40 / 44
伝えたい
40.
しおりを挟む「リアン、出動だ」
しばらく休んで部屋に引き篭もっていたけど、とうとう召集がかかった。呼びに来たのはディート兄さんだ。
クラウス様のことはどうなったのか聞いたら、やはり僕を利用しようとしていたのだと判明した。でも国家を転覆させようとか危険な思想ではなかった。
彼と初めて会った森に生えていたあの綺麗な花は、彼が幼い頃に亡くした妹のお墓だった。妹と言っても、庶子で彼の父が村の女の人に手を出して産ませた子。彼の妹は流行病で亡くなったそうだ。遺体から感染しないよう、病死した人たちはまとめて森の奥に埋葬された。
父親が引き取っていれば、ちゃんとした治療を受けていれば、妹は助かったはずだと彼は信じている。
どうも、僕が瀕死の殿下を助けたことが捻じ曲がって伝わり、死者を蘇生したなんて噂が出回ったらしい。アンデッドだと誤解されたから、そのせいかもしれない。それで僕に妹を蘇生してもらおうと近づいた。
残念ですが、僕は死者を蘇生するなんてことはできません。
「一目惚れは本当だと、騙すつもりはなかったと言い張っていたが、本当かは分からん」
「そうですか」
人を利用する理由には色々あるのだと知った。お金や権力、力や体を求めて利用する人もいれば、誰かを助けるためということもある。
僕はクラウス様には、利用されそうになったとは思わないことにした。僕の力では彼の願いを叶えてあげることはできなかったけど、頼ってもらえたのだと思うことにした。利用されるだけの人生だと悲観したけど、そうじゃなかったと知れてよかった。
「リアン、今回無理はするなよ。あいつもいる」
「あいつ……」
今回の出動は結構規模が大きい。団長も出るそうだ。
会いたくはないけど、そんなことは言っていられない。
ワイバーン四体が山に巣を作ったそうだ。そんなところで繁殖されたら大変なことになるから、群れが大きくなる前に倒しておこうということだ。
僕はワイバーンは竜に似ていると思っているけど、羽が生えた爬虫類に分類される。竜に乗って飛ぶとか憧れるけど、現実にはそんなことは無理だ。無防備に近づけば餌になるだけ。
僕も実物は見たことがなくて、絵でしか知らない。風魔法を操ってかなり遠くまで飛べるらしい。家畜の牛を攫ったという報告もあるくらい巨大だ。攻撃に魔法は使わず、足や腕での攻撃と噛みつき、尻尾を振り回して叩きつけてきたりと物理攻撃のみだと資料で読んだ。
どこから飛んできたのは分からない。巣が確認された場所は王都から五日ほど馬車で進んだところにある岩山だ。
馬車で進んでいくと、岩の部分に裂け目みたいなのが見えた。そこが巣なんだろう。岩山といっても、上の方は岩だけど裾野の辺りは普通の森と同じで木も草も生えている。野営地と救護班の天幕は森の部分に設営した。
遠くから見たときにはワイバーンの巣っぽいものが確認できたけど、森に入ってしまうと何も見えない。
ワイバーンは飛ぶから、目立つところに天幕を張ったら攻撃されるから森の中に張る。
行軍中に殿下を見かけることはなかった。僕は救護班のみんなと馬車での移動だし、殿下は馬で先頭の辺りにいるからかもしれない。
討伐の計画としては、岩が剥き出しになっている辺りまで進み、ワイバーンが気づいて攻撃を仕掛けてきたら魔法か弓で一体ずつ撃ち落として戦う。飛ぶ魔物は落とすまでが大変だ。風を使って移動するということはスピードも速い。
どれくらいのスピードが出るのかは分からないけど、上から攻撃を仕掛けられたら怪我人が多く出そうなことは分かる。
野営地でそんな話をしている殿下のことを、戦わない僕は一番後ろで友達の陰に隠れて聞いていた。
あの後、殿下は僕に対して不敬罪だと言ってくるのかと思ったけど、呼び出されるどころか、全く音沙汰はなかった。
もう本当に僕のことは要らなくなってしまったんだろう。どうせ失恋するなら、好きだと伝えて潔く振られればよかった。そうしたら、もっと前を向けたかもしれないのに。殿下は僕が殿下のことを好きだってことにも気づいていないんだろう。それが悔しい。僕がたくさん傷ついたことも知らないなんて悔しい。僕は傷ついたんだから少しくらい殿下も反省してよ。
そのまま殿下と話すことなく夜が来て、そして朝になっていよいよ討伐だ。
森の木々が邪魔で戦っているところは見えない。音も聞こえるかは分からない。
今日だけで四体全て倒して巣も壊すのは無理だから、初日だし一体でも倒せたらいい方だ。
もそろそろ怪我人が運ばれてくる頃かと思いながら救護班の天幕の中で待機していると、血だらけの騎士が駆け込んできた。
「大変です……伝令を……」
580
あなたにおすすめの小説
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった
カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。
ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。
俺、いつ死んだの?!
死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。
男なのに悪役令嬢ってどういうこと?
乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。
ゆっくり更新していく予定です。
設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる