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すれ違い篇
31.(※)
しおりを挟むあれからも何度か殿下に呼ばれてお茶をした。毎回抱きしめてもくれた。
だけどキスはしてくれないし、王宮の部屋に招いてくれることはなくなった。
とうとう殿下は僕の体に飽きてしまった。抱きしめてくれるのは、酷い抱き方をしたからお詫びということだろう。
優しいけど残酷な人だ。
第二や王都にいる友達にはやっと戻ってきたと歓迎されて、食堂で僕の帰還パーティーが開かれた。寮にいた他の団の人もたくさん集まった。ディート兄さんは僕が起こした問題の後始末に行っているからいない。グレ兄さんはちょうど遠征から戻っていたから参加してくれた。
おかしな誤解をされることを防ぐためにも、特定の一人と過剰に仲良くしないようにと注意された。ただし愛した相手ならいいと。
グレ兄さんは結婚が決まっている。相手は近衛の女騎士で、ゴリゴリの筋肉に包まれた女の人じゃなく、スレンダーで綺麗な人だ。魔法が堪能で、物理攻撃はあまり得意ではないという僕みたいなタイプの人だった。
きっと二人の間に生まれた子がザイフェルト家を継ぐんだろう。それは楽しみだ。
何ヶ月も殿下とお茶するだけの関係が続くと辛くなってきた。お気に入りの娼館の人のところには、今も通っているんだろうか? そう思うと、僕は殿下にとって何なのかと虚しさが押し寄せてくる。
抱きしめてくれる腕が優しければ優しいほどに泣きたくなる。
「殿下、もう僕の体には飽きてしまわれたのですか?」
思い切って聞いてみた。答えを聞くのは怖かった。殿下に飽きたと言われたら、そこで終わってしまう。こうして抱きしめてくれるのも、お茶の時間さえ終わってしまうのかもしれない。それでも聞きたかった。本当にもう要らないのなら、気を遣わせるだけなら、僕は消えてしまいたかったのかもしれない。
「そんなことはない」
それは優しさなの? それとも本当のこと?
「もう抱かないの?」
「抱いていいのか? 俺が怖いだろ?」
「怖くない。僕は殿下のものです」
もしかして抱かなかったのは、飽きたからじゃなくて前に酷い抱き方をしたからだろうか? それなら、もっと早く言えばよかった。ずっと悩んでいた僕が馬鹿みたいだ。
「今夜、部屋に来るか?」
「はい」
僕は本当にいいのか迷いながら部屋に向かった。久しぶりの殿下の部屋には、僕があげたウサギさんがちゃんと枕元にいて、ずるいと思った。僕だって殿下のそばで一緒に眠りたい。僕が物言わぬぬいぐるみになれば殿下はそばに置いてくれる?
「殿下、ウサギさんの香りが薄れていますね。ラベンダーの花を詰め替えてもいいですか?」
「ああ、頼む」
君は必要とされていいな。僕が作り出したぬいぐるみなのに、ぬいぐるみに嫉妬なんてしても仕方ないのに、僕だって殿下に必要とされたい。
「リアン、俺のことを見ろ」
「はい」
殿下はなんでそんなことを言うんだろう? 全然分からないよ。怖がっている相手を抱くのが嫌だから、怖がらないか確かめているんだろうか?
「リアン、可愛い」
「あっ……殿下……」
僕は殿下に嫌われることは怖いけど、殿下自身を怖いなんて思っていないのに、僕を気遣いながら抱いてくれた。そんなに優しくされたら勘違いしそうになる。今だけは殿下の瞳に僕だけを映してほしい。
あの日は言ってくれなかった「可愛い」を、今日は何度も言ってくれた。
よかった。まだ僕は殿下に望まれてる。
抱いてる時だけでいい。僕だけを見て、僕だけのことを考えてください。
終わると途端に虚しくなる。本当にこれが正しかったのかが分からない。清浄魔法をかけてシーツの皺を伸ばして、僕はウサギさんを抱えた。この部屋を立ち去る瞬間が一番寂しい。
「リアン、まだここにいろ」
「はい」
殿下に背中を向けて出て行こうとした僕を、殿下は引き留めてくれた。僕が寂しいと思っていることに気づいたのかもしれない。
その優しさは、何のためですか?
僕の治癒魔法の腕か、たまに性欲を満たしてくれる都合のいいセフレか、僕の魔法の腕に気づいているってことはないよね?
その答えは、僕の体に飽きたかどうかを聞くより怖い。セフレならまだいいんだ。殿下自身が望んでくれているのだと分かるから。魔法の腕だとしたら、誰かの指示で仕方なく僕をそばに置いて、そして僕の機嫌をとっているだけの可能性がある。そんなことを聞いた日には、僕はまた逃げ出したくなるかもしれない。カールと一緒にはならないけど、国境を越えてどこかに消えたくなってしまうかもしれない。
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