セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

79話 兄貴達 その23

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タロウが食堂に入ると子供達はお絵描きの時間のようであった、皆黒板を手にして思い思いに手を動かしており、ミナとサスキアとフロールがメダカの水槽に向かっており、他の子供達は寝そべるハナコを囲んでいる、これは微笑ましいなとタロウは思うも問題はハナコを囲む子供達の中にニコリーネも混じっている事で、変わりにレインがちょこまかと子供達の黒板を覗き込んで何やら話している、つまりレインが講師役になっており、ニコリーネはそのお役目をすっかり放り出していることであった、まぁ、それはそれでいいのかなと思うタロウ、時折ブロースやノールかノーラがニコリーネの黒板を覗き込んでウメーとか上手ーとか叫んでいるようで、まぁ楽しくやっているのであろう、その主旨から大きく逸脱しているも、楽しければそれでいい、幼稚園やら保育園なぞはそれで十分とも思う、そしてミナがギャーギャー騒ぎ出す前にタロウは昨晩準備したガラス容器を懐に仕舞いこみ、掃除中のソフィアに声をかけて鉄の箱と昨晩仕込んだパン酵母の元種を持ち出す、まぁこんなもんかとそそくさと三階へ上がるタロウ、ハナコがつまらなさそうにタロウを見上げるも、子供達とニコリーネが動くなと叫び、キューと悲しそうに鳴いていた、そして、

「あれだねー、やっぱり休みはいいでしょー」

イフナースの屋敷からソウザイ店へ向かう道すがら、タロウはなんとはなしにカトカとゾーイに微笑んだ、

「そう・・・ですねー・・・」

寒そうに肩を竦めるカトカが呟き、

「でも、何かやってないと飽きますよー、実家ではすっかりお客様になっちゃってー」

ゾーイがニコニコと微笑む、

「そっかー、そういう感じになっちゃうかー」

「ですよ、ほら、実家だと何もする事無くて、両親もゆっくりしてろって言うんですけど、ゆっくりもなにもって感じで・・・、一緒に住んでるときはそんな事一言も無かったんですよ、急に扱いが丁寧になったんです、気持ち悪いくらいですよ」

「あー・・・でも、いいなー、簡単に帰れてー」

「それはだって、申し訳ない感じですけどー」

「まぁねー、片道三日だからねー、私の故郷ー、移動するのも一仕事だしなー・・・暫く帰って無いなー」

「手紙くらいは出してるんでしょ」

「時々ねー、向こうから届いた時に返信する感じー」

「それ駄目ですよー」

「そんなもんだよー、だって、元気かどうか聞いてくるだけだしさー」

「そうかもですけど、色々あるじゃないですかー、話したい事ー」

「そりゃ・・・あるけどさ、でも、研究の事書いてもなー・・・理解できないと思う」

「それもそうですけどー」

タロウをほっぽって明るく掛け合うカトカとゾーイ、タロウはどこぞも変わらんなーとほくそ笑んでしまう、

「あっ、タロウさんは故郷に戻らないんですか?」

ゾーイがそのままの明るい言葉でタロウを見上げた、エッと驚いたのはカトカである、ソフィアとユーリからタロウの事情は聞いている、それが真実かどうかは分からないがタロウですら難儀する程に遠方なのだとか、その特異な知識と知恵からも確かにそう言われればそうなのかもなとなんとなく理解していたりする、

「んー・・・遠いからねー、ちょっと難しいかなー」

タロウはノホホンと答えた、

「転送陣でもですか?」

「転送陣でも無理だねー」

「そう言えば、あれってどこまで遠くまで行けるんですか?」

「あー・・・それは調べた事が無いかなー・・・でも、結構遠くまで行けるよねー」

「ですよねー、それでも足りない?」

「そうなんだよー、困った事にねー」

ニコーと誤魔化し笑いを浮かべるタロウ、そうなんだーとゾーイは軽く微笑み返すも、カトカはムゥとタロウを見上げる、どう聞いても誤魔化している、何かにつけて隠し事の多い男である、その出自も恐らく嘘であると感じられ、先程の光の件もそうであったが、なんとも得体の知れない事ばかりを口にしている、本当にこの人は何者なのだろうと不信感とは言わずともより強く警戒心を煽られてしまった、

「あっ、でね、休日の重要性ってやっぱりあるよね」

タロウは話題を戻した、昨日のカトカの発見、先程のゾーイの発案、この二つがなんとはなしに脳裏に浮かび思わずそう口にする、

「重要性ですか?」

「そっ、だって二人ともさ、休みでゆったりした時に思いついたんでしょ、違う?」

ニコリと微笑むタロウ、アッと顔を見合わせるカトカとゾーイ、

「そういうもんなんだよねー、ほら、君らは特にさ、頭を使う仕事だからどうしてもそれに集中すると他の・・・なんていうか知識がさ、入って来ないって事ない?」

「・・・そうかな?」

「そうかも?」

同時に首を傾げるカトカとゾーイ、

「そうだと思うよー、だから、特にカトカさんのあれはね、思いついたらさ、逆になんでこんな簡単な事に気付かなかったんだって思わない?」

「・・・そう言われれば・・・」

「ですねー」

ポカンとタロウを見上げる二人、まったくタロウの言う通りである、材料は全て目の前にあったのだ、魔族由来の特殊なインクも、無色の魔法石の削りカスも常に目の前にあり、それを好き勝手に使っていたのである、しかし誰もそれを混ぜるという発想には至らなかった、

「それにゾーイさんのも、多分あれはお父さん?が感心しつつも不便だなって思ったんだと思うけど、逆にほら普通にね使っていたらこんなもんだって感じで発想すらなかったでしょ、それこそ巨大な光柱をあそこまで小さくしただけでも偉業と言っていいからね、その先どうするかって発想も必要性も感じなかったんじゃないかな」

「そう・・・ですね、はい、その通りです」

ゾーイが大きくゆっくり頷く、

「なんだよねー、で、君らの仕事にはその発想とかが最も大事なんだけど、これがまたね、作業に没頭してたりするとなかなか難しかったりするよね、面白いことにね」

タロウはニコニコと二人に微笑む、俗に言うコロンブスの卵とかゴルティアスの結び目というやつで、気付いてしまえば簡単な事なのであるが、その気付きが大変に難しく、それさえ乗り越えればあっという間に解決してしまう事例は多いように思う、そしてその気付きに至る者は大変に希少である、狭き門、やや大仰であるがそう表現されるべき天才達のみが辿り着く奇跡のようなものなのかもしれない、

「面白いかどうかはあれですけど・・・理解はできます」

ムーと不愉快そうに顔を顰めるカトカ、ゾーイもそうかもなーと苦笑してしまう、

「フフッ、まぁだからって事じゃないけど、定期的に休みを取った方がいいと思うよ、君達も」

「休みですか?」

「それはだって・・・どうなんでしょう?」

「まぁ、休めばね、新しい発想が湧き上がるって訳では無いんだけど・・・気分的な余裕が生まれるし、そうなると考え方も変わるし、思考も柔軟になるしね・・・でも簡単では無いかな・・・休日っていう概念が薄いからなここの人達」

タロウは言い過ぎたかなと首を傾げた、王国民は基本的に祭りの日と年末年始以外に公休日は無い、あるとすれば役所や商会などの組織が勝手に定めた定休日がそれであり、それは凡そ十日区切りとなっている、これは六花商会の例を出すまでも無く給料日と同一の扱いであり、九日仕事して一日休みが入りそれを繰り返す形となる、さらには一か月という区切りはあれど一週間という区切りは無い、某一神教の概念が無い為に七日で一区切りにするという発想が無く、神が休んだから自分達も労働を止めて神に祈るという習慣が無いのだ、それでも働き尽くめという雰囲気では決してない、それは一日の労働時間が早朝から昼過ぎ程度と短く、午後に入れば大概の人は自宅に帰る為で、タロウとしてもなるほど、このシフトの方が遥かに人間らしいのかもなと考えてしまっていた、無論それに該当しない職業も多い、小売店は逆に午後から忙しくなるであろうし、遊女屋は夕方からが稼ぎ時となる、農家も当然で、繁忙期と閑散期で労働時間は大きく異なるであろう、それでもそれぞれに、それなりに時間的なゆとりのある生活をしているらしく、商人でさえあくせくしている様子は少なかった、全体的にのんびりしており、タロウの知る社会活動よりも遥かに人間らしいなと感じてしまっていた、

「休みっていってもなー・・・」

「・・・ですよねー・・・持て余す感じですかねー」

「だよねー、ゾーイさんはまだいいですけど、私すんごい暇だったし・・・」

「そうなりますよねー」

「分かります?」

「だって・・・こっちに来てからはあれですけど・・・前の研究所だと・・・そんなに忙しくなくて・・・」

「あー、言ってたねー」

「なんですよー、だから、今すんごい充実している感はあります」

「そだよねー」

「楽しいですよ、今の仕事・・・っていうか研究所」

「だよねー」

「ありがたいくらいです、はい」

再びタロウをほっぽって話し込む二人、そういう問題ではないのだがとタロウは思うも、まぁ、二人がそれなりに余裕をもって仕事をしているのであればそれが最良なのであろう、特に夕食まで提供され、それがまたやたら豪華な現状は二人としてもありがたい限りであろう、しかし、その拘束時間を考えればあまり余裕は無いようにも思うが、かといって目が三角になり、目の下に隈を作ってやせ細るような勤務状態では決してない、そこまでギリギリと働く文化が無いのであった、実に羨ましい状況なんだよなとタロウはほくそ笑む、

「まぁ、いいけどね、たまには休むのが大事って事だね」

タロウはニコリと切り上げた、既にソウザイ店の前である、本日準備中との看板が出されており、それを見つめていた如何にも奥様然とした二人組が残念そうに踵を返した、客だったんだろうなーとタロウはその寂しそうな背を見送り店内に入ると、待ってましたとマンネルとフェナが顔を上げ、奥様達も振り返る、

「ゴメン、少し遅れた、じゃ、早速やりますか」

タロウはニヤリと微笑み、ハイッと元気よく返すマンネル、フェナも、

「カスタード、これくらいでいいですか?」

と鍋を持ち上げる、

「はいはい、少し硬め?」

「そのつもりですけど、あと、ジャムも用意できました、冬ミカンですけどいいですかね?」

「リンゴは無かった?」

「数が少なくて」

「そっか、でも、冬ミカンでも美味しそうだね」

「大丈夫です?」

「大丈夫、大丈夫、甘くすればなんでも美味いよ」

「そんな適当な事言ってー」

ケタケタと笑う奥様達、そこに、

「あっ、タロウさんお久しぶりですー」

と二階からティルとミーンが駆け下りて来た、さらに若いメイドさんが二人下りてくる、コーバとベーチェで、さらにリーニーの姿もあった、どうやら呼ばれたらしい、

「久しぶり、そっか、教えるなら全員集めた方がいいよね」

「ですね、っていうかなんでそんな大事なものを私達がいない間にやるんですか、少しは配慮してくださいよー」

ギャーと喚くティル、まったくだと踏ん反り返るミーン、これにはコーバとベーチェは苦笑いで、リーニーもそれは流石にどうかなと困り顔である、

「あー、そういう気分だったんだ、ほら、カトカさんにも怒られたからさ、それで勘弁してよ」

ニコーと微笑むタロウ、

「別に怒ってないですよ!!」

カトカがギャンと吠えたてる、

「えっ、あれで怒ってないの?」

「あれって・・・怒りましたかね?」

「怒られたと思うよ、すんげー怖かった・・・」

「なんですかそれ!!」

「ほら、怒った、なー、怖いだろー」

とタロウが振り向くも非難の視線はタロウに向いている、あっと思うタロウ、この場にいるのは女性ばかりである、どのような論を展開しても、どのような奇術を用いようと男であるタロウの肩を持つ者は少ない、いや存在しない、マンネルでさえどうしたもんだかと顔を顰めている、どうやらすっかり女性達に囲まれて仕事をする技術を身に着けたようで、

「・・・うん、じゃ、真面目にやるか・・・」

すっと表情を消して歩き出すタロウ、

「ちょ、まったくもー」

プリプリと肩を怒らせるカトカ、苦笑しつつ二人に続くゾーイであった。
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