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28.オルロー王との駆け引き(メレディス視点)
しおりを挟む「メレディス様、僕と踊っていただけませんか?」
「いいよ」
踊っていれば体を密着させていても不自然ではない。
これはこれで幸せだな。
周りに見せつけるようにグッと彼の腰を引き寄せ、彼の目を見つめて踊った。
「レスター、愛してるよ」
そして彼にしか聞こえないように耳元で囁いた。
すると、彼はポーカーフェイスを保ったまま、少し瞳を揺らした。
そんな姿もたまらなく可愛い。
「メレディス様と踊ることができて嬉しいです」
「そうだな。初めてだったがレスターが相手だと楽しかったよ」
私たちは連れ立って王の元へ挨拶に行った。
「ソリターリオ宰相殿、ようこそお越し下さいました」
「お招き感謝いたします」
「ベリッシモ伯爵とはお知り合いですかな?」
「えぇ、彼は私の婚約者です。今日はお招きに応じたのもありますが、婚約者を迎えにきたんですよ」
「そ、そうでしたか」
「私の婚約者のことでご相談がありまして、少々お時間をいただけませんか?」
「分かった。この後で時間を作ろう」
「感謝いたします。では後ほど」
レスターは一瞬目を見開いたが、すぐにポーカーフェイスに戻った。
「メレディス様、僕はメレディス様と結婚したいです」
「ん?私もレスターと結婚したいよ。今すぐにでもここから連れ去って結婚したい」
「ではなぜ?」
「心配するな。私とレスターの結婚は絶対だ」
「分かりました。メレディス様にお任せします」
城の使用人が呼びにきて私とレスターは王の元へ向かった。
「人払いしてあるから気楽にしてくれて構わない」
「感謝いたします」
「レスターから、伯爵家を再興するのは結婚するためだと聞いていたが、相手がソリターリオ宰相殿だとは。あの鮮やかな手際から、やり手のバックが付いていることは分かっていたが、そうか」
「別に私はレスターが貴族でなくても結婚したと思いますが、彼の家族の名誉を回復し立場を守るために少々手を貸しただけです」
「……そうですか」
「それより、私の大切な婚約者に手を出した者がおりましてね」
「聞いてる。暴力行為を行ったのだとか」
「えぇ。襲おうとして彼が断ると暴力行為に及んだ。ドラータ王国宰相である私の婚約者にね。彼は我が国の王も気に入っている人物でね。ただでさえ彼の境遇に胸を痛めておられた。この意味がお分かりになりますかねぇ?」
「そ、そうだな。きっちり対処すると約束しよう」
「それがいいですね。私もいくら彼や彼の家族を切り捨てた国とはいえ、彼が生まれ育った国を荒らしたいわけではないんですよ」
「は、はい」
隣国とはいえ、この国は我が国であるドラータ王国と比べれば弱く小さい国だ。
国土も半分以下だし、産業や技術など全てにおいて劣っているこの国が私の大切なものに手を出そうとしたことは決して許しはしない。
「ところでレスターが返還された財産で何をしたかご存知ですか?」
「軽くは聞いている」
「そうですか。彼は彼の父や兄の成し遂げられなかったことを行った。彼にとっては何の得にもならないことを領民のために行う。貴族の鑑のようだとは思いませんか?」
「そう、だな」
「ベリッシモ伯爵家を慕う領民は多いでしょうね。ベリッシモ伯爵家が無くなりレスターが消えたら誰のせいだと思われますかねぇ?」
「…………」
「簡単なことですよ。ベリッシモ伯爵家の名を残しませんか?という提案ですよ」
「残す……なるほど」
「確かこの国には王子が大勢いるとか。例えばの話ですが、今回の罪を暴いた功績や冤罪により命を奪われた者たちへの償いとして侯爵まで陞爵し、レスターの養子にしてベリッシモ家を存続したりなんてこともできなくはないですよね」
「ふむ、確かに。それは前向きに考えてみよう」
「ただ、私も忙しい身でしてね、彼を先ほどのように危険な目に遭うような場所に長く置いておきたくはないですし、愛しい婚約者を早く連れて帰りたいんですよ」
「わ、分かりました。明日には返答いたします。どうかお時間をいただきたい」
「そうですか。では私は愛しい婚約者と積もり積もる話もしたいですし、もうそろそろお暇しますね」
「そ、そうですか。分かりました」
「あぁ、見送りは結構ですよ。さぁ、レスター行こうか」
「はい」
ちょっと圧をかけすぎたか?
王の額から大粒の汗が今にも流れ出しそうになっているし、目が怯えたように揺れている。
まぁこれくらいはされて当然だろう。何せ何の罪もないレスターの家族を死に追いやり、レスターの保護もせず捨て置いたんだからな。
私はそのままレスターを連れて駐車場へ行き、私の家の豪華な馬車で宿へ向かった。
「メレディス様、ありがとうございます。僕はこの国に残らないからベリッシモ家は無くなるしかないって思っていました。そんな方法があるなんて。
それに、会話の主導権をサッと握ったところがすごく格好良かったです」
少し強引に進めたと自分でも思っていたし、一言も口を挟まなかったから、もしかしたら私の強引なやり方に引いているのではないかと不安だったが、それは杞憂だったようだ。
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