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騎士学校篇
7.
しおりを挟む「リアン、久しぶりだね、ここでの生活には慣れた?」
食堂でみんなと昼食をとっていると、ディート兄さんの知り合いに声をかけられた。僕はこの人を見たことはあるけど、素性は知らない。入学前に騎士団の見学に来た日に会った三人組のうちの一人だ。
「寮生活には慣れましたが、訓練はまだ慣れません」
僕の周りにいた友達が警戒していたから、ディート兄さんの知り合いだと説明してあげた。
「リアンは華奢だからな。騎士と同じトレーニングはきついよな」
「はい……」
騎士学校では学生も騎士と同じ訓練をする。ただし学生は少し軽めのメニューだ。
体格がよく体力もあった龍男の体でも、耐えられるか分からないような訓練が連日行われている。
毎朝二十キロのランニングから始まり、一年生の初めは基礎体力向上のメニューばかりだ。何もしなければ僕は倒れてしまうから、たまにこっそり体力回復をかけたり、筋肉痛にならないように筋繊維の修復を促したり、身体強化を使ったりして、なんとかみんなについていっている。
みんな魔法を使わずにこんなメニューをこなしているんだから凄すぎると思う。
「リアンは華奢だが、俺たちにちゃんとついてきている。凄いことだ!」
「そうだそうだ!」
友達が僕を褒めてくれるから、ズルをしているなんて言えない雰囲気になってしまった。
「そうか、リアンは可愛いのに偉いな」
兄さんの知り合いは僕の頭を大きな手で撫でて去っていった。
僕のこと心配して来てくれたんだろうか? 名前も知らない人だけど、ありがとう。今度ディート兄さんに聞いておこう。
騎士学校は学生なのに、先輩騎士について街の巡回や清掃活動もするから給料が出る。騎士に比べたらとても少なくてお小遣い程度なんだけど、給料が出ることで僕には楽しみが増えた。
寮の部屋を可愛く飾り付けることだ。
騎士になると夜勤もあるということで、昼間でも寝られるよう、窓には遮光性の高い分厚く黒いカーテンがかけられている。全く可愛くないからレースを重ねた可愛いカーテンを内側につけてみたんだ。
ベッドカバーは力作だ。三ヶ月もかかって刺繍をして、縁を囲むようにリボンを取り付けた。クマやウサギのぬいぐるみも置いてある。可愛い瓶を並べたり、前世の妹の部屋のように可愛い部屋にしている。
妹の部屋は白とピンクでまとめていたが、僕の部屋は白と青でまとめてある。自分だけのお気に入り空間だ。
友達に給料の使い道を聞いたら、武器や防具を新調した人が多かった。他には、屋台で串焼きを山ほど買って食べたとか、服を買ったとか、恋人とのデートに使ったなんて人もいた。羨ましい……。
学生生活が半年を過ぎる頃には、僕の友達は百人を超えた。こんなにたくさんの友達ができるなんて本当に信じられない。学生だけでなく、騎士の友達もたくさんいる。
父上や兄さんたちが強いからかもしれない。父上、兄さん、ありがとう。三人のおかげで僕の学生生活は楽しいです。
相変わらず基礎体力向上の訓練は辛いけど、途中で前衛と後衛を分ける試験があって、前衛は盾とか剣とか槍で戦うんだけど、僕は全然ダメだった。
後衛は魔法や弓などの遠距離攻撃や伝令役など後方支援で、僕は後衛になった。それで盾や剣で戦う訓練を免除されてからは少し楽になった。
といっても、全くやらないわけじゃない。敵に接近された時に何もできないようではダメだから少しは剣の訓練もする。
後衛の中でも僕は魔法での遠距離攻撃だから、訓練の時はドーム型の訓練場で的に向かって魔法を撃つだけでとても楽だった。
魔法の威力は周りのみんなと合わせている。だいたい二割から三割くらいの力でやっているから、魔法訓練の時間だけは本当に休憩時間みたいなものだ。
一年も後半になると、遠征に連れていかれる。その時も僕は背の高い友達に囲まれて、全然みんなが戦ってるところが見れなかった。せっかく見学に行ったのに残念だ。
二年に上がり、明らかに僕より強い後輩たちが入学してきた頃、友達が神妙な顔をして話しかけてきた。
「リアンはザイフェルト家の子息だから、もうそろそろ社交デビューするのか?」
「社交デビュー?」
そんな話は聞いてないから戸惑った。それで慌てて父上の隊長室を訪ねたら、そろそろだなと言われた。
「社交デビューって何をするんですか?」
「着飾ってパーティーに出るだけだ」
父上の説明はそれだけだった。なんてことないように言うから、誕生日パーティーのようなものだと思った。
「王城で開かれる建国記念のパーティーで社交デビューだ」
そう父上に言われ、友達にも一応伝えてみた。
当日は王都の実家に帰って、メイドにスーツに着替えさせられた。結婚式の新郎が着るような派手なスーツで、スーツって言うのかな? 日本にいた頃は社会人経験もないし、正式な名前を知らない。内側に着たシャツは襟と袖がフリフリだった。
すっかりその存在を忘れていたけど、入学式で着ると思っていたスーツはパーティーで着るためのものだった。
王城のパーティーに暗器は持ち込めないから、いつもつけているかんざしの形の暗器はつけない。その代わり、髪を綺麗に編んでもらった。自分ではできそうにないけど、とても可愛くしてくれた。
「フロリアン様、とてもお似合いですよ」
「そう? 綺麗にしてくれてありがとう」
こんなスーツや髪型が似合うのもフロリアンの外見のおかげだ。
「ふむ。フロリアン、気をつけろよ」
馬車に乗る時に父上に言われた。気をつけろとだけ言われても、何のことだか分からなかった。
今日は父上も兄さんたちも着飾っている。兄さんたちのスーツは筋肉がありすぎて窮屈そうだ。暑いと言って袖を捲っているから、袖がもう既に皺になっているし、実際暑い。
ゴリゴリに鍛えた大男が馬車に三人もいるんだから、暑いんだろう。
王城は初めてだ。騎士団みたいな高い壁に囲まれた場所。馬車で跳ね橋を通り過ぎるとヨーロッパのお城という感じの大きな石造りの建物があった。
貴族が集まるから、騎士が等間隔に立っていて、会場に向かう途中に何人か友達を見かけた。
会場となる大きなホールの周りにも大勢の騎士がいて、これはただの誕生日パーティーなんかではないと今更ながら気付いた。
「フロリアン、危ないから俺から離れるなよ。離れるならグレーリかディートヘルムを連れていけ」
父上に言われて途端に怖くなった。今度こそ本当に命の危険があるのかもしれない。攫われて殺されるかもしれないと思った。
「父上が脅すからリアンが怯えています」
グレ兄さんが大丈夫だと背中をさすってくれた。ディート兄さんは馬車を降りるところまでは一緒だったけど、すぐにどこかへ消えてしまった。
「フロリアンの気が小さいのはなかなか治らないな」
父上にため息をつかれ、申し訳なさでいっぱいになる。それは龍男の頃からだから、もう治らないのではないかと思う。龍男の頃はまだ体が頑丈で力も強かったが、フロリアンは華奢で力も弱い。気を大きく持つ方が難しいんだ。
会場に入ると、とても豪華だった。天井からはキラキラしたシャンデリアがいくつも吊るされていて、すごく綺麗で目を奪われた。そして綺麗なドレスを着た人がたくさんいる。
近くで見てみたいと思ったけど、僕は間も無く友達に囲まれた。
「父上、リアンは心配なさそうです」
「これが親衛隊とやらか」
父上とグレ兄さんが何か話していたけど、僕は友達に囲まれて聞こえなかった。
友達がお勧めの飲み物や、軽食も持ってきてくれた。
「みんなありがとう。父上が危険だって言っていたから、少しパーティーが怖かったけどみんながいてくれるなら安心」
「我らはリアンの盾だ!」
「「「おー!」」」
みんなは怖がる素振りもなくパーティーを楽しんでいる。
高い人の壁に囲まれて、僕は陛下の顔を見ることもできなかった。でも、安全には変えられないからいいんだ。
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