17 / 44
騎士学校篇
17.
しおりを挟む僕はずっと恋について考えていた。今まで読んだことはなかったが、図書室にある娯楽コーナーの恋愛の物語も読んでみた。
この世界には恋愛漫画もドラマもアニメもない。だから物語を読むか体験談を聞くしか恋について知る方法はなかった。
「リアンが恋に目覚めたというのは本当だったんだな」
「そうじゃなくて、僕は恋というものが分からないから、どんなものなのか調べたくなっただけです」
「そうなのか。なるほど?」
しばらく図書室に通ったり、友達から恋について聞いたりしていると、また殿下から呼び出された。
最近は呼び出しの回数が減っていた。遠征とかで忙しかったのかもしれない。他にお気に入りを見つけたのかもしれない。理由は僕には分からない。
学生生活もあと残り三ヶ月ほどだ。
騎士学校は学校と名がつくけど、普通の学校のように中間や期末などの試験は無い。試験は無いけど、できるまで徹底的に鍛えられる。
兵糧の計算や、国内外の情勢については、底辺騎士の間に色々学べばいいから、学生の間に全て覚えなければいけないわけじゃない。
退学する人はたまにいる。理由は色々だ。訓練が辛くて逃げる人、理由は分からないけど突然いなくなる人、酷い違反行為をして退学になる人。学生の間は騎士が守ってくれるから、騎士生命を絶たれるような怪我をすることはない。だけど騎士になれば、自分の命は自分で守らなければならなくなる。学生だから、まだ半人前だから、という理由で許されていたことが許されなくなる。
僕は卒業したら殿下が団長を務める第二騎士団の救護班に行くことになるけど、他の同級生は卒業直前までどこの隊に配属されるか分からない。
僕も救護班は決定だけど、どのチームに入るかは分からない。友達と離れてしまうのは寂しい。隊どころか団まで別になると、会える機会も少なくなるかもしれない。学生ほど騎士団本部にいる時間もなくなるんだろう。学生の間は遠征もそれほど遠くには行かなかったけど、卒業すれば国の端まで行くこともある。
「殿下、お呼びですか?」
「リアン、今日も可愛いな。そこに座ってくれ」
「はい」
今日殿下に呼ばれたのは、先日僕が襲われた件の顛末を伝えるためだった。いつもより殿下との距離が遠い。
犯人の男は元騎士だった。違法薬物の売人と繋がって、金と薬物を貰う代わりに騎士団の情報を流していたため解雇されたそうだ。伯爵家の子息のため、解雇としばらく外出禁止という罰が与えられたのだとか。
今回は騎士団への不法侵入と、騎士団の資材の破壊、王子の庇護下にある学生への暴行により、投獄されたそうだ。そして薬物の使用が確認された。
伯爵家は彼を庇うことをやめたため、彼は犯罪者が集められて働いている炭鉱に送られるそうだ。刑務所みたいなところだろうか?
死ぬまで出ることはないから安心していいと言われた。終身刑というやつだ。
僕が魔法攻撃したことは違反行為にはならなかった。この世界にも正当防衛という考えがあってよかった。
「報告は以上だ。戻っていいぞ」
「はい」
今日はキスしないんだろうか? 殿下がキスすると言い出すと思って、僕は殿下を見つめつつ待っていたんだけど、続く言葉はなく、目を逸らされた。
とうとう殿下は僕に飽きてしまったんだ。
僕は立ち上がると、軽く頭を下げて部屋を出た。
僕が襲われたからだろうか?
それとも、他にお気に入りができたんだろうか?
僕は殿下を見ると胸が温かくなって、もっと見ていたいと思うのに、殿下は目が合うと僕から目を逸らした。
「フロリアンさん」
後ろから声をかけられた。振り向くとそこには殿下の秘書官がいた。
この人はいいな、いつも殿下のそばにいられて。どうやってその立場まで上り詰めたんだろう? 何ができればその場所に立てるんだろう?
僕は弱いから、きっとそこには立てないけど、殿下の隣に立てる彼が羨ましいと思った。
「どうかしましたか?」
「いえ、フロリアンさんお一人では危ないかもしれないのでお送りします」
「ありがとう。あなたは殿下の秘書官だと聞きました。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「失礼しました。名前、伝えていませんでしたね。私はナタールと申します」
「ナタールさんですね。卒業したら僕は第二騎士団の救護班に入るので、これからもお世話になると思います。よろしくお願いします」
ナタールさんには第二騎士団のことを色々教えてもらった。団は第五まであって、第一は近衛で王族の護衛と王城の警備、第二と第三は魔物討伐が中心、第四は野盗や犯罪組織の対応、第五は辺境に布陣して敵国の侵略を防いでいる。足りないところへ別の団が行くこともあるから、第二でも野盗討伐をすることはある。
学生のうちは第一以外の団でそれぞれ訓練して、その間に卒業後の配属が決まる。
第二と第三は力押しで無茶をするような騎士が多いらしい。頭を使うより体を使う、脳筋と呼ばれる人が多いということだ。
なんだか殿下と一緒にいるより落ち着いて色々なことを話すことができた。ナタールさんが話しやすい人だからかもしれない。そんな人だから殿下も信頼してそばに置くのかな。
「ナタールさん、送っていただきありがとうございました。また色々教えてください」
部屋までは本当にすぐに着いてしまった。もっと話をしたいくらいだけど、彼も忙しい身だから引き止めることはできなかった。
ナタールさんは書類仕事がメインだから肩こりが酷くてたまに眠れない日があると聞いた。今度ウサギさんをプレゼントしてあげよう。
僕は最近、ウサギさんのポケットに乾燥させたラベンダーの花を入れて枕元に置いている。石鹸屋のお姉さんが、ラベンダーはリラックス効果があってよく眠れると言っていたから、街でラベンダーを買った。
これも龍男の頃にはできなかったことだ。
ゴツい男から癒しの花の香りがするとか、似合わないと思って手を出せなかった。
妹の花恋は花の香りより、りんごの香りや桃の香りなどフルーツの香りが好きだったから、花の香りに包まれた部屋に憧れていた。でも、どの花の香りにどんな効果があるのかは知らなかったから手を出せずにいたんだけど、香りに詳しいお姉さんに教えてもらった。
たまにあの男のお姉さんは僕の手を撫でたり、背中や頬を撫でたりするけど、それを我慢すれば色々教えてくれる。
802
あなたにおすすめの小説
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった
カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。
ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。
俺、いつ死んだの?!
死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。
男なのに悪役令嬢ってどういうこと?
乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。
ゆっくり更新していく予定です。
設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる