セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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75話 茶店にて その37

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翌朝となる、ミナがダダッと厨房を抜け食堂へ飛び込んだ、食堂は朝だというの大変に温かかった、さらには明るい、どうやら光柱が点けっぱなしのようで、ミナは思わず足を止め、アレーと小さく驚き、首を傾げつつトテトテと寝台に近づく、真っ白い包帯で顔を隠した何者かが横になっており、ムーと思って睨みつけた、

「一人で起きれたのか?」

暖炉の前、レインがフイッと振り返る、

「起きたー、この人だれー」

遠慮無く叫ぶミナ、誰ってとレインは目を細め、まぁ、包帯に包まれていては分からないかと鼻で笑い、

「誰でも良かろう、ほれ、タロウ、ミナも起きたぞ」

レインが逆に振り向けばそこには丸く大きな毛布の塊があり、ミナはムーと唸って寝台を回り込む、

「タロー?」

小首を傾げるミナに、そうじゃとレインは短く答え、ミナはニヤーと微笑むと、

「起きろー」

大声を上げてその塊に飛び掛かった、ウゴッとくぐもった呻き声が毛布から響き、さらにミナはニヤーと微笑み、

「朝だー、起きろー、寝坊助ー」

力いっぱい両手と両足を叩き付ける、ウガウゴと毛布は呻き続け、

「これでもかー」

さらにバタバタと叩き蹴るミナ、ついに、

「こりゃ」

毛布がバサリと開いて寝ぼけまなこのタロウの顔がぬっと飛び出す、

「起きたー」

ミナが歓声を上げるも、

「こら、静かに」

タロウは寝台を確認して、ミナを抱き寄せた、

「ムー、なんでー」

「なんでじゃない、寝てるだろ」

「寝てるけどー、だれー」

「誰?」

「うん、だれー」

不思議そうに首を傾げるミナに、エッとタロウは目を丸くし、しかし、これはとニヤリと微笑む、レインもフンと鼻で笑ったようで、

「あー・・・そのうちわかるだろ、ほれ・・・メダカのお世話だ」

ボリボリと頭をかきつつ腰を上げるタロウ、ンーと大きく伸びをして振り返る、寝台のエルマはまだ寝息を立てているようで、苦しそうな素振りも無い、何よりレインが何も言わない所を見るに問題は無いであろうと思われた、

「ムー、ミナの寝台ー」

ミナがタロウの足にまとわりついた、ん?とタロウはミナを見下ろし、

「貸してくれって言ったろ?」

「だけどー」

不満そうにタロウを見上げるミナ、

「まったく、あっ、湯たんぽどうだった?」

「ユタンポー・・・よくわかんない・・・」

「ありゃ、折角ソフィアが準備したんだぞ」

「だけどー・・・わかんなかった・・・」

プイッとミナは水槽に向かう、ありゃとその背を見つめるタロウ、

「そりゃな、倒れるように眠ってしまったからな、昨日はな、わからんだろう」

レインがやれやれと顔を上げ、さて、木窓を開けるかと立ち上がる、

「そういう事か・・・」

「そういう事じゃ、まぁ、それだけ快適だったという事だな」

「それならまぁいいか」

「良かろう」

レインが街路側の壁に向かい、タロウもさてメダカからかなー、ソフィアも起きたかなー等と思っていると、エルマがパチリと目を覚ます、しかし目に入ったのは白く薄暗い何かで、これはなんだろうと思いつつ手をついてゆっくりと半身を上げた、

「あっ、起きた?」

タロウがすぐに気付きレインも振り返る、ミナがブーと頬を膨らませエルマを睨みつけた、

「あっ、はい、おはようございます」

視界が塞がれてはいるがタロウの声だとすぐに理解した、その声の方向へ顔を向けるも見えないものは見えないもので、

「ん、どう、痛い所とか痒い所は無い?」

「えっと・・・はい・・・その大丈夫と思います」

はてどういう状況なのかなとエルマは自身の身体をまさぐる、服は着ているようで、寒さは感じない、胸元までかかっていたであろう数枚の毛布が足に重なっており、普段のそれよりも若干軽いなと感じる、

「そっか、じゃ、どうしようかな・・・うん、早速見てみる?顔」

タロウの提案に、エルマはアッと思い出す、少し記憶が混乱していた、ここで寝ているこの状況がまるで理解できず、また視界を遮っている何かも何故そうなっているかがわからなかったのである、タロウの言葉で即座に記憶が呼び起され、そっか、昨晩治療されて、そしてそのまま朝になったらしい、

「・・・えっと、すいません、そのなんか・・・少し・・・」

「ん?あぁ、大丈夫だよ、落ち着いて、状況が把握できない?」

「はい、その・・・なんていうか・・・」

「そっか、じゃ」

とタロウがどうしようかと食堂内を見渡した所に、

「オアヨー」

とユーリが階段から顔をだす、

「あー、はやーい、どうしたのー、変なのー」

ミナが大声を上げ、

「変ってアンタねー」

ユーリがボリボリと腹をかきながらミナを睨んだ、

「変でしょー、寝坊助なのにー」

「今日は違うのよー」

「嘘だー、今日も寝坊助でしょー」

「そりゃ寝坊助だけどさー」

「でしょー」

「むー・・・ムカつくわねーこのガキンチョがー」

ユーリがムガーッとミナに駆け寄り、キャーっと叫んでタロウの足に隠れるミナ、

「こら、暖炉の前で暴れるな」

ビシリとタロウが叱りつける、

「ムー、だってー、ユーリがー」

「だな、ユーリ、暖炉の前で暴れるな」

ユーリを叱るタロウ、

「だってー、ミナがー」

ユーリがミナの真似をしたようで、

「ムカー、ユーリが悪いのー、ミナは悪くないー」

「ミナが悪いんでしょー、ユーリは悪くないー」

「真似するなー」

「やだー、真似するー」

「ユーリめー」

「ミナめー」

コノーっとユーリに飛び掛かるミナ、ユーリはミナを抱き留めつつ若干暖炉から離れたようで、朝から元気だなとタロウは目を細め、エルマはもうと薄く微笑む、しかし、その瞬間に頬にあった異物感が消失している事に気付いた、引きつるような違和感、微笑むたびに感じたこめかみから首筋、日によっては肩までが同時に動くような奇妙な感覚、大きく爛れたそれが繋がっていた為に顔の筋肉と連動して否が応でも感じさせられたあの不愉快な感覚が消失していた、しかし今感じるのは喪失感であった、10年も付き合ってきたその違和感はすでに当たり前の感覚で、すっかりと慣れており、親しむことは無かったが、感じられなくなると寂しくも感じてしまう、

「・・・」

エルマは震える右手をゆっくりと肩に当てる、そこにはもうあのゴツゴツとした皮膚の感触も何かが張り付いているという感覚も無い、腕を覆っていた爛れ痕と同様にすっかりと消失しており、そこから首筋から頬へと手を這わせる、顔と首には包帯が巻かれその下には布が当てられているらしい、このような処理はしていなかったはずだけどとエルマは思い、

「えっと、すいません、これ・・・」

と恐らくタロウのいる方向に問いかける、

「ん?あっ、ほら、夜中痒そうにしててね、布を当てておいたんだ」

「そう・・・ですか、あっ、そうですよね、痒くなりますもんね・・・」

「そだね、でも、どう?痒くない?」

タロウはどうやらしっかり覚醒したようだと寝台に腰かけ、レインもどんなもんだろうとタロウの隣りに立つ、ユーリが軽くミナを振り回して取り押さえたようで、ミナの頭を太腿に押し付けて、

「そうねー、ビックリしたわよー」

とケラケラと笑いかけた、

「そうなんですか?」

振り向くエルマ、

「そうよー、夜中にガバッと起きて痒いーって叫んで」

エッとエルマが驚くも、

「その程度で済んで良かったよ、逆にね、ほれ、全身麻酔が難しいって話しはしたでしょ」

タロウが柔らかく微笑んだ、

「そう・・・ですね・・・」

「そうなの?」

「そうだよー、でも、あれだね、睡眠魔法で眠らせたのが良かったみたいだね、どう?不安感とか興奮してるとか、落ち着かないとかある?」

「えっと・・・はい、大丈夫かと思いますが・・・」

そう問われてもとエルマは首を傾げた、起きたばかりでまだ完全に頭が動いていない、それよりも身体の変化の方に驚き、顔と首を覆っている包帯の方が気になってしまう、視界が完全に塞がれている為、その不安感の方が強く、はて、タロウの言う不安感やら落ち着かないとはどの感覚の事を言っているのであろうと考えてしまう、そこへ、

「おはよー」

と厨房からソフィアがノロリと顔を出す、

「おはよ」

「おはよー」

ミナがユーリからバッと離れてソフィアに駆け寄り、

「あのねー、ユーリが早起きなのー、珍しいのー、寝坊助のくせにー」

ギャーと叫ぶミナに、

「まだ言うかー」

ユーリがさらに叫んだ、

「言うー、寝坊助ー、寝坊助ユーリー」

「このガキャー」

両腕を上げて叫ぶユーリ、ミナが今度はサッとソフィアの足に隠れるも、

「はいはい、どう?様子は」

ソフィアが寝台に歩み寄る、

「良さそうだよ」

タロウがニコリと微笑み、エルマが恐らくは・・・と小さく答えた、

「そっか、じゃ、ほら、それ取っちゃいましょうよ、みんなびっくりするわよー」

ソフィアが眠そうな目でニコリと微笑む、

「そだね、じゃ、鏡の前にどうぞ、あっ、ゆっくり動いてな」

「あっ、はい」

エルマがもぞもぞと寝台から足を下ろし、ソフィアが抱き着くように支えとなる、その様子をムーっと見つめるミナ、ユーリも遊んでられないかなとエルマの介助に回る、しかし、エルマは少しよろける程度ですぐにスッと立ち上がったようで、これなら大丈夫かなとユーリが離れ、ソフィアの介添えのみでガラス鏡の前に腰を下ろした、

「じゃ、取りますよー」

ソフィアが包帯に手をかけたようで、エルマはゴクリと生唾を飲み込んでしまう、少し身体を動かしてやっと状況を把握できたように思う、そうなのだ、昨晩最後の治療として爛れ跡の残りの部分、最も重要とされる頬から肩にかけた大きなそれを除去する手術を受けたのだ、その手術自体は前の二回のそれと変わる事は無く、その点ではすっかり信用していた、但し手術の為の全身麻酔が問題との事で、しかしエルマとしてはここまで来たら一任する他ないと覚悟を決めて臨んでいた、

「お願いします」

エルマが答える間もなく、ソフィアは包帯を外し始めており、さてどんなもんだかと一同の視線が鏡越しのエルマに向かう、そして、

「ん、綺麗なもんだわね、あっ、ユーリ光柱取って」

「はいはい」

とエルマの背後でバタバタと動きがあり、やがて瞑っていた目でも分かる明るさが眼球に届く、

「ほら、目を開けて大丈夫よ」

ソフィアが優しく語りかけ、

「そうね、綺麗なもんだわ」

「だねー、あれだな、ケイスさんも上手かったしね」

「そうよねー、あの子も大したもんだわ」

「そうねー」

エルマの背後、ソフィアとユーリとタロウがにこやかに話しており、しかし、エルマは中々目を開ける事が出来なかった、人前に素顔を晒すのはもう10年振りである、ソフィアやタロウには事前に見せてはいたが、それであってもあくまで治療の為と覚悟が必要で、まして鏡で自分の顔を見るのもまた数年ぶりであったりする、小さな銅鏡で見るそれは見るたびに悲しく悔しく、家族の喪失を思い出させるつらい代物で、黒いベールが自身の素顔とそう思い込んで生きて来たのだ、勿論両親にも息子達にも見せられるものではなかった、

「・・・怖い?」

ソフィアがエルマの様子に気付いてソッとその肩に手を置いた、それは治療された方の肩となる、何の障害も不愉快な感触も無く感じられるその手の暖かさに、エルマはアッと呟き、

「・・・大丈夫です」

フーと大きく息を吐き出してゆっくりと目を開いた、光柱の眩しい程の灯りが目に飛び込んできて、軽く目を閉じ再び瞼を持ち上げる、ガラス鏡には眩しそうに眼を細める自身の顔が映っていた、

「・・・」

言葉も無くジックリと鏡を見つめるエルマ、ソフィア達もその様子を静かに見守る、

「・・・ありがとうございます・・・」

ツッと涙が零れ落ちた、それが治療された方の頬を伝い首筋に落ちる、その感覚もまた嬉しく感じてしまう、あれから何度も泣いたものであるが、その度、涙は爛れ跡に染みて綺麗に流れ落ちる事は無く、拭おうと布を当てるもその感触の不愉快さにさらに涙が止まらなくなっしまったもので、悲しみの涙が自身の不幸を呪う涙に代わった事が数度あったと記憶している、

「良かったわね・・・」

ユーリが笑顔で微笑む、はい・・・と小さく答えるエルマ、

「うん、大丈夫そうかな・・・」

「そうね、まぁ、暫くは様子を見た方がいいかしら?」

「だねー、と言っても・・・まぁ、王妃様が振り回すんじゃない?」

「それもそうか・・・大丈夫?」

「どだろ?出来れば暫く安静にしてて欲しいけどね、本人次第かな?」

ソフィアとタロウが一応と確認しあうも、その隣のレインがそこまでは必要無かろうと顔を顰めている、しかし、それに二人は気付いていないようで、勿論ユーリも気付いていない、そして、

「ムー・・・」

ミナがピョコンとエルマの隣りに顔をだし、

「おばちゃん、だれー?」

と不思議そうにエルマを見上げた。
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