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騎士学校篇
18.
しおりを挟むナタールさんにはその後、送ってもらった時にウサギさんをあげた。そうしたら次に会った時に、よく眠れるようになったとお礼を言ってくれた。
あの事件以来、殿下に呼ばれる頻度は減った。そして、呼ばれてもキスもハグもしなくなった。
ナタールさんがいるからキスもハグもしないのかと思ったけど、部屋に殿下が一人の時でも同じだった。
テーブルを挟んで向き合って座って、お茶をして終わりだ。一体殿下は僕に何を求めているんだろう? 治癒魔法の腕だろうか?
だから僕が離れていかないように、こうしてたまにお茶に誘って機嫌を取っているのかもしれない。
キスをしなくなったってことは、もうそっちの相手は他に見つけたのかな?
他の人を抱きしめてキスをしているのかと思ったら苦しくなった。
僕は、殿下のことが好きなのかもしれない。
殿下は男で僕も男なのに変かな? そう思ったんだけど、殿下と僕はかつてキスをする仲だった。だからきっと男同士でもおかしくない。そうだよね?
石鹸屋のお姉さんだって、男同士の夜の営みの時に使うオイルがあるって言ってたし。
しかし気付いたのが遅すぎた。もう殿下は僕にキスもしてくれないのに、望みなんてないのに、なんで今頃になって好きだって気づいちゃったんだろう……。
でもよく考えたら、僕は男爵家の三男だし、殿下は王族だ。遅いって思ったけど、初めからこの恋が叶う見込みはなかった。
不毛な恋だ。
恋をしたら必ず叶うわけじゃない。失恋って言葉もある。気付いた途端に失恋とか、僕は一体何をしているのか。
どうせ叶わないなら、こんな気持ち……気付きたくなかった。
殿下に呼ばれて団長室でお茶を飲む。
いつもあまり会話は無い。何のための時間なのか、本当に疑問だ。
「リアン、あいつにウサギをあげたのか?」
「え?」
「ナタールに、ウサギをあげたのかと聞いている」
「あげました」
今日の殿下はとても不機嫌だ。こんな日に限ってナタールさんはいない。ナタールさんにウサギさんをあげるのはいけないことだったんだろうか?
「俺のは?」
「殿下もウサギさんが欲しいんですか?」
「欲しい」
そうなんだ。ウサギさんが欲しかったのにナタールさんに先にあげたから怒ってるってこと?
殿下が可愛いぬいぐるみを好きだったなんて知らなかった。やっぱり龍男の時の僕みたいに、似合わないと思って言い出せなかったのかな?
他には誰も聞いている人がいないんだから、言ってくれればよかったのに。それとも僕が他所で吹聴するとでも思ったんだろうか? 似合わないものが好きな気持ち、僕にはよく分かるから心配しなくても誰にも言いませんよ。
「すぐに作って持ってきます」
僕は早く作らなきゃいけないと思って席を立った。
「待て」
早く部屋に戻ろうと思ったのに、殿下は僕を引き留めた。
「はい」
引き留められた理由は分からない。
「お茶がまだ残っている」
「すみません。すぐに飲みます」
お茶を残したまま席を立つなんて失礼だった。失敗したと項垂れながら、ティーカップに残ったお茶を一気に飲んだ。
「そんなに急ぐな。ゆっくり飲んでいけ」
殿下は手ずから僕のティーカップにお茶のおかわりを注いでくれた。
急がなきゃいけないと思ってたのに、なぜか引き留められている。また一気に飲んだら継ぎ足されるんだろうか?
僕は殿下の顔色を窺いながらゆっくりお茶を飲んで、飲み干してから部屋を出た。
*
>>>殿下と秘書
「ふっ、お前だけが特別だと思うなよ?」
「一体なんの話です?」
ニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべた殿下に、ナタールは何のことを言っているのか全く分からなかった。
「リアンは俺にもウサギをくれると言った」
「そうですか。それはよかったですね」
「なんだ? 悔しいか?」
「別に悔しくありませんよ。殿下が悔しかったんでしょ?」
ナタールは知っている。殿下に「なぜお前からリアンの匂いがするのか」と問い詰められ、ウサギをもらったのだと伝えた時の殿下の顔はとても悔しそうで面白かった。
「ぐぬ……いいんだ、今日は二人きりでお茶をした。俺がリアンのカップにお茶を入れてやって、リアンはそれを飲んでくれたんだ」
「……そうですか」
「それでリアンは俺を見つめてきたんだ。はぁ~可愛かった」
「そうですか。よかったですね」
ナタールは興味なさそうに書類に視線を移しながら聞き流した。
「あぁ、二人きりの空間、リアンが吐いた吐息は俺のものだ」
「は? 殿下、気持ち悪いですよ」
「お前、失礼だぞ!」
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