落ちこぼれギフト【ダメージ反射】は諦めない ~1割返しから始まる異世界冒険譚~

シマセイ

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第72話 凍てつく刃、ワイトとの死闘

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忘れられた神殿の中央ホール。
そこに佇むのは、かつての栄光の欠片すら感じさせない、不気味な静寂と、死の気配だった。
そして、その静寂を破るように、三体のワイトが、その虚ろな眼窩に青白い燐光を宿し、アルトを取り囲むようにゆっくりと動き出した。
彼らが手にする歪んだ形状の剣からは、まるで冬の吐息のような、凍てつく冷気が立ち昇っている。
カチャ、というスケルトンのような骨の音はない。
その代わりに、ヒタ、ヒタ、と湿った石床を踏む、重く、不気味な足音だけが響いていた。

合図もなく、三体のワイトは同時にアルトへと襲いかかった。
一体が正面から、冷気を纏わりつかせた剣で斬りかかってくる。
残る二体は、まるで示し合わせたかのように、アルトの左右、死角となる位置から回り込み、鋭い突きを繰り出してきた。
その動きは、思考なきスケルトン兵のそれとは明らかに違う。
連携、そして明確な殺意がそこにはあった。

(連携してくるか…!)

アルトはバックラーを構え、正面からの斬撃を受け止める。
同時に、ショートソード「黒曜」を閃かせ、右側面からの突きを弾き返した。
しかし、左側面からの攻撃は避けきれない!
咄嗟に体を捻り、致命傷は避けたものの、ワイトの剣先が革鎧の脇腹部分を深く切り裂いた。

「冷たっ!」

斬られた箇所から、まるで氷塊を押し当てられたかのような、強烈な冷感が全身に広がる。
バックラーを持つ左腕も、斬撃を受け止めた際にまとわりついた冷気によって、表面に薄い氷の膜が張り、動きが鈍くなっている。
これが、ワイトの操る冷気か…!

ワイトたちの攻撃は、執拗かつ連携が取れていた。
一体が攻撃を防がれると、すぐさま別の個体が死角から襲いかかる。
時には、その口から凍てつくような冷たい息を吐きかけ、アルトの動きを鈍らせようとしたり、足元の石床を瞬間的に凍らせ、バランスを崩させようとしたりもする。
アルトは、これまでのどの戦闘よりも高度な、三次元的な対応を迫られていた。

必死にフットワークを使い、攻撃を回避し、剣と盾で捌き続ける。
革鎧がなければ、とっくに凍傷で動けなくなっていただろう。
それでも、体温は確実に奪われ、手足の感覚が徐々に麻痺していくのを感じる。

(このままじゃ、まずい…!何か、状況を変えないと…!)

アルトは、ギフトの応用を試みることにした。「衝撃波!」
腕を突き出し、周囲にまとわりつく冷気を吹き飛ばすイメージで、ギフトの力を放つ。
ブォン!と空気が震え、アルトの周囲の冷気が一瞬だけ押し返された。
ワイトたちも、その予期せぬ力にわずかに怯んだように見えた。
完全な解決策ではないが、これで少しは呼吸が楽になる。

そして、反撃の機会をうかがう。
一体のワイトが、大きく剣を振りかぶってきた。
その動きは、スケルトンよりは洗練されているが、それでも隙はある。
アルトはその一撃を、バックラーでしっかりと受け止めた。
凍てつくような冷気が腕に伝わるが、構わない。
意識を集中させ、カウンター反射を発動!

ゴンッ!
鈍い衝撃音と共に、反射ダメージがワイトを襲う。
ワイトは「キィ…」という甲高い、不快な音を発し、わずかに体勢を崩して後退した。
ダメージは通っている!
だが、スケルトン兵のように骨が砕け散る様子はない。
ワイトの体は、見た目以上に強固なのか、あるいは魔力によって守られているのか。
反射は有効打ではあるが、これだけで倒すのは難しそうだ。

(なら、あの力は……麻痺させる力は、使えないのか!?)

アルトは、ホブゴブリン戦で発現した、あの蒼白い閃光を思い出す。
「守る」という意識が鍵かもしれない。
アルトは、この穢された神殿を、アンデッドの魔の手から守るのだ、と強く心に念じた。
そして、再びワイトが繰り出す剣撃を、今度はショートソード「黒曜」で受け止め、反射を放つ!

しかし、期待した蒼白い閃光は現れなかった。
ギフトは、通常通りの反射ダメージを相手に与えただけだ。
やはり、意図的にあの力を引き出すのは難しいのか。
あるいは、エリアーヌが言っていたように、ワイトのような精神を持たない(あるいは希薄な)アンデッドには、麻痺効果そのものが通用しないのか…。
ギフトの謎は、この死闘の最中でも、アルトの思考を巡っていた。

(くそっ、こうなったら…!)

三対一の状況は、依然としてアルトにとって圧倒的に不利だ。
消耗も激しい。
このままでは、じりじりと追い詰められていくだけだ。
アルトは決断した。
一体ずつ、確実に仕留めるしかない。

アルトは、三体のワイトの中から、動きにわずかな隙が見える一体にターゲットを絞った。
他の二体の攻撃は、回避と防御に徹し、可能な限りダメージを受けないように立ち回る。
そして、ターゲットにしたワイトの攻撃に対してのみ、カウンター反射と、弱点である頭部(魂の核があるとされる)への剣撃を、執拗に集中させていく。

黒曜の剣の柄に刻まれた、ボルガンによるドワーフの浄化のルーンが、ワイトの体組織に触れるたびに、ほんのかすかに、しかし確かに淡い光を放っているような気がした。
それがわずかでもダメージになっていることを祈りながら、アルトは剣を振るい、反射を叩き込み続けた。

地道な、しかし確実な攻撃が、ついに実を結んだ。
ターゲットにしたワイトの動きが、明らかに鈍くなってきたのだ。
そして、アルトが放った渾身のカウンター反射が、その頭部を捉えた瞬間。
バキャッ!という鈍い音と共に、ワイトの頭蓋骨に大きな亀裂が走り、眼窩に宿っていた青白い燐光が急速に力を失っていった。
ワイトは、崩れ落ちるようにその場に膝をつき、やがて音もなく塵へと還っていった。

「よし、まず一体!」

アルトは短く息をつき、残る二体のワイトへと向き直る。
体は冷え切り、疲労はピークに近い。
左腕のバックラーは氷付き、右腕の痺れも完全には取れていない。
しかし、強敵を一体倒したことで、突破口は確かに見えた。

残るワイトたちも、仲間が消滅したことに動揺したのか、わずかにその動きが止まっている。
だが、すぐに虚ろな瞳をアルトに向け、再び冷気をまとった剣を構え、じりじりと距離を詰めてくる。

Cランク昇格への最後の試練。
アルトはこの極寒とも言える死闘を制し、忘れられた神殿に安らぎを取り戻すことができるのか。
彼の精神力、そして進化の兆しを見せるギフトの力が、今まさに極限まで試されようとしていた。
残る二体のワイトを相手に、アルトは最後の力を振り絞り、再び剣と盾を構えた。
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