お言葉ですが殿下、その婚約破棄は非常に合理的です!

パリパリかぷちーの

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「……お言葉ですが、皆様。密談をするなら、もっと防音性の高い部屋を選び、かつ参加者の体臭管理を徹底すべきですわ。非効率な熱気が廊下まで漏れていますわよ」

旧王都の片隅、古びた地下倉庫。
かつての特権を奪われ、再雇用先すら見つからない無能な貴族たちが集まっていたその場所に、場違いなほど美しい声が響き渡った。

「い、イザベル・ヴァン・クロムウェル……! なぜここが分かった!」

首謀者である元伯爵が、震える手で剣を抜いた。
周囲を囲む十数人の男たちも、一斉に武器を構える。
しかし、入り口に立つイザベルは、扇子でパタパタと顔を仰ぎながら、退屈そうに手元の魔導端末を確認した。

「なぜ、ですって? 貴方たちがこの倉庫を借りる際、偽名を使わずに『元・貴族割引』を要求したからですわ。その瞬間に我が国のリスク管理システムがアラートを鳴らしました。……ガバナンスが緩すぎますわね」

「黙れ! 我々は貴様のような血も涙もない女に、この国を渡した覚えはない! 今ここで貴様を討ち、王政復古の狼煙を上げるのだ!」

「狼煙、ですか。……現在の王都の空気質指数を考慮すると、煙を出す行為には環境税が課せられますわよ。……公爵様、彼らの殺意(コスト)を削いでいただけますか?」

イザベルの背後から、影のようにアリストテレス公爵が現れた。
彼は抜剣することすらなく、ただ冷徹な瞳で一瞥しただけで、その場にいた男たちの動きを凍りつかせた。

「イザベル。……やはり、軍を出して一掃すべきだったのではないか? 反逆者は即座に『除却』するのが定石だ」

「いいえ、公爵様。軍を動かすには兵糧、給与、馬の維持費……多大なコストがかかりますわ。……彼らのような『不良在庫』に、そこまでの投資をする価値(バリュー)はありません。……もっと安価で、確実な方法があります」

イザベルは一歩前に出ると、バインダーから数枚の書類を取り出し、床にバラ撒いた。

「元伯爵、貴方は昨年度、領民からの税を二割着服していますわね。そちらの元男爵は、王宮の銀食器を市場で勝手に売却。……そして全員、過去三年にわたり、公爵領への『未払い債務』がありますわ」

「な、……な、なんだと……!?」

「今この瞬間、私は貴方たちの全資産を差し押さえ、かつ、その不始末を司法へ正式に告発いたしました。……つまり貴方たちは現在、反逆者である前に、ただの『破産した犯罪者』ですわ」

イザベルは、パチンと指を鳴らした。
すると、倉庫の周囲を固めていたのは騎士団ではなく、山のような書類鞄を持った「徴税官」と「弁護士」の集団だった。

「剣を振るう体力があるなら、そのリソースを債務の返済に充てなさい。……計算したところ、貴方たちが一生、工事現場で土を運び続ければ、ちょうど三十年で完済できる見込みですわ」

「さ、三十年だと!? ふざけるな! 我々は貴族だぞ!」

「『元』ですわ。……お言葉ですが、過去の栄光にしがみつく時間は、現在の私の時給の百分の一の価値もありません。……さあ、抵抗するならどうぞ? その場合、逃亡防止コストとして、さらに利息を三割上乗せさせていただきますけれど?」

イザベルの冷酷な、しかし完璧に理にかなった宣言に、男たちは崩れ落ちた。
武器はカランと床に落ち、倉庫にはすすり泣く声だけが響く。

「……掃討完了ですわね。……セバス、彼らを『再教育センター・肉体労働部門』へ一括搬送しなさい。……在庫整理が済んで、スッキリいたしましたわ」

「かしこまりました、イザベル様。……さすがの棚卸し技術、感服いたしましたぞ!」

セバスが手際よく男たちを連行していく中、アリストテレスは呆れたように肩をすくめた。

「……血を流すよりも、数字で心を折る方が残酷だな、君は」

「褒め言葉として受け取っておきます。……さあ、公爵様。これで王国内の『負の遺産』は全て一掃されました。……ようやく、本腰を入れて『結婚式という名の巨大プロジェクト』に集中できますわ」

イザベルは、アリストテレスの腕にしがみついた。
その仕草は少女のように愛らしいが、口から出る言葉は相変わらずだ。

「……挙式費用の回収率(ROI)を最大化するために、周辺諸国の元首たちに『招待状兼・投資提案書』を送っておきました。……祝儀ではなく、我が国への投資として資金を集めます。……完璧なビジネスモデル(結婚式)ですわ!」

「……ふ。君と家族になるということは、世界で一番有能なCEOを妻にするということらしいな」

アリストテレスは彼女の額にキスをした。
二人の背景には、もはや非効率な反乱の火種はどこにも残っていなかった。

一方、その頃。
再教育センターでは、新しく運び込まれてきた元貴族たちに、ウィルフレッドが泥だらけの顔で説教をしていた。

「……いいか、新入り。ここでは『愛』なんて言葉は禁句だ。……イザベル様に聞こえたら、一日の摂取カロリーを計算し直されるぞ……。今は、ただ、効率的に泥を運べ……」

王国の「清算」は、完璧なまでに遂行されていた。
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