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11.レスターの家(メレディス視点)
しおりを挟む退学となったと言った学園に戻すことは簡単だが、彼を手込めにしようとした学園長がいる学校になど戻せるはずがない。
しかし彼はまだ若い。勉強が好きかどうかは分からないが、途中で断念させるのはもったいないと思い、知り合いの引退した元教師のマイストに家に来てもらうことにした。
「マイスト、レスターの様子はどうだ?」
「メレディス様、彼をどこで見つけてきたんです?かなり優秀ですよ。教えたことはすぐに覚えますし、捻りを加えた問題を出してもきっちり対処してきます」
「そうか。勉強は楽しそうにやっているか?」
「えぇ。しっかり学んでメレディス様に恩返ししたいと言っておられましたよ」
助けてもらったのは私の方なのだし、そんなこと気にすることはないんだが。
優しいだけでなく、彼は真面目なんだな。
私には敵が多い。
宰相という立場上、派閥には属さず中立を保っているが、こちらに付けと金や女などをチラつかせて呼ばれることは多々ある。
その派閥に有利な法案を通すためにそのようなことをしてくるのだが、それを父に付いて勉強している頃から見てきたから、誰も信用できなかった。
父には、心内を打ち明けて相談できる者を1人でいいから作れとずっと言われてきたが、結局そんな相手は作れず今に至る。
当初は亡くなった父の後を継ぐので必死だった。
いつも殺気だっていただろうし、近付き難いとも思われていただろう。
別にそれでよかった。
信頼できる者など作って、いつ裏切られるか分からないとビクビクするなどごめんだ。
そう思っていたのに、初めは恐る恐る私の様子を窺っていたが、時間が経つにつれて私のことを何の迷いもなく慕ってくれるようになったレスターの姿に私の心が少しずつ解れていった。
当初はしっかり独り立ちできるまでは守ってやらないといけないと庇護欲のようなものを感じただけだった。
しかし、いつか私の手を離れていくのかと思うとだんだん焦りが出てきた。
どうにか彼の心の中に入り込みたい。
彼の特別になりたいと思い始めると、その気持ちが止められなくなった。
1人の少年に執着している自分を恐ろしくも思ったが、それでも私は彼を見つめることをやめられなかった。
このような真面目で真っ直ぐな彼を、処刑され潰れてしまうような家で育てられるものなんだろうか?
疑問が湧いた私は、彼の家を調べることにした。
他国ではあるが、伯爵家の当主と嫡男が処刑され、家が取り潰されるなど、なかなかあることではないから、家がなくなった事実は知っていた。しかし、詳細までは知らなかった。
調べるにつれて、怪しい影がチラつくようになった。辻褄も合わない。
民衆に、彼の家を悪者にすることで怒りの矛先を向けた。それが真実なのだと思った。
それなら、もしかして彼の家を再興してやることができるのではないか?
「ゼスト、あいつを呼べ」
「畏まりました。あまり無茶なことは困りますよ」
「大丈夫だ。見つからんように上手くやる」
「そうですか。分かりました」
私は諜報活動を得意とする人間を呼び、真相の調査と証拠集めを依頼した。
その証拠は散々なものだった。
やはり彼の父親も兄も無罪だ。
彼と同じで温厚で人のいい家族だった。
そして、正義感が強かった。
複数の貴族が関与した国の財政の横流し。それを知った彼の父は証拠を集めてその罪を明らかにしようとしたらしい。
途中で何者かの裏切りによりバレてしまい、全ての罪を被せられた末の結末だった。
彼の元婚約者の家もそれに関わっていたらしい。救いようがない。彼に知らせていいものか悩む。
優しいレスターが心を痛めるのを想像すると、躊躇ってしまう。
しかしいつかは話さなければならないだろう。
彼のことが、彼の家族の無念が、とても悲しく苦しい。このまま彼の家族を罪人としておくことはできないと思った。
それを知ってしまうと余計に彼の様子が気になって、寝る前に彼の部屋を訪れて、顔を見ておやすみの挨拶をするのが日課になった。
「メレディス様、おやすみなさい」
今日も穏やかな笑顔でよかった。
彼のその顔を見ないと、安心して眠れなくなった。
元々眠りは浅い。我が国でも問題は山積みだし、他国の問題に口出しするなど危険なことは分かっている。
用意は周到に。時間はかかっても必ず家族の名誉を回復してやるからな。
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