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アルマ
戸惑いの始まり
しおりを挟む眼光鋭い金色の目に、サイドが刈り上げられた青い髪は前髪が真上に立ち上げられ、美しい顔と言えばそうなのだが、それはどう見ても令嬢ではない。胸筋も発達しているように見えるし、肘まで捲り上げたシャツから覗く腕は大変逞しい。その男を見た時、俺が呆けた顔をしてしまったのは仕方がないことだと思う。
「旦那様、奇跡です! 旦那様の嫁になりたいというお方が現れたのです」
「何!? すぐに屋敷に招きたい!
国内にはもう婚約者の無い年頃の令嬢はおらんと認識していたが、他国の令嬢か?
一生独身かと諦めていたが、俺の嫁になりたいという者がいるのであれば、どんな容姿であってもどんな性格であっても俺は受け入れるぞ」
「やっと、旦那様の夢が叶いますな」
「あぁ。殺伐とした戦場で長年過ごしてきたんだ。これから先の人生は、愛する妻と仲睦まじくのんびりと過ごしたい」
俺は戦いは好きだが、狩りなどと違い人を殺す戦争に心がすり減ってしまっていた。
どんなに英雄だと讃えられたとしても、それは血に染まる戦場を目にしていないからそんなことを言えるんだ。部下や上官や仲間が血だらけになって倒れている姿を何度も目にした。
もう心が折れてしまいそうな時に、やっと戦争は終わった。
凱旋すると華々しく迎えられたが、やはり現実として俺のような見た目が厳つい傷だらけの男を見ると、若い女性は怯えて影に隠れた。
夜会で見かけた年頃の令嬢に声をかけてみたが、青い顔をして倒れてしまったり、泣き出してしまったり、ダンスの相手をしてもらうことすらできなかった。
そして戦場ですり減った心は、女性たちから避けられることで更に抉られていった。
陛下にも相談し、嫁に迎えた女性に暴力を振るったり、辛く当たることなど無いと説明し、何名か紹介してもらったのだが、上手くはいかなかった。
どんな容姿でも、どんな性格でも愛してみせると、国内の令嬢に片っ端から婚約の打診をしてみたのだが全滅。その最後の報告を受けて絶望していたのはつい1月前のことだった。
しかし女神はいたのだ。
こんな俺の嫁になりたいという人が現れたとか。
この人を逃したら、もう俺は一生独身だと思い、即答で婚約期間も取らず結婚を了承した。
輿入れの日まで、隣国のコスタ王国出身ということと名前しか知らなかったが、ヴィヴァーチェととても愛らしい名前で、名前を聞いただけでときめいた。
ヴィーと略して呼んでもいいだろうか?
彼女のために、家具を新調し、レースのカーテンと大きなベッドも用意した。
衣装や小物などは彼女の趣味に合わせて一緒に選ぼう。手を繋いで街を歩いたり、ピクニックに行ったり、馬に相乗りして湖にも行きたいな。テラスでハーブティーを飲みながら花を愛でるのもいいな。
まだ見ぬ妻との幸せな未来を想像しては、ドキドキと胸を高鳴らせた。
が、しかし……
屋敷に来たのは、美しいと言えば美しいが、柔らかさの欠片もない引き締まった体の男だった。
「アルマ・メテオリーテだ。あなたはどなただろうか?」
「私はヴィヴァーチェ。隣国であるコスタ王国のクオーレ子爵家の三男です」
何かトラブルでもあって本人が遅れている報告を持ってきた従者か何かと思ったが、本人だった。そして三男ということは、間違いなく男だ。
「俺と結婚したいと聞いているが、間違いないか?」
「はい」
間違いであってほしかった。もう迎え入れると決めて手続きもしてしまったし、今更断れないか……
俺の甘い結婚生活という夢がガラガラと音を立てて崩れていった。
同性婚も一部の国を除いては許可されているし、おかしいことではないのは分かっているが、俺は女性と結婚したかった……
この男、俺の嫁になりたいなど、何を考えている。てっきり女性だと思ってレースのカーテンや、可愛い家具を用意してしまった。
妻の部屋の家具は買い替えるため、しばらくは客間に滞在してもらうか。
「あー、まだ部屋の用意ができていないんだ。すまんが、しばらくは客間を使ってほしい」
「分かりました」
必要最低限のことしか話さないこの男と、俺はどうやってコミュニケーションを取ればいいんだろうか?
それとも、緊張しているんだろうか?
いずれ離縁するにしても、他国のこんな辺境に嫁いできたんだから疲れもあるし緊張もするだろう。
「俺はヴィヴァーチェ殿のことは名前しか知らん。何かここでの暮らしに希望などはあるだろうか? やりたいことや趣味でもいい」
「アルマ様の側に、いたいです。
それと、ヴィヴァーチェ殿という呼び方はやめてもらいたい。できればヴィーと……」
「分かった。できるだけ希望に応えよう」
「ありがとう」
昼には一緒に食事をとったが、お互い終始無言でカチャカチャと食器にカトラリーが当たる音しかしなかった。
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