セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

76話 王家と公爵家 その51

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それから暫くして、

「ソフィー、ソフィーはどれー」

黒板の前の椅子に背を抱くように座ってミナが振り返る、

「どれも可愛いじゃない、どれでもいいわよー」

ソフィアが食堂内を箒で掃きながら適当に答え、レインはムスリと不満顔であった、レインもまたどれでも良かろうと興味が無いらしく、久しぶりにゆっくり書でも読もうかと思っていたところにソフィアが掃除を始めたものだから若干御立腹のようであった、そして子犬は昼寝中である、暖炉の前の最も温かい場所に寝ころんで幸せそうにクークー寝息を立てている、

「えー、でもー」

「でも、なーにー?」

「ミナが決めていいってなったからー」

「そうみたいねー」

「悩んでるー」

「そっかー」

パタパタと箒を動かしつつ適当に相槌を打つソフィア、何気に食堂の掃除は久しぶりであったりする、人が集まる為最も汚れる部屋なのであるが、昨日迄はもうこの時間には子供達が集まっており、子供達が帰ったと思えば生徒達が集まってくる時間帯で、さらには食事の用意もあった、掃除したいなーと思いつつ出来なかったのである、今日は商会はお休みで、給料日となっており、もしかしたら子供達も遊びに来るかもしれないが、まぁ、そんなに早くは来ないであろう、その為今日は食堂の掃除から出来るわねと、生徒達を送り出し、エレインらも仕事に出掛けると、ユーリを三階に追いやって楽しそうに掃除に取り掛かるソフィアであった、

「うー、レインはー、レインはどれー」

「どれでもいいわ」

パシリと言い切るレイン、

「えー、ブーブー」

「好きにして良いのだろう?」

「そう言ってたー」

「じゃ、好きにしろ」

「えー・・・だってーー」

ムーと黒板を睨むミナ、そこにはサレバの手による子犬の名前が乱雑に記されており、そこから選べとなったのであるが、ミナとしてはどれもこれも魅力的で目移りしてしまっていた、ミニョンもかわいいし、ロサはカッコイイ、トマトも好きだけど、ハナコもいいなと移り気で、ソフィアはそりゃそうなるかと微笑ましく眺めている、

「ブー、決まんないー」

バッと椅子に立ち上がるミナ、

「なら、ほれ、ワンコに決めさせれば良い」

レインがやれやれとやっと顔を上げた、

「えー、どうやってー」

「簡単じゃ、何かに名前を書いてな、床に置いて選ばせるのじゃ」

「何かー」

「おう、なんでもいいぞ、ほれ、オリガミのそれに名前を書けばいいじゃろ」

レインが壁のテーブルに並べられた様々な折り紙を顎で示す、

「そうなの?」

ミナは今一つ理解が及ばず素直に首を傾げてしまう、ソフィアが手を止めてそれがいいかもねーと微笑んだ、

「そうなのー?」

「そうよー、ワンコに選ばせれば角も立たないでしょ」

「カドー?」

「そうよー、私の選ばれなかったーって泣く人がいないって事ー」

ソフィアがニコリと微笑む、まぁ、犬の名前程度でギャーギャー騒ぐ者もいないと思われる、ソフィアとしても少なくとも黒板に書かれている名前であればどれでも良かったりした、

「そっかー、泣く人かー」

ミナはトンと椅子から下りて折り紙に向かう、主に生徒作の折り紙が並べられており、子供達が作ったそれは大事に持ち帰られ、それぞれの家に飾られている事であろう、

「じゃー・・・やってみるー」

ミナが折り紙に手を伸ばす、

「うむ」

とレインも書を閉じて腰を上げた、手伝うつもりであるらしい、ソフィアは任せてしまっていいかしらと玄関口の掃除へ向かう、そこもまた暫く掃除をしていない、すっかり汚れているなと改めて見渡す、足を拭う桶の水や手拭いは毎日交換しており、また生徒達も汚れているなと気付けば率先して交換してくれていた、しかししっかりと掃除する機会が少なく、積雪のためかすっかり泥汚れが目立ってしまっている、また、来客用のスリッパも薄汚れてきていた、これは洗うよりも新しいのが欲しいかしらと整頓しながら考えるソフィア、まぁ、明日と明後日は忙しいだろうし、新年になったら生徒達をけしかけて一気にやろうか等と考えつつ掃除を始める、そして、一通りの掃き掃除を終え足桶の水を交換し、こんなもんかと満足して食堂に戻ると、

「むー、ワンコめー」

「こりゃ、寝せておけ」

「折角作ったのにー」

「寝るのも仕事じゃ」

「それは聞いたー」

「なら、邪魔するでない」

「してないでしょー」

「それでは落ち着いて寝れんじゃろ」

「そうなのー?」

「そうじゃ」

見ればミナが暖炉の前で子犬に顔を引っ付けるように寝ころんでおり、その傍らには折り紙が数個バラバラと並んでいる、

「ありゃ、まだやってた?」

ソフィアがヤレヤレと微笑んでしまう、

「だってー、ワンコが起きないのー」

ミナがパッと上半身を起こし振り返る、子犬がビクリと反応したようであるが起きる事は無かったようだ、

「そっかー、まぁ、そういうものよ」

「そうなのー」

「そうなの、じゃ次はー」

とソフィアが掃除用具を手にして階段へ向かう、そこへ、

「おはようございます」

ゆっくりと階段から下りて来た者があった、

「あらっ、早いのね」

「わっ、どうしたのー」

ミナとソフィアが明るく出迎える、エルマであった、

「フフッ、おはようございます」

優雅に微笑むエルマ、その表情はより柔らかくなっているように見える、どうやら治療痕もより馴染んでいる様子で、実家に戻っている安心感もあって心に余裕もあるのであろう、ソフィアは良い顔をしているなーと微笑みつつ、

「おはようございます、さっ座って、お茶淹れるわね」

「そんな、お構いなく、忙しくしてる頃だろうなーって思ってましたから、あっ、これ、お茶です」

エルマが手にした布袋を差し出す、しかし、アッと呟き、

「えっと・・・お茶を催促してるわけじゃないですよ」

と照れ笑いを浮かべてしまう、

「そんなの分かってるわよ、来る度何か持ってきたら大変でしょうに」

ソフィアもクスクスと笑ってしまう、

「いえいえ、これはほら、マルルース様からです、タロウさんの労をねぎらう為とか何とか言ってました」

「あら・・・あの人なんかやったの?・・・っていうか昨日の事かしら・・・」

「そう見たいですよ、だから、今日もマルルース様もエフェリーン様も忙しいらしくて、今日の予定はすべて先送りになったそうです」

「あらま、大丈夫なのそれ?」

ソフィアは取り合えずとその布袋を受け取る、

「たぶん・・・ですね、今日はマルルース様と孤児院の視察に一緒に行く予定だったんですけど、今日はあなた一人で行きなさいって」

「あらま・・・あっ、そっか、あれ?フィロメナさんとかの関係?」

「そうなります、なので」

とエルマが子犬に視線を移す、ミナが難しい話しをしてるのかなーと二人を見上げており、子犬はグデーっと遠慮なく爆睡中のようで、

「・・・フフッ、どうです、ミナちゃん、お世話できます?」

エルマがニコリと微笑む、

「お世話?」

「そうですよ、あっ、どうでした?飼えます?」

エルマが心配そうにソフィアを見つめる、

「勿論よ、皆、犬は嫌いじゃないらしいわよ、挙句にこんなに可愛いとね、大はしゃぎだったわよ、ミナが独り占めしてたけど」

「それは良かったです、じゃ、そういう事でいいですか?」

「いいと思うけど・・・あっ、ミナー、エルマ先生が連れて来たのよ、その子」

ソフィアが優しく微笑むと、エッとミナがペタンと座り直した、

「そうですね、どう?可愛い?」

「うんうん、すんごいかわいい、ワンコなのにかわいいの、ニャンコじゃないのに、あと、吠えないの、あと、レインがミナよりもかしこいって言ってた、あとね、あとね、マテって言ったら食べないの、ヨシって言ったら食べるの、あと、ムーって悲しそうな顔してウンチするのー」

ミナが目を細め口を突き出す、恐らく排便時の子犬の真似なのであろう、ウンチするのってとソフィアはもうと微笑み、確かにそうだわねーとエルマも微笑む、

「でね、でね、あっ、お母さん、ワンコのお母さん探したい、いるんでしょ、どこー」

ミナがバッと立ち上がり、エッと不思議そうに首を傾げるエルマ、ソフィアはあー、まだそれがあったと苦笑してしまった。



その頃荒野の天幕である、毎日の会議は今日も簡単なもので、それだけ敵軍には変化は無く、しかし、天候の変化が問題として取り沙汰された、会議中も天幕の外は吹雪が荒れ狂っており軍用の重く丈夫な天幕であっても不安を感じる程である、ここは主戦場の変更も考えるべきかもしれないとの意見も出たが、そうなるとこちらから攻めるかモニケンダムまで引かなければならない、攻めるとなると軍の展開が難しく、引くとなればモニケンダムの被害が問題となり、どちらも即座に却下されてしまった、あっという間の事であり、その問題を提起したクロノスもまぁそうだよなとあっさりと引き下がっている、需要事項はその一点のみで、他に上げられたのは定期報告と明日明後日の祭りの件となる、どちらも確認程度の内容であった、そして、

「では、御案内致します、昨日の進言どおりで宜しいですか?」

会議を終えそれぞれがバタバタと動き出した所で、タロウがそっとクンラートに近寄った、

「おう・・・あー・・・昨日の件だがな・・・」

クンラートはフンと不愉快そうにタロウを睨み、

「道すがらでよかろう」

レイナウトがニヤリとクンラートを見上げる、

「ですな」

カラミッドもレイナウトに同意のようであった、

「まとまりました?」

タロウがニコリと三人を伺うと、まずなとクンラートが短く答え、それなりじゃなとレイナウトが微笑む、その様子にどうやらある程度の結論を得たらしいとタロウはホッと安堵する、昨日は言うだけ言って、お好きにどうぞと逃げ帰っている、それは過干渉を防ぐ為と彼等の面子を守る為であった、なによりいい歳をした大人達が集まっているのである、状況を整理し問題点を把握できればそれで何とかできる人達なのであった、さらにはタロウでは知りえない貴族の流儀とやらもあるであろうと思われる、昨日のあれはあの程度で丁度良かっただろうなとタロウは思う事としていた、

「では、こちらへ、一度エレインさん、じゃない、殿下のお屋敷へ・・・」

「うむ、段取り通りじゃな」

「はい、そうなります」

タロウはニコリと微笑み先導する、イフナースの屋敷を経由する事には何の障害も無かった、この三人とそれに従う従者と近衛も毎日のようにその屋敷から転送陣を通ってここまで来ている、すっかり慣れた道程となっており、少しばかりの警戒感はあるようであるが、それは致し方ない事であろう、タロウはそのまま天幕内の転送陣へ向かい、その途中ちょっとした隙に、イザークに目配せする、イザークも無言で会釈で答えたようで、さらにその隣りでクロノスと話し込んでいる様子のイフナースもチラリとタロウに視線を走らせ、クロノスも気付いてタロウを一睨みした、二人共に委細了解済みとの意思表示であろう、

「じゃ、取り合えずお茶ですかね、御婦人方が来ていればそのまま向かおうかと思います」

タロウが一段声を明るくする、

「そうじゃな、まぁ、あれらも期待はしているらしいぞ」

「そうなんですか?」

「おう、お主があそこまで言えばな、それは期待したくもなるというものよ」

「あー・・・少し言い過ぎましたかねー」

タロウがアッハッハと笑い、それではつまらんぞとレイナウトはガッハッハと笑いあげる、しかし三人に続く近衛やリシャルトは渋い顔であった、特にリシャルトはタロウの思惑がどこにあるのかと訝しく感じている、昨日浮かんだ猜疑心を無くしてはいかんなと昨晩再考していた、やはりこの男は底が知れない、昨日の一件は公爵家としても伯爵家としても、さらにはアイセル公国であった各貴族達にも大変に有用な提案であり、より良い結果となるであろうと思われるが、そこまでこの男に頼ってしまったことそのものが、伯爵家の筆頭従者であるリシャルトとしては情けない事態なのだと再認識するに至っている、

「まぁ、何でもよい、気晴らしになればな」

ムスッと呟くクンラート、

「ですねー、そうなれば私も嬉しいです」

ニコリと微笑み転送陣を潜るタロウであった。
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