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本編
78話 吹雪の中で その3
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それから寮は暫くの間バタバタと騒がしくなる、吹雪の為に木窓を開けられず、それでも何とか各個人部屋の清掃を終わらせ、トイレや風呂場の清掃も終えている、ソフィアとしては普段手を入れられない個人部屋もそうであるが、トイレや風呂場、脱衣所の掃除を済ませられた事に満足していた、毎日の清掃ではどうしても手を抜きがちになる箇所となっており、この際だからと生徒達の尻を叩いて一斉に済ませる事が出来ている、ちなみにテラとニコリーネも結局事務所に戻って掃除をしたようで、テラ曰くニコリーネの作業部屋が一番酷かったと目を細めており、ウーと何か言いたそうに唸るニコリーネ、そういうもんでしょとユーリは笑うも、それでは駄目でしょとソフィアは怒っていたりする、ユーリとニコリーネが同時にムーとソフィアを睨むも、なによと睨み返すソフィア、結局黙るしかない二人であった、そして、
「あー・・・疲れたね・・・」
「ねー、でも久しぶりに仕事したって感じー」
「仕事はだって毎日やってるじゃないですかー」
「あれはだって・・・半分遊んでる・・・感じじゃない?」
「あら・・・じゃ、ジャネットさんには事務仕事も頼もうかしら」
「えー、エレイン様それは勘弁だよー」
「だって、遊んでるんでしょ?」
「だからー、ほら、なんて言うの?進んでやる仕事とそうでない仕事?」
「やる気の差ですねー」
「そう、それ、同じ仕事でも楽しめるのとそうでないのがあるんだよー」
「じゃ、楽しんで掃除すればいいじゃない」
「洗濯もですよ、先輩、雑なんだもん」
「それはだって、ちゃんと洗ったさー」
「雑でしたねー」
「ですよねー、あれじゃ汚しているみたいだったー」
「ヒドッ・・・いいよもー、はいはい悪うござんした」
ブーブー喚いてジャネットは仰向けに倒れ込む、正午を過ぎた頃合いでやっとソフィアがこんなもんかしらと満足したらしく、良かったーと生徒達は労役から解放され、炬燵に足を突っ込んで一休み中となる、オリビアが淹れてくれたお茶を舐めつつ、光柱の灯りの下、グズグズと語り合う少女達であった、
「あー・・・でも、なんかお腹空いたなー」
サレバがポツリと呟く、
「もう・・・サレバはこの時間なんか食べてるからねー」
コミンがムッと睨みつける、
「そうなんですか?」
「そうなんですよー、ほら、学園から帰る途中で買い食いですね、ご飯屋さんとか屋台とか」
「別にいいでしょー、ちゃんと自分で稼いだお金だしー」
「そうだけどー、使い過ぎだよー」
「そうかなー・・・だって・・・美味しそうだし・・・」
「それは分かるけどー」
ムーと顔を顰めるコミン、
「それ・・・気をつけた方がいいですよ」
ケイスがソッと口を開く、そうなんですかとコミンがサッと問い返した、
「はい、ほら、私も田舎育ちだからですけど、お金を使わないじゃないですか、田舎だと、だけど都会に出てくるとなんでもかんでもお金になっちゃって、で、逆にほら、お金があればなんでも出来るって気が大きくなる?で、散財しちゃって故郷にも帰れなくなる事ってあるみたいです、学園で注意されませんでした?」
「あー、それ言われましたー」
ルルがハッと声を上げ、レスタもうんうんと大きく頷く、
「でした、はい、覚えてます」
「でしょー、で、そうなるとね、卒業したのはいいけど故郷に戻れなくて、学園にお金を借りる寮生とか、こっちで日雇いで仕事する人がいるらしくて、寮からも追い出されますからね、どうしようもなくなる事があるそうですから、そうならないようにって事ですね」
「そっかー・・・だってよ、サレバー」
「むー、そん時はだって・・・六花商会に就職する・・・」
「なによ、勝手言ってー」
「別に構いませんけど、畑はないですよ、うちには」
静かに茶を楽しんでいたエレインがゆっくりと口を開いた、エレインもまたオリビアに急かされるように自室の掃除を済ませている、ブーブー言いつつも何とか熟し、これこそメイドの仕事ではないかと文句を言ったらオリビアに思いっきり睨まれている、ここは下手に逆らわない方がいいかしらとオリビアの機嫌を取る事としたエレインであった、
「あっ・・・それやだー」
「やだって・・・もう、無いものは無いの・・・サレバが戻れなくなったら私も戻れないじゃない、しっかりしてよ」
「えー・・・でもそうなったら、ほら、コミンはブラスさんの所に世話になればいいじゃないさー、ブノワトねーさんに頼んでー、こっちで修行だとかなんとか言ってさー」
「そういう問題じゃないでしょ、いい?お金は大事って事、何をするにも大事なの」
「そうね、買い食いするなとは言わないけど、お金は大事だわね」
「ですよねー」
「ブー・・・わかったー」
そのまま不貞腐れて仰向けに倒れ込むサレバ、都合二人目の脱落者である、そこへ、
「お疲れー」
ヌソッとタロウが階段を下りて来た、お帰りなさーいと生徒達の明るい声が響く、
「ありゃ・・・どしたの?」
「掃除が終わったので一休みしてました」
ルルがニコリと答え、そうなんですーと背を丸めて炬燵テーブルに顎を乗せるコミン、
「あっ・・・そっか、大掃除?」
「そう言うんですか?」
「言わない?」
「だって、掃除に大きいも小さいもないですよ」
「・・・それもそっか、でもまぁお疲れさん」
諸々を察してニコリと微笑むタロウ、昨晩ソフィアは明日は掃除だわねと生徒達が自室に戻った後に呟いており、どうやらそれが実行されたらしい、昨晩のソフィアの気合の入りようからするにそりゃ疲れただろうなと微笑むしかないタロウである、
「それ、なんですかー」
ケイスが目敏くタロウが手にした革袋を見つめる、中々に立派な革袋で、タロウが出掛ける時には持っていなかった筈で、まぁタロウの事だからまた変な所から取り出したのかなとも思う、
「あっ、お土産だよ、なんていうか・・・下賜っていうのかな?そんな感じ?」
「下賜・・・」
耳慣れない言葉だなと生徒達は首を傾げるも、テラとエレイン、オリビアにニコリーネはへーと理解したようで、
「王様からですか?」
と思わず問いかけるテラ、
「そだね、王様っていうか王家からになるのかな、遠路はるばるよう来たな、折角だから土産をやる、これ持って帰れ・・・って感じ?」
その表現はどうだろうと顔を顰めるニコリーネ、ニコリーネの父親もよくそうやって王家からの下賜品を手にして戻ったもので、母親はその度に王家にちゃんと感謝していたように思うし、自分もまた御馳走だと喜んだものである、王家の下賜となると大抵が肉の塊で大変に美味であった、
「その言い方は駄目ですよ・・・」
ムッとエレインがタロウを睨む、ですよねーと安堵するニコリーネ、テラとオリビアも顔を顰めている、
「そう?だってさ・・・まぁいいけど・・・あっ、ソフィアは?」
「上にいませんでした?」
「上?」
「はい、ユーリ先生の部屋の掃除とかなんとかって、ミナちゃんとレインちゃんもですね」
「ありゃ・・・あっ、そっか、ゴソゴソやってたね、外がうるさくてそれかと思った」
ウーンと階段を振り仰ぐタロウ、屋外の吹雪は勢いが収まっておらず、今もまだゴウゴウとうるさい程である、木窓もギシギシと悲鳴を上げていた、そりゃ生徒達のみならずテラやニコリーネも暖炉と炬燵の温かさを求めてしまうのも無理は無い、
「まっ、いっか、じゃ、どうしようかな、先に着替えて・・・」
とタロウは振り向いた瞬間にガラスのショーケースに気付き、
「あっ、いい感じだ・・・」
と荷物をドサリと置いて近寄った、あっそれもあったと振り向く生徒達、掃除にかまけてすっかり忘れてしまっていた、一番執着していたミナでさえもうすっかり頭にも無いであろう、
「ありゃ・・・凄いな・・・」
ポツリと呟くタロウ、なんだなんだと生徒達もテラとニコリーネも腰を上げる、当然倒れ伏していたジャネットとサレバも勢いよく立ち上がった、
「へー・・・よっぽど強いのかな・・・想定以上かも・・・」
ショーケースを開き件の小麦粉の塊が詰まったビーカーを手にするタロウ、女性達もそれを覗き込み、
「わっ、確かに」
「うん、増えてる?」
「増えてるね・・・」
「・・・これでいいんですか?」
「パンパンだー」
とそれぞれに思いついたままの感想が口を衝いた、
「うん、こうなるとは思ってたんだけど、でも、こんなになるとは思ってなかった・・・」
タロウもそのビーカーを手にしてウーンと首を傾げる、その小麦粉の塊はいつの間にやら異常に増えていた、ビーカーの中ほど迄しか無かった筈が、ビーカーいっぱいどころかこんもりとなだらかな小山のように盛り上がっている、タロウが見るに三倍以上に膨れている、こうなるんだなーと感心し、
「んー・・・これなら今日中に食えるかな?」
大きく首を傾げた、
「これ、食べるんですか?」
「だって、そうでしょ、ミナちゃんが美味しいものーって騒いでたし」
「タロウさんも言ってましたね・・・」
「食べれるの?」
「美味しそうですけど・・・」
「危なくないですか?お腹壊しません?」
「でも、蒸しパンみたい・・・」
「あっ、見た目はそうだね」
「うんうん、蒸しパンだー」
「でも、焼いてないよー、いや、蒸してないよ」
「だよね、火の入ってない小麦?」
「それはだって、食べれないよ・・・」
「だよねー」
やんやと騒がしくなる生徒達、確かにその通りだとタロウは微笑み、
「ん、大丈夫、これをそのまま食べる訳では無いからね、じゃ・・・うん、やるか」
ニヤーと振り返る、
「はい、やります、美味しくなるんですよね」
「そだねー」
「やる、やります、手伝います」
「ん、じゃ、そういう事で・・・取り合えず・・・着替えるか・・・」
タロウはビーカーを手にしたまま厨房へ向かう、エーッとその背に不満をぶつける生徒達、しかしまぁそれは当然だなとすぐに理解する、なにせタロウは正装とされる厳つい軍装のままで、それで調理となると流石に誰もが止めるであろうと思われた、
「あっ、じゃ、ソフィアさん呼んできます」
ルルがサッと階段へ向かう、
「そうね、お願い、あと、何かありますか?」
エレインがタロウの背に問いかけるも、
「何かってなに?」
キョトンと振り返るタロウ、モウと顔を顰める女性達であった。
それから今度は厨房が騒がしくなる、食堂の主はハナコ一匹となってしまった、しかしそのハナコも何をやっているんだろうと厨房への扉の前に行儀よくチョコンと座り生徒達を眺めている、
「あっ、ティルさんに会ったよー」
小麦粉を捏ねながらなんとはなしに口を開くタロウ、
「へー、仕事ですか?」
テラも小麦粉を捏ねながら問い返す、
「そうみたい、っていうかお手伝いって言ってたかな、ほら、お父さんが料理人さん?なもんで、食事会の手伝いだってさ、で、お父さんにも何故か挨拶してきた」
「そりゃまた・・・なんか変ですね」
ニコリと微笑むテラ、
「なー、娘がお世話になってますって、すんげーいい人だったよ、別に俺がお世話してるわけじゃないって言ったら笑ってた・・・父娘で・・・」
「あらそれは良かったです」
「ねー、であれだ、すんげーカッコいいおっさんだった」
「マジですか?」
一緒に小麦粉を捏ねているジャネットが食い付く、
「うん、優男って感じ、ティルさんはお父さん似なのかもねー」
ヘーと生徒達が何とはなしに関心し、見事にどうでもいい話だなとソフィアも微笑む、奥様達の井戸端会議そのものの会話であった、
「あっ、タロウさん、もっとですか?」
サレバがヒーヒー言いながら顔を上げる、その隣のコミンも不安そうに眉を顰めている、
「ん、じゃ、見して」
小麦粉を練りながら器用に首を伸ばすタロウ、サレバがよっとすり鉢を傾ける、
「もっとだね・・・うん、もっと、どろどろにして水みたいに」
「マジですか・・・」
「昨日のよりも酷いですよこれ・・・」
「そだねー、でも、美味しいぞー」
ニヤーと微笑むタロウ、そう言われたら奮起せざるを得ないサレバとコミン、その後ろで、
「タロウ、時間じゃ」
レインが砂時計を手にし、
「時間だー」
ミナが大きく叫ぶ、
「はいはい、ちょっと待ってな」
小麦粉をまとめると一旦放置しミナの元へ向かうタロウ、ミナとレインの前では蒸し器が湯気を上げており、穀物特有の甘い香りが漂っている、
「ん、いい匂いだねー」
「じゃのう」
「出来た?出来た?」
ピョンピョン飛び跳ねるミナ、レインも興味深げに蒸し器を睨む、
「ん、開けてみようか・・・あー、ソフィア頼む」
粉まみれの自分の手を見てソフィアに声をかけるタロウ、ハイハイとソフィアが鍋から離れて蒸し器に向かい、手拭いで手を覆って蒸し器の蓋を外す、
「これでいいの?」
「あっ、布も開けて」
「そりゃそうだ」
ソフィアは続けて中の布を開いた、途端、ムワンと米特有の芳香が広がり、あー、懐かしい等と感じるタロウ、へーと覗き込むソフィアとレイン、ミナもタロウの腕に掴まってつま先立ちで何とか覗き込む、ソフィアとしてもこの調理法は初めてで、生徒達も手を止めて集まりだす、
「うん、いい感じだと思う、うん、これは想像通りかなー・・・」
タロウはさてどうしようかと周囲を探ると、ルルがサッとスプーンを差し出す、ありがとうと受け取るタロウ、そのスプーンで布の中身をほじくり出し、フーっと軽く冷ましてパクリと口に入れた、どうだとタロウを見つめる女性達、タロウは熱そうにホフホフ言いながら、軽く咀嚼し、ゴクンと飲み込むと、
「うん、美味い、いい感じだね、これなら期待出来る・・・」
なにやら一人納得し大きく頷いた、
「美味しいの?」
ピョンと飛び跳ねるミナ、
「おう、美味いぞ、あっ、じゃ、ほれ、少しずつな、熱いから気をつけて・・・あっ、違うな、そっちに空けるか、いや、このまま次に移りたいが・・・」
とタロウは悩むも、女性達の目が爛々と蒸し器に注がれている、
「あー・・・先に試食かな、皆さん、食べ過ぎないように」
とサッと場所を空けた、ワッと集まる女性達、
「へー・・・真っ黒だー」
「そりゃそうよね」
「でもいい匂いー」
「だねー、へー、知らなかったー」
「ねー、美味しそう」
「うん、これは美味しそう」
「よし、少しずつね」
「少しずつ」
「ミナもー、ミナもアジミー」
「はいはい、ちょっと待ってなさい」
ギャーと騒がしくなる厨房、ハナコも立ち上がり厨房に下りたそうにワタワタとうろつき始めてしまった。
「あー・・・疲れたね・・・」
「ねー、でも久しぶりに仕事したって感じー」
「仕事はだって毎日やってるじゃないですかー」
「あれはだって・・・半分遊んでる・・・感じじゃない?」
「あら・・・じゃ、ジャネットさんには事務仕事も頼もうかしら」
「えー、エレイン様それは勘弁だよー」
「だって、遊んでるんでしょ?」
「だからー、ほら、なんて言うの?進んでやる仕事とそうでない仕事?」
「やる気の差ですねー」
「そう、それ、同じ仕事でも楽しめるのとそうでないのがあるんだよー」
「じゃ、楽しんで掃除すればいいじゃない」
「洗濯もですよ、先輩、雑なんだもん」
「それはだって、ちゃんと洗ったさー」
「雑でしたねー」
「ですよねー、あれじゃ汚しているみたいだったー」
「ヒドッ・・・いいよもー、はいはい悪うござんした」
ブーブー喚いてジャネットは仰向けに倒れ込む、正午を過ぎた頃合いでやっとソフィアがこんなもんかしらと満足したらしく、良かったーと生徒達は労役から解放され、炬燵に足を突っ込んで一休み中となる、オリビアが淹れてくれたお茶を舐めつつ、光柱の灯りの下、グズグズと語り合う少女達であった、
「あー・・・でも、なんかお腹空いたなー」
サレバがポツリと呟く、
「もう・・・サレバはこの時間なんか食べてるからねー」
コミンがムッと睨みつける、
「そうなんですか?」
「そうなんですよー、ほら、学園から帰る途中で買い食いですね、ご飯屋さんとか屋台とか」
「別にいいでしょー、ちゃんと自分で稼いだお金だしー」
「そうだけどー、使い過ぎだよー」
「そうかなー・・・だって・・・美味しそうだし・・・」
「それは分かるけどー」
ムーと顔を顰めるコミン、
「それ・・・気をつけた方がいいですよ」
ケイスがソッと口を開く、そうなんですかとコミンがサッと問い返した、
「はい、ほら、私も田舎育ちだからですけど、お金を使わないじゃないですか、田舎だと、だけど都会に出てくるとなんでもかんでもお金になっちゃって、で、逆にほら、お金があればなんでも出来るって気が大きくなる?で、散財しちゃって故郷にも帰れなくなる事ってあるみたいです、学園で注意されませんでした?」
「あー、それ言われましたー」
ルルがハッと声を上げ、レスタもうんうんと大きく頷く、
「でした、はい、覚えてます」
「でしょー、で、そうなるとね、卒業したのはいいけど故郷に戻れなくて、学園にお金を借りる寮生とか、こっちで日雇いで仕事する人がいるらしくて、寮からも追い出されますからね、どうしようもなくなる事があるそうですから、そうならないようにって事ですね」
「そっかー・・・だってよ、サレバー」
「むー、そん時はだって・・・六花商会に就職する・・・」
「なによ、勝手言ってー」
「別に構いませんけど、畑はないですよ、うちには」
静かに茶を楽しんでいたエレインがゆっくりと口を開いた、エレインもまたオリビアに急かされるように自室の掃除を済ませている、ブーブー言いつつも何とか熟し、これこそメイドの仕事ではないかと文句を言ったらオリビアに思いっきり睨まれている、ここは下手に逆らわない方がいいかしらとオリビアの機嫌を取る事としたエレインであった、
「あっ・・・それやだー」
「やだって・・・もう、無いものは無いの・・・サレバが戻れなくなったら私も戻れないじゃない、しっかりしてよ」
「えー・・・でもそうなったら、ほら、コミンはブラスさんの所に世話になればいいじゃないさー、ブノワトねーさんに頼んでー、こっちで修行だとかなんとか言ってさー」
「そういう問題じゃないでしょ、いい?お金は大事って事、何をするにも大事なの」
「そうね、買い食いするなとは言わないけど、お金は大事だわね」
「ですよねー」
「ブー・・・わかったー」
そのまま不貞腐れて仰向けに倒れ込むサレバ、都合二人目の脱落者である、そこへ、
「お疲れー」
ヌソッとタロウが階段を下りて来た、お帰りなさーいと生徒達の明るい声が響く、
「ありゃ・・・どしたの?」
「掃除が終わったので一休みしてました」
ルルがニコリと答え、そうなんですーと背を丸めて炬燵テーブルに顎を乗せるコミン、
「あっ・・・そっか、大掃除?」
「そう言うんですか?」
「言わない?」
「だって、掃除に大きいも小さいもないですよ」
「・・・それもそっか、でもまぁお疲れさん」
諸々を察してニコリと微笑むタロウ、昨晩ソフィアは明日は掃除だわねと生徒達が自室に戻った後に呟いており、どうやらそれが実行されたらしい、昨晩のソフィアの気合の入りようからするにそりゃ疲れただろうなと微笑むしかないタロウである、
「それ、なんですかー」
ケイスが目敏くタロウが手にした革袋を見つめる、中々に立派な革袋で、タロウが出掛ける時には持っていなかった筈で、まぁタロウの事だからまた変な所から取り出したのかなとも思う、
「あっ、お土産だよ、なんていうか・・・下賜っていうのかな?そんな感じ?」
「下賜・・・」
耳慣れない言葉だなと生徒達は首を傾げるも、テラとエレイン、オリビアにニコリーネはへーと理解したようで、
「王様からですか?」
と思わず問いかけるテラ、
「そだね、王様っていうか王家からになるのかな、遠路はるばるよう来たな、折角だから土産をやる、これ持って帰れ・・・って感じ?」
その表現はどうだろうと顔を顰めるニコリーネ、ニコリーネの父親もよくそうやって王家からの下賜品を手にして戻ったもので、母親はその度に王家にちゃんと感謝していたように思うし、自分もまた御馳走だと喜んだものである、王家の下賜となると大抵が肉の塊で大変に美味であった、
「その言い方は駄目ですよ・・・」
ムッとエレインがタロウを睨む、ですよねーと安堵するニコリーネ、テラとオリビアも顔を顰めている、
「そう?だってさ・・・まぁいいけど・・・あっ、ソフィアは?」
「上にいませんでした?」
「上?」
「はい、ユーリ先生の部屋の掃除とかなんとかって、ミナちゃんとレインちゃんもですね」
「ありゃ・・・あっ、そっか、ゴソゴソやってたね、外がうるさくてそれかと思った」
ウーンと階段を振り仰ぐタロウ、屋外の吹雪は勢いが収まっておらず、今もまだゴウゴウとうるさい程である、木窓もギシギシと悲鳴を上げていた、そりゃ生徒達のみならずテラやニコリーネも暖炉と炬燵の温かさを求めてしまうのも無理は無い、
「まっ、いっか、じゃ、どうしようかな、先に着替えて・・・」
とタロウは振り向いた瞬間にガラスのショーケースに気付き、
「あっ、いい感じだ・・・」
と荷物をドサリと置いて近寄った、あっそれもあったと振り向く生徒達、掃除にかまけてすっかり忘れてしまっていた、一番執着していたミナでさえもうすっかり頭にも無いであろう、
「ありゃ・・・凄いな・・・」
ポツリと呟くタロウ、なんだなんだと生徒達もテラとニコリーネも腰を上げる、当然倒れ伏していたジャネットとサレバも勢いよく立ち上がった、
「へー・・・よっぽど強いのかな・・・想定以上かも・・・」
ショーケースを開き件の小麦粉の塊が詰まったビーカーを手にするタロウ、女性達もそれを覗き込み、
「わっ、確かに」
「うん、増えてる?」
「増えてるね・・・」
「・・・これでいいんですか?」
「パンパンだー」
とそれぞれに思いついたままの感想が口を衝いた、
「うん、こうなるとは思ってたんだけど、でも、こんなになるとは思ってなかった・・・」
タロウもそのビーカーを手にしてウーンと首を傾げる、その小麦粉の塊はいつの間にやら異常に増えていた、ビーカーの中ほど迄しか無かった筈が、ビーカーいっぱいどころかこんもりとなだらかな小山のように盛り上がっている、タロウが見るに三倍以上に膨れている、こうなるんだなーと感心し、
「んー・・・これなら今日中に食えるかな?」
大きく首を傾げた、
「これ、食べるんですか?」
「だって、そうでしょ、ミナちゃんが美味しいものーって騒いでたし」
「タロウさんも言ってましたね・・・」
「食べれるの?」
「美味しそうですけど・・・」
「危なくないですか?お腹壊しません?」
「でも、蒸しパンみたい・・・」
「あっ、見た目はそうだね」
「うんうん、蒸しパンだー」
「でも、焼いてないよー、いや、蒸してないよ」
「だよね、火の入ってない小麦?」
「それはだって、食べれないよ・・・」
「だよねー」
やんやと騒がしくなる生徒達、確かにその通りだとタロウは微笑み、
「ん、大丈夫、これをそのまま食べる訳では無いからね、じゃ・・・うん、やるか」
ニヤーと振り返る、
「はい、やります、美味しくなるんですよね」
「そだねー」
「やる、やります、手伝います」
「ん、じゃ、そういう事で・・・取り合えず・・・着替えるか・・・」
タロウはビーカーを手にしたまま厨房へ向かう、エーッとその背に不満をぶつける生徒達、しかしまぁそれは当然だなとすぐに理解する、なにせタロウは正装とされる厳つい軍装のままで、それで調理となると流石に誰もが止めるであろうと思われた、
「あっ、じゃ、ソフィアさん呼んできます」
ルルがサッと階段へ向かう、
「そうね、お願い、あと、何かありますか?」
エレインがタロウの背に問いかけるも、
「何かってなに?」
キョトンと振り返るタロウ、モウと顔を顰める女性達であった。
それから今度は厨房が騒がしくなる、食堂の主はハナコ一匹となってしまった、しかしそのハナコも何をやっているんだろうと厨房への扉の前に行儀よくチョコンと座り生徒達を眺めている、
「あっ、ティルさんに会ったよー」
小麦粉を捏ねながらなんとはなしに口を開くタロウ、
「へー、仕事ですか?」
テラも小麦粉を捏ねながら問い返す、
「そうみたい、っていうかお手伝いって言ってたかな、ほら、お父さんが料理人さん?なもんで、食事会の手伝いだってさ、で、お父さんにも何故か挨拶してきた」
「そりゃまた・・・なんか変ですね」
ニコリと微笑むテラ、
「なー、娘がお世話になってますって、すんげーいい人だったよ、別に俺がお世話してるわけじゃないって言ったら笑ってた・・・父娘で・・・」
「あらそれは良かったです」
「ねー、であれだ、すんげーカッコいいおっさんだった」
「マジですか?」
一緒に小麦粉を捏ねているジャネットが食い付く、
「うん、優男って感じ、ティルさんはお父さん似なのかもねー」
ヘーと生徒達が何とはなしに関心し、見事にどうでもいい話だなとソフィアも微笑む、奥様達の井戸端会議そのものの会話であった、
「あっ、タロウさん、もっとですか?」
サレバがヒーヒー言いながら顔を上げる、その隣のコミンも不安そうに眉を顰めている、
「ん、じゃ、見して」
小麦粉を練りながら器用に首を伸ばすタロウ、サレバがよっとすり鉢を傾ける、
「もっとだね・・・うん、もっと、どろどろにして水みたいに」
「マジですか・・・」
「昨日のよりも酷いですよこれ・・・」
「そだねー、でも、美味しいぞー」
ニヤーと微笑むタロウ、そう言われたら奮起せざるを得ないサレバとコミン、その後ろで、
「タロウ、時間じゃ」
レインが砂時計を手にし、
「時間だー」
ミナが大きく叫ぶ、
「はいはい、ちょっと待ってな」
小麦粉をまとめると一旦放置しミナの元へ向かうタロウ、ミナとレインの前では蒸し器が湯気を上げており、穀物特有の甘い香りが漂っている、
「ん、いい匂いだねー」
「じゃのう」
「出来た?出来た?」
ピョンピョン飛び跳ねるミナ、レインも興味深げに蒸し器を睨む、
「ん、開けてみようか・・・あー、ソフィア頼む」
粉まみれの自分の手を見てソフィアに声をかけるタロウ、ハイハイとソフィアが鍋から離れて蒸し器に向かい、手拭いで手を覆って蒸し器の蓋を外す、
「これでいいの?」
「あっ、布も開けて」
「そりゃそうだ」
ソフィアは続けて中の布を開いた、途端、ムワンと米特有の芳香が広がり、あー、懐かしい等と感じるタロウ、へーと覗き込むソフィアとレイン、ミナもタロウの腕に掴まってつま先立ちで何とか覗き込む、ソフィアとしてもこの調理法は初めてで、生徒達も手を止めて集まりだす、
「うん、いい感じだと思う、うん、これは想像通りかなー・・・」
タロウはさてどうしようかと周囲を探ると、ルルがサッとスプーンを差し出す、ありがとうと受け取るタロウ、そのスプーンで布の中身をほじくり出し、フーっと軽く冷ましてパクリと口に入れた、どうだとタロウを見つめる女性達、タロウは熱そうにホフホフ言いながら、軽く咀嚼し、ゴクンと飲み込むと、
「うん、美味い、いい感じだね、これなら期待出来る・・・」
なにやら一人納得し大きく頷いた、
「美味しいの?」
ピョンと飛び跳ねるミナ、
「おう、美味いぞ、あっ、じゃ、ほれ、少しずつな、熱いから気をつけて・・・あっ、違うな、そっちに空けるか、いや、このまま次に移りたいが・・・」
とタロウは悩むも、女性達の目が爛々と蒸し器に注がれている、
「あー・・・先に試食かな、皆さん、食べ過ぎないように」
とサッと場所を空けた、ワッと集まる女性達、
「へー・・・真っ黒だー」
「そりゃそうよね」
「でもいい匂いー」
「だねー、へー、知らなかったー」
「ねー、美味しそう」
「うん、これは美味しそう」
「よし、少しずつね」
「少しずつ」
「ミナもー、ミナもアジミー」
「はいはい、ちょっと待ってなさい」
ギャーと騒がしくなる厨房、ハナコも立ち上がり厨房に下りたそうにワタワタとうろつき始めてしまった。
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余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
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試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
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