【完結】可愛く転生したのに、僕は生まれ変わっても好きなものを好きと言えない

cyan

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すれ違い篇

35.

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 花の香りに釣られて森を進んでいくと、金木犀みたいな小さな花がたくさん咲いている木が生えていた。花はオレンジ色ではなく淡いピンク色で、香りは桃のような甘い香りだ。そこに一本だけ生えている木はとても綺麗だった。
「……綺麗」
 思わず呟いていた。

「あなたは花の精か?」
 ボーッと花を眺めていると、急に声をかけられた。振り返ると、知らない男が立っていた。
 騎士の制服を着ていないということは騎士ではない。線も細く、戦う体形には見えないが、魔法を使えるとしたら分からない。
 金というよりは茶色に近い、ミルクティーのような髪色に、同じくミルクティーのような薄茶色の目は、これと言った特徴もない。誰だろう?
 森にきのこか木の実でも取りに来た村人だろうか。しかし油断はできない。なんとなく目が怖い感じがしたんだ。
 僕は咄嗟に髪に挿してあった暗器に触れた。

「僕は騎士です。隊列に戻るところです」
「騎士? 騎士らしくない体型だね」
 そんなのは余計なお世話だ。僕は救護班なんだから、別に筋肉がムキムキについている必要はない。
 この人に僕が救護班だと答える義理はないから、僕は彼の言葉を無視して隊列に戻ることにした。追いかけられても嫌だから、身体強化を使って全力で走った。

「リアン、どこにいたんだ? 探していたぞ」
「うん、いい香りの花が咲いてて見てた」
 僕はすぐに友達と合流できて、いつものようにみんなに囲まれて馬車まで戻ることになった。
 あの人はあんなところで何をしていたんだろう?
 もう二度と会うことはないと思うけど、少しだけ気になった。

 ハーピーの群れの討伐は上手くいった。誘き出しては数体倒して、逃げられてってことを繰り返し、十日ほどで討伐は完了した。
 僕はいつも通り戦闘を見ていないから、どんな戦いをしたのかは知らない。今回は飛行型の魔物ということで、救護班の天幕はいつもより離れた場所に建てた。だから戦っている時の音や声も全然聞こえなかったんだ。
 怪我人は多かったけど、致命傷になるような傷を負った騎士はいなかった。
 討伐後に巣を焼き払って、他に逃げた個体がいないか山を捜索して、やっと任務完了だ。
 結局現地に二週間もいることになった。

 一ヶ月も殿下に会っていない。合わない日が続くと不安になる。僕がいない間に、殿下はもう僕のことなど要らなくなってしまったんじゃないかって。
 すごく会いたいのに、会うのが怖い。

 王都に戻ると、本当は真っ先に殿下に会いに行きたいけど行けなくて、僕は呼び出しがかかるのを待っていた。

 王都に戻って二日後、呼び出しはあったけど、殿下ではなくブロイアー公爵家からだった。
 僕は公爵家に知り合いなどいない。
 騎士団にもブロイアー公爵の関係者はいないし、僕は夜会に参加しても周りを友達に囲まれているから、騎士じゃない貴族とは話したことがない。話したことがないどころか、顔も見たことがない。陛下とその秘書みたいな人は、一度だけ殿下を助けた後で呼び出された時に会ったけどそれだけだ。

 ブロイアー家は事前に何の前触れもなく、使用人と思われる男が寮に二人でやってきた。片方は厳格そうな表情の執事服を着た男で、もう片方はその護衛なのか革鎧を着込んだ体格のいい男だ。
「フロリアン・ザイフェルト殿、我が主人クラウス・ブロイアーがお呼びです。ご同行願います」
 公爵家の呼び出しを男爵家の子息である僕が断れるわけもなく、僕は身支度を整える時間を少しもらった。

 ここは寮だからスーツなんて置いてない。貴族の家を訪ねるような服がないと伝えると、普段着で構わないと言われたから、ちょっと綺麗めのブラウスにジレと細身のパンツを合わせた。それではダメだと言われたら、実家に戻ってスーツを着ようと思ったんだけど、その格好でいいと言われたからそのまま向かうことにした。

 部外者が寮に来たから友達が心配してくれたけど、公爵家に逆らえる身分の人はいない。そんなの殿下くらいだ。
「僕は大丈夫だから」
 そう言って僕は髪に刺したかんざしに触れた。きっとそれで友達は分かってくれたと思う。何かあれば相手を怪我させない程度に風で追い返して逃げるとか、それくらいならできると思うんだ。

 外観はシンプルだけど、中はとても豪華でキラキラした馬車に乗せられた。
「クラウス様にはお会いしたことがないと思うのですが、私にどのようなご用件でしょう」
「私共はフロリアン様をお連れするようにと仰せつかっただけでございます」
 先に要件を聞いておきたかったけど、彼らは何も知らなかった。本当に知らないのか、「聞かれても言うな」と言われているのかは分からない。

 うちとは比べものにならないくらい大きな公爵家の庭は、色とりどりの花が咲いてとても綺麗だ。それにしても門をくぐってしばらく経つのに屋敷が見えてこない。どれだけ広いんだろう?

「こちらでお降りください」
 建物はまだ見えていないのに、庭の途中で僕は馬車を降りることになった。建物が見えないよう特殊な結界でも張られているんだろうか?

「こちらです」
 執事に先導されてついていくと、庭の木々を抜けた先に温室のような建物があり、その前で人が何人か待っていた。

 
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