落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

文字の大きさ
21 / 125

第21話 毒牙を越えて

しおりを挟む
一体目のフォレストスパイダーを倒したものの、アルトに休息の時間はなかった。
残る一体が、仲間をやられた怒りと警戒心を露わに、距離を取りつつアルトの隙をうかがっている。

アルトも荒い息を整え、ナイフを構え直す。
疲労はピークに近いが、ここで集中力を切らすわけにはいかない。

二体目のスパイダーは、一体目よりも明らかに慎重だった。
むやみに接近戦を挑んでくることはなく、距離を保ったまま、執拗に粘着性の高い糸を飛ばしてくる。
アルトは、先ほど手応えを感じたギフトの応用、「衝撃波(仮)」で糸を防ぎ続けた。

「――ッ!」

腕から放たれる微かな衝撃波が、飛来する糸の軌道を逸らし、勢いを弱める。
確かに有効な防御手段だ。
しかし、これを連続で使用するのは、体力的にも精神的にも大きな負担となる。
じりじりと体力が削られていくのが分かった。

「このままじゃジリ貧だ……何か、動きを止められないか?」

アルトは一計を案じた。
衝撃波を、相手の足元あたりを狙って放ってみる。
もし足止めできれば、接近して攻撃するチャンスが生まれるかもしれない。
しかし、放たれた衝撃波は威力不足なのか、スパイダーの多脚が巧みにそれを避けるのか、わずかに動きを乱す程度で、効果的な足止めにはならなかった。

顔のあたりを狙っても、素早く避けられてしまう。
ギフトの応用は、まだ防御や牽制に使うのが精一杯で、攻撃的な手段としては未熟だと痛感させられた。

痺れを切らしたのは、スパイダーの方だったのかもしれない。
糸攻撃が有効でないと判断したのか、二体目は意を決したように、鋭い毒牙を剥き出しにしてアルトに突進してきた。
その動きは、一体目よりもさらに速く、予測しにくい軌道を描いている。

アルトはナイフで受け流そうとするが、相手のフェイントに惑わされ、反応が一瞬遅れた。
ガチッ!
毒牙が、腕当てではなく、アルトの右腕の生身の部分を掠めた。

「いっ……!?」

鋭い痛みが走る。
幸い、深く噛まれたわけではない。
しかし、傷口から、じわりと痺れるような感覚が腕全体に広がっていくのを感じた。

「まずい、毒だ!」

アルトはすぐにスパイダーから距離を取り、懐に入れていたリナ特製の解毒薬草を取り出し、口に放り込んだ。
苦い味が口いっぱいに広がる。
薬草のおかげか、痺れはそれ以上広がることはなかったが、右腕には依然として不快な痺れが残り、動きがわずかに鈍くなってしまった。
毒を持つ敵との戦いの厳しさを、アルトは改めて思い知らされた。

体に痺れが残り、動きも鈍い。
状況は明らかに不利だ。
だが、アルトの心は折れていなかった。
ここで諦めたら、何のためにここまで来たのか分からない。

「やるしかない……!」

アルトは残された体力と、なけなしの集中力を振り絞り、最後の勝負に出ることを決意した。
鈍くなった動きを気力でカバーし、スパイダーの攻撃パターンを読むことに全神経を集中させる。
多脚による不規則な攻撃。
その中に、わずかながら予備動作の大きい、叩きつけのような攻撃があることに気づいた。

「――そこだ!」

アルトはその攻撃を、あえて毒の痺れが残る右腕で受け止めた。
激痛が走るが、構わない。
受け止めた瞬間、アルトは心の底から叫ぶように、ギフトを発動させた。

「うおおおおっ!!」

反射!
毒の影響で集中が途切れそうになるのを、根性でねじ伏せる。
アルトの渾身の反射ダメージを受け、スパイダーは甲高い悲鳴を上げた。
その体勢が、大きく崩れる。

「今だ!」

アルトはこの好機を逃さなかった。
最後の力を込めて、ナイフをスパイダーの腹部めがけて突き出した。
狙いは正確だった。
グシャリ、という肉を抉る鈍い感触と共に、ナイフはスパイダーの柔らかい腹部に深々と突き刺さった。

「ギシャアアアアアッ!!」

スパイダーは断末魔の絶叫を上げ、8本の脚を激しくばたつかせた後、やがて完全に動きを止めた。

「はぁ……はぁ……はぁ…………」

廃倉庫に、再び静寂が訪れた。
床には、動かなくなった巨大な蜘蛛が二匹。
そして、その中央で、アルトは膝から崩れ落ち、荒い息を繰り返していた。
右腕の痺れ、全身の疲労、そして無数の切り傷と打撲痕。
文字通り、満身創痍だった。

しかし、彼の心を満たしていたのは、痛みや疲労よりも、強敵を打ち破り、困難な依頼を達成したという、熱い安堵感と達成感だった。

しばらくその場で動けずにいたアルトだったが、やがて力を振り絞って立ち上がった。
依頼の証拠を回収しなければならない。
アルトは、フォレストスパイダーの鋭い牙を、それぞれの死体から2本ずつ、計4本、慎重にナイフで切り取り、採取袋に収めた。

今回の戦いで、アルトは多くのことを学んだ。
ギフトの応用、「衝撃波(仮)」は、糸のような軽い飛び道具に対しては有効だが、威力や制御にはまだまだ課題があること。
毒を持つ敵との戦いでは、事前の準備と、戦闘中の冷静な対処がいかに重要かということ。

そして何よりも、今の自分の防御力では、格上の相手と戦うのはあまりにも危険だということ。
革鎧の購入は、もはや単なる目標ではない。
冒険者として生き残るための、必須事項だと強く認識した。

消耗しきった体を引きずりながら、アルトは蜘蛛の巣が張り巡らされた不気味な森を後にした。
体はボロボロだが、その足取りには、試練を乗り越えた者だけが持つ、確かな力が宿っているように見えた。
また一つ、困難な壁を乗り越えた。
冒険者としての経験値は、確実にアルトの中に積み重なっている。

「次は、必ず鎧を手に入れよう。そして、ギフトをもっと……」

次なる目標を胸に、アルトは村の灯りを目指し、一歩、また一歩と、未来へと続く道を歩み始めたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...