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本編
74話 東雲の医療魔法 その24
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それから正午になろうかという頃合い、ユーリがダラダラと階段を下りて食堂に入ると、
「サビナいるー」
開口一番実にダルそうに声を掛ける、
「ハイ」
と聞き慣れた声が聞こえた瞬間、目の前を何かがすぅーっと飛び去り廊下の奥に消え、ん?と振り返る間もなく、
「やったー、すげー飛んだー」
ブロースが大声を上げてユーリの足元を駆け抜け、
「むー、ミナの方が飛んだー」
ミナの大声が食堂を震わせた、
「そうねー、ミナちゃんの方が飛んでたかしら?」
「でしょー」
「でも、それはタロウさんが作ったやつでしょ」
「そうなのー」
「じゃ、ミナちゃんもちゃんと作んなきゃ駄目よ」
「えー、タロウがくれるっていったー」
「それは分かります、でも、ブロース君のはちゃんと自分で折ったやつですからね」
「ブー、エルマ先生キビシー」
「そうなんですよ、先生ですから」
ニコリと微笑むエルマとニコニコとそのやり取りを微笑みながら見守るマルルース、エッとユーリは食堂内を見渡し、マルルースの姿を見つけて、アッと固まってしまった、しかし、
「あっ、ユーリ先生どいてー」
「ユーリ先生邪魔ー」
「ホントだ、所長邪魔ですよー」
「どいてー」
「どいてー」
ノールとノーラが廊下に向けて何やら手にして構えており、その後ろのカトカが同じように似たようななにやらを手にしている、
「じゃま?」
「邪魔ですー」
「邪魔なのー」
「邪魔ー」
口々に邪魔邪魔言われるとやはり不快に思うもので、ムッとユーリが顔を顰めた瞬間、ボンと尻に衝撃が走り、何かと思って振り返ればサスキアである、サスキアは手にした何やらを見下ろして廊下から戻って来たところのようで、ユーリに気付きもしなかったらしい、
「あっ、ゴメン」
思わず謝るユーリと、そのまま黙して食堂に入るサスキア、サスキアはそのままテーブルに向かい手にした何やらを広げ始めたらしく、
「えっと・・・」
ここは叱るべきなのかな?教育者としては、と首を傾げてしまうユーリ、しかし、
「ショチョー、どいて下さい、ぶつけますよー」
カトカが業を煮やして大声となり、どいてどいてとノールとノーラの大合唱で、ユーリはあっゴメンと素直に二三歩後退った、すると、
「それー」
「いけー」
「どうだー」
カトカとノールとノーラの大声が響き、ユーリの目の前を三つの物体がスーっと音も無く飛び去り、エッとやっと理解して目を丸くするユーリ、廊下の奥にいたブロースが、
「これ、これが一番遠くに飛んだー」
と大声を上げ、どれだーと廊下に駆け込むカトカと双子、その先で四人はキャッキャツと楽しそうで、
「えっと・・・」
呆気にとられたままポカンとする他ないユーリである、
「あー、所長、所長もどうですか?面白いですよ」
サビナが漸く振り返りユーリに微笑む、
「エッ・・・あっ、えっ、なに?あれ?」
「ふふん、紙で作った鳥さんです」
「紙で作った鳥?」
「はい、タロウさんはカミヒコーキって呼んでましたけど、カミトリに決まりました」
「そうなのー、紙の鳥さん、カミトリさんなのー」
ミナが満面の笑みを浮かべ、
「また適当な名前ねー」
とソフィアがやれやれと顔を上げた、ユーリはあれ?と違和感を覚える、珍しい事にソフィアが手にしているのは編み物では無く縫物のようで、他の面々は上質紙を手にして真剣な様子なのであるが、ソフィアだけはのんびりとチクチクやっている様子であった、
「まったくだわね」
マルルースまでもが優しく微笑む、
「うふふー、じゃ、ミナも作るー、どうやるのー」
「あんたはもー、はい、ミナの紙はこれね、大事に使うのよ」
「うん、わかったー」
「なんじゃ、結局ミナも作るのか?」
レインがニヤリと微笑んだようで、
「ムフフー、ブロース君には負けないのー」
「おう、その意気じゃ、こっちはもうできたからのう」
テーブルに向うミナと、立ち上がるレイン、
「・・・えっと・・・サビナ、どういう事?」
「フフッ、あのですねー」
サビナがニヤニヤと微笑み、誘われるようにその隣に座るユーリ、しかし、そこは流石のユーリである、アッと声を上げて、
「マルルース様、御機嫌麗しゅう」
わざわざ席を立ち一礼するユーリに、
「もう、そんな畏まらないでいいですよ、ねっ?」
ニコリと微笑み返すマルルース、
「すいません、いらっしゃっていたのは気付いておったのですが、なんともはい・・・」
恥ずかしそうにするユーリに、ハイハイとマルルースは微笑み、
「ほら、ユーリ先生も、あっ、ユーリ先生はちゃんと折れるのかしら?興味ありますわ」
「折れる?」
「はい、紙を折るだけなんですけどね」
「ちゃんとですか?」
「そうなんですよ、結構あれなのよね、綺麗に折るのって難しくて」
「そうですよねー、タロウさんはすんごい簡単にやってましたけど、やってみるとこう・・・うん、難しいってわかります」
エルマが楽しそうに顔を上げた、
「そうよねー、どうかしら、こうかしら?」
「あっ、ちょっとズレてます」
「もう、エルマは厳しいわねー」
「先生ですから」
「あらっ、やっぱり厳しい」
上品に微笑み合うマルルースとエルマ、
「あー・・・で、どういう事?」
とユーリは座り直す、
「はい、実はなんですが」
とサビナがカミトリなる名称になったそれについて解説を始め、フンフンと素直に頷くユーリ、その間にも子供達は食堂から廊下に向けて紙飛行機を投げてはキャーキャー言いつつ走り回り、さらにはカトカとゾーイ、なんとマルルースの御付きであろうメイド二人も一緒になって遊んでいる様子であった、
「・・・カミトリ・・・紙の鳥・・・これは凄いわね・・・」
その実に簡単な仕組みを耳にして、あからさまに目を丸くするユーリであった、
「ですよねー、ホント、ビックリしました、紙って飛ぶんですね」
「そりゃだって・・・丸めて投げれば飛ぶでしょ」
「それは投げているのであって飛んでないですよ、タロウさんもちょっと違うって言ってましたし」
「・・・それもそっか・・・えっ、ソフィア、これ知ってたの?」
ユーリが顔を上げると、ソフィアはミナの手元を見つめながら、
「知らなかったわねー」
と見事な空返事である、
「そう・・・そっか・・・まぁ、それはいいけど、エッ、この紙は?あっ、もしかして書き損じ?」
テーブルに残った数枚の紙を見つめてすぐにその正体を理解するユーリである、
「そうなんです、タロウさんが新しい紙を使うのは気が引けるし、これはもう捨てるしかないんだろって」
「それもそうか・・・あとは精々焚き付けよね・・・」
「ですね、もしくは字の練習ですかね・・・」
「そうなるのよね・・・いや、それもいいけど、エッ、まって、これを子供が作ってるの?」
「そうですよ、タロウさんは子供の遊びだって言ってました、それにほら、ミナちゃんの前にあるのと、これがタロウさんの作ったやつで、他は全部自作です」
「へー・・・エッ、マルルース様もですか?」
「そうよー、でも、あれね、なんか飛ばすのは後にしようかしら」
「どうしました?」
「だって、飛ばなかったら恥ずかしいでしょ」
「もう、そんな事言ってー」
エルマがカラカラと笑い、メイド二人も、
「大丈夫です」
「はい、マルルース様が作ったのであれば絶対飛びます」
と根拠の無い応援をする始末、
「そうかしら?」
「そうですよ、私のも結構飛びました」
「私のもです」
「だって、あなた達は器用だもの」
「マルルース様も器用じゃないですかー」
「ねー、それにちゃんと折れてると思います」
「そうかしら?」
「そうですよ、さっ、どうぞ」
さっと、メイドが場所を開け、子供達も貴族の奥様がついに飛ばすぞとその場所を開けた、子供達の妙な気遣いに、マルルールはもうと微笑みつつ腰を上げ、廊下の対面、別に線が引いてあるわけでもないが、開始地点となってしまった場所に立ち、
「こうでいいの?」
と自作の紙飛行機を構える、
「はい、そのまま手首でスッと送り出す感じです」
メイドの一人が助言し、ウンウンと頷くもう一人、こうかしら?とマルルースがそっと紙飛行機を送り出すと、マルルース作のそれはフワリフワリと廊下に吸い込まれるように飛んでいき、暫しの沈黙のあと、コツンと対面の壁にぶつかったようで、
「わっ、すげー、奥までいったー」
ブロースが廊下を覗いて叫び、
「ホントだー」
とノールとノーラ、フロースもスゴイスゴイと飛び跳ねる、
「あら・・・気持ちいわね・・・」
マルルースはニコリと微笑み得意そうで、
「流石、マルルース様です」
「ですよー、やっぱり違いますー」
すっかり太鼓持ちだか応援団だか、マルルースの側ではしゃぎだすメイド二人、
「面白そうね・・・」
その様子を見つめていたユーリがポツリと呟いた、
「ですよねー、じゃ、はい、所長もどうぞ」
サビナが書き損じの一枚をユーリの前にスッと差し出す、
「そうね、じゃ、えっと・・・」
ユーリがテーブルに向かった瞬間、
「あっ、違う、サビナ」
ハッとユーリは顔を上げ、ハイッ?と首を傾げてしまうサビナ、
「生活科の先生達がお呼びなのよ」
「エッ、私をですか?」
「そうなの、ほら、オリビアさんのメイド服、新しいやつ、マフダさんが作った」
「えっ、あっ、はい、昨日着てたあれですか?」
「そうよ、あれ、今朝も来てたんだけどね、それで学園に行っちゃって」
「へー・・・良かったですね、カッコイイですもんね、あれ」
サビナがニコリと微笑んだ瞬間、
「・・・あっ・・・」
と絶句する、どうやら瞬間的に察したらしい、そのままユーリを見つめ表情を失くした、
「・・・そういう事なの・・・アンタさ、ほらボタンがどうとか、袖がどうとかって聞いてたでしょ?」
「はい、聞いてますし、まとめてありますね・・・」
「そうよね、だから、んー・・・どうしようかな、マフダさんにも協力して欲しいんだけど、無理そうよね、アンタちょっと学園に行って、色々話してあげてくれない?オリビアさんだけだとすんごい難儀しているみたいなの・・・」
「難儀?」
「そうなのよ、あのおばさん先生達が裸にしょうかーって勢いで・・・生徒達も・・・似たようなもんでね・・・なんかオリビアさんを囲んでワーキャー騒がしかったらしくて・・・」
「それは駄目でしょ」
「駄目よね、アンタならその惨状、想像できるでしょ」
「・・・はい、何となく・・・わかります・・・」
「よねー、そういう事だから、すぐに行って」
「分かりました、じゃ、どうしようかな、これはカトカとゾーイさんに任せて・・・」
とサビナが立ち上がった瞬間、
「ユーリ先生・・・」
冷ややかな声がユーリを襲い、エッと振り返るユーリ、そこにはマルルースの優しそうな笑顔と、メイド二人のギラギラと輝く瞳があった、
「アッ・・・ヤベー」
思わず呟いたユーリを誰が非難できようか、
「それ・・・あれよね、エレインさんが作ってるって言ってた、新しいメイド服の事よね・・・」
冷たくそして落ち着いた声であった、しかしその顔はとても優しい笑みに溢れている、
「・・・えっと・・・はい、その通りかと思います・・・」
蚊の鳴くような声で答えるユーリ、
「詳しく聞きたいわね」
貼り付けた笑顔のまま眼光だけが貴族らしく輝くマルルースと、紙飛行機を手にしてニコニコと微笑むメイドが二人、
「あっ・・・えっとですね、その・・・」
ユーリがどうしょうかとサビナを見上げた瞬間、
「じゃ、すいません、私は学園に、カトカ、ゾーイさん、後お願い!!」
そそくさと階段へ向かうサビナ、ハイハーイと機嫌よく返すカトカとゾーイ、そこへ、
「ソフィアー、このザル使っていいのかー」
と何故かタロウが厨房から顔を出し、
「あっ、タロウ、良い所に来た、あんた、あれよ、あれの事説明なさい」
大声でまくし立てるユーリ、
「ヘッ?何が?」
と間の抜けた顔でユーリを見下ろすタロウ、
「あら、それもタロウさんでよかったの?」
ニヤリと微笑むマルルースであった。
「サビナいるー」
開口一番実にダルそうに声を掛ける、
「ハイ」
と聞き慣れた声が聞こえた瞬間、目の前を何かがすぅーっと飛び去り廊下の奥に消え、ん?と振り返る間もなく、
「やったー、すげー飛んだー」
ブロースが大声を上げてユーリの足元を駆け抜け、
「むー、ミナの方が飛んだー」
ミナの大声が食堂を震わせた、
「そうねー、ミナちゃんの方が飛んでたかしら?」
「でしょー」
「でも、それはタロウさんが作ったやつでしょ」
「そうなのー」
「じゃ、ミナちゃんもちゃんと作んなきゃ駄目よ」
「えー、タロウがくれるっていったー」
「それは分かります、でも、ブロース君のはちゃんと自分で折ったやつですからね」
「ブー、エルマ先生キビシー」
「そうなんですよ、先生ですから」
ニコリと微笑むエルマとニコニコとそのやり取りを微笑みながら見守るマルルース、エッとユーリは食堂内を見渡し、マルルースの姿を見つけて、アッと固まってしまった、しかし、
「あっ、ユーリ先生どいてー」
「ユーリ先生邪魔ー」
「ホントだ、所長邪魔ですよー」
「どいてー」
「どいてー」
ノールとノーラが廊下に向けて何やら手にして構えており、その後ろのカトカが同じように似たようななにやらを手にしている、
「じゃま?」
「邪魔ですー」
「邪魔なのー」
「邪魔ー」
口々に邪魔邪魔言われるとやはり不快に思うもので、ムッとユーリが顔を顰めた瞬間、ボンと尻に衝撃が走り、何かと思って振り返ればサスキアである、サスキアは手にした何やらを見下ろして廊下から戻って来たところのようで、ユーリに気付きもしなかったらしい、
「あっ、ゴメン」
思わず謝るユーリと、そのまま黙して食堂に入るサスキア、サスキアはそのままテーブルに向かい手にした何やらを広げ始めたらしく、
「えっと・・・」
ここは叱るべきなのかな?教育者としては、と首を傾げてしまうユーリ、しかし、
「ショチョー、どいて下さい、ぶつけますよー」
カトカが業を煮やして大声となり、どいてどいてとノールとノーラの大合唱で、ユーリはあっゴメンと素直に二三歩後退った、すると、
「それー」
「いけー」
「どうだー」
カトカとノールとノーラの大声が響き、ユーリの目の前を三つの物体がスーっと音も無く飛び去り、エッとやっと理解して目を丸くするユーリ、廊下の奥にいたブロースが、
「これ、これが一番遠くに飛んだー」
と大声を上げ、どれだーと廊下に駆け込むカトカと双子、その先で四人はキャッキャツと楽しそうで、
「えっと・・・」
呆気にとられたままポカンとする他ないユーリである、
「あー、所長、所長もどうですか?面白いですよ」
サビナが漸く振り返りユーリに微笑む、
「エッ・・・あっ、えっ、なに?あれ?」
「ふふん、紙で作った鳥さんです」
「紙で作った鳥?」
「はい、タロウさんはカミヒコーキって呼んでましたけど、カミトリに決まりました」
「そうなのー、紙の鳥さん、カミトリさんなのー」
ミナが満面の笑みを浮かべ、
「また適当な名前ねー」
とソフィアがやれやれと顔を上げた、ユーリはあれ?と違和感を覚える、珍しい事にソフィアが手にしているのは編み物では無く縫物のようで、他の面々は上質紙を手にして真剣な様子なのであるが、ソフィアだけはのんびりとチクチクやっている様子であった、
「まったくだわね」
マルルースまでもが優しく微笑む、
「うふふー、じゃ、ミナも作るー、どうやるのー」
「あんたはもー、はい、ミナの紙はこれね、大事に使うのよ」
「うん、わかったー」
「なんじゃ、結局ミナも作るのか?」
レインがニヤリと微笑んだようで、
「ムフフー、ブロース君には負けないのー」
「おう、その意気じゃ、こっちはもうできたからのう」
テーブルに向うミナと、立ち上がるレイン、
「・・・えっと・・・サビナ、どういう事?」
「フフッ、あのですねー」
サビナがニヤニヤと微笑み、誘われるようにその隣に座るユーリ、しかし、そこは流石のユーリである、アッと声を上げて、
「マルルース様、御機嫌麗しゅう」
わざわざ席を立ち一礼するユーリに、
「もう、そんな畏まらないでいいですよ、ねっ?」
ニコリと微笑み返すマルルース、
「すいません、いらっしゃっていたのは気付いておったのですが、なんともはい・・・」
恥ずかしそうにするユーリに、ハイハイとマルルースは微笑み、
「ほら、ユーリ先生も、あっ、ユーリ先生はちゃんと折れるのかしら?興味ありますわ」
「折れる?」
「はい、紙を折るだけなんですけどね」
「ちゃんとですか?」
「そうなんですよ、結構あれなのよね、綺麗に折るのって難しくて」
「そうですよねー、タロウさんはすんごい簡単にやってましたけど、やってみるとこう・・・うん、難しいってわかります」
エルマが楽しそうに顔を上げた、
「そうよねー、どうかしら、こうかしら?」
「あっ、ちょっとズレてます」
「もう、エルマは厳しいわねー」
「先生ですから」
「あらっ、やっぱり厳しい」
上品に微笑み合うマルルースとエルマ、
「あー・・・で、どういう事?」
とユーリは座り直す、
「はい、実はなんですが」
とサビナがカミトリなる名称になったそれについて解説を始め、フンフンと素直に頷くユーリ、その間にも子供達は食堂から廊下に向けて紙飛行機を投げてはキャーキャー言いつつ走り回り、さらにはカトカとゾーイ、なんとマルルースの御付きであろうメイド二人も一緒になって遊んでいる様子であった、
「・・・カミトリ・・・紙の鳥・・・これは凄いわね・・・」
その実に簡単な仕組みを耳にして、あからさまに目を丸くするユーリであった、
「ですよねー、ホント、ビックリしました、紙って飛ぶんですね」
「そりゃだって・・・丸めて投げれば飛ぶでしょ」
「それは投げているのであって飛んでないですよ、タロウさんもちょっと違うって言ってましたし」
「・・・それもそっか・・・えっ、ソフィア、これ知ってたの?」
ユーリが顔を上げると、ソフィアはミナの手元を見つめながら、
「知らなかったわねー」
と見事な空返事である、
「そう・・・そっか・・・まぁ、それはいいけど、エッ、この紙は?あっ、もしかして書き損じ?」
テーブルに残った数枚の紙を見つめてすぐにその正体を理解するユーリである、
「そうなんです、タロウさんが新しい紙を使うのは気が引けるし、これはもう捨てるしかないんだろって」
「それもそうか・・・あとは精々焚き付けよね・・・」
「ですね、もしくは字の練習ですかね・・・」
「そうなるのよね・・・いや、それもいいけど、エッ、まって、これを子供が作ってるの?」
「そうですよ、タロウさんは子供の遊びだって言ってました、それにほら、ミナちゃんの前にあるのと、これがタロウさんの作ったやつで、他は全部自作です」
「へー・・・エッ、マルルース様もですか?」
「そうよー、でも、あれね、なんか飛ばすのは後にしようかしら」
「どうしました?」
「だって、飛ばなかったら恥ずかしいでしょ」
「もう、そんな事言ってー」
エルマがカラカラと笑い、メイド二人も、
「大丈夫です」
「はい、マルルース様が作ったのであれば絶対飛びます」
と根拠の無い応援をする始末、
「そうかしら?」
「そうですよ、私のも結構飛びました」
「私のもです」
「だって、あなた達は器用だもの」
「マルルース様も器用じゃないですかー」
「ねー、それにちゃんと折れてると思います」
「そうかしら?」
「そうですよ、さっ、どうぞ」
さっと、メイドが場所を開け、子供達も貴族の奥様がついに飛ばすぞとその場所を開けた、子供達の妙な気遣いに、マルルールはもうと微笑みつつ腰を上げ、廊下の対面、別に線が引いてあるわけでもないが、開始地点となってしまった場所に立ち、
「こうでいいの?」
と自作の紙飛行機を構える、
「はい、そのまま手首でスッと送り出す感じです」
メイドの一人が助言し、ウンウンと頷くもう一人、こうかしら?とマルルースがそっと紙飛行機を送り出すと、マルルース作のそれはフワリフワリと廊下に吸い込まれるように飛んでいき、暫しの沈黙のあと、コツンと対面の壁にぶつかったようで、
「わっ、すげー、奥までいったー」
ブロースが廊下を覗いて叫び、
「ホントだー」
とノールとノーラ、フロースもスゴイスゴイと飛び跳ねる、
「あら・・・気持ちいわね・・・」
マルルースはニコリと微笑み得意そうで、
「流石、マルルース様です」
「ですよー、やっぱり違いますー」
すっかり太鼓持ちだか応援団だか、マルルースの側ではしゃぎだすメイド二人、
「面白そうね・・・」
その様子を見つめていたユーリがポツリと呟いた、
「ですよねー、じゃ、はい、所長もどうぞ」
サビナが書き損じの一枚をユーリの前にスッと差し出す、
「そうね、じゃ、えっと・・・」
ユーリがテーブルに向かった瞬間、
「あっ、違う、サビナ」
ハッとユーリは顔を上げ、ハイッ?と首を傾げてしまうサビナ、
「生活科の先生達がお呼びなのよ」
「エッ、私をですか?」
「そうなの、ほら、オリビアさんのメイド服、新しいやつ、マフダさんが作った」
「えっ、あっ、はい、昨日着てたあれですか?」
「そうよ、あれ、今朝も来てたんだけどね、それで学園に行っちゃって」
「へー・・・良かったですね、カッコイイですもんね、あれ」
サビナがニコリと微笑んだ瞬間、
「・・・あっ・・・」
と絶句する、どうやら瞬間的に察したらしい、そのままユーリを見つめ表情を失くした、
「・・・そういう事なの・・・アンタさ、ほらボタンがどうとか、袖がどうとかって聞いてたでしょ?」
「はい、聞いてますし、まとめてありますね・・・」
「そうよね、だから、んー・・・どうしようかな、マフダさんにも協力して欲しいんだけど、無理そうよね、アンタちょっと学園に行って、色々話してあげてくれない?オリビアさんだけだとすんごい難儀しているみたいなの・・・」
「難儀?」
「そうなのよ、あのおばさん先生達が裸にしょうかーって勢いで・・・生徒達も・・・似たようなもんでね・・・なんかオリビアさんを囲んでワーキャー騒がしかったらしくて・・・」
「それは駄目でしょ」
「駄目よね、アンタならその惨状、想像できるでしょ」
「・・・はい、何となく・・・わかります・・・」
「よねー、そういう事だから、すぐに行って」
「分かりました、じゃ、どうしようかな、これはカトカとゾーイさんに任せて・・・」
とサビナが立ち上がった瞬間、
「ユーリ先生・・・」
冷ややかな声がユーリを襲い、エッと振り返るユーリ、そこにはマルルースの優しそうな笑顔と、メイド二人のギラギラと輝く瞳があった、
「アッ・・・ヤベー」
思わず呟いたユーリを誰が非難できようか、
「それ・・・あれよね、エレインさんが作ってるって言ってた、新しいメイド服の事よね・・・」
冷たくそして落ち着いた声であった、しかしその顔はとても優しい笑みに溢れている、
「・・・えっと・・・はい、その通りかと思います・・・」
蚊の鳴くような声で答えるユーリ、
「詳しく聞きたいわね」
貼り付けた笑顔のまま眼光だけが貴族らしく輝くマルルースと、紙飛行機を手にしてニコニコと微笑むメイドが二人、
「あっ・・・えっとですね、その・・・」
ユーリがどうしょうかとサビナを見上げた瞬間、
「じゃ、すいません、私は学園に、カトカ、ゾーイさん、後お願い!!」
そそくさと階段へ向かうサビナ、ハイハーイと機嫌よく返すカトカとゾーイ、そこへ、
「ソフィアー、このザル使っていいのかー」
と何故かタロウが厨房から顔を出し、
「あっ、タロウ、良い所に来た、あんた、あれよ、あれの事説明なさい」
大声でまくし立てるユーリ、
「ヘッ?何が?」
と間の抜けた顔でユーリを見下ろすタロウ、
「あら、それもタロウさんでよかったの?」
ニヤリと微笑むマルルースであった。
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これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
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