息・・・ではない配当か、それは支払う義務がある」
「当然です、ですが、目的があって集めたお金です、当然利益が見込まれる、その利益の内で支払えれば、残りの利益は国の物です、まぁ・・・そう簡単にはね、行かないものですし、規模が大きくなればなるほどに利益を出す迄に期間を要する場合がありますが、まぁ、そこはほら、ちゃんと税金という定期収入がありますから、配当に窮する程に債権を発行しなければ良いだけです、故に国や自治体が展開する限り金を活かす方策としては上等な部類ですよ」
「それだ、税金を上げれば良い、簡単だろ、特にこの街は安すぎるぞ」
「ですね、私も最初そう提案しました」
「だろ?」
「はい、ですが領主様も頑なでしてね、それは絶対にやりたく無いと」
「カラミッドがか?」
「はい、領民にもそう宣告したとの事でね、まぁ、その気持ちも分かります、殿下もこの街はお好きでしょ?」
「・・・まぁな、地方都市にしては良くやっていると思うぞ」
「ですよね、その良くやっているというのがどこにあるのかと言えば、街の人達の笑顔だったり、活気だったり、ではないですか?」
「・・・確かにな、フフッ、泣いている子供がいてもな、何故か安心して見ていられるんだよなこの街は、王都で泣いているガキがいようものなら、大人でも無視した挙句に近寄らないものだが・・・すぐに誰彼が集まってくる、あれは良い光景だった・・・」
ライニールは遠い目をして木窓を見つめてしまう、それはこちらに来た頃、体力づくりと街中を散策していた時に見た光景で、そのあまりの微笑ましさに護衛の近衛とともにポカンと見つめてしまったほどであった、
「そんな事がありましたか・・・」
「あぁ、あれでこの街はどこか違うなと感じたが、お前の言う活気か、優しさか、あれだな、街なのに田舎のような人当たりだと、一緒にいた近衛も驚いていたよ、そういうものかな?」
「そういうものですね、なので、それこそが領主様、クレオノート伯爵家が代々積み重ねてきた治世の結晶と言えましょう、無論、様々な要因で、特に今回はね、見事に矢面に立ってしまいましたが、それかて別にね、領主様が引き入れた問題では無いですから、地政学的に仕方の無い事」
「チセイガク?」
「はい、土地の配置とか山岳、海、その他の土地に由来する事象を軍事的及び経済的に分析した学問です」
「そのようなものがあるのか・・・」
「えぇ、俺の田舎ではありますね、こっちではまだ見ていないかな・・・」
「詳しく教えろ」
「難しいですよ、地図もまともに無いですからこの国は」
「お前が作った地図があるだろ」
「あれはあくまで、極秘です、陛下ともそう取り決めたでしょう」
「そうだがさ」
「まぁ、そんなこんなで、税金はね、上げられないのですよ、俺としてもこの街に関してはそれでいいと思います、こうして王国もヘルデルからも軍が来ています、その双方から重要視されているのですからね、領主の一番の義務である防衛戦力についてはそちらを頼るとする領主様の判断は正しい事になります」
「・・・それはまぁそうだろうがさ・・・」
「故に陛下も・・・いや、これは陛下からお聞き下さい、陛下も色々と悩まれている様子でした」
「・・・親父はそうなんだよ、昔からな・・・爺さんもそうだったがな」
「でしょうね、となると殿下も悩まれる事になるでしょう」
「・・・それを言うな、まだ決定ではない」
「そうは言ってもですね」
「分かっている、クソ義兄様が逃げたからな・・・兄貴が生きていれば押し付けたものを・・・まったく・・・」
イフナースはフンと不愉快そうに鼻を鳴らし、
「最近思うがな、王になりたい奴は王の意味を知らんのだろうな、その重圧を知らんから気軽に言えるんだ・・・」
「そうかもしれませんね」
タロウがニコリと微笑む、そこへ、
「戻りました」
とアフラが静かに階段を下りて来た、普段ギシギシとうるさい階段を無音で下りてくる、タロウはエッとその妙技に気付いて小さく驚いた、
「おう、お疲れ」
話しはここまでだとばかりにイフナースは茶に手を伸ばして振り返る、
「すいません、殿下、殿下もこちらへいらっしゃるようにとの、パトリシア様のお言いつけです」
ニコリと微笑むアフラに、ハッ?とイフナースは頓狂な声を上げてしまい、
「待て、何故そうなる?」
「はい、殿下がいらっしゃっている事を話したら、是非来るようにとの御下命でございます」
「いや、違うだろ、俺はだって母様達の命令でだな」
「それ以上の大問題である、とパトリシア様は仰せです」
「大問題?」
「はい、大問題です」
ニコリとアフラは微笑み、タロウはまぁそういう事ならと、
「じゃ、明後日か後日に来ればいいですよ、予定だとあと二回か三回は同じ手術をやる予定ですから」
「ハッ?いや、それは聞いているが、今日のが重要なのではないのか?」
「重要は重要ですけどね、今日はほら、初めての手技になるので、次回からの方がより洗練されたものになると思いますよ」
タロウがニヤリと答える、その笑みにあっこいつはあっち側だと瞬時に気付くイフナース、
「クロノス様もいらっしゃっておりますから、それはそちらに任せるようにと」
アフラの追撃にイフナースはさらにエッと言葉を無くし、
「それもそうですね、では、どうするのかな?みんな揃ってからお邪魔する感じ?」
「はい、そのようにと仰せつかっております、私もそちらに同席致します」
「あら、じゃ、宜しく、俺はこっちに集中するよ」
「はい、そのように願います」
ニコリと微笑むアフラとタロウ、これほどまでに振り回される次期王がいるものなのかと頬を引きつらせるイフナースであった。
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救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。
「ほら、食え」
「……いいの?」
焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。
行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
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※若干の百合風味を含みます。
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