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第52話 隣町の喧騒と束の間の休息
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Eランク冒険者として、着実に実力をつけ始めたアルト。
ホブゴブリン討伐という大きな成果は、彼に自信と、そして少なくない報酬をもたらした。
しかし、同時に自身の課題と、さらなる成長の必要性も痛感していた。
次なる目標であるDランク昇格を見据え、彼はバルガスの元で、剣と盾、そしてギフトの連携を磨く厳しい訓練に再び打ち込み始めていた。
そんなある日、師であるバルガスが、訓練場で汗を流すアルトに声をかけた。
「おい、アルト。少しは息抜きも必要だぞ。ずっと根を詰めていても、良い結果は生まれん。たまには訓練を休んで、外の空気を吸ってくるのもいいだろう」
その言葉に、アルトも確かに少し気分転換が必要だと感じていた。
ホブゴブリンとの死闘以来、張り詰めていた気持ちを少しほぐしたい。
そこで、以前バックラーを購入するために訪れた、隣町サイラスへ久しぶりに出かけてみることにした。
ショートソードの手入れに使う上質なオイルが切れかかっていたし、市場で何か掘り出し物が見つかるかもしれない。
何より、村とは違う空気に触れることが、良いリフレッシュになるだろうと考えたのだ。
アッシュフォード村から隣町サイラスまでは、歩いて半日ほどの距離だ。
村を出て街道を歩くと、すれ違う人々の数も増え、やがてサイラスの活気ある町の入り口が見えてきた。
石畳で舗装された広い通り。
両脇には、アッシュフォード村では見られないような、様々な種類の店が軒を連ねている。
武器屋、防具屋、道具屋はもちろん、錬金術師の工房や、各地の珍しい品を扱う交易所、そして多くの冒険者で賑わう大きな酒場。
行き交う人々の服装も、言葉も、そして種族すらも多様だった。
屈強な鎧を纏った冒険者の一団、異国の衣装を身にまとった商人、軽やかな足取りの吟遊詩人。
そして、アルトが本でしか見たことのなかった、尖った耳を持つ優雅なエルフや、屈強で背の低いドワーフの姿も、そこにはあった。
その喧騒と多様性に、アルトは目を輝かせ、世界の広さを改めて実感した。
まずは目的の品物を探して、市場を散策する。
鍛冶屋が集まる一角で、評判の良い砥石と、ショートソードの手入れに最適な、粘度の高いオイルを見つけて購入した。
道具屋では、以前から欲しかった、丈夫で容量の大きい革製の水筒が手頃な価格で売られていたので、それも手に入れる。
市場を歩いていると、様々な食べ物の美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
アルトは、威勢の良い声で客引きをしていた露店で、大きな猪肉の串焼きを一本買った。
炭火で焼かれた熱々の肉にかぶりつくと、口の中に香ばしい肉汁と、村では味わえない少しスパイシーな香辛料の風味が広がる。
これもまた、旅の楽しみの一つだろう。
人混みの中を歩いていると、ふと、アルトは自分の腰のポーチに伸びてくる、不審な手に気づいた。
その動きは素早く、巧みだったが、日々の訓練で研ぎ澄まされたアルトの感覚は、そのわずかな気配を逃さなかった。
スリだ!
アルトは、驚くほど素早い動きで振り返りざま、その手首を掴んだ。
相手は、みすぼらしい身なりをした小柄な男で、アルトに手首を掴まれると、驚きと焦りの表情を浮かべた。
「な、なんだてめえ!離しやがれ!」
男は悪態をつきながら、アルトの手を振りほどこうともがく。
周囲の人々が、何事かとこちらに視線を向け始めている。
騒ぎを大きくしたくはない。
しかし、このまま見逃すわけにもいかない。
どうしたものか、と考えた瞬間、アルトの体は半ば無意識に反応していた。
(少し、驚かすだけなら…)
ギフトの力、あの「衝撃波(仮)」を、ごくごく弱く、男の足元めがけて放つ。
傷つける意図はない。
ただ、相手の意表を突くために。
パンッ!と、乾いた小さな破裂音が響き、男の足元の砂埃が舞い上がった。
「ひっ!?」
男は、まるで足元で爆竹でも破裂したかのように飛び上がり、アルトの顔を見ると、今度は恐怖に顔を引きつらせた。
そして、「ば、化け物!」と意味不明な言葉を残し、蜘蛛の子を散らすように人混みの中へと逃げていった。
アルトは、あっけにとられてその場に立ち尽くした。
周囲の人々は、一瞬何が起こったのか分からず、きょとんとしている。
幸い、ギフトの現象自体には気づかれなかったようだ。
「……やっぱり、何か出てるんだな。使いようによっては、こういう風にも使えるのか…」
ギフトの応用が、思わぬ形で役に立ったことに、アルトは少し複雑な気持ちになりながらも、新たな可能性を感じていた。
気を取り直して市場を歩いていると、偶然、見知った顔に出会った。
以前、ギルドで見かけたことのある、斥候志望の少年、ティムだ。
彼も、冒険に必要な道具の買い出しに来ていたらしい。
「よう、アルト!久しぶりだな!」
「ティム!奇遇だな、元気だったか?」
二人は立ち止まり、しばし言葉を交わした。
お互いの近況、ギルドでの噂話、そして最近の森の様子など。
ティムは、斥候らしく情報収集にも熱心なようで、アルトに気になる情報を教えてくれた。
「そういえば、アルト。最近、東の森で、妙な霧が発生するって話があるんだ。視界が悪くなるだけじゃなくて、吸い込むと方向感覚が狂うとか、幻覚を見るとか…まだ噂レベルだけどな。もしあっちの方へ行くなら、気をつけるに越したことはないぜ」
「妙な霧…?分かった、ありがとう、ティム。助かるよ」
貴重な情報に礼を言い、ティムと別れた。
東の森といえば、ブルーキャップや、さらに奥にはロックホークの崖もあるエリアだ。
妙な霧、というのも気にかかる。
隣町サイラスでの一日は、あっという間に過ぎていった。
活気あふれる市場の喧騒、新しい発見、スリとの小さなアクシデント、そして仲間との情報交換。
アッシュフォード村に籠って訓練ばかりしているだけでは得られない、様々な刺激が、アルトの心をリフレッシュさせてくれた。
同時に、村の外の世界の広さ、複雑さ、そして潜在的な危険性も、彼は改めて肌で感じ取った。
夕暮れ時、アルトは購入した品々と、少しだけ広くなった視野を胸に、アッシュフォード村への帰路についた。
Dランク昇格。
そのためには、Eランクの高難易度依頼をクリアする必要がある。
ゴブリンの巣の掃討、崖地の薬草採取、あるいは、未知の脅威が潜むかもしれない、あの東の森の探索か…。
アルトは、次なる挑戦として何を選ぶべきか、考えを巡らせ始めた。
彼の視線は、もはや生まれ育った村の周辺だけでなく、その先に広がる、より広く、そしてより危険な世界へと、確かに向けられ始めていた。
ホブゴブリン討伐という大きな成果は、彼に自信と、そして少なくない報酬をもたらした。
しかし、同時に自身の課題と、さらなる成長の必要性も痛感していた。
次なる目標であるDランク昇格を見据え、彼はバルガスの元で、剣と盾、そしてギフトの連携を磨く厳しい訓練に再び打ち込み始めていた。
そんなある日、師であるバルガスが、訓練場で汗を流すアルトに声をかけた。
「おい、アルト。少しは息抜きも必要だぞ。ずっと根を詰めていても、良い結果は生まれん。たまには訓練を休んで、外の空気を吸ってくるのもいいだろう」
その言葉に、アルトも確かに少し気分転換が必要だと感じていた。
ホブゴブリンとの死闘以来、張り詰めていた気持ちを少しほぐしたい。
そこで、以前バックラーを購入するために訪れた、隣町サイラスへ久しぶりに出かけてみることにした。
ショートソードの手入れに使う上質なオイルが切れかかっていたし、市場で何か掘り出し物が見つかるかもしれない。
何より、村とは違う空気に触れることが、良いリフレッシュになるだろうと考えたのだ。
アッシュフォード村から隣町サイラスまでは、歩いて半日ほどの距離だ。
村を出て街道を歩くと、すれ違う人々の数も増え、やがてサイラスの活気ある町の入り口が見えてきた。
石畳で舗装された広い通り。
両脇には、アッシュフォード村では見られないような、様々な種類の店が軒を連ねている。
武器屋、防具屋、道具屋はもちろん、錬金術師の工房や、各地の珍しい品を扱う交易所、そして多くの冒険者で賑わう大きな酒場。
行き交う人々の服装も、言葉も、そして種族すらも多様だった。
屈強な鎧を纏った冒険者の一団、異国の衣装を身にまとった商人、軽やかな足取りの吟遊詩人。
そして、アルトが本でしか見たことのなかった、尖った耳を持つ優雅なエルフや、屈強で背の低いドワーフの姿も、そこにはあった。
その喧騒と多様性に、アルトは目を輝かせ、世界の広さを改めて実感した。
まずは目的の品物を探して、市場を散策する。
鍛冶屋が集まる一角で、評判の良い砥石と、ショートソードの手入れに最適な、粘度の高いオイルを見つけて購入した。
道具屋では、以前から欲しかった、丈夫で容量の大きい革製の水筒が手頃な価格で売られていたので、それも手に入れる。
市場を歩いていると、様々な食べ物の美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
アルトは、威勢の良い声で客引きをしていた露店で、大きな猪肉の串焼きを一本買った。
炭火で焼かれた熱々の肉にかぶりつくと、口の中に香ばしい肉汁と、村では味わえない少しスパイシーな香辛料の風味が広がる。
これもまた、旅の楽しみの一つだろう。
人混みの中を歩いていると、ふと、アルトは自分の腰のポーチに伸びてくる、不審な手に気づいた。
その動きは素早く、巧みだったが、日々の訓練で研ぎ澄まされたアルトの感覚は、そのわずかな気配を逃さなかった。
スリだ!
アルトは、驚くほど素早い動きで振り返りざま、その手首を掴んだ。
相手は、みすぼらしい身なりをした小柄な男で、アルトに手首を掴まれると、驚きと焦りの表情を浮かべた。
「な、なんだてめえ!離しやがれ!」
男は悪態をつきながら、アルトの手を振りほどこうともがく。
周囲の人々が、何事かとこちらに視線を向け始めている。
騒ぎを大きくしたくはない。
しかし、このまま見逃すわけにもいかない。
どうしたものか、と考えた瞬間、アルトの体は半ば無意識に反応していた。
(少し、驚かすだけなら…)
ギフトの力、あの「衝撃波(仮)」を、ごくごく弱く、男の足元めがけて放つ。
傷つける意図はない。
ただ、相手の意表を突くために。
パンッ!と、乾いた小さな破裂音が響き、男の足元の砂埃が舞い上がった。
「ひっ!?」
男は、まるで足元で爆竹でも破裂したかのように飛び上がり、アルトの顔を見ると、今度は恐怖に顔を引きつらせた。
そして、「ば、化け物!」と意味不明な言葉を残し、蜘蛛の子を散らすように人混みの中へと逃げていった。
アルトは、あっけにとられてその場に立ち尽くした。
周囲の人々は、一瞬何が起こったのか分からず、きょとんとしている。
幸い、ギフトの現象自体には気づかれなかったようだ。
「……やっぱり、何か出てるんだな。使いようによっては、こういう風にも使えるのか…」
ギフトの応用が、思わぬ形で役に立ったことに、アルトは少し複雑な気持ちになりながらも、新たな可能性を感じていた。
気を取り直して市場を歩いていると、偶然、見知った顔に出会った。
以前、ギルドで見かけたことのある、斥候志望の少年、ティムだ。
彼も、冒険に必要な道具の買い出しに来ていたらしい。
「よう、アルト!久しぶりだな!」
「ティム!奇遇だな、元気だったか?」
二人は立ち止まり、しばし言葉を交わした。
お互いの近況、ギルドでの噂話、そして最近の森の様子など。
ティムは、斥候らしく情報収集にも熱心なようで、アルトに気になる情報を教えてくれた。
「そういえば、アルト。最近、東の森で、妙な霧が発生するって話があるんだ。視界が悪くなるだけじゃなくて、吸い込むと方向感覚が狂うとか、幻覚を見るとか…まだ噂レベルだけどな。もしあっちの方へ行くなら、気をつけるに越したことはないぜ」
「妙な霧…?分かった、ありがとう、ティム。助かるよ」
貴重な情報に礼を言い、ティムと別れた。
東の森といえば、ブルーキャップや、さらに奥にはロックホークの崖もあるエリアだ。
妙な霧、というのも気にかかる。
隣町サイラスでの一日は、あっという間に過ぎていった。
活気あふれる市場の喧騒、新しい発見、スリとの小さなアクシデント、そして仲間との情報交換。
アッシュフォード村に籠って訓練ばかりしているだけでは得られない、様々な刺激が、アルトの心をリフレッシュさせてくれた。
同時に、村の外の世界の広さ、複雑さ、そして潜在的な危険性も、彼は改めて肌で感じ取った。
夕暮れ時、アルトは購入した品々と、少しだけ広くなった視野を胸に、アッシュフォード村への帰路についた。
Dランク昇格。
そのためには、Eランクの高難易度依頼をクリアする必要がある。
ゴブリンの巣の掃討、崖地の薬草採取、あるいは、未知の脅威が潜むかもしれない、あの東の森の探索か…。
アルトは、次なる挑戦として何を選ぶべきか、考えを巡らせ始めた。
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