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2.頼った先で
しおりを挟む僕はこれからどうしよう。
住むところもない。行く宛てもない。
学園長が、どこにも行く宛てが無い時は相談に来ていいって言ってくれたから、僕は最後の望みを掛けて、隣国の学園に向かうことにした。
お金ももう残り少ない。
宿に何度も泊まったら、底をついてしまうかもしれない。
僕は怖かったけど、夜は街の建物の影などで仮眠をとって、昼間は馬車の中で少し寝たりして移動を繰り返した。
お金の価値が分からなくて、レストランに入ってご飯を食べていたけど、屋台ってところでパンを買うと安いってことを知った。
恥ずかしかったけど、一番安いものはどれか聞いて、そのパンを2つに割って朝と夜に食べたりしてお金を節約した。
夜に街の建物の影で寝ていると、おじさんやお兄さんに声をかけられることがあった。
「一晩いくらだ?」
「え?」
「男娼だろ?」
「違います」
「なんだ」
ダンショウって誰だろう?
僕はその知らない人に間違われることがよくあって、きっとその人と僕は似てるんだろうと思った。
たまに無理やり腕を掴まれて連れていかれそうになることもあったけど、抵抗して声を上げると逃げて行く人がほとんどだった。
腕力はそんなに無い僕だけど、強く腕を掴んでくる人には氷魔法で冷気を一気に浴びせたりして怯んだ隙に逃げた。
僕はもう貴族の子息じゃないから、誘拐しても身代金なんて出ないのに不思議。
街って怖いところなんだな。知らなかった。いつも護衛や従者がいたり、学園の寮も屋敷もこんなに怖いことは無かった。
しまった、知らない男の人に腕を触らせてしまった。と思ったけど、もう僕はニコラスの婚約者ではないんだから関係ないことだった。
それから僕は、夜に寝る時は木の上に登って寝るようになった。
それならダンショウって人に間違われることもないし、腕を掴まれて連れていかれそうになることもないから。
乗合馬車もケチって乗ったから、国に戻ってくる時よりも学園に向かうのには時間がかかった。
学園に着くと、学園長に面会を希望したら、すぐに通してくれた。
「レスター、戻ってきたということは、やはり国には居づらかったんだな」
「はい……婚約は解消されていて、彼は貴族でなくなった僕の顔を見たくないようでした。どこへ行けばいいのか、これからどうやって生きていけばいいのか分からなくて、ご迷惑をおかけすると分かっていながら学園長を頼ってしまいました。申し訳ありません」
「いや、いいんだよ。頼ってくれてよかった」
学園長は優しい顔で笑ってくれたから、僕はやっと安心できて、ふぅっと息を吐くことができた。
「僕は仕事の探し方も分かりません。迷惑をかけないようすぐに出ていきますので、どうか仕事の探し方を教えてもらえないでしょうか」
「いいよ。住むところもないんだろう?わしの家においで」
「ありがとうございます」
学園長の仕事が終わるまで学園長室で待たせてもらい、僕は学園長と共に学園長の家へ向かった。
「さぁ、始めようか」
「始める? 仕事の探し方を教えてもらえるのですか?」
「何を言っているんだ?」
「ごめんなさい。えっと、僕は何をすればいいんでしょうか?」
「とりあえず風呂に入ろう」
「僕は浄化をかけられるので大丈夫です」
「じゃあさっそく始めるか。さぁ服を脱いで」
「服を?」
「そうだよ。まさかタダで泊めてもらおうと思ったのか?」
「あ、ごめんなさい。お金の手持ちが少なくて、必ず働いて返します。少し待ってもらえませんか?」
「ダメだ」
そう言って僕の腕を掴んだ学園長の目はギラギラと獲物を狙うような目をしていてとても怖かった。
僕が後退ると、学園長は僕の腕を強く引いて顎を掴むと無理やりキスをしてきた。
「嫌っ……」
そして学園長は、僕の襟元に手をかけて服を破った。何が起きたのか分からず、ただ恐ろしいことが起きたのだということだけは分かって、僕は腕を振り解いて逃げた。
家から出ると、とにかく走った。
走って走って、息が苦しくて吐きそうになる限界まで走ると、建物の陰に隠れて息を潜めた。
追いかけてきてはいないようでホッとしたら、足がガクガクと震えてきた。
学園長は、善意で僕を心配してくれているのだと思っていたけど、そうではなかった。
世の中にはそんな人などいないのかもしれない。
唇同士のキスは、愛するもの同士がするのだと思っていたし、服を脱げと言ったり服を破ったのも、何の目的でそんなことをしたのかが分からなかった。
ナイフで切り裂かれたり、殺されるのかもしれないと思ったら、怖くて戻ることはできなかった。
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