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第21話 毒牙を越えて
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一体目のフォレストスパイダーを倒したものの、アルトに休息の時間はなかった。
残る一体が、仲間をやられた怒りと警戒心を露わに、距離を取りつつアルトの隙をうかがっている。
アルトも荒い息を整え、ナイフを構え直す。
疲労はピークに近いが、ここで集中力を切らすわけにはいかない。
二体目のスパイダーは、一体目よりも明らかに慎重だった。
むやみに接近戦を挑んでくることはなく、距離を保ったまま、執拗に粘着性の高い糸を飛ばしてくる。
アルトは、先ほど手応えを感じたギフトの応用、「衝撃波(仮)」で糸を防ぎ続けた。
「――ッ!」
腕から放たれる微かな衝撃波が、飛来する糸の軌道を逸らし、勢いを弱める。
確かに有効な防御手段だ。
しかし、これを連続で使用するのは、体力的にも精神的にも大きな負担となる。
じりじりと体力が削られていくのが分かった。
「このままじゃジリ貧だ……何か、動きを止められないか?」
アルトは一計を案じた。
衝撃波を、相手の足元あたりを狙って放ってみる。
もし足止めできれば、接近して攻撃するチャンスが生まれるかもしれない。
しかし、放たれた衝撃波は威力不足なのか、スパイダーの多脚が巧みにそれを避けるのか、わずかに動きを乱す程度で、効果的な足止めにはならなかった。
顔のあたりを狙っても、素早く避けられてしまう。
ギフトの応用は、まだ防御や牽制に使うのが精一杯で、攻撃的な手段としては未熟だと痛感させられた。
痺れを切らしたのは、スパイダーの方だったのかもしれない。
糸攻撃が有効でないと判断したのか、二体目は意を決したように、鋭い毒牙を剥き出しにしてアルトに突進してきた。
その動きは、一体目よりもさらに速く、予測しにくい軌道を描いている。
アルトはナイフで受け流そうとするが、相手のフェイントに惑わされ、反応が一瞬遅れた。
ガチッ!
毒牙が、腕当てではなく、アルトの右腕の生身の部分を掠めた。
「いっ……!?」
鋭い痛みが走る。
幸い、深く噛まれたわけではない。
しかし、傷口から、じわりと痺れるような感覚が腕全体に広がっていくのを感じた。
「まずい、毒だ!」
アルトはすぐにスパイダーから距離を取り、懐に入れていたリナ特製の解毒薬草を取り出し、口に放り込んだ。
苦い味が口いっぱいに広がる。
薬草のおかげか、痺れはそれ以上広がることはなかったが、右腕には依然として不快な痺れが残り、動きがわずかに鈍くなってしまった。
毒を持つ敵との戦いの厳しさを、アルトは改めて思い知らされた。
体に痺れが残り、動きも鈍い。
状況は明らかに不利だ。
だが、アルトの心は折れていなかった。
ここで諦めたら、何のためにここまで来たのか分からない。
「やるしかない……!」
アルトは残された体力と、なけなしの集中力を振り絞り、最後の勝負に出ることを決意した。
鈍くなった動きを気力でカバーし、スパイダーの攻撃パターンを読むことに全神経を集中させる。
多脚による不規則な攻撃。
その中に、わずかながら予備動作の大きい、叩きつけのような攻撃があることに気づいた。
「――そこだ!」
アルトはその攻撃を、あえて毒の痺れが残る右腕で受け止めた。
激痛が走るが、構わない。
受け止めた瞬間、アルトは心の底から叫ぶように、ギフトを発動させた。
「うおおおおっ!!」
反射!
毒の影響で集中が途切れそうになるのを、根性でねじ伏せる。
アルトの渾身の反射ダメージを受け、スパイダーは甲高い悲鳴を上げた。
その体勢が、大きく崩れる。
「今だ!」
アルトはこの好機を逃さなかった。
最後の力を込めて、ナイフをスパイダーの腹部めがけて突き出した。
狙いは正確だった。
グシャリ、という肉を抉る鈍い感触と共に、ナイフはスパイダーの柔らかい腹部に深々と突き刺さった。
「ギシャアアアアアッ!!」
スパイダーは断末魔の絶叫を上げ、8本の脚を激しくばたつかせた後、やがて完全に動きを止めた。
「はぁ……はぁ……はぁ…………」
廃倉庫に、再び静寂が訪れた。
床には、動かなくなった巨大な蜘蛛が二匹。
そして、その中央で、アルトは膝から崩れ落ち、荒い息を繰り返していた。
右腕の痺れ、全身の疲労、そして無数の切り傷と打撲痕。
文字通り、満身創痍だった。
しかし、彼の心を満たしていたのは、痛みや疲労よりも、強敵を打ち破り、困難な依頼を達成したという、熱い安堵感と達成感だった。
しばらくその場で動けずにいたアルトだったが、やがて力を振り絞って立ち上がった。
依頼の証拠を回収しなければならない。
アルトは、フォレストスパイダーの鋭い牙を、それぞれの死体から2本ずつ、計4本、慎重にナイフで切り取り、採取袋に収めた。
今回の戦いで、アルトは多くのことを学んだ。
ギフトの応用、「衝撃波(仮)」は、糸のような軽い飛び道具に対しては有効だが、威力や制御にはまだまだ課題があること。
毒を持つ敵との戦いでは、事前の準備と、戦闘中の冷静な対処がいかに重要かということ。
そして何よりも、今の自分の防御力では、格上の相手と戦うのはあまりにも危険だということ。
革鎧の購入は、もはや単なる目標ではない。
冒険者として生き残るための、必須事項だと強く認識した。
消耗しきった体を引きずりながら、アルトは蜘蛛の巣が張り巡らされた不気味な森を後にした。
体はボロボロだが、その足取りには、試練を乗り越えた者だけが持つ、確かな力が宿っているように見えた。
また一つ、困難な壁を乗り越えた。
冒険者としての経験値は、確実にアルトの中に積み重なっている。
「次は、必ず鎧を手に入れよう。そして、ギフトをもっと……」
次なる目標を胸に、アルトは村の灯りを目指し、一歩、また一歩と、未来へと続く道を歩み始めたのだった。
残る一体が、仲間をやられた怒りと警戒心を露わに、距離を取りつつアルトの隙をうかがっている。
アルトも荒い息を整え、ナイフを構え直す。
疲労はピークに近いが、ここで集中力を切らすわけにはいかない。
二体目のスパイダーは、一体目よりも明らかに慎重だった。
むやみに接近戦を挑んでくることはなく、距離を保ったまま、執拗に粘着性の高い糸を飛ばしてくる。
アルトは、先ほど手応えを感じたギフトの応用、「衝撃波(仮)」で糸を防ぎ続けた。
「――ッ!」
腕から放たれる微かな衝撃波が、飛来する糸の軌道を逸らし、勢いを弱める。
確かに有効な防御手段だ。
しかし、これを連続で使用するのは、体力的にも精神的にも大きな負担となる。
じりじりと体力が削られていくのが分かった。
「このままじゃジリ貧だ……何か、動きを止められないか?」
アルトは一計を案じた。
衝撃波を、相手の足元あたりを狙って放ってみる。
もし足止めできれば、接近して攻撃するチャンスが生まれるかもしれない。
しかし、放たれた衝撃波は威力不足なのか、スパイダーの多脚が巧みにそれを避けるのか、わずかに動きを乱す程度で、効果的な足止めにはならなかった。
顔のあたりを狙っても、素早く避けられてしまう。
ギフトの応用は、まだ防御や牽制に使うのが精一杯で、攻撃的な手段としては未熟だと痛感させられた。
痺れを切らしたのは、スパイダーの方だったのかもしれない。
糸攻撃が有効でないと判断したのか、二体目は意を決したように、鋭い毒牙を剥き出しにしてアルトに突進してきた。
その動きは、一体目よりもさらに速く、予測しにくい軌道を描いている。
アルトはナイフで受け流そうとするが、相手のフェイントに惑わされ、反応が一瞬遅れた。
ガチッ!
毒牙が、腕当てではなく、アルトの右腕の生身の部分を掠めた。
「いっ……!?」
鋭い痛みが走る。
幸い、深く噛まれたわけではない。
しかし、傷口から、じわりと痺れるような感覚が腕全体に広がっていくのを感じた。
「まずい、毒だ!」
アルトはすぐにスパイダーから距離を取り、懐に入れていたリナ特製の解毒薬草を取り出し、口に放り込んだ。
苦い味が口いっぱいに広がる。
薬草のおかげか、痺れはそれ以上広がることはなかったが、右腕には依然として不快な痺れが残り、動きがわずかに鈍くなってしまった。
毒を持つ敵との戦いの厳しさを、アルトは改めて思い知らされた。
体に痺れが残り、動きも鈍い。
状況は明らかに不利だ。
だが、アルトの心は折れていなかった。
ここで諦めたら、何のためにここまで来たのか分からない。
「やるしかない……!」
アルトは残された体力と、なけなしの集中力を振り絞り、最後の勝負に出ることを決意した。
鈍くなった動きを気力でカバーし、スパイダーの攻撃パターンを読むことに全神経を集中させる。
多脚による不規則な攻撃。
その中に、わずかながら予備動作の大きい、叩きつけのような攻撃があることに気づいた。
「――そこだ!」
アルトはその攻撃を、あえて毒の痺れが残る右腕で受け止めた。
激痛が走るが、構わない。
受け止めた瞬間、アルトは心の底から叫ぶように、ギフトを発動させた。
「うおおおおっ!!」
反射!
毒の影響で集中が途切れそうになるのを、根性でねじ伏せる。
アルトの渾身の反射ダメージを受け、スパイダーは甲高い悲鳴を上げた。
その体勢が、大きく崩れる。
「今だ!」
アルトはこの好機を逃さなかった。
最後の力を込めて、ナイフをスパイダーの腹部めがけて突き出した。
狙いは正確だった。
グシャリ、という肉を抉る鈍い感触と共に、ナイフはスパイダーの柔らかい腹部に深々と突き刺さった。
「ギシャアアアアアッ!!」
スパイダーは断末魔の絶叫を上げ、8本の脚を激しくばたつかせた後、やがて完全に動きを止めた。
「はぁ……はぁ……はぁ…………」
廃倉庫に、再び静寂が訪れた。
床には、動かなくなった巨大な蜘蛛が二匹。
そして、その中央で、アルトは膝から崩れ落ち、荒い息を繰り返していた。
右腕の痺れ、全身の疲労、そして無数の切り傷と打撲痕。
文字通り、満身創痍だった。
しかし、彼の心を満たしていたのは、痛みや疲労よりも、強敵を打ち破り、困難な依頼を達成したという、熱い安堵感と達成感だった。
しばらくその場で動けずにいたアルトだったが、やがて力を振り絞って立ち上がった。
依頼の証拠を回収しなければならない。
アルトは、フォレストスパイダーの鋭い牙を、それぞれの死体から2本ずつ、計4本、慎重にナイフで切り取り、採取袋に収めた。
今回の戦いで、アルトは多くのことを学んだ。
ギフトの応用、「衝撃波(仮)」は、糸のような軽い飛び道具に対しては有効だが、威力や制御にはまだまだ課題があること。
毒を持つ敵との戦いでは、事前の準備と、戦闘中の冷静な対処がいかに重要かということ。
そして何よりも、今の自分の防御力では、格上の相手と戦うのはあまりにも危険だということ。
革鎧の購入は、もはや単なる目標ではない。
冒険者として生き残るための、必須事項だと強く認識した。
消耗しきった体を引きずりながら、アルトは蜘蛛の巣が張り巡らされた不気味な森を後にした。
体はボロボロだが、その足取りには、試練を乗り越えた者だけが持つ、確かな力が宿っているように見えた。
また一つ、困難な壁を乗り越えた。
冒険者としての経験値は、確実にアルトの中に積み重なっている。
「次は、必ず鎧を手に入れよう。そして、ギフトをもっと……」
次なる目標を胸に、アルトは村の灯りを目指し、一歩、また一歩と、未来へと続く道を歩み始めたのだった。
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