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本編
77話 路傍の神々 その16
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それから、マリア達は転送陣に向かい寂しそうに見送るエレイン、生徒達も大人達も入浴を終え、自室に引き上げており、食堂ではタロウとユーリが二人だけで炬燵を囲み黒板を前にしてあーだこーだと話し込んでいる、ソフィアは入浴中となり、ミナは寝台でスースーと寝息を立て、その顔のすぐ隣りではハナコが丸くなっていた、
「だから・・・やっぱり、ほら、ちゃんと研究内容を確立した方がいいと思うぞ」
タロウが湯呑を傾け眉を顰める、
「それは分かってるわよ、アンタが次から次へと持って来るからでしょ」
ブスッと反論するユーリ、ユーリもまた湯呑を傾けた、中身はワインである、タロウのそれも同じであった、
「それはだって・・・まぁ、ほら、あれだよ、良く言うだろ?知れば知る程知らないことが増えるってさ・・・」
「何よそれ?」
「そう思わないか?知識は有限だが、果ては無い、何故なら知恵が知識を増やすからだ、さらに時もまた知識を培う、知とは無限の落とし穴、違うか?」
「・・・何それ・・・分かる気はするけど・・・」
「そういうもんなんだよ、技術にしろ知識にしろね、終わりは無い、これだと思って満足しても、となるとこの場合は・・・ってかんじで、果てが無いもんだ、知識と知恵のせめぎ合いだな、どちらが先に枯渇するか、その果てを見てみたいとも思うが、それはそのまま知恵者の滅亡だろうね」
「・・・また小難しい屁理屈言い出して・・・」
「いや、これは真理だ」
「そうかもだけど・・・いや、違うわ、誤魔化さないでよ」
「誤魔化してはいないと思うけど、だから、ほれ、まずは書き出せ、お前どんだけ抱えてんだよ」
「・・・書き出す程じゃないわよ」
「いいから、四方八方に手を出しても上手くいかないもんだぞ」
「だから、それが分かってるからこうやって・・・」
相談しているんでしょと言いかけて黙り込むユーリ、タロウ相手に相談という言葉を使うのが不愉快に感じた為で、素面であればまだ素直に口にしていたであろうが酒が入って少しばかり意固地になってしまっていた、
「まったく、貸せ」
とタロウはユーリが手にする黒板をむしり取る、そこには先程の振動分離やら何やらが記されており、ユーリは入浴後のまったりした一時に丁度良いからとタロウを捕まえ、詳しく聞き出すつもりであったのが、それがユーリの研究所の抱える問題点へと議題は移り変わってしまっていた、
「消すぞ」
「いいけど・・・」
ブスーッと湯呑を煽るユーリ、タロウは襤褸布で適当に黒板を拭き上げ、白墨を手にする、そして、まずはとタロウが知る限りユーリが研究している内容を書き出した、無色の魔法石から始まり、赤色の魔法石、転送陣の改良と魔力集積の研究、こんなもんかなとタロウは顔を上げ、
「他には?」
とユーリを睨む、
「後は・・・ほら、クモ糸の改良とか、結界魔法の改良、それと光柱?あと・・・あれだ、陶器板とインクの改良もあるし・・・あっ、魔力の増大もあったわね、忘れてた、それとサビナのあれも今の所はうちの預かりって事になるけど、あれはまぁ・・・お手伝い程度かしらね・・・」
「・・・抱え過ぎだよ・・・」
呆れて目を細めるしかないタロウとなる、
「そうかしら?だって・・・やってたら増えていった感じ?」
「だろ?それはさっきも言ったさ、知れば知る程知らない事が増える・・・」
「・・・ムカつくけどその通りだわね」
「だな、だから、取り合えずどれかに集中した方がいいぞ、お前さんはだってあれだろ、魔力の無い者が魔法を使うにはってのが大命題だったろ?」
「・・・なに?覚えてた?」
「そりゃだって、俺もそれには大いに賛同しているからさ」
「そうだったわねー」
ハーと大きく吐息を吐いて俯くユーリ、大戦後ユーリがクロノスの下で世話になる事となり、研究したいと言い出したのがそれである、タロウとソフィアはそれは良いなと後押ししてくれて、クロノスもまぁお前が言うならと資金提供してくれた、しかしその研究は中々に難しかった、まずもって魔力そのものの理解を深める必要があり、明確な成果を上げられていない、結局クロノスの下ではクロノスやリンド、アフラからの要望もあって転送陣の改良を手掛ける事となり、それが一段落したあたりで学園への赴任が決まっている、ユーリとしても遅々として進まぬ研究に完全に腐っていた時期で、心機一転新しい研究の場を求めて学園の講師職を引き受けていたりした、
「初心は大事だ」
ムゥッとユーリを睨むタロウ、ユーリは初心ねーと呟き、
「でもそうなのよねー・・・一応ほら、光をね魔力に変換する術式は半分完成してるのよ」
ユーリがポツリと呟く、エッと驚くタロウ、
「なんだけど・・・それをほら、魔法陣内で溜めるとなると必然的に巨大になる?少し作ってみたけど、ちょっと現実的じゃなくてね・・・」
「ありゃま、なんだよ、ちゃんと進んでたのか・・・」
タロウは大したもんだと目を丸くした、よく考えればタロウが研究所の三人を振り回す事はあれど、彼女達がタロウを振り回す事はない、それはつまりタロウからは発信するが彼女達からは発信していないという事であり、ユーリの研究がどこまで進んでいるかをタロウは全く把握していなかったりする、興味はあったが、積極的に関わるつもりはなかった、
「そりゃだって・・・で、その延長で魔法石を使えないかって思ってて・・・で、今日のこれ?・・・」
「なんだよちゃんと繋がってるじゃんよ」
「そうなのよ、でも、先が見えなくてねー」
「それはしょうがないよ」
「枝葉の方が重要って感じる・・・」
「それは重要だけどさ、それは使い方の問題だろ?芯にある研究を忘れちゃ駄目だろ」
「だから、それがぼやけてる感じがしてね」
「じゃあ、直せ」
「そうよねー」
ボーッと黒板を見つめるユーリ、タロウの書いた数行の項目は自分の研究よりも遥かに有用に見えてしまう、まずもって魔力も持たない人々が魔法を使いたいと思っているかどうかが分からなかったりする、王国民の大半は魔力を持たず、しかしそれでも生活に支障が無い、魔力を持っている者もちゃんと教育を受ければまだしも、生活のちょっとした事に利用しているだけで日常生活に不可欠とまではいかないのが王国における魔法の存在感であった、しかしユーリが最も危惧するのは魔力保有者による差別である、冒険者時代から若干その傾向が見え隠れしていた、どうしても魔力を持つ者は魔力の無い者を下に見てしまうもので、それではいけないとユーリは経験的に理解し、前もって対処するべきだとして思い付いたのが件の大命題となる、当時、タロウやソフィア、ゲインは大いに賛同してくれて、クロノスもまたそういう事もあろうと理解を示してくれた、ルーツはまるで興味が無かった様子であるが邪魔をするような事も後押しをするような言葉も行動も無かったと記憶している、当時からルーツは素っ気ない男なのであった、
「まぁ・・・便利だと思うけどね、魔力ってやつは・・・」
タロウもンーと首を傾げる、
「そりゃ、アンタほど好きに使えればだけど、でも、そこまでは必要無いのよね」
「だろうね」
「そうなのよ、何もあれよ、大荷物を大量にさ懐に隠し持ったり、街を覆う程の結界を張ったり、山一つ吹き飛ばしたいって事じゃないし・・・」
「・・・出来れば便利だぞ」
「便利って、そんなのどう使うのよ、それも個人が、物騒以外の何物でもないわよ、クロノスとも話したけど、リンドさんとかアフラさんみたいなのが野盗にでもなってみなさいよ、衛兵や凡百の冒険者じゃ対処のしようが無くなるわ」
「そりゃ・・・その通りだ・・・」
「でも、逆に言うとそこまでしないのであれば別にね・・・うん、赤色の魔法石とか陶器板の暖房とか?あんな感じで充分なのかなーって最近は思うわね」
フッと顔を上げるユーリ、その視線の先にはメダカの水槽があり、その二面を覆うように陶器板が置かれている、それは静かに水槽を温めており、今足を突っ込んでいる炬燵も同様で、陶器板に魔法陣を仕込み魔力を熱に変換するその仕組みは薪の節約というその一事と、温度を調整できる点でもって大変に有用であった、赤色の魔法石も然りとなる、ソフィアにしろ研究所やエレインのソウザイ店でも便利に使われており、本来であれば大量の薪が必要な家事において、その必要が無いというだけでも経済的な効果は非常に高かった、無論資源という点でも大変に有用なのであるが、この時代にあっては資源の枯渇を気にするような倫理観は未だ存在していない、
「それとこれな」
タロウが炬燵の中央に置かれた小皿の光柱を指で弾く、
「それもあるわね」
「だね、こいつは凄いと思うがな」
「それは誰もが思うわよ」
「そりゃそうだけど、ほら、今日のあれも大したもんだよ、心底感心した」
「そう?」
「そりゃだって、俺関わってないもん」
「・・・そうだっけか・・・」
「そうだよ」
「でも、あれもね、ソフィアとわちゃわちゃやってたらあんな感じになって・・・いや、殿下だわね、大元は」
「それは聞いてる」
「でしょー、まぁ、それをさらに改良したのがゾーイとカトカだしね、あの子らも大したもんだわ」
「だねー・・・でも、そんなもんだろ」
「そんなもんなの?」
「だろ?第一、そうやって優秀な才能が集まってる事を喜べよ」
「そりゃそう思ってはいるけど」
「・・・なんだよ、何が不満なんだよ」
「不満は無いわよ、ただ・・・」
ユーリはンーと斜め上を見上げ、
「あれだ、なんかぶれてる感じがしてね、それが嫌」
「そりゃだって、割り切るしかないよ、最終的な目標はあるんだし、お前がそれを見誤らなければいいだけだ」
「簡単に言うわねー」
「簡単だ、いいか世の中は基本簡単に出来ているんだ、それを小賢しい連中が難しくして喜んでいるんだよ、如何にも頭が良さそうな奴がな、適当に引っ掻き回して悦にいってるんだ、そういう連中を阿呆というんだよ、一定数いるもんだそういう輩は、勉強しか出来ない馬鹿ってやつな、頭が良いだけの無能って感じだ」
「なによそれ・・・」
「そのままだよ、ほれ、あれだ、学園の講師にも貴族様にも、役人にも多いんじゃないか?そんな奴」
「そりゃ・・・いるかしら・・・いるわね・・・確かに・・・」
「だろ?だから・・・うん、俺が思うにさ、一見して難しい事を簡単に説明しようってのが研究っていう行為で、学者や研究者がそれなんだよ、で、それを元にして技術にするのが職人の仕事だ、これは研究というよりも開発という分野になる・・・と思う、大雑把に言えば?」
「それは理解できるけど・・・」
「お前さんはその二つを同時にやろうとしてるからな、そりゃ、行き詰るさ」
「そうかしら?それはだって・・・別に分ける必要はないと思うけど・・・」
「確かにそうだが、別に考える必要はある、研究は研究、技術開発は技術開発、研究ってやつはね、それがわかったからどうなの?っていう何とも不毛な結果になる事が多い、いや、そっちのが多いもんだぞ、その分野の研究者でないと、デッ?と問い返されちゃう感じだな、しかし、開発に関しては逆でな、こういうのが欲しいとか、こうしたいんだがどうすれば出来るかって観点に立脚するもんで・・・あっ・・・となると、やっぱりお前さんはどちらかと言えば開発者になるのかな・・・」
ムゥと首を傾げるタロウである、
「どっちでいいわよ、めんどくさいわね」
「めんどくさいとはなんだ」
「なによ、世の中は簡単なんでしょ、簡単にしなさいよ」
「充分簡単だよ」
「だからめんどくさいって言ってるでしょ」
「めんどくさいとはなんだ」
「難しくないけど、うっとおしいのよ、その屁理屈が」
「・・・それもそっか・・・」
素直に認めるタロウ、まったくと顔を顰めるユーリである、しかしユーリとしてもそれもそうなのかもなと理解は出来た、自分自身求める所があってそれに進もうとしているが中々その歩みが実感できておらず、悶々としているのである、そして研究と開発が別であると考えれば確かにそうなのであった、ユーリが求めているのは技術であって探求ではない、その点で自分は開発者なのかもしれず、その為に研究しているとすれば納得はいく、
「まぁ・・・ほら、錬金術か・・・あの連中みたいにさ、出来もしないことを追い求めるのも一つではあるんだよ、あれこそ研究であり探求だな」
「あれはだって・・・でもそうなのよね・・・」
「だろ?」
「そうだけど、いいの言い切っちゃって、出来るかもよ、金やら銀やらの生成」
「遠い先にはね」
「出来るんじゃない・・・」
「多分・・・でも、俺も見た事は無い」
「そうなの?」
「そうだねー、理屈が分かれば無理だなこれってなるんだけど、その理屈に辿り着くまでが大変でね」
「その理屈を教えなさいよ」
「無理、難しい」
「ちょっと、世の中は簡単なんでしょ」
「うん、世の中は簡単だ、でもな、難しいんだ」
なんだよそれはとユーリは顔を顰め、タロウも何を言ってんだろ俺と苦笑するしかない、そこへ、階段が静かにギシギシと音を立てた、ありゃ騒ぎすぎたかなと二人が振り返るも、
「失礼します」
ソッと顔を出したのはデニスであった、エッと目を丸くする二人、
「あっ、良かった、申し訳ありません夜分に」
スッと背筋を正すデニス、
「えっ、あっ、いや、構わないけどどした?」
「うん、何?まだ仕事中なの、もう夜よ」
タロウとユーリがポカンと返す、
「はい、タロウ様に、緊急の用件との事で、ファース情報参謀殿がお越し頂くようにと」
背筋を正し斜め上を見上げて告げるデニス、しかし流石に声は押さえていた、昼間のように大声ではない、
「ファース?」
誰だっけと首を傾げるタロウ、すぐさま、
「あっ、えっ、なんかあった?」
と腰を上げる、
「申し訳ありません、詳細は伺っておりません」
「そっか・・・うん、わかった、今すぐ?」
「はい」
「了解」
とタロウは階段へ向かいデニスがその後について行く、
「・・・何事かしら?」
ユーリがポカンとその背を見送った。
「だから・・・やっぱり、ほら、ちゃんと研究内容を確立した方がいいと思うぞ」
タロウが湯呑を傾け眉を顰める、
「それは分かってるわよ、アンタが次から次へと持って来るからでしょ」
ブスッと反論するユーリ、ユーリもまた湯呑を傾けた、中身はワインである、タロウのそれも同じであった、
「それはだって・・・まぁ、ほら、あれだよ、良く言うだろ?知れば知る程知らないことが増えるってさ・・・」
「何よそれ?」
「そう思わないか?知識は有限だが、果ては無い、何故なら知恵が知識を増やすからだ、さらに時もまた知識を培う、知とは無限の落とし穴、違うか?」
「・・・何それ・・・分かる気はするけど・・・」
「そういうもんなんだよ、技術にしろ知識にしろね、終わりは無い、これだと思って満足しても、となるとこの場合は・・・ってかんじで、果てが無いもんだ、知識と知恵のせめぎ合いだな、どちらが先に枯渇するか、その果てを見てみたいとも思うが、それはそのまま知恵者の滅亡だろうね」
「・・・また小難しい屁理屈言い出して・・・」
「いや、これは真理だ」
「そうかもだけど・・・いや、違うわ、誤魔化さないでよ」
「誤魔化してはいないと思うけど、だから、ほれ、まずは書き出せ、お前どんだけ抱えてんだよ」
「・・・書き出す程じゃないわよ」
「いいから、四方八方に手を出しても上手くいかないもんだぞ」
「だから、それが分かってるからこうやって・・・」
相談しているんでしょと言いかけて黙り込むユーリ、タロウ相手に相談という言葉を使うのが不愉快に感じた為で、素面であればまだ素直に口にしていたであろうが酒が入って少しばかり意固地になってしまっていた、
「まったく、貸せ」
とタロウはユーリが手にする黒板をむしり取る、そこには先程の振動分離やら何やらが記されており、ユーリは入浴後のまったりした一時に丁度良いからとタロウを捕まえ、詳しく聞き出すつもりであったのが、それがユーリの研究所の抱える問題点へと議題は移り変わってしまっていた、
「消すぞ」
「いいけど・・・」
ブスーッと湯呑を煽るユーリ、タロウは襤褸布で適当に黒板を拭き上げ、白墨を手にする、そして、まずはとタロウが知る限りユーリが研究している内容を書き出した、無色の魔法石から始まり、赤色の魔法石、転送陣の改良と魔力集積の研究、こんなもんかなとタロウは顔を上げ、
「他には?」
とユーリを睨む、
「後は・・・ほら、クモ糸の改良とか、結界魔法の改良、それと光柱?あと・・・あれだ、陶器板とインクの改良もあるし・・・あっ、魔力の増大もあったわね、忘れてた、それとサビナのあれも今の所はうちの預かりって事になるけど、あれはまぁ・・・お手伝い程度かしらね・・・」
「・・・抱え過ぎだよ・・・」
呆れて目を細めるしかないタロウとなる、
「そうかしら?だって・・・やってたら増えていった感じ?」
「だろ?それはさっきも言ったさ、知れば知る程知らない事が増える・・・」
「・・・ムカつくけどその通りだわね」
「だな、だから、取り合えずどれかに集中した方がいいぞ、お前さんはだってあれだろ、魔力の無い者が魔法を使うにはってのが大命題だったろ?」
「・・・なに?覚えてた?」
「そりゃだって、俺もそれには大いに賛同しているからさ」
「そうだったわねー」
ハーと大きく吐息を吐いて俯くユーリ、大戦後ユーリがクロノスの下で世話になる事となり、研究したいと言い出したのがそれである、タロウとソフィアはそれは良いなと後押ししてくれて、クロノスもまぁお前が言うならと資金提供してくれた、しかしその研究は中々に難しかった、まずもって魔力そのものの理解を深める必要があり、明確な成果を上げられていない、結局クロノスの下ではクロノスやリンド、アフラからの要望もあって転送陣の改良を手掛ける事となり、それが一段落したあたりで学園への赴任が決まっている、ユーリとしても遅々として進まぬ研究に完全に腐っていた時期で、心機一転新しい研究の場を求めて学園の講師職を引き受けていたりした、
「初心は大事だ」
ムゥッとユーリを睨むタロウ、ユーリは初心ねーと呟き、
「でもそうなのよねー・・・一応ほら、光をね魔力に変換する術式は半分完成してるのよ」
ユーリがポツリと呟く、エッと驚くタロウ、
「なんだけど・・・それをほら、魔法陣内で溜めるとなると必然的に巨大になる?少し作ってみたけど、ちょっと現実的じゃなくてね・・・」
「ありゃま、なんだよ、ちゃんと進んでたのか・・・」
タロウは大したもんだと目を丸くした、よく考えればタロウが研究所の三人を振り回す事はあれど、彼女達がタロウを振り回す事はない、それはつまりタロウからは発信するが彼女達からは発信していないという事であり、ユーリの研究がどこまで進んでいるかをタロウは全く把握していなかったりする、興味はあったが、積極的に関わるつもりはなかった、
「そりゃだって・・・で、その延長で魔法石を使えないかって思ってて・・・で、今日のこれ?・・・」
「なんだよちゃんと繋がってるじゃんよ」
「そうなのよ、でも、先が見えなくてねー」
「それはしょうがないよ」
「枝葉の方が重要って感じる・・・」
「それは重要だけどさ、それは使い方の問題だろ?芯にある研究を忘れちゃ駄目だろ」
「だから、それがぼやけてる感じがしてね」
「じゃあ、直せ」
「そうよねー」
ボーッと黒板を見つめるユーリ、タロウの書いた数行の項目は自分の研究よりも遥かに有用に見えてしまう、まずもって魔力も持たない人々が魔法を使いたいと思っているかどうかが分からなかったりする、王国民の大半は魔力を持たず、しかしそれでも生活に支障が無い、魔力を持っている者もちゃんと教育を受ければまだしも、生活のちょっとした事に利用しているだけで日常生活に不可欠とまではいかないのが王国における魔法の存在感であった、しかしユーリが最も危惧するのは魔力保有者による差別である、冒険者時代から若干その傾向が見え隠れしていた、どうしても魔力を持つ者は魔力の無い者を下に見てしまうもので、それではいけないとユーリは経験的に理解し、前もって対処するべきだとして思い付いたのが件の大命題となる、当時、タロウやソフィア、ゲインは大いに賛同してくれて、クロノスもまたそういう事もあろうと理解を示してくれた、ルーツはまるで興味が無かった様子であるが邪魔をするような事も後押しをするような言葉も行動も無かったと記憶している、当時からルーツは素っ気ない男なのであった、
「まぁ・・・便利だと思うけどね、魔力ってやつは・・・」
タロウもンーと首を傾げる、
「そりゃ、アンタほど好きに使えればだけど、でも、そこまでは必要無いのよね」
「だろうね」
「そうなのよ、何もあれよ、大荷物を大量にさ懐に隠し持ったり、街を覆う程の結界を張ったり、山一つ吹き飛ばしたいって事じゃないし・・・」
「・・・出来れば便利だぞ」
「便利って、そんなのどう使うのよ、それも個人が、物騒以外の何物でもないわよ、クロノスとも話したけど、リンドさんとかアフラさんみたいなのが野盗にでもなってみなさいよ、衛兵や凡百の冒険者じゃ対処のしようが無くなるわ」
「そりゃ・・・その通りだ・・・」
「でも、逆に言うとそこまでしないのであれば別にね・・・うん、赤色の魔法石とか陶器板の暖房とか?あんな感じで充分なのかなーって最近は思うわね」
フッと顔を上げるユーリ、その視線の先にはメダカの水槽があり、その二面を覆うように陶器板が置かれている、それは静かに水槽を温めており、今足を突っ込んでいる炬燵も同様で、陶器板に魔法陣を仕込み魔力を熱に変換するその仕組みは薪の節約というその一事と、温度を調整できる点でもって大変に有用であった、赤色の魔法石も然りとなる、ソフィアにしろ研究所やエレインのソウザイ店でも便利に使われており、本来であれば大量の薪が必要な家事において、その必要が無いというだけでも経済的な効果は非常に高かった、無論資源という点でも大変に有用なのであるが、この時代にあっては資源の枯渇を気にするような倫理観は未だ存在していない、
「それとこれな」
タロウが炬燵の中央に置かれた小皿の光柱を指で弾く、
「それもあるわね」
「だね、こいつは凄いと思うがな」
「それは誰もが思うわよ」
「そりゃそうだけど、ほら、今日のあれも大したもんだよ、心底感心した」
「そう?」
「そりゃだって、俺関わってないもん」
「・・・そうだっけか・・・」
「そうだよ」
「でも、あれもね、ソフィアとわちゃわちゃやってたらあんな感じになって・・・いや、殿下だわね、大元は」
「それは聞いてる」
「でしょー、まぁ、それをさらに改良したのがゾーイとカトカだしね、あの子らも大したもんだわ」
「だねー・・・でも、そんなもんだろ」
「そんなもんなの?」
「だろ?第一、そうやって優秀な才能が集まってる事を喜べよ」
「そりゃそう思ってはいるけど」
「・・・なんだよ、何が不満なんだよ」
「不満は無いわよ、ただ・・・」
ユーリはンーと斜め上を見上げ、
「あれだ、なんかぶれてる感じがしてね、それが嫌」
「そりゃだって、割り切るしかないよ、最終的な目標はあるんだし、お前がそれを見誤らなければいいだけだ」
「簡単に言うわねー」
「簡単だ、いいか世の中は基本簡単に出来ているんだ、それを小賢しい連中が難しくして喜んでいるんだよ、如何にも頭が良さそうな奴がな、適当に引っ掻き回して悦にいってるんだ、そういう連中を阿呆というんだよ、一定数いるもんだそういう輩は、勉強しか出来ない馬鹿ってやつな、頭が良いだけの無能って感じだ」
「なによそれ・・・」
「そのままだよ、ほれ、あれだ、学園の講師にも貴族様にも、役人にも多いんじゃないか?そんな奴」
「そりゃ・・・いるかしら・・・いるわね・・・確かに・・・」
「だろ?だから・・・うん、俺が思うにさ、一見して難しい事を簡単に説明しようってのが研究っていう行為で、学者や研究者がそれなんだよ、で、それを元にして技術にするのが職人の仕事だ、これは研究というよりも開発という分野になる・・・と思う、大雑把に言えば?」
「それは理解できるけど・・・」
「お前さんはその二つを同時にやろうとしてるからな、そりゃ、行き詰るさ」
「そうかしら?それはだって・・・別に分ける必要はないと思うけど・・・」
「確かにそうだが、別に考える必要はある、研究は研究、技術開発は技術開発、研究ってやつはね、それがわかったからどうなの?っていう何とも不毛な結果になる事が多い、いや、そっちのが多いもんだぞ、その分野の研究者でないと、デッ?と問い返されちゃう感じだな、しかし、開発に関しては逆でな、こういうのが欲しいとか、こうしたいんだがどうすれば出来るかって観点に立脚するもんで・・・あっ・・・となると、やっぱりお前さんはどちらかと言えば開発者になるのかな・・・」
ムゥと首を傾げるタロウである、
「どっちでいいわよ、めんどくさいわね」
「めんどくさいとはなんだ」
「なによ、世の中は簡単なんでしょ、簡単にしなさいよ」
「充分簡単だよ」
「だからめんどくさいって言ってるでしょ」
「めんどくさいとはなんだ」
「難しくないけど、うっとおしいのよ、その屁理屈が」
「・・・それもそっか・・・」
素直に認めるタロウ、まったくと顔を顰めるユーリである、しかしユーリとしてもそれもそうなのかもなと理解は出来た、自分自身求める所があってそれに進もうとしているが中々その歩みが実感できておらず、悶々としているのである、そして研究と開発が別であると考えれば確かにそうなのであった、ユーリが求めているのは技術であって探求ではない、その点で自分は開発者なのかもしれず、その為に研究しているとすれば納得はいく、
「まぁ・・・ほら、錬金術か・・・あの連中みたいにさ、出来もしないことを追い求めるのも一つではあるんだよ、あれこそ研究であり探求だな」
「あれはだって・・・でもそうなのよね・・・」
「だろ?」
「そうだけど、いいの言い切っちゃって、出来るかもよ、金やら銀やらの生成」
「遠い先にはね」
「出来るんじゃない・・・」
「多分・・・でも、俺も見た事は無い」
「そうなの?」
「そうだねー、理屈が分かれば無理だなこれってなるんだけど、その理屈に辿り着くまでが大変でね」
「その理屈を教えなさいよ」
「無理、難しい」
「ちょっと、世の中は簡単なんでしょ」
「うん、世の中は簡単だ、でもな、難しいんだ」
なんだよそれはとユーリは顔を顰め、タロウも何を言ってんだろ俺と苦笑するしかない、そこへ、階段が静かにギシギシと音を立てた、ありゃ騒ぎすぎたかなと二人が振り返るも、
「失礼します」
ソッと顔を出したのはデニスであった、エッと目を丸くする二人、
「あっ、良かった、申し訳ありません夜分に」
スッと背筋を正すデニス、
「えっ、あっ、いや、構わないけどどした?」
「うん、何?まだ仕事中なの、もう夜よ」
タロウとユーリがポカンと返す、
「はい、タロウ様に、緊急の用件との事で、ファース情報参謀殿がお越し頂くようにと」
背筋を正し斜め上を見上げて告げるデニス、しかし流石に声は押さえていた、昼間のように大声ではない、
「ファース?」
誰だっけと首を傾げるタロウ、すぐさま、
「あっ、えっ、なんかあった?」
と腰を上げる、
「申し訳ありません、詳細は伺っておりません」
「そっか・・・うん、わかった、今すぐ?」
「はい」
「了解」
とタロウは階段へ向かいデニスがその後について行く、
「・・・何事かしら?」
ユーリがポカンとその背を見送った。
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「ここ……どこ?」
現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。
救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。
「ほら、食え」
「……いいの?」
焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。
行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
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